6-03.道の拓き方(3)
「まず、大前提として、道を拓くチームは、
飛竜さんの力を借りずに作業しなきゃいけない。
飛空術も使えない。
念話も緊急時や周囲に人が居ないときじゃないと使っちゃダメ。
逆に、使って良いのは、迷宮産のこん棒とか、発見が確認されている神器。 エルフ族が既知の妖精にお願いして発動できる魔術。
植物に作用させる魔術。
あとは、ニーニャが作ってくれている装備品。
これで、ここの王都から上級迷宮まで整備された舗装路を作るよ」
「ヒカリ、空気搬送システムはどうなんだ?」
「リチャード、空気搬送システムを稼働させるための石材が無いよ。
重力遮断の作用も、既知の魔法じゃないから使えないね」
「ヒカリ、それじゃ、道を作るのは無理じゃないか?」
「岩山や河原があって、そこから石持ってくることが可能なら敷石を並べて道の舗装は可能だよ。馬車が通っても、ぬかるみに嵌らなくなるから、道の機能は果たせる。
ただ、敷石では地面が弱いと埋もれて行っちゃうから、例のこん棒で地面をしっかり固めた後に敷石を並べるのと、排水溝も整備しておく感じかな?」
「ヒカリ、それは、普通の道の作り方と同じで時間が掛かるだろう?」
「人は雇えば良いよ。
ただ、魔族との関係のことがあるから、サンマール王国との信頼関係を築くことを最優先にして、魔族方面へ道を伸ばさずに、ストレイア帝国からの騎士団員達は、上級迷宮への道づくりに派遣した方が良いかも?
それよりも雇った人たちへの賃金とか食料が問題になるかもね。
クジラを獲ってくるわけにはいかないし、小麦畑も無いみたいだし」
「ヒカリ、確かに魔族国境への派遣より、上級迷宮への道を整備しておく方が、印象は良いだろう。
そういった意味で、ユッカちゃんさえ居てくれれば、人手も士気も十分に賄える。
だが、食料の調達はどうするつもりなんだ?」
「私は嫌だけど、バナナとか芋とか食べるのでは?
ここではお米も食べるみたいだから、効率の良い収穫方法が有ればいいね。この辺りはユーフラテスさんと相談かな」
「ヒカリ、商人でも無いユーフラテスさんが食料を調達出来るのか?」
「ううん。食料の栽培のコツを教えてもらう感じかな。
『高カロリーで、促成栽培可能な植物を教えてください』
って、感じで」
「ヒカリの言っていることは、いつもサッパリわからない。
だが、ユーフラテスさんが森を枯らす術を使えるだけでなく、植物にも詳しいのであれば、是非とも知恵を借りた方が良いだろう」
「ヒカリさん、ちょっと宜しいだろうか?」
「ユーフラテスさん、何でしょうか?」
「その……。
『植物を枯らす方法』
と、聞こえたのだが、私はその様な支援をすべきだろうか?」
「ああ……。誤解がある言い方でしたね。
『植物を急速に老化させて、寿命に至るように促進する』
ことが出来ると思うのですが、そういった協力はお願いできますか?」
「一般的には、その術に関しては知られていないはずだが……。
どこでその話を聞きましたか?」
「ええと、シルビアさんとステラが一緒にやってました」
「ステラとは、そちらにいらっしゃるエルフ族の族長の方ですよね。
シルビアさんとは?」
「ユッカちゃんのおばあちゃん。うちの領地に住んでるよ」
「ヒカリさん、少々お待ちください。私が代わりに説明しますわ。宜しいかしら?」
「はい……」
と、ステラが割って入って来る。
私の説明割と合ってるよね?
ま、妖精の長のことはステラにお願いしておこう……。
「ユーフラテスさん、ヒカリさんに代わって説明しますわ。
北の大陸にある樵達が住む小さな村での出来事です。
そこに祀られている御神木が寿命を迎えようとしているときに、この大陸でドリアード様の加護を受けたシルビアという女性が、その術を駆使したのです。
その御神木は最後に素晴らしいは花を咲かせ、沢山の実を実らせた上で寿命を全うし、サラサラと崩れ落ちました。
ヒカリさんは、そのことについて申していたのだと思いますわ」
「ステラ様、ご説明ありがとうございます。
確かに、ドリアード様はこの地に住む女性に加護の印を与えたことがあった……。ユグドラシルの樹に辿り着いた稀有な人族であり……。
ですが、寿命を全うしようするような大樹であっても、そう簡単に秘術による祈りが通じるものでは無いと思うのですが……。
本当でしょうか?」
「ええと……。信じて戴く他は……。
現地へお連れする訳にも行きませんし……」
「ステラ、現物は無いけど、実ならあるじゃん?
私は拾って持ってきたよ?
ほらっ!」
って、ステラが説明してくれたのを聞きつつも、ユーフラテスさんの問いかけに話が詰まってしまったので、樵の村で拾ってきた実をカバンから出して、みんなの前に見せた。
「お姉ちゃん、私も持ってるよ~」
「ヒカリ、私も持ってるんだぞ」
って、ユッカちゃんとニーニャも、あのイベントで拾った木の実を見せる。
「ああ、失念しておりました。私も所持しております。
こちらに……」
って、あのとき居たメンバーが全員拾った実をユーフラテスさんに見せる。
「ああっ!そ、それは……。
ステラ様、それはおよそ2年前の出来事ではありませんか?」
「ヒカリさんが結婚される前ですから、1年と少し前かしら?
ラナちゃんやクロ先生とお会いした後のことです」
と、その話を聞いていたユーフラテスさんが泣き出した。
男の人が泣くかねぇ?
いや、だって、妖精の長だよ?
何の演出っていう……。
「ステラ様、すみません。取り乱しました。
できれば、その実をもう少し良く拝見出来ないでしょうか?」
「ええ。沢山戴いたのでお分けすることも出来ますわ」
と、ステラが自分のカバンからポロポロとお団子ぐらいの木の実を両手のひらにいっぱいに取り出した。
すると、未だ涙が残り潤んだ瞳でその様子を見ていたユーフラテスさんが、今度は驚きの表情を浮かべる。
「ステラ様……。その……。貴方達は何者ですか?」
「ユーフラテスさん、私はシルビア様のお手伝いをさせて戴いただけですわ。
御神木をお送りする儀式に立ち会っただけです。
それが如何されましたか?」
「シルビアは……。
シルビアさんは、普通の女性だったかと思います。体内で練れる魔力も普通の人族の子程度でした。
そして、ステラ様にしても普通のエルフ族の方達であるとすれば、これほど大量の実をお持ちになることはできなかったはず……。
あの木は世界樹の子孫の様な物です。ドリアード様と共にする者として、世界樹の子孫が立派に寿命を全うしたというのは感激です。
ですが、多くの子孫は実を実らせることなく、朽ちて行くか、伐採されてしまうのです。
木材として日持ちがしますし、丈夫でありながら加工し易いため、人間達にとって、非常に重宝する樹木なのでしょう。
ですが、小さな村に祀られて大事に育成されていただけでなく、最後に多大な魔力を注いで戴いたために、実を実らせることにも成功した……。
子孫を残せた非常に稀な例であると思うのです。
ところで、ラナちゃんのご家族もその儀式に同行されたのでしょうか?」
「ラナちゃんの家族は同行しておりませんわ。
供給した潤沢な魔力につきましては、魔力の体内での練り方をヒカリさんに教わりました。今の私は普通のエルフ族では無いかもしれませんわね」
「ヒカリ様、シオンくんといい、ステラ様といい、貴方は……」
ステラの能力に感動すべきところを、何故か私に振られるよ。
私はユッカちゃんとかに比べたら全然魔力の扱いは慣れて無いのにね。
「ユーフラテスさん、私は一般的なメイドをしていたところ、リチャードに見初められただけです。そして、魔術に関する知識はユッカちゃんやステラさん教えて貰っただけです。
それで、実なら私も沢山持っていますので、欲しい量を教えて下さい。その代わりと言っては何ですが、この密林に道を拓くために協力して頂けますか?」
「ヒカリ様、木の実に関しましては、今回の人族との交流の証として、1つ頂くだけで十分でございます。
そして、道の拓き方についてですが、ドリアード様の力が何方かに授かれる様にすれば宜しいでしょうか?」
「ああ、シルビアさんが儀式で使ったような能力を発揮できる様にして頂ければ良いです。
授けて戴く人は誰がいいかな……。
ステラかナーシャさんが良いかも。
二人に授けて戴くことは可能でしょうか?」
「承知しました。
お二人にドリアード様のお力が備わるように、後で儀式をさせていただきます」
「はい、お願いします」
「ヒカリ、相変わらず何を言っているのか判らないのだが、上手く行くのか?」
「うん。たぶん。
あと、リチャードは未だ身体強化のレベル2が使える様になったばかりで、魔力の使いこなし方が足りて無いから、もう少し力を授けて貰うのは待った方が良いと思うの。
良いかな?」
「あ、でも、食料の調達の方はまだだったよ……。
ちょっと、暫くはクジラを獲りにいきたくないんだよね……。
ユーフラテスさん、食糧の増産支援もお願いできませんかねぇ……?」
「食料の増産と言いますと、特定植物の促成栽培でしょうか?」
「促成栽培もそうだけど、植物の品種改良もしたいかな?
病虫害に強くて、実りが豊かな品種に改良したいの。
ドリアード様にお願いすることで叶うことですかね?」
「ヒカリさん、こちらの実を種として撒いて、区画を整備すれば、その結界の範囲において病虫害による影響は低減できるでしょう。
栽培する植物の種類と区画ごとにこの木を育成させることができれば、植物に応じた加護が得られるでしょう。
あとは、育成したい植物の実りを豊かにしたいという話ですが、それはどういった内容になるのでしょうか?」