4-16.飛竜族との勝負(1)
「ヒカリさん、この食感は楽しいわね。ちんすこう作りの支援にも熱が入るわ」
と、ステラ。
ステラがハーブ以外で料理とかに興味は示すことはあまりないんだけど、私に気を遣ってくれているのかな?
それとも、ステラのハーブを練り込んだバージョンがお気に入りになったのかも……。
まぁ、人手が多いに越したことは無いから、要領の良い人が手伝ってくれるのは助かるよ。
とりあえず、桶一杯分は作っておきたいからね。
夕方も遅く、そろそろ夜になっちゃうぐらいまで皆で作り続けて、桶2杯分は作ったかな?そんな頃になって、エイサンから声が掛かった。
「ヒカリ様、飛竜族のエル殿が目を覚ましました」
「そう……。何か言ってた?」
「『今日は、何でこんなに事故が起こるのか?』と。
それと、ヒカリ様達を探している様子でした。
ですので、ヒカリ様へ報告差し上げた次第です」
「そう……。じゃ、顔見世に行こうか……」
私が桶1つをもって、エルさんの所へ向かおうとすると、手伝ってくれてたみんなが手を止めてついてきた。
エイサンを先頭に、ステラ、ユッカちゃん、リサ、シオン。そして、ラナちゃんやユーフラテスさんまで。
べ、別に、みんなで作ったちんすこうを只で全部あげちゃうわけじゃないからね?話のきっかけ作りぐらいなもので……。
飛竜族のエルさんが寝そべってる所まで来て、顔を合わせつつ、念話を通す。一度名前も紹介し合っているから、接触しなくても念話は通せるね。
<<エルさん、目が覚めましたか?>>
<<ヒカリ殿、今日は日が悪いのか、事故が重なる。済まない……>>
<<エルフ族や人族の話を信用しないから、罰が当たったのかもしれませんね>>
<<主神は運命を直接作用させるような干渉はしない。事故は事故であろう>>
<<そう……。それで、飛竜の血は貰えるのでしょうか?>>
<<話は何処まで進んでいたのだろうか?>>
<<「私が人を隷属させて従わせている」と、エルさんが話をしはじめたら、突然気を失われました。
私はエルさんがお休みに成られている間、クッキーの類似品を大量に焼き上げました。皆が自ら私に力を貸してくれた結果です>>
<<それは、つまり、我々の血と交換できる準備が出来たということであろうか?>>
<<はい。こちらの桶一杯分になります>>
<<ヒカリ殿、質問が有るのだが宜しいだろうか?>>
<<何でしょうか?>>
<<人族が我々の血を飲むことで発現するする効能は、北の大陸の飛竜族からきいたのであろう。
何故、我が寝ておる間に、勝手に採取しなかったのだろうか?黙っていれば、多少の傷は分からなかったであろうし、そのようなクッキーを大量に焼く必要も無かったであろう>.
<<とある人の願いで、エイサンが小麦を入手する必要があります。そして、ここに焼いてあるクッキーの類似品をいつでも作って備える必要があります。
そのためには、高台での小麦栽培が必要だから飛竜族の支援も必要になるでしょう?>>
<<それはヒカリ殿に関係があることであろうか?>>
<<私には直接関係無いけれど、その人達がクッキーを簡単に作れる環境を整える必要があって、その支援をするのは私にとっては当たり前ですね>>
<<つまり、ヒカリ殿より身分の高い者からの指示があったというころであろうか?>>
あぁ?
段々と腹が立ってきたよ?
この人、私の気持ちを全く理解してない……。
身分でいえば、確かにエイサンは族長だし、ラナちゃんも妖精の長だから、私なんかより全然エライと思う。
でも、エルさんの理屈で言えば、エイサンは私の奴隷印が付いているのだから、私が奴隷のいう事を聞く必要はないわけでさ。
どうしようかな……。
どうしてくれよう……。
腕を組んで、ちょっと返事を考え込む……。
「お母様!」
「おねえちゃん!」
「ヒカリ様!」
「ヒカリさん?」
「おかあさん?」
なんか、みんなが心配そうに呼びかけてる。
そっか、全員で通話する念話にしてなかったね。
私が腕組み始めたから、またエルさんを窒息させてしまうか心配になったかな?
「ああ、大丈夫。まだ事故は起こらない。おこらないけれど返事を考えているよ」
「ヒカリは何をやってるの?」
と、疑問を呈するラナちゃん。
いや、何をって言ってもね?
誰のためにクッキー焼いてるかと言われれば、それはラナちゃんやエイサンのためであって、ラナちゃんのクッキーの材料調達をスムーズにするための交渉をしてるっていうか……。
まぁ、ラナちゃんが私と行動しているうちは、私が小麦や代替材料を集めるから困らないと思うけど、私が死んで何十年も経ったら、ラナちゃんが材料の入手に困るでしょ。そういった先の準備をしているんだけども……。
私がいなくなったら、ラナちゃん達は何処に行くんだろう?
少なくとも私の子孫が妖精の長達をないがしろにしないような教育はしてから死んでいきたいと思う。
と、いろいろ考えていると、多方面から同時に念話で割り込まれた。
<<何が問題なのか、伺っても宜しいか?>>
と、エルさん。
他にも、無理やり念話を通して、<<私も会話に混ぜて>>と、ユッカちゃんやリサ達が割り込んでくる。
この、何というか、念話の性が秘匿性がコミュニケーションの邪魔になるっていうね……。
オープンチャットみたいなことが出来ないから、ミーティングルーム作って、そこに全員アクセスさせるような形をとらないと、多方向の念話会話が出来ないっていう……。
まさに、ネットミーティングそのものだよ!
異世界で最先端な会議システムを生で使うことになるとは思っても見なかった。
それはさておき、エルさんの許可をとって、皆で念話を介しているんだけど、普通の会話の様態でコミュニケーションをとることにした。
「エルさん、皆が警戒していますので、皆で念話を共有させて戴きました」
「ああ、既に皆に助けられていることや、交流としての顔合わせも済んでいる認識だ。問題無い」
「それで、先ほどの質問の件ですが……」
「ああ、『ヒカリ殿はクッキーを身分の高い人の命令で作っているのではないか?』と、質問させて戴いた」
「身分というか、種族というか、人族の領域を超えての立場で、私より高い地位の方と一般的には捉えているかと思います。
ですが、私は私の奴隷とか、私より身分が高いかどうかで自分の行動の根拠を決めない様に気を付けております」
「結局はその人物の命令や威厳に媚びている。
あるいは、忖度した行動をヒカリ殿自身が選択しているのではないだろうかと申している」
「もし、その人物がその地位や役目を果たす上で、素晴らしい方であるのであれば、それは忖度では無く、敬意をもって接するべきであると思います。
逆に地位のみに甘んじて、相応しくない行動をとられているのでしたら、それは配下の方から見下されていても仕方ないと考えます。そのような見下した人であるにも拘わらず、敢えて表面上取り繕って行動をしているのでしたら、それは忖度と受け止められても仕方ないかもしれません。
私はその人物が前者であると捉えているので、敬意をもって接しているつもりです。
そうであれば、その方のためにも私自身も、意識を失っている他種族の血液を勝手に採取するような恥ずべき行動をとることは出来ません」
「口では何とでも言える。血液を採取している最中に我が目を覚まして、戦闘に成ったら困るのは其方であるからな」
「エイサン、このエルさんて人は偉いの?」
「ヒカリ様、族長の補佐をされている方になります」
「エイサン、ちゃんとした飛竜族の人と交渉したい」
「ヒカリ様、人族と飛竜族では肉体的な性能が異なるため、対等な立場での交渉を望むのは困難であるかと想像します」
「ステラ、面倒だから北の大陸まで取りに行こうか。2日もあれば往復できるよ。ちょっと運転でドワーフ族の人にも手伝ってもらう必要があるけどさ」
「ヒカリさん、私は構わないわ。けれど、血は手に入っても、ユグドラシルの登頂には、南の大陸の飛竜族と敵対関係にある状態は不味くないかしら?」
「それはちょっと困る。ユグドラシルはどうでも良くなってきてるけど、高台で小麦栽培をしたい」
「でしたら、短気を起こすのは損ですわ」
「エルさん、何をすれば良いのですか?」
「我は、誰のためにクッキーを作ったのかを尋ねただけである」
「貴方達、飛竜族と交流をするためでしょう?」
「『交流せずに、血を採取できたであろう』と、質問しただけであるが?」
「そんなことはしたくないってのが、私の答えです。これで宜しいでしょうか」
「よくは分からないが、クッキーの試食をさせて貰えるのだろうか?」
「どうぞ。リサ、手伝ってあげて」
「はい。お母様」
そもそも、人族なり海人族を介さないとクッキーが手に入らないのだし、保管することも出来なければ、食べることも出来ないだろうに……。
なんでこんなことになっているんだっけ?
リサが桶から子供の手で掴める範囲で両手に盛って、エルさんが口をあけたところへ落とし込む。
エルさんはモシャモシャと味わってから飲み込む。味覚があるのかとか、そういうのは分からないけど、自然では存在しない香りと食感であることは確かだよね。
いつもお読みいただきありがとうございます。
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