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5-07.先遣隊の報告(1)

「クレオさん、すまないが我々も同行させて戴けないだろうか。

 少なくとも地下15階層まではお願いしたい」


と、先遣隊のリーダーががクレオに申し入れる。

 が、クレオ達からの返事は……。


「我々にはこの調査結果を迅速に報告する使命が残っている。

 よって、そちらのパーティーの進軍速度に合わせることも無いし、収集品の回収にも付き合えない。

 ただし、我々の報告完了まで含めて支援戴けるのであれば、話は変わるが?」


 クレオからの返事を受けて、先遣隊のメンバーは互いに顔を見合わせて頷く。「相手の言い分を丸々と飲むしかない」と、誰もが決めていた。


 それはそうだろう。


 魔物の特性もわからず、地図も無い。

 水や食料が多少余分にあっても、踏破済エリアである15階層に辿り着くまででも何日間掛かるか想像が付かない。それは食料や水不足だけでなく、何かあったときに、外部との連絡手段や支援を求める方法がないことを意味する。


「クレオさん達の依頼を完全に支援する覚悟があるので、新しく契約を結ばせて貰えないか?」


 クレオはローブを被ったもう一人と小声で会話を進める。

 ところが、クレオの話に対してローブを纏った者はしきりに首を横に振る。まるで話にならないとでも言う様だ。


「あ~。済まない。これ以上貴方達と同行する価値を見出せないそうだ。

 人族として私も支援したいのだが……」


「収集品は全て放棄する。食事や仮眠も全て貴方達のペースに合わせる。合わせられないときは見捨てて貰って良い。

 地下15階層までで構わないので、連れて行って貰えないだろうか?」


 もう、契約とか依頼では無い。

 先遣隊のリーダーがクレオに必死に縋りつく様は苦笑いすら出て来ないほどに哀れである。

 見かねたクレオは再度、ローブを纏った者と交渉を始めて、漸く1つの答えを得た様だ。


「サンマール王国の大臣以上の者へ報告が出来る伝手を持っているだろうか?

 そして地上に到達後、4日以内に報告が出来るだろうか?

 この2つの条件を飲めるのであれば、地上までのルートを我々の進行スピードに合わせられる限り、貴方達を迷宮の入り口まで導いても構わない」


「ああ、出来る!

 我々の依頼主であるハピカ殿は大臣や貴族との交流があるので、その伝手を使って情報を伝達してもらえるはずだ。

 そして、我々が乗ってきた馬車も特別仕様なため、荷を軽くして、馬車を4頭立てに変更する。そして馬にはエルフ族の秘薬を与えれば4日間で王都に辿り着くことも可能と考える」


 リーダーのこの発言を聞いて、クレオが相方の様子を確認すると、黙ったまま頷くのを確認してから、次の指示をだした。


「魔物が溢れた原因に魔族の痕跡は見受けられない。人族かエルフ族の冒険者が秘薬を用いて踏破し、一時的に魔物のバランスが崩れたことが原因であろう。

 これをサンマール王国の大臣以上の施政者に4日以内に伝えることが出来るな?」


「わ、分かった。A級冒険者登録証に掛けて誓う!」

「その登録証に大きな価値があるなら、自分達で脱出できるだろう?約束を反故にした対価は貴方達4人の命で支払って戴く。


 我々も後日、人族の王都を訪問するだろう。その時点で情報が伝わっているかどうかは、我々の伝手で確認することが出来る。貴方達の所在は今回の契約書を元に冒険者ギルドを通して確認させて貰う。

 良いな?」


「わ、分かった。それでは今回の新しい契約書を作成する!」

「契約書?命よりその契約は重いのか?それより此処からの脱出を優先する」


 クレオ達一行は往路で多くの魔物や罠をクリアしていたことと、迷宮のリセット機能が働いている時間を有効に活用して、魔物もなく、罠も解除された道をひたすら走り抜けた。

 3時間も掛からず地下15階層迄辿り着き、その後リセット効果が現れ、弱い魔物が多少出現したが、残りの行程もあっという間に駆け抜けた。地上に到達するまで合わせて正味5時間も掛からなかった。

 往路は先遣隊達のペースに合わせて行動していたということなのだろう。


「王都への報告は貴方達へ任せて、我々は別の場所へ向かう。ここでお別れだ。約束はたがえないで戴きたい」

「分かった。必ずだ。これから直ぐに馬車を走らせる」


「ああ、道中気を付けて欲しい。無事に情報を届けるまでが契約だからな」


 先遣隊のメンバーの疲労は激しい。

 だが、それ以上に約束を違えることは自分達の死に直結するため、正に死ぬ気で頑張るしかない。頑張り過ぎて死ぬか、何もせずに死ぬのであれば、頑張って死なない可能性に賭けるのは冒険者であれば当たり前だろう。


ーーー


 先遣隊が王都を出発したのは12日前。

 先遣隊が上級迷宮に到達し、クレオ達と遭遇したのが約5日前。

 先遣隊は2日間の迷宮の調査を終え、その3日後の夜にサンマール王国の城門を叩いた。


「夜分すまぬ!ハピカ殿への急使だ!迷宮の調査から戻った!

 至急報告させて戴きたいのでここを開けて欲しい!」


 門番は往復だけで2週間掛かることを想定していたため、それ以上に早く戻ってきたということは、魔物が溢れている状態が悪く、かなり手前で遭遇して引き返した可能性を考えた。

 あるいは、5日ほど前に辿り着いたエルフ族の少女の報告通り、既に魔物が封印されていることを確認し、後続の制圧軍の準備が整う前にその朗報を持ち帰ったのかもしれない。


 どちらにしろ、門番としては外来者の身分証を確認し、直ぐに伝令を走らせる必要があると考えた。

 先日のエルフ族の伝令の件と同様な報酬が貰えるかもしれないという思いを、あくまで職務に忠実であるためであるという正論で打ち消しつつではあったが……。


 ハピカ殿へ直接の報告を考えていた門番は、身分証の確認をするとともに、用件を代わりに伝える旨を申し出た。

 しかしながら、冒険者たちは門を開けてくれた礼を言い、自分達が乗ってきた4頭立ての馬車を預け、更には門番に金貨1枚という多大なチップを支払うと、4人は文字通り駆け抜けて行った。

 人があそこまで早く走るのを見たことが無い。馬ですらあの速度は出せないのではなかろうか?


 門番はハピカ殿からの報酬を貰い損ねたことは言葉に出さず、軽くため息をつきながら、貰ったチップに恥ずべき仕事を見せぬように、放置された馬車を通りから邪魔にならない場所へと格納するのであった……。


ーーー


 先遣隊達の4人は城門を通り抜け、馬車を放り出して身軽になり、身体強化の効能を活用して数分も掛からずに商人のハピカの屋敷に辿り着いた。夜分であっても執事は起きており、主人であるハピカへの取次ぎを了承してくれた。

 このようなタイミングであっても取り次いで貰えたのは単なる偶然などではなく、情報の価値を分かり、それを大切に思うハピカの意思が執事達にも徹底して教育されていたからだろう。


 4人は薄汚れた格好で、体臭もそれなりの状態になり、露出している肌は汗と埃とかすり傷のような物が滲んでおり、到底大商人の応接間に招かれるような恰好をしていなかった。

 けれども、ハピカは豪奢な応接間へ4人を迎え入れると、直ぐに暖かいお茶を給仕しつつ、食事の好みを尋ねてから、執事への指示もだしていた。


「夜遅くまでかけて、貴重な情報を持ち帰って戴いたことに感謝します。慣れぬ場所で恐縮ですが、寛いで食事をとりながら報告して戴いても良いですかな?」

 すると、せわしげに、4人で目を交差させあうと、リーダーはハピカ殿からの労いの言葉への返礼もせずに、単刀直入に話を始めた。


「私たちの情報は明日の昼までにこの国の大臣以上又は高位の貴族に伝える必要があります。これには私たち4人の命が掛かっています。

 どうか、ハピカ様の伝手で伝達して戴くことは可能でしょうか?」


 にこやかな歓迎の表情で4人を出迎えていたハピカの顔が一転して真顔になると、真剣な態度で、リーダーに経緯を促した。


 リーダーは、魔物が封印されていたこと。クレオともう一人の2人組と行動し、秘薬の力を得て最深部まで調査を終えたこと。そして、帰路に着く際に、別契約として、迷宮から脱出後、4日以内に大臣又は高位の貴族にこのメッセージを伝えることを契約として強いられることになったことを簡単に説明した。


「ふむ……。

 なるべく貴方達の意に沿う様に、そのクレオと取り交わしたメッセージを伝えたいと思う。

 だがその……。何故クレオなんだ?」


「と、申しますと?」


「貴方達が持ち帰った情報は、つい5日ほど前にエルフ族の少女が持ち帰った情報と同じなのですよ。

 まぁ、その少女は魔物の討伐と封印が完了しているだけで、迷宮の最深部までを攻略し、問題が無いことの調査までは出来ていませんがね」


「そのエルフ族の少女とクレオが何の関係があるのでしょうか?」

「先ず、我々が思う本物のクレオは王都から離れていない。数々の証言が残っている。

 エルフ族の少女が現れた日もここで会話をしているし、その翌日はメイドをしている屋敷を訪問したが、中庭で皆とお茶をしている様子が遠目に伺えた。昨日も冒険者ギルドの長と共にここを訪問している。


 だから、本物で無いクレオが存在していると我々は考えている」


 と、ここで先遣隊の1人がハピカに発言の許可を求めた。


「あの、私たちが遭遇したクレオという人物は非常に怪しいと踏んでいます。

 王都でメイドをしていて、B級の冒険者登録証を所持しているはずが、C級の偽物の冒険者登録証を我々に見せました。

 それだけでなく、しきりに『魔物が溢れた原因は魔族では無い。人族のいたずらだ』と、我々に印象付けようとしていました。


 我々A級冒険者ですから、それなりの知識や装備、道具を所持しています。その証拠に帰路はエルフ族の秘薬を馬に用いて、本来片道7日間掛かる工程を3日間にまで短縮することが出来ました。


 私の知る限りでは、人族もエルフ族も今回服用した様な効能のある秘薬を作り出していると聞いたことがありません。単に高価なため、手に入れ難いだけであり、その存在が知られていたのであれば、我々が噂だけでも耳にしていたに違いありません」


「だが、貴方達はそれを承知の上で、大臣達に『魔物が溢れたのは、魔族は関係ない。人族かエルフ族のいたずらだ』と、伝言する必要があるのでしょう?」


「はい。私たち4人は伝えなくてはなりません。ですが、その伝えた内容を精査し、どのように活用するかは、情報を得た方達に任せるしかないと考えます」


「なるほど……。動くなら早い方が良いだろう……」


 ハピカは執事に各所へ緊急でメッセージを伝える様に指示を出し、その一方で、先遣隊達の4人には食事を終えたら風呂に入り、身なりを整える様に要請したのであった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

5章最後まで毎日走りつづけます。


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