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5-04.先遣隊とクレオ(1)

 サンマール王国の王都を出発し、魔物が溢れたとされる迷宮に向かって、高武装したと見られる2台の馬車が進んでいた。王都を出発して、そろそろ一週間が経過する。魔物が溢れたとされる迷宮がある村の入り口がそろそろ見えてくる。


 馬車の御者は2人ずつ。2台に何名の傭兵や兵士が潜んでいるかは外観からは分からない。

 

 まず、一般的な荷馬車のほろは木や竹を曲線に加工して幌を形成して、そこに布を張って形成する。それは中身を風雨から守ることや、荷崩れによる落下を防ぐことが主目的だ。

 これが貴族の馬車となると、車体についた車内を板などで構成し、見栄えや敵襲からの防御の両面を兼ね備えていることが判る。


 ところが、この2台の馬車の荷台は金属光沢を帯びて、ツルツルしている。単に化粧板などのニスで生じるツヤとは違った風合いだ。


 そして、荷台が揺れていない。

 速度を落として走行しても、馬車は路面の凹凸を直接拾い、その振動は荷台に直接伝わる。懸架式であれば、その揺れは荷台に伝わりにくいが、それは貴族の一部の馬車に使われる方法であり、荷馬車には使われない。

 この馬車は懸架のような仕組みが見受けられないことから、魔石と印を組み合わせたような揺れに強い仕組みを搭載していると考えられる。


 次に、馬に鎧が付けられている。

 馬車を牽くことを目的に使役される馬は頑丈さが取り柄であり、鎧を被せて疲弊を促すようなことは普通はしない。戦場に向かう軍馬が敵の攻撃を防御することを目的として鎧を身につけるのは、あくまで戦闘を目的としているからだ。


 この時点で、この2台の馬車の異様さが伺えた。

 そして、その馬車を)る二人の御者も顔を隠しつつ、腰には見える様に短剣をいていることが一見して分かる。


 もし、知能を持たない魔物が相手であるならば、このような武装をわざわざ見せる必要はない。人族同士、あるいは種族の間の争いを想定しているといえよう。


 と、明らかに特殊な任務を帯びていると思われる馬車の通り道に二人の人物が立って両手を挙げて振っている。

 明らかに、何らかの目的があって、馬車を停めようとしてる。


 二人はフード付きのローブを纏い、顔は帯の様な物を巻いて顔を隠しているので、種族、性別、年齢といった様子は分からない。

 馬車を停めて会話をしないと、どういた事情があるか分からないし、戦闘態勢に入らずに無視して、後ろから襲い掛かられては危険であるため、非常に慎重で適切な判断であったと言えよう。


 先ずは、その二人が何を目的としているのか確かめることが重要だ。

 1台目の馬車が停車し、御者台に座っていた二人が後続の馬車に合図を送った後、1台目の御者二人が前方に立つ二人へ向かい、2台目の御者二人が馬車から降りて、周囲の森からの襲撃に備えて、警戒を示す。

 荷台から応援が現れない所をみると、2台の馬車には4名が分乗していただけなのであろうか……。


「人族の言葉は判るだろうか?判るなら返事をして欲しい」


 と、御者の1人がローブを纏った二人組へ声を掛ける。


「私は人族のクレオ。冒険者をしている。この先の迷宮の調査の助っ人を探している。こちらの女性は私の助手だ」


 と、背の高いローブの上から肉付きの良さが伺える人物が人族の言葉で話しかけてきた。声色からすると、20代の女性だろうか。声に張りがあるため、酒焼けした様なシャガレ声ではない。

 一方、助手と言われた女性はその紹介に合わせて、軽くお辞儀をするだけで、声を発することは無かった。女性かどうかもローブの上からでは判らないままだ。


「クレオ……?冒険者のクレオなのか……?」

「ああ。故郷の村で、魔物が溢れた噂を聞いて調査のためにきている。

 これが私の冒険者登録証だ」


 と、ローブを身に纏い、顔に包帯の様な布を巻いたままのクレオと名乗る人物は、C級冒険者の証が描かれた小さな銅板のプレートを見せる。


 受け取った一人はそのプレートを表裏を良く確認してから、何かの合図を送る仕草をしながら、もう一人の御者にそのプレートを渡して確認をさせる。二人が確認を終わると、その銅板のプレートはクレオに返された。


「我々も、王都のハピカ殿の依頼を受けて、この先の迷宮と村の調査に来ている。

 こちらは4人パーティーだ。A級3人に、B級1人だ。特技などは今は言えない。


 情報交換を含めて、協力できるかどうか話を詰めたい」


 クレオはハピカという名前に特に反応を示すことなく、協力体制について、打ち合わせを進めたいことを告げた。


 馬車2台とローブを纏った二人は、村の前の広場になっているところで再度集合し、6人が車座になって打ち合わせを始めた。


「私と助手で調べたところ、既に村は封印されている。そして魔物は溢れていない。

 迷宮の浅い階層まで調査に入ったが、魔物が溢れている様子は無く、一般的な迷宮の魔物の量であった。


 確認が必要であれば、誰かに確認してもらって欲しい」


 と、ローブは纏ったままのクレオが現在の状況を説明した。

 その状況を聞いて、4人組パーティーの一人が、「こちらも確認して来る」と、席を立ち、村の中へと入っていった。


「我々の調査目的は、村から魔物が溢れいるかの確認と、その溢れている魔物の量の確認が調査の目的であった。

 クレオ殿の話が本当であることが確認取れたならば、我々は一旦調査を終了し、王都に報告に戻ろうかと思う」


「我々は、魔物が溢れた理由を調査する必要がある。『魔族が関わっている』という噂を確認するため、ある程度深いところまで潜って、調査をすることを考えている。

 だが、我々二人では持てる荷物の量が限られることや、敵に囲まれたときに対応が出来なくなるため、支援戴ける人を増やす必要がある」


 確かに二人はローブを羽織っていて詳細は分からないが、何日間も迷宮に潜って、収集品を集めて稼ぐような冒険者としてのに装備を携えている様に見受けられなかった。


「我々は現状を把握し、報告することが任務であるため、リスクを冒してまで他の任務を受けることは出来ない」


 と、王都からの調査隊のリーダー格が答える。


「リスクは少ないと考える。そして、そのリスク低減をする秘薬を報酬として差し出そうと考えているのだが……」


 リーダーの尤もな返答に対して、クレオが意味ありげな提案を示す。


 もし、迷宮内での魔物と遭遇した際にリスクが低減できる秘薬が本当に実在し、副作用が無いのであれば、冒険者としてその効能を試したくなる誘惑は拭いきれない。

 リーダー含めた3人は徐々にクレオの提案を「聞くだけは聞いてみよう」という気持ちになったとしても仕方あるまい。


「こちらは、身体強化の秘薬を提供する。我々C級冒険者であっても、A級かそれ以上の能力を発揮できるようになる。 貴方達A級パーティーのお荷物にはならないと断言する。

 一方で、身体強化の秘薬であるため、先ほど紹介があった貴方達A級、B級の冒険者であれば、S級にも匹敵する能力を身に着けられると思われる。


 つまり、協力頂けるのであれば、S級以上が3人、A級以上が3人というパーティーを組んで、迷宮の調査に当たることができる。


 リスクは下がると思うが、如何だろうか?」


「幾つか質問がある。その秘薬の効力の期限、副作用、代金は?」


 と、リーダーはクレオからの提案に具体的な話を詰めていく。


「先ず、副作用は無い。

 疑う気持ちもあるであろうから、そちらが先に薬瓶を選んで、残った薬瓶を我々が先に服用する。ある程度経過して問題が無いこと確認した上で、先に選んだ薬瓶に入っている薬を飲んで戴きたい。


 次に、効力であるが、私が知ってる範囲では2日~30日。人の元の能力や、体調、身体強化を発揮した時間などで変わって来るらしい。少なくとも2日間は効力が継続するので、服用したら2日間掛けて潜れる深さまで迷宮の調査に協力して欲しい。


 代金は……。

 協力頂けるのであれば、具体的な契約の内容について話を詰めたい」


 リーダーはメンバー3人で互いの顔を見合わせて、頷き合う。


 既に先遣隊としての調査の役目を終えている。この先は別の任務を受けるのも自由な状況。無事に帰ることさえ出来れば良いのだから……。


 今はクレオが提案する依頼とその追加報酬の獲得に向けて、思考は引きずられてしまっている。

 そもそも秘薬が本当にあるのであれば、契約の2日間を終えた後、効力が継続する残りの28日間は自由にS級の能力を使って、自分達だけで迷宮の魔物討伐を継続し、その収集品を独占できるのは大変魅力的に感じられたからだ。


 と、そこへ先ほど村の中へ調査に行った1人が帰ってきた。


「村は入り口付近に結界が張られていることを確認した。

 村全体を確認した訳では無いが、村に魔物が溢れていないことからも、結界は有効に作用し、尚且つ溢れた出た分の魔物も討伐されていると見ていいだろう。

 また、迷宮の入り口と地下一階を確認したところ、強力な魔物が溢れている様子も無く、私が過去に経験した程度の魔物の強さと量であることが確認された。


 魔物が溢れて、村が壊滅した痕跡はあるものの、今の迷宮の状態は以前の状態に戻っている様に思える。


 我々は先遣隊はこれ以上リスクを冒さずに、報告に戻ることが出来る」


 リーダーはその報告を受けて、偵察してきたことを労うと、報告者の肩を叩いて一緒に座って、話に加わるように促した。


いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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