1-05.綿菓子を作ろう
「ヒカリさん、先ほどのタコ丸の例ではヒントが曖昧で……。
空気の小さな粒が2つくっついて、それなのに、縮んだり離れたりするのですか?」
「ああ~。なんていうか、核の周りに電子が周っていて……。
そうだねぇ~。
綿菓子みたいなのをイメージして貰えば良いかな?」
「「「綿菓子?」」」
授乳から帰ってきたアリア、質問をするステラ、そして最初から勉強会に参加していたニーニャの3人が同時に疑問の声を上げる。
「あ、今の無し!」
「ヒカリさん、私は構いませんが、ユッカちゃんやラナちゃんに聞かれたら、『今のは無し』では済まされませんわ。
それに、アリアさんなら綿のことすら知らない可能性がありますわ」
「あ~、そっか。ニーニャもアリアも綿を知らない?」
「私は知らないんだぞ」と、ニーニャ。
「私も判りません。
ただ、以前にもヒカリさんが布として綿を使ったもので下着を作りたいようなことを話題にされていたことを覚えていますが……。
ですが、布とお菓子は関係が無いと思います」と、アリア。
「うん。私が悪かった。
毛糸になる前の羊の毛玉の状態があるでしょ?
ああいう、フワフワした感じの植物の実があって、その植物のことを綿っていうの。
だから、判りやすい例でいうなら、毛玉みたいなのをイメージして貰えば良かったね」
「ヒカリさん、増々判りませんわ。
2個の毛玉がくっつく理由も判りませんし、2個が一緒でいいなら、もっと数が増えても良いはずですわ。
何故2個なのかが判りません」と、ステラ。
「う~ん……。じゃ、やっぱり、綿菓子を作ろう。
ニーニャ、道具を作るの手伝ってくれる?」
「ヒカリ、良いんだぞ。
目に見えない空気の動きがどうなってるのか興味があるんだぞ」と、快く工作の依頼を引き受けてくれるニーニャ。
ーーーー
ニーニャの国から来てくれたドワーフ族の人達がいる専用のの工房に場所を移す。当然、私とアリアの子らは、いつでも私たちが授乳出来る様にメイドさん達が連れてきてくれている。
「先ずね、道具が結構面倒なんだけど……」
と、説明を始める。
砂糖を溶かして入れる器。そして、その器にはとっても細かい穴が周囲に一杯ある。
次に、その器を高速回転できる仕掛け。電気もモーターも無いから、シルフを呼んで風の印を作って貰って、高速で器を回転出来る様に仕掛けて貰った。
あとは、砂糖の入った容器と、綿菓子の元となる細い砂糖の線を受けるドーナツ状の器を作って貰って完成!
「これで、多分道具は完成したはず。次に動作確認をしてみよっか」
砂糖が融けて少し焦げる香ばしい香りがしてくると、ドーナツ状の大きな器にフワフワと綿のような筋が出来始めた。うん。綿菓子器自体はこれで完成だね。
長めの棒で巻き取って、徐々に膨らませて綿菓子を形作る。バレーボールぐらいの大きさになったところで、最初に入れた砂糖が枯渇したのか、それ以上砂糖の繊維が増えず、綿あめが膨らまなくなったので終了。
「どう?これが綿菓子なんだけど」
と、私が棒に巻き取った綿状の砂糖の繊維の塊を皆に見せる。
「ヒカリさん、これは何ですか?」と、率直な疑問を浮かべるステラ。
「ヒカリ様、機械にいれた砂糖がこんなに膨らむのですか?」と、科学的な見地から現象を掴もうとするアリア。
「ヒカリ、早く処理しないと、ユッカ嬢やラナちゃんに見つかる危険性があるんだぞ」と、ニーニャは冷静に周囲の状況を把握している。
確かに、この香りと物体があの二人に見つかると何を言われるか判らない。あと、リチャードに見つかると、こんなオーパーツ見たいなものを無駄に作ってると知られたら、いろいろ怒られそうだ。
「ヒカリ、僕も風の力でその綿菓子というのを作るのを手伝ったのだから、見せて貰ってもいいかな?」と、シルフ。
そ、そうだよね。皆が興味津々(きょうみしんしん)だよね。早く処分しないと、いろいろ言われる。
「あ、シルフどうぞ。私はもう一個作るね。作ったらこの機械は一旦仕舞っておいて、空気の小さな粒の話に戻ろう」
と、2本目の棒に2個目の綿菓子を作り上げて、機械はゴードンに頼んで台所の食材倉庫に運んで隠してもらうことにした。
ーーーー
「じゃ、説明するね。
さっきアリアが気が付いたように、これって、フワフワな砂糖でさ、とっても細い繊維が棒の周りに巻き付いているのね。
空気の1この粒も、棒じゃないけど、中心の核の周りにフワフワと電子っていう小さな小さな玉がグルグル動いて回ってるの。
この2つの綿菓子を近づけていくと、フワフワと弾力があって、二つの棒の間隔が伸びたり縮んだりするでしょ?そんな2この空気の玉がくっついている様子を説明したかったの。
この綿菓子では上手く再現できない部分もあるけど、この綿が二本の棒を単純な丸同士じゃなくて、八の字を描くように絡み合ったりする場合もあるのね。あとは違う種類の玉同士だと、もっと複雑な形になるよ。
何となく分かった?」
「ヒカリ様、凄いです凄いです!私が作った顕微鏡で、その電子っていう小さな粒は観察できますか?」と、興奮気味のアリア。
「ヒカリさん、空気の動きを止めるなら、いっそのこと、その綿のフワフワの部分もぎゅっと押し込めて固めてしまえば如何かしら?」と、直ぐに自分の解決すべき課題へと応用するステラ。
「ヒカリ、綿菓子を多く作るには、砂糖で出来た細い繊維を効率よく回収するために、覆いを付けた方が良いんだぞ。あとは砂糖を加熱する温度と穴の大きさを工夫すれば、もっと細かな綿菓子が綺麗に作れると思うんだぞ」と、今回の綿菓子を工学的に発展させることに夢中になるニーニャ。
「ヒカリ、その2つの綿菓子を僕にくれないかな……。ラナとユッカが喜ぶと思うんだ……」
うん。みんなの反応は流石だね。
シルフのお願いは微妙なところだけど、ステラへ説明する目的が果たせたからいっかな。
「シルフ、私はステラに上手く説明出来たみたいだから良いよ。
アリアの観察の話に関しては、私の知ってる知識でも観察手段が無いかもね。綿菓子の核となる棒の位置が電子の配置によって、間接的に判明できるくらい。『電子がそこにあるんだろう』ということの証明はできても、電子1個を観察は出来ないよ。
それで、ステラは……」
え?
ステラが手のひらから霜を発生させながら液体をだらだらと垂らしてるの。
まさか、既に空気を簡単に液化させちゃってる?
「ヒカリさん、簡単に液化出来ましたわ。この仕組みを印として石板に刻むことが出来れば、クロ先生のような妖精の力を借りずに冷蔵庫を作れると思いますわ」
さ、流石はステラだ!
この人に科学の基礎を教えると、それを簡単に自分の魔術に取り込んで発現できちゃうんだ……。
「ヒカリ様、私もできます~」
って、アリアも同じことし始めた。アリアは科学の子だと思っていたけど、重力制御とか覚えさせた辺りから、私みたいに科学をベースにした魔術は駆使できるようになっちゃってるね……。
「ヒカリ、私もできるんだぞ。ちょっと手のひらに溜めると、コロコロと空気の玉が転がっていくんだぞ」
あ~あ~あ~。この人たち半端ないね。
でも、如何にしてこの世界の魔術が物理現象に即して発現しているかってのが判るよね。
私も手のひらを自分の油脂でコーティングしてから手のひらに空気の液化をさせてみた。
うん。ちゃんとできた。掬えるレベルで液化が簡単にできる。
ただ、ブクブクと沸騰している隙に、ざばっと地面にこぼしちゃうけどね。
低温火傷は危険だし。
「お~~~。みんなすごい!
でも、すっごい低温な状態だから、低温火傷に注意してね。
ステラの言う様に、これを応用すれば氷も魔石も無しで冷蔵庫が作れるかもね?そしたら、この領地の各家庭に冷蔵庫を備えられて便利かも?」
「ヒカリさん、私はこれを印に記すための術式を考えたいのですけど宜しいかしら?」
「ヒカリ、私はこの液体が長く保存できる断熱した器の製作に取り掛かりたいんだぞ」
「ヒカリ様、私はもっと、もっといろいろ科学のことを教えてください!」
「うんうん。みんな各自がんばろう!
でも、最終的には空飛ぶ円盤もユッカちゃんの持つ不思議なカバンも作るからね?」
「「「ハイ!」」」
最初の書き溜めたのが終わったら、週一ぐらいで更新予定。
ブックマーク、感想、評価を付けて応援頂ければ幸いです。