1-04.子育てと研究
あれからと言うものの、周りに人が居ない場所ではリチャード王子のことをリチャードと恥じらいながら呼ぶ生活が始まった。
そして、子育ての苦労というか、育児ノイローゼの意味を実感する生活が始まった……。
先ずね?
泣く理由が判らないの!
オムツ?おっぱい?怖いの?何なの?
先ずはオムツ確認。次におっぱいを見せる。どっちも興味を示さないときには歌うたったり、ガラガラみたいなおもちゃで気を引いたり。
首が座ってきて、寝転がれるようになれば、今度はシオンとリサとぶつかり合うからベッドを2つにした。
お風呂はリチャードに手伝ってもらえる時は手伝って貰って、二人を順番に入れる。
まぁ、リチャードは貴族や各ギルド、豪商の訪問を受けて、接待される側だからほとんど夜は家に居ないのだけども……。そこはマリア様付の本物のメイドさん達が私を助けてくれるからオッケーだ。
でも、夜中の双子のおっぱい要求にはめげる。
二人が同時に泣いて、二人が同時におっぱいなら良い。
二人が別々のタイミングでおっぱいを要求して、背中をトントン叩いてゲップさせて寝かしつけると、もう片方が泣き出す。
二人ともおっぱいが終わったタイミングで寝れるかと思ったら、最初の子が泣き出す。で、何かと思えば、おっぱい飲んだから、出すもの出してオムツの交換要求ね。ハイハイ……。
睡眠不足でやつれるよ……。
食事はちゃんと摂れてる。ゴードンさんや助っ人のメイドさん達が美味しいもの作ってくれてるからそこは大丈夫。掃除、洗濯なんかもマリア様のメイドさん達が助けてくれるから大丈夫。
領主業務はリチャードとモリスがほぼほぼやってくれるから大丈夫。たまに、初めての商人とかが利権の交渉に来るようなときに、メイドとして傍で話を聞いたりするけど、多くの場合はモリスが対応したり、危ういときはサインを出して、後日回答するようにしておいたから大丈夫。
金属、石、木工類の加工はイワノフさんとニーニャが連れてきてくれたドワーフ族の人達がやってくれてるから大丈夫。うちの領主の館に隠れたところに作ったキッチン、バス、トイレは現代日本顔負けの設備にしたんだよ?
ガラス工芸、陶器類は育児中のアリアに代わって、旦那さんのミチナガ様が弟子を雇って発展させてくれているから大丈夫。
製紙、皮革はエスト、イスト、ミストのエルフ族の3人組が進めてくれてるから大丈夫。
毛織物はドワーフ族の器用さで半自動織機が何台か複製されていて機材は万全。運営については、倒産した服飾店の夫婦を奴隷として買い取ったので、その夫婦に託している。原料の調達、紡績、生地作り、服飾加工まで手腕を振るってくれているから大丈夫。
うんうん。
結婚の儀の前にほとんど役割分担が終わってたから良かった。子育てに集中できるから、余計なストレスを抱えなくて良いように準備が出来ていたのはマリア様のおかげだよね。
問題は勉強会なんだよね……。
眠いと集中力が途切れる。
ご飯を食べると睡魔が襲う。
ウトウトすると、勉強会に参加しているみんなでは無くて、双子の泣き声に起こされる。
勉強会の講師をする立場として、皆が考える時間も必要だから、理解の程度の差を待つために、口を出さずにグッと堪えているんだけど、滅茶苦茶眠い。
眠い、眠い、眠い……。
でも、『空飛ぶ円盤』と、『不思議なカバン』は作っておかないと!
これって、2-3年でどうにかなる問題じゃない!
いや、でも、子供を旅に連れて行けるようになったら、家族そろってお出掛けしたい。そのためには、移動に便利な移動手段と、何でも入るカバンは重要。
う~~~~~。
お母さん、頑張っちゃうからね!
ーーーー
「ヒカリさん、と言う訳で、空気が上手く液化しないのですわ。何かヒントを戴けないかしら……」
「え?え?え?ステラ、なんだっけ?ちょ、ちょっと寝てたかも……」
「ですから、ヒカリさんは空飛ぶ円盤のエネルギーを液化した水素で動かすつもりなのでしょう?
そして、私には、ユッカちゃんが作った水素を液化させる担当だっていいましたわ」
「うんうん。言った。確か、みんなで帝都に遊びに行く前に、そんなことを言った。ちょっと忘れてだけど」
「ヒカリさんは、空気が非常に小さくて、沢山の粒の集まりで、冷やして凝集させれば、液化までは出来るって言ったわ。私もそれなりに努力したのだけど、余り上手く行かなくて……」
「う~ん。空気は80%ぐらいが窒素で、酸素20%、その他少々の混合物なんだよ。だから、液化する温度が違うんじゃないかな?」
「それは、空気の説明をされていたので覚えています。確かに、違う物質が混ざっていて、異なる状態になるのを感じるわ。
けれど、それだけじゃない、何か違和感があるのよ……」
「あ、ひょっとして……」
「また、何か隠していたんですか?」
「ステラは空気の小さな粒って、1つの玉見たいのを想像してた?」
「ええ。その小さな粒同士がぶつかり合わない様に、進む方向や回転を止めて、その場に留まるイメージをして、温度を下げさせていたのだけど……。
どうもうまく行かなくて……」
「多くの分子は2個でセットなんだよ。こう、<タコ丸>が2個くっついたような感じ。
この場合、丸い玉が1個に比べて、動きの自由度が2個余分に増えるんだよ。だから、単に回転と3軸方向の移動制御だけでは、空気の粒を止めることができないのね?」
「ヒカリさん、全然判りませんわ」
「うんと……。
みんなで<タコ丸>食べながら話をしよう。
ついでに、ゴードンに言って、串も何本かもらって来てね?」
ーーーー
勉強会に参加してるニーニャやアリア、そしてユッカちゃんと合わせて5人で休憩がてら昼食をとることにする。<タコ丸>って、こっちの世界では呼んでるけど、日本でいうところのタコ焼きのことね。
「こうやって、タコ丸が1個あるでしょ?
このとき、動きの自由度は、前後、左右、上下の3軸。あとは、自転できるよね。これで合計4つの運動方向があることになるね。
次に、タコ丸2個を串に刺すでしょ?
この串の状態で考えると、上下、左右、前後の3軸に加えて、串の回転方向で考えると、串自体を振り回すような回転の方向と、串の位置は動かさずに、串を摘まんだまま、回す方向の2種類が別々の動きになることは分かるかな?
そして、最後にこのタコ丸が2個あるんだけど、このフワフワ感を利用して、タコ丸同士の位置が近づいたり、離れたり振動するんだよ。
こんな説明になるんだけど、ステラはイメージが掴めたかな?」
「ヒカリさん、空気が2個の粒であることは、見たことが無いのでヒカリさんの説明を信じるしかないし、それで良いわ。
けれど、そんな小さな粒が2つもくっついていて、タコ丸のようにフワフワで、伸びたり縮んだりするのは、納得がいきませんわ。
とても、とても小さい粒にしてしまったら、硬くて潰せなくなるわ」
お~。
流石はステラだね。直感的に、空気をそれ以上壊せない最小の粒をイメージしてるんだね。その感覚は良いんだけど……。
電子と原子核の話をする?
すると今度は電子がマイナスの電荷を持っていたら、マイナスとマイナスでぶつかり合って、くっつかなくなる。
そこを今度は電子雲という電子軌道と共有電子対の考え方を説明して、更には原子核と電子雲の大きさによって、軌道の形が変わって、軌道の占有の仕方にはスピンがどうたら、こうたら……。
そして、終いには量子力学がどうたら、こうたら。波動関数と熱統計力学がどうのこうのって話になっちゃう……。
ナビから貰った知識を全部説明しようとすると、今度は数学も相当レベルの高い知識が必要になって……。
「ヒカリさん?また寝てしまいました?」
「あ、ああ。ステラごめん。起きてる。どうやって説明しようか考えてた……」
「オギャーオギャー」
「あ、すみません。あれはうちの子です……」と、アリア。
アリアも勉強会のときは、自分の赤ちゃんをを連れてきてる。元気な男の子だよ。
ってことは、そろそろ、うちの子らも釣られて泣き始めるかな?
「ふぎゃ、ふぎゃ~」
「ぎゃーぎゃーぎゃー」
ああ、始まっちゃったよ……。
昼食のタコ丸も勉強会も一時中断だね……。
週1回程度での更新予定。
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