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6-04.道の拓き方(4)

「「ユーフラテスさん、食糧の増産支援もお願いできませんかねぇ……?」


「食料の増産と言いますと、特定植物の促成栽培でしょうか?」


「促成栽培もそうだけど、植物の品種改良もしたいかな?

 病虫害に強くて、実りが豊かな品種に改良したいの。

 ドリアード様にお願いすることで叶うことですかね?」


「ヒカリさん、先ほど見せていただいたユグドラシルの子孫の実を種として撒いて、区画を整備すれば、その結界の範囲において病虫害による影響は低減できるでしょう。

 栽培する植物の種類と区画ごとに、この木を育成させることができれば、植物の種類に応じて、ぞれぞれ加護が得られるでしょう。


 あとは、育成したい植物の実りを豊かにしたいという話ですが、それはどういった内容になるのでしょうか?」


 これは、ちゃんと考えないとダメかも?

 エーテルの作用と同じだよね。

 ちゃんと、正しく相手に言いたいことを伝えることが重要。

 『美味しい物が食べたい』とか、そういうのは定量化できてない主観の話。

 よし、ちょっと頑張ってみよう!


「まず、種子を採取して食用に用いる場合には、その種子の大きさや収穫量が増えるような品種が望ましいの。


 たとえば、お米とか麦は、花が咲いた後の穂に種子が実るわけですが、その種子の一粒一粒の大きさを大きくしつつ、デンプンやたんぱく質なんかの栄養素を蓄えた形にしたい。

 出来れば、味や香りも整えたいのですけど、そこは好みもあるし、料理によって味付けることで賄うことが出来るので、初期は量を重視する感じでお願いします。


 次に、根を収穫して食用に用いる作物ですと、ジャガイモ、サツマイモ、山芋、キャッサバなんかがあります。ここの収量が上がるような品種改良が望ましいし、促成栽培のコツを享受頂けるとありがたいかな。


 他には、豆類、キビ類として、大豆、小豆、トウモロコシ、あわひえなんかがあるけど、ここの土地柄にあった作物で、促成栽培が可能な品種を重点的に支援して貰えると良いかな。


 この辺りの植物はデンプンやたんぱく質が豊富であることと、加工して保存をすることが出来るから、果物や野菜に比べて主食になりやすいし、不作のときに、緊急措置として食料を放出して飢饉にならないように出来る。


 なんとなく、伝わったかな?」


「ヒカリ様、その……。そのですね……?」

「え?なんか判り難い事があった?」


「いえいえ。

 今ご説明戴きました内容につきましては、支援可能です。

 場所や担当者を教えて戴ければ、何らかの形でヒカリ様の意向に沿う様に対応します

 そうではなくてですね……」

「はい?」


「こう、皆様の雰囲気と申しますか、気持ちが漂うと言いますか……」

「あ~。『漏れ聞こえてくるような気持ち』の話ね?それが何か?」


「ええと……。

『何故、ヒカリさんは果物の話をしないのかしら?』

『お姉ちゃん、木の実でもっと美味しい物を頼んで』

『ヒカリさんには、お茶の類も頼んでほしいですわ』

『お母さんは何を言っているのかしら』

 ということなのですが……」


 漏れ聞こえる声を分かっちゃうっていうのは、色々面倒なんだろうね。


 妖精の長としてみれば、具体的に正確にお願いをして貰えれば良いのだろうけれど、ステラはともかくとして、植物の有り方を具体的にイメージして、どのような植物が欲しいのかを伝えるのは難しいのかもしれない。

 花の色とか、香り、大きさ、数なんかは、非常に定量的で伝えやすい。厳密にいえば、視覚や臭覚なんかは個人差があるけれど、『薔薇の花のような』とか、言えば、そこに現物がある以上はそれに沿ったお願いをすることで、妖精の長はお願を受け入れられると思う。


 けれどもだ。

 『収量を増やして欲しい』『タンパク質やでんぷん質を増量して欲しい』とかならともかく、『まだ見たことも無く、過去に加工したことも無い様な木の実を欲しい』とか、そういうのはお願のしようが無い。

 まぁ、ひょっとしたら、その想像したイメージ通りの植物が育成できるかも知れないけれど、この世界の成り立ちの範囲を超えるような植物は創生出来ないと思うんだよね。この兼ね合いが判らないとお願いをしても受け入れて貰えない訳でさ。


 だから、みんなが、私を経由してお願いして貰うことになると……。

 そして妖精の長としては、人間の願いを叶えるための翻訳者として私を活用したいのかもしれない……。


 うん。分からなくは無い。

 分からなくは無いのだけれども、どうしたものだか……。

 木の実やハーブの類なら、この地域に自生しているものを集めてくれば、まだまだ新しい発見が出来るはずで、緊急でお願いしたい物では無いと思うんだよね……。

 たとえば、木の実で言えば、カシューナッツとか、カカオの実なんかは熱帯地域の植物だし、コーヒー豆なんかも熱帯から亜熱帯の植物でお茶に流用できる。


「ヒカリ、コーヒーって、何かしら?」


 っと、ここでラナちゃんから突っ込みが入る。

 この妖精の長達は思念の漏れを拾えるから、下手に考え事が出来ないっていうね……


「ラナちゃん、コーヒーは紅茶に代わる嗜好品としての飲み物になりますね。

 緑茶や紅茶と同じくカフェインが含まれているので有るレベルでの覚醒作用と言いますか、疲れを感じなくさせることが出来ます。

 その高揚感が習慣性を引き起こすのだと思います」


「それはステラが好きそうね。ステラは知っているのかしら?」


「ステラ、コーヒーという木の実を利用した飲み物は知っていますか?ユッカちゃんが作ってくれてるどんぐり茶とは違いますが……」


「コカの葉を用いたお茶には覚醒作用があると聞くわ。ヒカリさんはコカの実のことを言っているのかしら?」

「私が知っているのは、コーヒーとコカは違う植物でした。

 コーヒーの場合、完熟した木の実の種の部分を煎った上で、細かく粉砕して、それをお湯で煮出した汁を飲む感じですね」


「ヒカリ、コーヒーはもう良いわ。ステラが興味があるなら教えてあげて。

 さっき、甘いお菓子が出来そうな感じがしたのだけど、何かしら?」


「ええ?」

「未だ手に入れていない木の実の中に、何か甘い物があるのでは無いかしら?」


「アーモンド、ピスタチオ、クルミ、カシューナッツ……。木の実で甘い物ですか……

「違うわね。こう……。なにかあるはずよ!」


 ご、強引だなぁ……。

 私の思念の漏れを読んだのだろうけれど、自分で意識して発言した訳じゃないし……


 甘い木の実……。

 果物じゃない感じだよね……。

 クッキーに木の実を入れているってことを言っている訳じゃないし、そんな料理を思い浮かべても居なかったし……。

 料理では無いけど、カカオの実は南国にありそうだな~とか?


「ヒカリ、それよ!」

「カカオですか?甘く無いですよ?」


 もう、傍目には会話が成立してない。

 『きっと、二人で念話で会話していて、いつも仲が良いな』ぐらいな感じ。

 色々お世話になっているから、下手なことを言えないってのもあるけど……。


「ヒカリ、カカオが有れば、何か甘い物が作れるのでは無いかしら?

 例えば、小麦と砂糖からクッキーが作れるようによ!」


「ああ、チョコレートでしょうか?」

「それね。それを願うべきよ」


「ええ?」

「何か不満かしら……」


「嗜好品ですから、チョコレートに仕上げるまでに手間も時間もかかります。

 その手間の分だけ高価になり、皆に配るのには不向きです。

 栄養補給を目的とした植物栽培に選定する作物としては不向きだと思うのですが……」

「手間が掛かることは、ヒカリがゴードンに教えれば良いのよ」


「ゴードンは、南の大陸には居ません」

「南の大陸でお菓子を作れる料理人に頼めば良いわ」


「市場にはカカオの実が見当たりませんでした。

 実際に、この辺りの植物として生えているのか未確認です。

 繰り返しですが、カカオの実からカカオマスを作るのにはとても手間が掛かります。

 そして、最後にカカオマスと砂糖やミルクを混ぜるのですが、ここはアリアのような緻密な化学の知識を持った人でないと、レシピを構築するのは難しいです」


「ヒカリ、言い訳は要らないわ。チョコレートが欲しいの」


 くぅ~~~。

 私だって食べたいさぁ~。

 お店でチョコが簡単に買えるなら皆にも分けてあげたい。

 でも、どうしたら……。


「ヒカリさん、何が問題なのかしら?

 ラナちゃんが食べたい物は私も食べたいわ」


 と、マリア様がラナちゃんの応援をする。

 これは、きっと、ラナちゃんの応援だけでなく、本当に食べてみたいやつだね。

 ここを断るのは、ラナちゃんの気持ちを拒絶する以上に難しいよ……。


「あの、あの、ええと……。

 まず、カカオの実があるか調査班を作りましょう。カカオの実が収穫できることがわかったら、チョコレート作りに挑戦しましょう。

 それでいいですか?」


「私はそれで良いわ。ラナちゃんもそれまで我慢できるかしら?」

「ヒカリ、お願いがあるのかしら?」


「いいえ、私達の力で何とかします。作戦を練り直し、判を再編成します」

「ヒカリ、あなたはいつでも願えば良いのよ?」


「いいえ。これは私の意志です。そして皆様への感謝の気持ちです」

「わかったわ。いつでも傍にいるわ」


 よし!

 実行部隊の再編制だよ!

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