6-05.道の拓き方(5)
よし!実行部隊の再編制だよ!
先ずは、やるべきことと、そのメンバーの再選定だね。
1.ドワーフ族への助っ人要請
2.王都から上級迷宮までの道路建設
3.上級迷宮を資源化するための方策と対応
4.食料供給のための促成栽培
5.チョコレートの制作
だいたい、この5つでいいかな?
そして、その中身と担当なんだけども……。
1.はドワーフ族への訪問だから、ニーニャは欠かせない。
そして、水不足のはなしだけど、ステラに水が出る印を書いてもらって、それを樽に組み込む形にすれば、水不足への対応で支援もできそう。空飛ぶ卵だったら、ニーニャが一人で運転できるから、後は万が一の武力衝突に備えた護衛が必要かな?
ユッカちゃんとか、クレオさんとか、リサとか。ここの人員は後で考えよう。
2.は、この王国でテロ行為を働いたとして、犯罪奴隷に落ちた30名の指揮と、エスティア王国から来る予定の300人のまとめ役。前者はリチャードで十分だけど、後者にはユッカちゃんが最初はいることで、安定した指揮をとれることになるかな。
この人たちには、手分けをしてもらって、道を拓く部隊と、4.の食料の促成栽培の部隊に人員を分けてもらう事にしよう。
とすると……。ここにはリチャードとユッカちゃんは外せないね。4.の指揮も考えると、ステラかナーシャさんもそこに割かないといけないね。
3.は私が必要だと思うんだけど……。5.のチョコレートの件があるからねぇ。
資源化のことが分かるのは、この地で商人としての人脈があるマリア様か、外交として活躍しているリチャードだよね。リチャードは2.の指揮だから、マリア様にお願いするしかないかな?
具体的な方策は私とマリア様で煮詰めてから、指揮をお願いすることにしよう。武具や収集品の水洗いや、迷宮内での飲み水の供給には融通が利くシオンが良いかな?
4.は促成栽培だから、ナーシャさんとステラ。ユーフラテスさんからの促成栽培と急速な老化のスキルを貰って、道の開拓と食料栽培の両面から支援してもらおう。人はユッカちゃんかリチャードから派遣してもらうことでいいね。
ユグドラシルの子孫といわれる種の供給と区画整理ができていれば、特に指揮の難しさは無いよね。
5.チョコレートは土地勘のあるクレオは外せない。その一方で私がカカオの実らしきものを判別して、情報提供する必要があるね。それに、もし並行して複数のチームで探索と収集が出来るようになったら、冒険者ギルドの伝手が使えるクレオさんにいてもらった方が、柔軟に土地勘のある人員増強が可能になるね。
よし!
こんな感じで進めることをみんなに提案してみよう!
ーーー
休憩やご飯を挟みながら、役割分担とチーム編成の話をしたよ。
「ということで、これからの作戦と役割分担で何か問題はありませんか?」
「ヒカリさん、2つ提案があるわ」
と、ステラから珍しく提案がある。普段のステラはどちらかというと、私の提案にそのまま乗ってくれるタイプだったんだけどね。何か気になる点があったのかな?
「ステラ、何かな?」
「1つめは、私の役割ね。
エルフ族として植物に詳しいし、南の大陸の生き物もある程度知っているわ。人族の視点とは違う観点からヒカリさんのチョコレート支援をサポートできると思うの。
2つ目は、ヒカリさんの領地で代行を務めるモリスさんの派遣要請ね。
彼は、ヒカリさんの領地の農地開拓に際して、区画割や導線の決定、開拓拠点の設置などの采配をほとんど決めていたの。あの理路整然とした指示の出し方と、きれいな農地の割り振りは見事なものだったわ。今回、密林という土地にはなるけれど、最初の区画割をいい加減に決めてしまうと、後々手直しが必要になって、せっかくの土地割や世界樹の木の実を元にした苗木の再育成も必要になる可能性が高いわ。
この2点を検討して頂けないかしら?」
「ステラ、提案ありがとう。
確かに、エルフ族の支援が得られれば、カカオ探しも捗るかもしれない。
モリスについては、連れて来ようにも飛竜も使えないし、空飛ぶ卵もニーニャが使う予定だし……。瞬時に移動できる転移門のようなものがあれば良いんだけどね?」
「ヒカリ、実は2台目の空飛ぶ卵が完成したらしいんだぞ。
私の部下がモリスに報告し、モリスから私に念話で連絡があったんだぞ。
試運転は済んでいるので、必要があれば誘導してこちらに向かわせることが出来るんだぞ」
と、ニーニャから驚きの情報があがった。
「ニーニャ、凄いね!それは助かるよ!ただ、短期とは言え、リチャードも私もモリスも不在で領地の経営は大丈夫かな……」
「ヒカリさん、そこはヒカリさんの部下のアインを経由して、うちのメイドや私の旦那を使えば良いわ。それくらいの協力はしてくれるわよ」
と、今度はマリア様からアドバイスがあった。
「マリア様、それは流石に……」
「問題ないわよ?
私だって、こちらに来て半年以上経過するけれど、何ともなっていないでしょう?
多少はあの人にも働いてもらわないと……」
「は、はい。
まぁ、皇妃がストレイア帝国に帰るまで海路を一か月以上掛かる訳で、帝国が大きく動く可能性は少ないと思います。
あるとすれば、内乱ですが、食料も栽培が進み、自給率が100%を超える程度に収穫出来ているので、内乱も起こりにくい環境にはなっています。それこそ、エスティア王国に構える騎士団と、私の領地に残る帝国騎士100名がいらっしゃるので、大きなトラブルになる前に制圧が可能と考えます」
「それじゃ、モリスを呼ぶことで決まりね。
ニーニャ様、ドワーフ族の方達へ空飛ぶ卵の操縦をお願いできるかしら」
「マリア様、承知しました」
「ヒカリ、モリスを呼ぶなら、ゴードンとアリアを呼ぶべきよ。チョコレートが直ぐに完成するわ」
と、ラナちゃんから追加で提案が出た。
「え?あ?ええと……。アリアの子供はまだ小さく……」
「リサもシオンも同い年よ。シズクの子供もそうね。
何か問題があるかしら?」
「たぶん、問題ないとおもいます……。
ただ、アリアの旦那さんのミチナガさんも一緒に来ることになるかなと」
「何人でもいいじゃない。その分チョコレートの完成が早まるのよ?」
「わかりました。では、その方向で……」
なんか、こう……。
チョコレートの開発が最優先事項になってないかい?
まぁ、良いんだけどさ……。
明日からがんばろう!
ーーー
その晩、リチャードからお話があった。
「ヒカリ、なぜチョコレートがそんなに大事なんだ?
ヒカリが念話で仲介すれば、モリスを呼ぶ必要はなかったし、アリアやミチナガさんも呼ぶ必要が無かった。ましてゴードンが居ないとなると父が我儘を言うと思うんだが」
「チョコレートに関しては、元々作ってみたいとは思っていたし、原料となる植物が南の大陸で育ちやすいから、エスティア王国で開発するより楽だと思うよ」
「いや、今はハネムーンの最中なのだろう?
そして、そのためには、ここサンマール王国で我々に対する信頼を積み上げる必要がある訳だ。横道に逸れ過ぎてはいないか?」
「上級迷宮の探索と収集品の安定的な回収には1~2ヶ月は掛かると思うよ。今度はその収集した品物を値崩れなく捌くには、ストレイア帝国に購入してもらった方が良い。そうすると現金化するまでに、さらに時間が必要になるよ。
だけど、もし、チョコレートが開発できたとなると、砂糖以上の高付加価値商品になるし、ストレイア帝国であっという間に完売して、リピーターが付くよ。
迷宮の資源化と並行して進めておいて損は無いよ」
「全然分からない。砂糖の利権を独占できているだけでも十分に儲かるのではないのか?」
「砂糖はサンマール王国を通さないし、クッキーはレシピを公開してないから、サンマール王国の利益にならないよ。
チョコレートは原料が南の大陸で、レシピをサンマール王国に譲渡してあげれば、莫大な利益を上げられると思うよ」
「チョコレートがサンマール王国の資金源になる過程がいまいち良く分からない」
「お菓子の類は貴族の婦女子が好むでしょ?その周辺の男たちが貢ぐ訳け。
とすると、貴族の懐の紐が緩むことで経済が回る。
カカオの実の産出国であるサンマール王国は潤うよ。
ユーフラテスさんに支援してもらえば、カカオの実の促成栽培もできるかもしれない」
「つまり、ヒカリは観光迷宮から収集される品物だけでなく、農産物で付加価値が高いものもストレイア帝国に売りつけるのか?」
「そういうことになるね。今日、皆と話し合いながら思いついたんだけどさ」
「そういうことなら構わないが……。
だが、なぜ、ラナちゃんの意見が常に通るんだ?」
「どういうこと?」
「南の大陸のハネムーンにラナちゃんの家族が同行することになったもの、ラナちゃんの気持ちが強かったからだと聞く。
飛竜族へのお土産の買い出しに行っていた際も、ラナちゃんが『サトウキビジュースが飲みたい』ということから、始まったと聞いている。
今回のチョコレートも似たような雰囲気では無かったか?」
「そうかな?もし、そうだとしても、私たちのやっていることに関して特に問題がある行動だとは思わないけど?」
「ヒカリが気にならないなら構わない。何か皆が弱みでも握られていて、全ての我儘が通るような状態になっていなければ問題ない。私の取り越し苦労だ」
「うん、じゃ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
確かに、ラナちゃんの意見が通る場合が多いのだけど、誰も文句言わないよね。
妖精の長だから優遇しているとかは無い。
無いけれど、私はラナちゃんへの恩が沢山あるから、皆と同様に公平に意見を受け入れたいっていうのはある。
みんながどう考えているか、今度聞いておいた方が良いのかな?
ま、いっか。