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5-03.商人と冒険者ギルド

 冒険者ギルドから30歳近くの男性であるギルド長とクレオが到着した。

 派遣要請を掛けたのはハピカ本人であるが、クレオを指名した訳では無い。

 であるが、冒険者ギルドとして、日ごろから貴族との交流が有る大商人の邸宅に呼ばれて特命事項に当たるには、貴族との交流実績があり、B級の資格所持者を派遣する必要があった。

 そして、先日のカタコンベの案件の調整があるため、ここ連日ギルドを訪問していたクレオをギルド長がハピカ殿の要請に応じて連れて来たのは当然の成り行きと言えるだろう。


「ハピカ殿、お待たせしました。

 特命事項の依頼額の見積もりと伺い、訪問させて戴きました。また、貴族間での調整が想定されるため、特命事項の内容によって、即時に対応する必要が想定されますことから、B級冒険者であるクレオを共に連れて参りました」


「ギルド長、迅速な訪問ありがとうございます。


 こちらはエルフ族のステラ様とナーシャ様。そして北の大陸から訪問されている人族のリチャード殿下になります。


 これからお話させて戴くことは我々4名は共有出来ていますが、この屋敷の外で無闇に話をして良い内容ではありません。念のため秘匿事項になることを予め承知戴きたい」


「承知しました。私とクレオは冒険者ギルドでB級以上の登録がされています。それなりの実績をもつ証になります。

 こちら、私の登録証です。A級ですので金色になっています」


 と、ギルド長は自分の荷物の中から、小さな金属プレートを出して皆に見せる。手のひらに載る大きさで、そこに冒険者ギルドの刻印、名前、ランクが彫られていることが一目で分かった。

 同様にクレオさんもシルバーの金属プレートを取り出し、自分がB級であることを皆に示した。


「私は見慣れているが、他の皆さんは見慣れていないかもしれない。宜しかったら、手に取ってご覧ください」


 と、ハピカさんが皆に確認を促した。

 冒険者にとって、とても大切な物であるが、依頼者が自分の目で確認することでその証を確認して実感して貰いたかったのだろう。


 リチャード、ステラ、そしてナーシャの順番にそのプレートが手渡されていく。リチャードもステラもそれほど時間を掛けずに、「こういうものがあるのだ」程度に確認していく。


 ところが、ナーシャだけは様子が違った。2枚のプレートを見るだけでなく、手で触ったり、重さを比べたり、ひっくり返したりしている。

 ナーシャにとって何か気になる点がある様子が周囲の者達にも伝わったようだ。


「ナーシャ様、何か気になる点がございますか?」


 と、ギルド長が声を掛ける。


「あの、私は人族の習慣やギルドの仕組みが分からないのですが、この金属プレートは他にも種類があるのですか?」


「はい。発行された枚数は殆んどありませんが、S級のプラチナがあります。あとは、下位ランクとしてC級のアイアン、D級の銅、E級の青銅がありますね」

「クレオさんは、C級のアイアンの頃のプレートもお持ちなのですか?」


「ナーシャ様、冒険者ギルドが発行するプレートは一人一枚です。新しいプレートと古いプレートは交換の上で発行されます。

 ですので、クレオがC級とB級の両方のプレートを持つことはありません」


「例えば、紛失したり、奪われたりして再発行することとかは無いのですか?」

「多額の罰金を支払った上で、再発行に関してはその記録付きで発行する。

 クレオも私も一度も再発行をした経歴がないため、そちらのプレートには再発行記録の文字が無いでしょう?」


 ナーシャはギルド長の問いかけに改めて確認するが、確かに再発行をしたような形跡はなかった。


「それでは、その……。偽造とか出来るのでしょうか?」


「もし偽物が存在して、それを見破る必要があるのであれば、それはプレートに刻んだ印と、さらにそれを保護してあるコーティングによって、真偽は確認できる。

 ただ、偽物と本物を同時に並べて比べる必要があるし、それをされたら直ぐに偽物を判ってしまうため、普通は偽物を作成した上で冒険者ランクを騙るようなことは無いと言えよう。


 先ほどから、何か冒険者証の真偽にこだわりがあるように見受けられるが、何か冒険者からの詐欺にあったのだろうか?ギルド長として直ぐに是正を図りたい」


「冒険者というか、クレオさんの本物というか、偽物というか、混乱してしまって……」


「ああ、ギルド長、私から話そう……」


 と、ハピカはナーシャがここに来ている経緯と、それぞれが感じた違和感について、掻い摘んでギルド長とクレオ本人に語った。


「ハピカ殿、ナーシャ様の話が正しいとしたら、カタコンベの遺産の回収をしたり、その後の後始末をしているクレオとは別人であると思う。


 それに、クレオ本人が居ない場所で、本人の意思をは無関係に奴隷契約をしたのであれば、自由にその主人を選ぶことが出来るはずだ。


 クレオはナーシャ様を奴隷として契約しましたか?」


「いいえ、とんでもございません。私はナーシャ様と奴隷契約を結んでおりません」


 と、クレオが即座に答えた。

 全く身に覚えが無いことの様であった。


「とすると、奴隷契約の印自体は消去出来ないのであれば、ステラ様に所有者になって戴くように契約の手続きを取るのは如何でしょうか」


「はい。何であれ、ナーシャは保護する必要があると思っていました。もし、奴隷契約の所有権を移してもかまわないのでしたら、そちらの手続きも進めさせて戴きますわ」


「ステラ様、もしナーシャ様の件につきまして、穏便に取り計らって戴けると有難いのですが……」


「クレオさんの真偽はさておき、ナーシャもそのクレオさん率いるパーティーに助けられたのは事実ですし、その補償のために自らの身分を売ったのは、人族側からの強制的な指示であったとは見受けられません。

 私としても、ナーシャに奴隷契約の印が付いていることに関しては口外して頂かないことを前提に、穏便に済ませたいと考えますわ」


「それは非常に助かる申し出です。私は人族を代表できる身分ではございませんが、種族間の揉め事として取り扱わぬ配慮に感謝致します」


「いえいえ、こちらこそ。本件は内密にして戴ける前提で良い関係を築きたいと思います。


 それでハピカさん、私はその魔物が溢れた迷宮に向かって、何らかの措置を講じた方が良いのかしら?クレオと名乗るパーティーとナーシャによって、既に魔物の討伐と封印が完成しているようなのだけれども……」


「ああ、確かに!クレオさんの偽物疑惑を意識しすぎて、ナーシャ様が魔物討伐と村を封印戴いたことを失念しておりました」


「ハピカ殿、魔物が討伐され、更に村が封印されているのですか?」

「ああ。ナーシャ様によると、魔物が湧き出ることが止まった理由は不明であるが、迷宮から湧き出た魔物は討伐済みで、更に村のそとには流れで無い様に封印が施されているとのこと」


「と、しますと……。

 討伐や封印は不要ですが、魔物が溢れた理由についての調査は別途必要になりますね」


「当初、依頼内容は村を封印するための依頼費用を見積もるために、冒険者ギルドに使いをやったのだが、状況が変わってきましたな……」


「ハピカ殿、そしてギルド長。


 私も状況が変わったことに同意だ。

 ステラ様とナーシャ様に相談事があるのであれば、一度整理して、改めて依頼するのは如何だろうか?

 ナーシャ様の奴隷契約の変更もあるし、体力的にも相当疲弊していると考えられるので、先ずはゆっくりお休みを取って戴くのはどうであろうか?


 また、状況を整理している間に、先遣隊から新たなる情報が入るかもしれず、そのた度に依頼内容が変わるのであれば私としてもステラ様に申し訳ない」

「リチャード殿下、その通りですな……」


 ハピカは情報が一度に流入してきて、整理が出来ていない様子。更には、今何をすべきで、どのような支援が必要かも直ぐにまとめることが出来なかった。

 当然、依頼内容が決まっていると思って訪問したギルド長やクレオとしても同様であったので、リチャードの発言は的を射た意見と言えよう。


「では、我々3名は一旦失礼したいと思う。

 もし、クレオさんの手が空くようであれば、ナーシャ様の世話や居室の整備に支援戴けると助かるのだが?」


「はい。クレオには実行要員またはその支援として、即時対応が出来る様に同行して貰った次第です。

 クレオ自身が気になることや、用事が無いようであればナーシャ様の支援をして頂きたい」


「ギルド長、承知しました。リチャード殿下とともに帰宅し、ナーシャ様の支援に当たりたいと思います。もし、私で役に立てる用件がありましたら、マリア様のお屋敷までご連絡いただけますでしょうか」


 クレオは冒険者ギルドの所属であるが、マリア様の依頼を請け、メイドとして仕えるのが今の任務である。その立場からすれば、リチャード殿下に従って行動することは筋が通っているため、誰も反対する者はいなかった。


 こうして、門番と商人と冒険者ギルドでは、溢れた魔物の討伐と封印はエルフ族のナーシャ様によって鎮静化したとの共通認識が出来上がっていた。

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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