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4-18.飛竜族との勝負(3)

 一旦念話を打ち切って、エルさんには高台でのゴール地点や飛竜族の審判員の準備を始めて貰うことにした。


 一方で私たちも作戦会議を始めることにしたよ。


「ステラ、コーティングをして欲しいの。あと、出来れば審判もしてくれると嬉しい」

「ヒカリさん、審判は直ぐにでも移動を始めた方が良いのではないかしら?

 コーティングに関しては何か特殊なことがなければ、いつもの非破壊のコーティングで良いかしら?」


「ああ、じゃ、ちょっと注文が増えるコーティングだから、代わりの人にゴール地点に行ってもらおうかな……」


「ヒカリ、私は嫌よ。お願いしないでね」


 と、私がお願いをする前に発言するラナちゃん。

 妖精の立場として、お願を断ることは出来ないのだから、お願いする前にお願いを封じるしかないもんね。余程嫌なのかな?

 でも、なんで審判するのが嫌なんだろ?

 ゴール地点で先に待っててもらうだけなんだし……。


「ラナちゃん、何か不味いことがありますか?」

「ヒカリが壊れるような危険なことをしないか、ここで確認しておくの。父のクロからも頼まれているの」


「そ、そうですか……。そんな危ないことをするつもりは無いのですが……

 でも、安心してもらうために、他の方に向かって貰うことにしますね。


 ユッカちゃん、エルさんと念話で確認しながら、先にゴール地点へ向かって貰ってもいい?」


「おねえちゃん、いいよ~。でも、勝てたら後でその飛び方を教えてね」

「うん。まぁ、普段使うには融通が利かない方法だから、知識としては構わないけど、使うシーンがあるかは、自分で考えてね」


「わかった~。他に一緒に連れて行く人は居ますか?」

「リサとシオンはどうする?ここで待ってるか、それともユッカちゃんに連れて行ってもらう?」


「お母様、私はユッカお姉ちゃんと一緒に行動します。お母様が私の知らない所で変なことをしないか気を付ける必要があります」


「そう……。そんな変なことはしないつもりだけどね。

 シオンはどうする?」


「ユーフラテス様と一緒に行動します。僕は一人で飛べません」

「わかった。ユーフラテス様にお願いしておこうね。もし、バラバラにマリア様のお屋敷まで帰ることになったとしても、連れて行ってもらおう」


「じゃぁ、ユッカちゃんとリサは先にゴール地点に向かってくれる?

 私はラナちゃんとステラにこれからの作戦を説明するから」


「「はい!」」


 と、二人は元気よく返事をしてくれて、暗くなってきた夜空を星と月の位置を目安に飛び始めた。実際の正確な位置は領地マーカーとか飛竜の縄張りの印を使うんだろうけど、そこは二人に任せておこう。


「ラナちゃん、ステラ、お待たせしました。

 私の作戦を説明させて戴きます。


 簡単に言うと、真空のトンネルを作って、その中を飛ぶことを考えています。 真空中には空気抵抗がありませんので、推進力がそのまま減衰することなく加速するエネルギーに用いることができます。

 もちろん、重力による影響はいつも通り相殺しておきます。


 この作戦が成立するためには、身体強化だけでは危険でして、各種コーティングが必要になるので、そこをステラに手伝って貰いたいの」


「ヒカリ、良いわ。続けて」

「ヒカリさん、私もどういったコーティングが必要なのか具体的なイメージを教えて貰えるかしら?」


「では、続けますね。


 空気抵抗が無いということは、当然空気がありません。

 音も伝播しないし、エネルギーも自然の放射以外では逃がす手段が無くなります。


 音に関しては、エーテルを介した念話で通話することで問題はありません。

 熱に関しても、短時間であれば体内の熱が全て奪われることも無いですし、完全密閉状態であっても、熱が籠って熱射病のような状態になることも無いと想定しています。


 次に、大気圧が無くなることの問題です。

 普段、人間は重力による加圧と、大気による加圧の両方の外力を常に受けています。重力に関しては短時間であれば大きな問題になりませんが、大気圧が無くなった場合には、気圧低下による様々な異常が発生します。


 この人体への影響は大きく、各種保護膜が必要になると考えています」


「ヒカリ、続けなさい。説明不足が無い様によ」

「ヒカリさん、何かとても危険なことに感じられますが、大丈夫かしら?」


「まず、鼓膜ね。


 これは耳の中にあって、大気圧との加減で音を伝えたりしているんだけど、大気が無くなると、その機能が膨張によって壊れちゃうんだよ。


 次に、目や粘膜などの水分が露出している場所。

 ここは一瞬にして状態変化して気化して水分が無くなってしまうから、水分が失われないような保護が必要になる。


 そして、最後は体内の細胞や血液などの水分。

 体表面の皮膚が破壊されれば、次々とその組織が破壊の連鎖を引き起こすから、急激な気圧の低下の影響を受けないようにする必要があるね。


 簡単に言えば、体の周りには1気圧の空気の層を残しておいて、その空気の層が真空条件下でも耐えられる必要があるってことになるよ」


「ヒカリさん、なんとなくわかりましたわ。

 でも、真空から保護するコーティングでヒカリさんを包んでしまうと、ヒカリさんはどうやって飛ぶのかしら?」


「うん。

 水分を水蒸気爆発のような形で膨張させて、そこから推進力を得る。

 この水蒸気を噴出させる気体がコーティグンを通り抜けられるようにして欲しいの」


「ヒカリさん、わかりましたわ。少し試すので時間をください」

「うん。お願ね」


「ヒカリ、ステラへの説明はそれで終わりかしら?

 もしそうだとすると、私へのお願いが必要になるはずだけれど?」


「ラナちゃん、加速時のブラックアウトのことでしょうか?」

「そこは、貴方の身体強化で支えるのでしょう?


 血流の維持が出来ないと、加速を得た瞬間に進行方向と逆に血が偏る現象よね。

 ヒカリがブラックアウトというのだから、頭側が先頭方向で、足先に血が偏ることをイメージしているのよね。もし、足先側から飛行するのであれば、レッドアウトをイメージする必要があるわ。


 そうでしょう?」


「はい。レッドアウト、ブラックアウトは身体強化の要領で血流の循環を維持できるように予めエーテルさんにお願いしておこうと思いました」


「そう、それで?」

「と、言いますと……?」


「貴方の作戦の説明は終わりで、ステラへのコーティングのお願いも以上で終わりなのかを確認しているだけよ」


「ええと、真空の空間を維持できるようにエーテルさんにお願いをする必要がありますが、まだゴール地点が決まっていないので、そこへの空間の作成は出来ていません。

 また、その真空のトンネルへの入り方に関しましても、予め隔壁を設けておいて、私が侵入してから、隔壁と真空のトンネルを繋げようと考えていました」

「死ぬわね。中止すべきよ」

「ええ?」


「説明が終りなら、見す見す貴方を殺すわけにはいかないの。中止よ」

「ええと……」


「飛竜族へのルールの説明や、大気が無くなることのステラへの説明がしてあるのだから、ちゃんと考えているのかと思っていたけれど、完全に抜け落ちているわね。


 『勝利の瞬間に死に至る』


 といえば、ヒカリでも判るのかしら?」


「あっ!」

「『あ』じゃないわよ。どうするのかしら?」


「か、考えていませんでした。

 計算が必要です。

 ゴール地点での到達速度と、そこから安全に減速させるための距離と空気抵抗です……」


「空気の壁に衝突してヒカリの体が壊れるか、断熱圧縮による発熱により、ヒカリが火の玉になるのと、どちらが先かしら?」

「は、はい……」


「飛竜族のような鱗がある生物がヒカリと同じ速度領域まで加速出来たとしても、人の体に比べて圧倒的に耐久力が高いわ。


 ヒカリが速く飛ぶ方法を考案出来ても、中身が安全な状態に保てるということには、気が回っていないか、あるいはヒカリの世界の知識を軽んじていたのでは無いかしら?


 空飛ぶ卵は、せいぜい時速100kmぐらい。

 ヒカリがフウマを全力で救ったときでも時速200kmね。

 飛竜族は時速500km。短期間の最大速度はその倍を見積もるとして時速1000km。マッハ1に近くなり、音の壁に近づくわ。ここが生身の飛竜の速度限界として見積もるわよ。


 ヒカリは当然、飛竜の飛行速度を上回る加速と飛行速度を実現できるのだから、軽くマッハ3を超えるわ。


 じゃあ、マッハ3からいきなり空気のある空間に放り出されたら、熱の壁に当たりながら減速をすることになるのよ?

 ヒカリはその世界を生身で体験して無事に帰って来れるのかしら?」


「ああ……。ぐぅ……。」


 だ、ダメだ……。

 科学は知識だけでは成り立たない。

 そこに至る材料や機構が合わさって成立している。

 現代科学の知識をこの場に適用できないなんて、今まで沢山経験していたはず。


 私は何を自惚れていたんだ?

 理論上、加速して最高速度が出せることと、現実的にその速度を制御して安全を保つことは、裏付けとなる技術情報が莫大に違うんだ……。


 これは不味い……。

いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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