5-17.王都でのお茶会(2)
お茶会の場に、真偽の鏡が持ち込まれた。
当然の如く、クレオと尋問官も居合わせることになり、クワトロも合流した形となる。
「夜は別の会合が有るので……」と、逃げ口上を述べる王姉殿下に対して、「では、直ぐに済むのでお先にどうぞ」と、リチャード殿下が退室を許さない形となり、王姉殿下が最初に真偽の鏡の前で宣誓をすることとなった。
尋問官の代わりにリチャードが質問することでも、真偽の鏡は動作するとのことで、リチャード自らが王姉殿下へ質問することとなった。
ちなみに、魔石の消費は大したことがなく、ヒカリが生成するテニスボールサイズの魔石であれば、1年間使い続けても十分に賄えるとのこと。これはヒカリが出さずとも、実際にリチャードが持ち込んでいた魔石で対応することとなった。
「では、はじめさせて戴きます」
と、リチャードが真偽の鏡の前で緊張している王姉殿下に問いかけを行う。
教唆
「貴方は、サンマール王国の王姉殿下ですね」
「貴方は、男性ですか」
「貴方は、先遣隊の報告を聞きましたか」
「貴方は、昨日の閣議の場に出席しましたか」
「貴方は、身体強化の秘薬について興味がありますか」
「貴方は、クレオかエスティア王国からの訪問者が秘薬を所持していると思いますか」
それに対して、王姉殿下の答えは、
「はい(青)」
「いいえ(青)」
「いいえ(黄色)」
「はい(青)」
「いいえ(黄色)」
「はい(黄色)」
流石は王姉殿下である。「はい」か「いいえ」の返答をしているにも拘わらず、黄色の反応が出ていて、真偽が掴みにくい状況を作り上げている。
「貴方は、真偽の鏡が使える者の前で、
『秘薬があるとするなら、エスティア王国が怪しい』
と、大臣達の意識を向けるような発言をしたことがありますか」
「いいえ(赤)」
「何故嘘を付く必要があるのですか?
なにも、『直接、マリアの館を調べる様に指示を出したか』を聞いた訳では無いのですよ?」
「わ、私が、その様な発言をして、それが誰かの忖度によって、実行されたとあれば、それは私が責任を負うべきと考えたからです」
「では、質問を続けますね。
貴方は、『秘薬がエスティア王国から持ち込まれた可能性がある』ことについて、特定の個人の前だけで話をしましたか?」
「いいえ(青)」
「貴方は、閣議の場で、大勢の大臣達が王姉殿下の意を汲んで行動することが良いと思われることを想定して、先ほどの発言をしたのですか」
「はい(青)」
「つまりは、忖度されることを想定した、犯罪教唆をしたのですね?」
「はい(青)」
「わかりました。一旦、真偽の鏡での確認とは別にお話をさせてください。
よろしいでしょうか?」
「はい(青)」
リチャード殿下は、真偽の鏡での確認が不要と言ったものの、王姉殿下は未だに真偽の鏡と対になった水晶玉の上に手を置いたまま、会話を続ける様である。
「何故、エスティア王国から持ち込まれたと考えたのでしょうか?」
「それは、ストレイア帝国やロメリア王国との模擬戦で勝利したとの話を聞いていた為です」
「それは本当ですか?」
「はい(青)」
「リチャード殿下、横からすみません。
先ほどリチャード殿下が不在の際に、その様な話をされていましたので、きっと本当だと思いますわ。
そして、その薬の力を利用して、迷宮の制圧をしたいようなことも仰っておりました」
と、マリアから補足の発言があった。
王姉殿下としてみれば、エスティア王国を制圧するためにの身体強化の秘薬そのものが手に入らなくても、高価な薬品による経済的なダメージを負わせることを想定していたが、そこを問い詰められずに済むのであれば、好都合と考えていた様子。
そのため、少し安心したかのようなため息が漏れた。そして、その隙をリチャードは見逃さなかった。
「王姉殿下、失礼ですがまだ質問は続きますが宜しいでしょうか?」
「ええ。どうぞ?どうしてからしら?」
「事は重大な局面を迎えているのに、安心された様子でしたので」
「そのようなことはありませんわ。緊張による疲れからため息が出たのよ」
「そうでしたか。それではまだ続けさせて戴いても大丈夫ですね?」
「ええ。今晩の用事はキャンセルするように指示を出したので大丈夫ですわ」
「何故、エスティア王国だったのでしょうか?
先遣隊の報告では『クレオと名乗る正体不明の人物が薬を支給した』とのことでした。
閣議ではそのように報告が無かったのでしょうか?あるいは議事録を読んでいないのでしょうか?」
「先ほども言った通りよ。私はストレイア帝国に居を構えているので、エスティア王国のことを存じておりました。
ですので、エスティア王国で秘薬が作られていて、それが持ち込まれたと考えました」
「エスティア王国の急激な発展は確かに目覚ましい物があります。
ですが、それはドワーフ族やエルフ族の方達の支援に依るところがが大きいのです。
そういった可能性は考えなかったのは何故でしょうか?」
「え?それはどういうことでしょうか?」
「もう一度確認します。
貴方は先遣隊の報告会の議事録を閣議の場で確認をしましたか?」
「はい(青)」
「全ての議事録を読みましたか?」
「はい(青)」
「その議事録には『クレオと名乗る人物が登場し、秘薬を先遣隊へ提供した』と書かれていたか、あるいは誰かが読み上げましたか?」
「はい(青)」
「先遣隊の報告の中に、『そのクレオと名乗る人物が秘薬の効果と引き換えに、迷宮の調査を依頼した』と、ありましたが、そのことは覚えていますか?」
「はい(青)」
「迷宮の調査結果は、議事録に書いてありましたか?」
「はい(青)」
「すみません。一度中断しますが、質問に答えて頂けますでしょうか。
『先遣隊の迷宮の調査結果は何と書かれていましたか?』
覚えている範囲でお答えください」
「確か、『迷宮は問題ない。誰かのいたずらだろう』と、書かれていた気がしますわ」
「もう少し詳しく書かれていたと思うのですが、他に何か覚えていらっしゃいませんか?」
「そうね……。『人族かエルフ族のいたずら』だったかしら?」
「つまり、王姉殿下は、クレオと名乗る得体のしれない人物の秘薬が、人族かエルフ族から齎されたと考えたのですね?」
「何か間違っているかしら?」
「分からないのですよ」
「何がかしら?」
「何故、王姉殿下は、秘薬の提供者がエルフ族か人族に絞り込めたのかが分からないのですよ。
とても重大な局面だと思いませんか?」
居並ぶ大臣や招待客、クレオなど後から参加した者達はポカンとした顔をしている。
けれど、只一人、王姉殿下だけが、その場から目を逸らした。そしてその顔は血の気が引いたように青白かった……。
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