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6-06.カカオを探そう(1)

 今までもそうだけど、各自がやることがあるので、別々に行動。緊急時は各班から念話で連携とって、集まれば良いねってことになってるよ。一昨日の大混乱とは別の形で、みんな大忙しだね。よく、まぁ、マリア様の館のメイドさんたちが付いてこれてると思うよ。クレオさんが相当優秀なメイドさんや執事さん達を選抜して雇っているんだろうね。


 ちなみに、班分けはこんな感じ。

 ステラとシオンとニーニャで、ドワーフ族へ運ぶ水が湧き出る樽の作成。

 クレオと私は冒険者ギルドでカカオの実の探索をできる冒険者の選定。

 リチャードとシズクさんで、エスティア王国から来る騎士団を受け入れる小屋の作成。ただ、その小屋の作成には、犯罪奴隷落ちしたサンマール王国の騎士たちを使い倒す感じらしい。

 マリア様とナーシャとユッカちゃんで、上級迷宮までの交易路のための下見とモリス達の受け入れ準備。


ーーー


 早速、クレオさんと私で冒険者ギルドに依頼を出すことにした。北の大陸でも、『よろず屋』という形で、色々な雑務を登録された人が引き受けてくれていたけれど、冒険者という職業があって、その人たちがメインで活動して、依頼をこなしているというのは初めてのタイプかな。


 前回来たのはカタコンベの迷宮の収集品を売却するときに一度立ち寄ったのだけれど、そのときはクレオさんが何でもやってくれた。今回も私はただ黙ってついていこう。


「すみまんせん。B級冒険者のクレオですが、今日は依頼したいことがありまして、依頼人と共に参りました」


 でね?

 酒場で悪者達がたむろしている、あの雰囲気。

 ファンタジーな世界設定でよくある、あれね。


 あんなのさ?普通には考えられないんだよ。

 昼間から飲んだくれて、タバコか何かの薬物をくゆらせて、だらだらと過ごしている健康な身体つきの男たちが、仕事もせずにさぼっているとかあり得ない。

 ありえなくは無いだろうけれど、『職業は冒険者です』なんて言えるものじゃないよ。『無職ですが、たまに気が向いたら仕事みたいなことをします』って、感じ。

 いったい、どうやって日々のかてを得ているんだろうね?


 って、現実とファンタジー小説のギャップを感じながら、クレオさんの陰に隠れるようにして、受付の所まで付いていったよ。もちろん、控えめなメイドを装うので、服装も素振りも目立たないようにしていた。そして何も喋らないよ。


 ただ、依頼をかけるときに、クレオさんはカカオの実がどんな物か知らないから、依頼期間とか金額とかを決められない。一方で、私も冒険者を直接指揮することも出来ないし、もめごとの種を生むわけにはいかないから、クレオさんが仲介してくれている感じ。私だって、目立たないことが一番重要だって分かっているわけだから、そこの作戦は壊さないように自重じちょうするさぁ。

 いや、いつも自重しているつもりなんだけどね?


「クレオさん、いつもギルドに貢献いただきありがとうございます。今日はどういった用件でしょうか?」


 と、受付嬢が最近のクレオさんに関する騒動を知りつつも、クレオさんの気分を害さないような最大限の気遣いを見せて対応する。


「ええと、今日は……。

 木の実の採取を手伝って貰える人を探しています。市場では見かけなかったので、ちょっと特殊な木の実の可能性があります」


「木の実ですか?それも市場で出回っていない?

 そういえば、クレオさんがメイドとして仕えている商人の館では、最近果物を沢山購入していると聞いております。ああいった物でしょうか?

 そうであれば、こちらよりも市場で直接依頼をかけた方が安上がりかもしれません」


「その……。

 どうも、木の実を収集したあと、色々加工が必要らしく……。

 特殊な加工をしないと食用に適さないらしく……。

 だから、一般的には市場では価値が無い木の実と判断されて、これまでは採取の対象になっていないようで……」


「なるほど……。

 そうしますと、それは北の大陸で良く育つ植物で、それをこちらの南の大陸でお求めになるという感じでしょうか?」


「そうではなく、この国の密林で育つ植物で、未活用な新規の植物を活用したいとう発想ですね」


「クレオさんが、その植物を教えてくれて、それをこちらで採取して回る感じになりますか?」


「というか、そういった採取に付き合ってくれる人を1-2週間専属で借りたいという依頼になりますかね」


「非常にあいまいですね。

 派遣契約に近い形ですと、日々の支払いに加えて、経費や達成報酬も別途依頼料として設定する必要がありますが……。

 それとも、単純に指定植物の採取依頼であば、何かのついでに見つけてきて、必要量が貯まるまで待っていただく形で。これならお安く済むと思います」


「今回は前者でお願いしたい。できれば、疑問を抱かずに行動し、体力に自信のある人をお願いしたい」


「そちらのお嬢様の世話をこなせるような、荒くれ者でなく、気配りのできるタイプがよろしいでしょうか?例えば女性でメイドが務まるような……」

「……。」


「どうされましたか?」

「いや、私が求める人物は居るのだろうか?と、自問自答しています」


「一般的なお嬢様達よりは、こちらのギルドで登録されている女性の方が体力は備えていますので、旅の護衛や世話をすることは可能だとおもいます。

 心配であれば、別途荷物を持ったり、ガイドができる男性をパーティーに加えてもよいですね。ただ、その分費用がかさみますが……」


 と、ここでクレオさんから念話が飛んで来たよ。


<<ヒカリさん、どうしましょか?>>

<<うん?私を世話することは考えなくて良いよ。

 植物のことに詳しくて、自力で密林を探索できる人なら。

 だって、食料から荷物から、全部私達で準備して運ぶんだからさ?>>

<<承知しました。その方向で進めます>>


「植物の採取に慣れていて、道案内が出来る人であれば何方どなたでもよいです。荷物は私が運ぶので性別は不問です」


「密林を歩ける、植物の採取に詳しいガイドとの専属契約ですね?」

「そういうことになります」


「専属ガイドですと、1週間で金貨1枚。

 これには本人への支払いとギルドへの手数料が含まれます。

 また、ガイドのみになりますので、水や食料の調達、収集品の回収や自衛はご自身で行っていただくことでよろしいでしょうか?」


「はい。それでお願いします」

 

「それで……。契約はいつから始めましょうか?」

「今すぐに対応できる人が良いです。例えば、あちらの待機場所で待機しているメンバーに適切な人はいますか?」


「私どもは契約書が出来次第、直ぐに出発できるメンバーをご案内できます。

 ですが、クレオさんたちお二人の準備は大丈夫でしょうか?」


「はい。直ぐに行動出来る格好できました。お願いします」


 受付嬢はギルド内でたむろしている、人達に依頼内容を伝えて、希望者を募った。するとすぐに5人から手が挙がった。なにせ女性二人のペースに合わせて一週間森の中を案内するだけで金貨1枚は格別な報酬だろうからね。


 受付嬢は5名をクレオさんの前に連れてきた。


「こちらの5名ですと、今から対応可能です。誰がよろしいですか?」


<<ヒカリさん、どうしますか?>>

<<体力と植物に関する知識があれば誰でも良いよ>>

<<確認します>>


「私たちは2種類の木の実を探しています。


 1つ目は、完熟すると赤い指の先ほどになる実です。種が大きく食用には適しません。大きな木の木陰で成長する灌木になります。

 2つ目は、男性の手のひらより少し大きいぐらいの楕円形に近い木の実です。縦に筋が入っていて、表面は艶やか。熟すると黄色からオレンジ、そして赤へのグラデーションになります。割ると中から親指大の種が多数でてきます。


 この2種類の植物が生えているところに案内いただける人を探しています。また、サンプルとしての採取ではなく、試作品を作るためにある程度の量が必要になるため、一週間という期間でなるべく多くの木の実を集める必要があります。

 この依頼に自分が向いていると思える方は挙手をお願いす」


 と、ここで一人の冒険者から確認の質問が入った。


「あ~、クレオさん。いくつか確認をしたい。

 1つ目は、集める植物の種類だ。

 こっちが、それだと思う植物の所へ案内しても、そっちが違うといえば、また別の所へ案内することになる。そすると、1週間で探している植物が見つからないかもしれない。その場合でもガイド料は頂ける契約なのか。


 2つ目は、集める量と運搬だ。

 仮に運よく目当ての植物が見つかったとしよう。そしてそれが大量に収穫できる状況だとする。だが、だれが採取してここまで運んでくるんだ?あんたらが背負っているような小さなカバンでは自分達の旅の荷物でいっぱいだろう。何回も往復するとなると、それだけで時間が経過しちまう。この辺りが依頼内容に含まれているかを予め確認しておきたい。


 そして最後は食料や水の運搬と自衛についてだ。

 森の中には毒虫や危険な動物が出る。こっちは自衛する。そしてガイドもする。だが、そっちが勝手に転んでケガをしたり、俺の目が行き届かない所で毒虫に刺されて帰還をする羽目になる場合もある。更には、危険な動物と遭遇した場合にはガイドどころではない。あんたらを見捨てて俺は逃げる。それが自衛ってもんだ。


 どう考えているか、依頼を受ける前に聞いておきたい」


 へぇ~。とっても慎重な考え方だね。頼りになりそう。

 良いんじゃない?

 <<この人が良いかな?>>

 って、クレオさんに念話で伝えた。


「質問は承知した。他の方たちからは質問は無いだろうか?」


 他の人達からは質問が挙がらない。

 手を上げないのは、『こちらの指示に素直に従う人』という条件を聞いていたためか、あるいは、『そのような話は契約書に書かれていない』として、現地にて交渉して値上げ要求をするつもりなのか。

 前者であれば、慎重さが足りない。後者であれば狡猾なため、契約書の不備を突いて、いろいろな揉め事を引き起こす可能性がある。

 さて、どうしたもんだか……。


<<クレオさん、質問してくれた人とは別に二人ぐらいに、例えば荷物として同行してもらった方が良いかな。

 っていうのは、現地で契約違反だなんだと揉めるぐらいなら、我儘を言う人はその場でお金を払って、契約を打ち切りたいんだよね。逆に、こっちが指示をいちいち出さないと目的を見失うような消極的なガイドだと、未知の植物の探索には不向きなタイプだと思う。

 どう思う?>>

<<承知しました。その懸念を含めてうまく交渉を纏めます>>


「質問があるのは一人だけですね。これから説明をするので他の人も自分事として聞いておいてください。


 まず、探索する植物についてですが、こちらも伝聞で得た情報なので、本当に実在するかわかりません。ですので、1週間の期限でそれを見つけられなかったとしてもガイドとしての契約は完遂したものとして完了となります。


 次に、大量に収穫物が見つかった場合ですが、念のためガイドの予備人員として+2名とも契約を結びたいと考えます。一人目の経験や知識だけで調査や探索が行き詰まる場合には他の二人も支援いただきたい。

 その二人には私が背負えるのと同量程度の荷物はガイドに必要な荷物とは別に運搬して頂きたい。


 最後の自衛についてですが、私とこちらの女性は私が守ります。如何なる状況に陥っても我々を気にして頂く必要はありません。食料、水、病気、ケガ、大型の獣などは全て我々の自己責任でガイドに従います。


 なにか疑問点はありますか?」


「クレオさん、3人だと1週間で金貨3枚だ。気前が良すぎやしないかい?」


 と、最初の一人とは別の人から質問というよりは、疑問の声が上がった。

 一応、クレオさんの専属契約がB級冒険者で1日小金貨1枚な訳だから、その1.5倍くらいだよね。短期だし、多少は色をつけて支払っても良いと思うんだけどね。

 それともクレオさんの待遇が良すぎるのかな?良くわかんないや……。


「先ほどの依頼内容にありましたように、新規の植物を探しています。もしこれが特産物として採取や加工が出来るようになると、大きな利益を生むことになります。その先行投資とお考え下さい。

 なお、私の現在の雇い主につきましては、ご存じかもしれませんが北から来られた商人ですので、そういった北の大陸との交易や販路をお持ちです。今回の資金も間接的にバックアップ頂いております」


「ふ~ん。クレオさんは幾ら貰っているんだ?」

「依頼人からギルドへは一日当たり小金貨1枚が支払われての長期契約になります。その他の手当は成功報酬型の契約になります。契約内容につきましては守秘義務が課せられているため、詳細は申し上げられません」


「なるほどな。そんなに我々と変わらないわけだ。

 ところで、今回の成功報酬はどうなっているんだ?」


「今回の依頼は失敗に関するペナルティーが無い代わりに、成功報酬は契約に設定されていません。大量に収穫できる目途が付いた場合には、1週間を待たずして、契約完了とする場合もあり、それが成功報酬になりますね」


「そうか。わかった。俺も是非加わりたい」


 で、こっちが指名して良いって、ギルドの受付嬢が紹介してくれたのだから、今回は1人目の質問をした人と、報酬に拘りがあった人、あと日頃から植物の採取経験が豊かで、案内する目星がついていると申し出があった人の3人と契約することになった。


 さてさて、うまくいくかな~?

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