6-07.カカオを探そう(2)
今回はカカオの実とコーヒー豆を探す旅に出るよ。
メンバーはクレオさんと私。冒険者ギルドで雇った3人ね。
3人とも全員男性なのだけど、ある程度は密林を探索できたり、植物採取の依頼をこなした経験があるみたい。
一人目は、全体を把握した良く質問をした上で契約に名乗りを上げた人。体格はクレオさんぐらいで、細身でありながら鋭い眼光。全体に気配りができそうな人だね。
二人目は報酬に拘りがあった人。体型は小太りだけど、筋肉もがっしり付いている感じ。荷物運びとしての人員だから、戦闘が出来る必要はない。上目遣いでご機嫌を伺いつつ、隙があれば自分の利益を優先しそうなタイプ。
ただ、自分の利益になることであれば、お金を出せば追加契約にも対応してくれて、損得を良く考えて行動してくれそうな人。裏切られないように上手く使いこなすことが出来たら良いかな。
三人目は日頃から植物の採取経験が豊かで、案内する目星がついていると申し出があった人。この人はどちらかといえば小柄で痩せ型で、荷物持ちには向いてない。まぁ、でも私達からすれば、荷物持ちは別に要らなくて、案内する知識を提供してくれれば良いわけでさ。
「それでは、各自の出発の準備が整ったところで、私がガイドを務めさせていただきます。事前に戴いている2種類の植物の探索と採取について、案内させていただきます。
何か、出発する前に確認しておきたいことはありますか?」
と、クレオさんから念話が入る。
<<ヒカリさん、何か確認しておくことはありますか?>>
<<特にないかな?ああ、自分で探したい方向を探しに行ってもいいのかな?>>
<<確認します>>
「途中寄り道をしたいときは、どのようなルールで進めるのが良いでしょうか。例えば女性ならではの事情もあるので……」
クレオさんが遠回しに質問してくれてるね。
実際問題、トイレに行きたくなったら、単独行動をとりたいしね。
あと、もしナビに確認して、コーヒーやカカオといった植物を同定して、索敵ならぬ、策植物機能が発揮できれば、密林内に点在する木の実を効率良く回収できると思うんだよね。この辺りはこれまでやったことがないから、上手くいくかわからないけど。
「ガイドする側は先行して進む。色の付いた紐などで目印を残すので、その目印を元に追いついて欲しい。
採取ポイントが見つかり、採取チームと探索チームが分かれることになった場合には目立つところにメモを残して、夜には合流できるようにしておきたい。野営の際の見張りはは交代で行うことができると、食事の提供や睡眠時間の確保がし易い。
よろしいだろうか?」
この人はさっき最初に質問をしてくれた人だよね。
なんか、とっても全体把握と指揮官としての特性が優秀なのではないかな?
今回の調査が上手くいったら、専属で契約しておきたい感じ。
この先、南の大陸でサンマール王国の農業面の改革でとても役に立ってくれそうだよ。
<<ヒカリさん、通訳します。
簡単に言うと、分かれて行動。目印の紐やメモを付けて、合流をし易くするそうです。 野営も合流して行うそうです>>
<<了解>>
そうだね。
私は南の大陸の言語は、挨拶程度にしか理解できていないはずだからね。
通訳が居る場では、エスティア王国の言語で喋っていても、周りの人たちがフォローしてくれたけど、今回のようなシーンでは、クレオさんが通訳をその度にしてくれるか、私がサンマール王国の言語を習得するしかない。
そろそろ、何処かで、サンマール王国の言語を理解できていることをクレオさんにはオープンにした方が良いかな?
と、そんな感じで朝から酒臭い冒険者ギルドに来たわけだけど、午前中には出発できることになった。この辺りは皆が即時に対応できるのは良いね。
「ここからは木の実採取などに利用している獣道や地元民しかしらない道を使う。道中は木の根や蔦の類があるので、足元に注意してほしい。
蛭や毒蛇などもいるから、基本的には衣服から肌を直接出さない格好を心がけること。また、勝手に脇道に逸れず、一言誰かに声を掛けてほしい。
これが密林を歩く基本ルールだ。
もし、はぐれてしまったら、この赤色と青色に染色した紐を辿りながら、入口へ戻るか、我々と合流してほしい。
その他は依頼にあった植物に該当する物を見つけたら、適宜立ち止まり確認して頂く。」
と、説明を終えると、ガイド3人と私達2人の5人パーティーで探索を開始した。
草木が生い茂った森の中を歩くのは結構久しぶり。
南の大陸に空飛ぶ卵を隠したときに森の中を歩いたけど、あのときはクワトロさんたちが事前に道を整備してくれたから今回みたいに草木を鉈のような刃物で払いながら進むようなことは無かったね。
まぁ、実際問題、植物採取というのは簡単なものじゃ無いってことだね。
で、私は久しぶりにナビと交信して、コーヒーの木やカカオの木を地球とこちらの異世界とで比較して、同等な植物をエーテルで探索して、検知できるかを確認した。
結果から言えば可能。
ただし、<<似たような効能の物質を含む植物を示すこと>>ここが限界。
当然といえば、当然だよね。
だって、『品種改良した○○産のコーヒー豆を出せ』なんて、出来るわけがない。
地球のインターネットでAI検索を掛けて、コーヒーの実を採取できる植物に関して徹底的に学習して、それと同等な植物をこの世界に変換した上で遺伝子なのか含有物質なのかを比較して結果として示す。
これで十分だよね。
ガイドする側は結果が出ても、出なくても、道を切り開いて先導すればよいわけで、一生懸命にこちらが指定した植物を探すことはしない。
考えて行動していてくれるのかもしれないけれど、本来の目的から少し逸脱しているし、まして、その対象が見つかるか分からないのだから、契約期間が経過してしまえば、調査依頼が未達に終わることは無い。
まぁ、楽といえば楽だけど、私との目的とは合致しない。
そんな感じで、あっという間に2時間ぐらいが経過して、食事休憩をとってくれることになった。 この辺りは、子女であることと、依頼主から取りはぐれることが無いように、気を使ってくれているのはうれしいね。
私はガイドさんが用意してくれた軽食とお茶を簡単に済ませると、「ちょっと席を外します」と、クレオさんに話しかけてから、ゴソゴソと鉈で草木を払いながら、森の奥へと一人で進んでいく。
そりゃ、最初に、そういう女性なりの用件があるってことを確認しているのだから、みんなが気を使って、わざわざ何をするのか問いかけるようなことは無い。
で、皆の姿が見えない程度に奥まで進んでから、光学迷彩を掛けてから、ナビの探索結果を右目に投影。
あるある。結構ある。
コーヒーが緑でカカオがオレンジで表示されている。結構あるけど、点在しているし、植生の密度もバラバラ。農園じゃないのだから、仕方ないけど、こんな検索方法がある時点で十分にチートだよね。
そんな中でも、割と緑とオレンジが密集している辺りに着陸して、私の領地マーカーをセット。そして、採取を始める。
カカオの実は木の枝の先にだけぶら下がるのではなくて、幹とか枝別れしたところとか、色々な場所から直接ぶら下がるんだね。リンゴとか蜜柑とは全然イメージが違ったよ。 丁度木の実が熟し始める時期に重なっていたみたいで、緑や黄色そして赤色に熟したカカオの実が鈴なりに実っていた。
その中から完熟していると思われる赤色のだけを数個収穫した。私の掌に少し余るサイズ。ゴーヤを太く短くした感じかな?これをそのままステラが作ってくれた収納量無制限のカバンに放り込む。
コーヒーの実は日本で食べるさくらんぼより少し小さいぐらいの実で、赤色の熟したものと、まだ緑色が残るものを混在しながら、革の小袋にゴソゴソ回収して、その回収した革袋をカカオと同じようにカバンに放り込む。
ここまでで作業時間は30分。
そろそろ戻らないとみんなが心配するね。クレオさんに念話を通しておこう。
<<クレオさん、私は無事。今から戻る>>
<<了解です。姿が見えず、時間が掛かっているようなので、少々心配しました。念話が無かったので、多分緊急事態では無いと思ったのですが、連絡戴けてよかったです>>
<<うん。サンプルが取れたから、皆で確認できるよ。ちょっと待っててね>>
<<承知しました>>
光学迷彩を掛けたまま、さっき隠れた所まで飛空術を使って戻る。そこで光学迷彩を解除して、ゴソゴソと歩いて戻る。手には、わざと枝ごと回収したカカオが1つと、房に実ったコーヒーの実がある。
「皆さん、お待たせしました。ちょっと奥の方で、このような植物を見つけました。これが今回皆さんに依頼を掛けている植物になります」
エスティア王国語だから、一々クレオさんが通訳してくれる。そして、「なんでで見つけたんだ?」とか、聞かれない。そりゃ、だって、一応レディーが断りを入れて森の中に入っていったのだから、そんな失礼なことを聞きはしない。
さらには、「どんな木になっているのか、現物を見せてくれ」なんて、傍にレディーの痕跡が残っている可能性があるので、きいちゃいけないことを聞くような、失礼な質問は飛んでこなかった。
午後も探索を継続。途中お茶を飲んで休憩している間に、私はコッソリ、お昼の休憩と同様に、ゴソゴソと回収してきた。回収してるけど、一々報告はしないよ。偶然が何度も重なると怪しまれるからね。
今日の探索の結果として、ガイドさん達と皆で採取出来たのは完熟した赤いカカオの実が3個。コーヒーの実は収穫0だった。私が個人的に採取して回収した量がカカオの実10個。コーヒーの実がウエストポーチサイズの革袋に3つ。
多分、カカオの実は形と大きさが特徴的だから記憶に残り易くて、目星をつけやすかったのかもしれない。それでも1本の木しか見つからなかったね。
コーヒーの実は特徴が無い赤い粒粒だから、わざわざそれを探しに山の中に入ったりしないよ。見つけて食べても、そのままでは食用にならないなら、猶更無視する対象だっただろうから、冒険者たちの記憶に残っていなかったのだろうね。
まぁ、私が個人でちょっと試すなら、私が回収してきた量で十分賄えそう。
皆で野営の準備をした。クレオさんが途中で狩りした動物をたんぱく源として提供してくれたので、野営の割にちゃんとしたご飯が食べられた。
夕飯後はクレオさんに私達二人用のテントというか、幕を張ってもらって、「今日は疲れたので先に寝させてもらいます」ってことで、先に休むことにした。
実際には、毛布を丸めて、形を作ってから、私の身代わりが寝ている雰囲気を作っておいて、私は一人でテントの中でぐっすり寝ている。クレオさんは交代で見張り役を受け持つことになったらしいよ。
よし!クレオさんの了解は取った。
私はここからマリオさんの館に戻って、カカオの実からチョコレートの原料を取り出したり、コーヒー豆の焙煎の準備を始めるよ!