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4-21.決着(2)

 ユッカとリサが標高2000mの高台に降りてきたころ、辺りはすっかり暗くなっていた。

 そして、そこには光量が落ちて周回速度が落ちているヒカリと、荒れ果てたゴール地点と、傷ついてボロボロになった飛竜、吹き飛ばされて意識を失った3人の飛竜が居た。


「ユッカお姉ちゃん、何から始めたら良いのですか?」

「傷ついた飛竜さん達の治療。

 私たちが勝手にヒカリお姉ちゃんを止めるのは危険だから、ラナちゃんに聞いてからにしよう」

「分かりました」


 日本の医学を学んでいた転生者を母として持つユッカからすれば、蘇生や欠損以外の傷や出血のダメージであれば回復可能。

 リサも転生前は教会の巫女として回復魔法を使える記憶が残っているのか、ユッカにそれ以上の指示を与えられずとも、自分のやるべきことを理解して、直ぐにユッカとは別の方向に倒れている飛竜族の元へ向かった。


「ユッカお姉ちゃん、こちらに倒れている飛竜さん達は衝撃で吹き飛ばされただけみたいです。多少皮膚に傷がありますが、意識を失っているだけで、呼吸は正常です。大きな出血も見られません」


「わかった~。そうしたら、そっちへ吹き飛ばされた飛竜さん達はそのまま寝かせておいて~。

 こっちに倒れているエルさんは体表面が傷だらけ、全身から凄い汗がでている。魔力切れも起こしているかもしれないから、皆でサポートして治癒してあげないとダメかも」


 二人が傷ついた飛竜族のエルマの各所の治療を行っていると、ようやく、一定の速度まで減速できたのか、ヒカリが格納された人型の鎧がゴール地点の印の上に静かに停止した。

 しかし、ユッカとリサはそのことに気が付かないほど、飛竜族の治療に夢中であるし、他のゴール地点に居る無事なメンバーが居ないので、ヒカリの勝利、ヒカリの無事、ヒカリへのねぎらいといった声を掛けてくれる者はいなかった……。


ーーー


「ユッカとリサ、ヒカリは勝負に勝てたわね?」


 ラナちゃん、ユーフラテスさんに背負われたシオン、エイサンと付き人、そしてステラが到着した。

 距離200kmを1時間も掛からずに飛行して来たのだから、それなりに無茶な速度であったと考えられるが、族長や妖精の長達の能力は一般的な人族の基準に置き換えるのは難しいだろう。


「ええと……。ヒカリお姉ちゃんは勝負に勝てました。けれど、ずっとグルグル周っているので先に飛竜族のエルさんの治療を行っています」


「でも、ヒカリもそろそろ止まっているはずよ。距離と時間を掛けて徐々に減速させる印を施したトンネルを作ったのだから」


「あ、リサちゃん、ヒカリお姉ちゃんが止まってるよ」

「お母様は無事ですか?」


「私が計算したのだから無事で無い訳がないわ」

「ラナちゃん、リサちゃんはお母さんのことが心配なのと、妖精の長の力を知らないだけなの」


「ユッカ、良いわ。

 エイサン、飛竜族との交渉に入りなさい。

 ステラ、ヒカリをあの鎧から出してあげなさい」


「ライト様、僕もおかあさんの所へ行っても良いですか?」

「シオン、ヒカリは無事だけど、貴方の得意な水魔法で、十分に癒してあげると良いわ」


「分かりました。ライト様に感謝します!」


ーーー


 飛竜族の周りでの介抱と、ヒカリの開放が同時並行で行われる。

 飛竜族の方は、勝負をしたエルマが最初に意識を取り戻した。族長とその付き人は未だに寝たままの様子。


 ヒカリの方はステラが各種解除の印を施してから、鎧を外してヒカリを引っ張り出す。密閉されていたためか、かなり汗ばんでいて、髪もしっとりしている。


 念話での会話が継続がされていないところを見ると、ヒカリ単身では、鎧の中から脱出出来ない構造で格納されていて諦めの境地に達しているのか、あるいは本当に意識を失っているのかもしれない。


「ヒカリさん、後は口に咥えて貰ったイカ墨だけですわ」


 ヒカリの反応から察するに、意識を失っているか、あるいは疲労困憊でステラに反応が出来ていない。生身の人間を真空中に放り出して、時速3000kmまで加減速させるのは、体に相当な負担を強いた結果なのであろう……。


「ヒカリさん、お疲れ様。これで普通に口呼吸できるようになったわよ」

「おかあさん、僕も手伝うね」


 シオンはステラによる鎧の解体作業が終わると、ヒカリの口の中の洗浄。癒しの成分が含まれる液体の経口投与。そして体の浄化までを済ませた。


 シオンによる介抱が終わり、やっとヒカリが目を覚ますような反応をみせた。

「ヒカリさん、聞こえるかしら?」

「おかあさん、しっかり!」


 覗き込まれる二人と焦点が合ってきたヒカリは、まだぼんやりとした様子でて言葉を発した。


「これは、危ない……。負けても良いから二度とやらない……」


 誰かと会話をしているよりも、独りごとを無意識に喋っているだけの様に見える。


「ヒカリさん、どこか痛いところはあるのかしら?」

「おかあさん、大丈夫?」


「ああ、ステラ、シオン……。ゴール地点まで来てくれたの?

 ありがとう……。


 ステラ、ラナちゃんの科学技術は計り知れない。

 素晴らしいけれど、人間があの領域に辿りつくことは困難な気がする。

 マネしちゃダメ。

 生きているのはラナちゃんのおかげだよ……」


「私のコーティングで不具合があったりしたのかしら?」

「あ、ああ。ステラ、違うの。ゴールまでは私も耐えてたし、意識もあったの。


 そこからの減速過程で、体へのダメージが大きかったの。

 ラナちゃんの完璧な制御があったからこそ、人体が耐えられる温度と、周囲への衝撃波の発生を最小限にして、真空から大気圧へ戻しつつ、減速制御をしてくれたの。


 その減速させる時間が想像以上に長かったのと、常に遠心力を受けていたから、身体強化に意識を集中して踏ん張っていたけど、最後は意識を持っていかれちゃったみたいだね」


「あ、シオン!

 口の中もスッキリ!

 何か喉の渇きも無いし、汗もスッキリだよ。

 ありがとうね」


「お母さんの助けになれて嬉しいです」


「ヒカリさん、飛竜族の方達も相当なダメージを負っていた様よ。

 ユッカちゃんとリサちゃんが何故無事だったかは、彼女らに直接聞いてみないと分からないわ。


 ラナちゃんとエイサンさんが飛竜族との交易に関する交渉に介入してくれる様だから、意識が回復しているなら、同席しましょう」


「はい」


 と、ステラの問いかけに、気を張って答えるヒカリであった。


ーーー


「エルマ殿、これまで通り念話を皆で共有させて戴くが大丈夫であろうか?」

「あぁ…。大丈夫だ。念話は皆と共有できる」


「立ち合いして頂いた、飛竜族の方達であるが、其方そなたに吹き飛ばされて意識を失っている様だ。

 勝負の決着と、交易の取り決めについて進める必要があるのだが、大丈夫であろうか?」


「その……。私は負けたのであろうか?」

「ゴールを競う勝負において、負けたと言えよう。私が目視で確認した訳では無いが。ヒカリ殿を含めて何名かの立ち合い人が居られる」


「人族はそれだけの力を手に入れていて、更に飛竜族に力を求めるのか?」」

「ヒカリ殿は力を欲している訳ではない。また、人族の力を見せつけるために勝負に挑んだのではない。

 平和裏に交流を進めることと、人族が目立つことを避けるために飛竜族の力を借りたい。そして、人族の産物を代わりに提供しようとしていただけであろう?」


「今なら、その言葉を噛み締めて解釈することが出来る。

 我々の血を活力の源として欲しており、それを隠した上で交渉に臨んでいる訳ではないとな……。


 だが、私には勝負の結果を提供するだけであり、飛竜族と人族の交流や交易について決定する立場にはない。


 族長に決定を委ねる」


「エルマ殿、左様であれば、族長を起こして、こちらに同席して戴く必要があるな」

「ああ、すまないが助力を求む。私自身体がボロボロだ。動けぬ」



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