4-15.シオンとの対話
「ヒカリ、妖精の加護や妖精の長はどこまで周知できているのかしら?」
と、早速ラナちゃんから突っ込みが入る。
「ここに居るメンバーでしたら、海人族とリサ、シオン以外には緘口令を敷くように、周知してあります」
「ヒカリ、事故なのかしら?」
「事故です」
「ヒカリは、ドリアードのことをいつ知ったのかしら?」
「ドリアン好きのユーフラテス様ですよね?」
「ヒカリが様を付けるのは特殊な場合だけね。
貴方はいつ、ドリアードと気付いたのかしら?」
そ、そりゃ、ラナちゃんが連れて来たその日に気が付いたけど、どう言い逃れをすれば良いのやら……。ステラの態度から間接的に気になったとか?
いや、まぁ、それはステラが可哀想か……。
「ええとですね。
ラナちゃんが連れてこられる人物は、非常に特殊な方達が多いので、『もしや?』とは思っていましたが、先ほどのエイサンの発言から確定した次第です」
「そう……。悪かったわね。
エイサンのせいでもヒカリのせいでも無いわ。私がドリアードを連れまわしたのが悪いのよ。
ヒカリは私に何を願うのかしら?」
こ、これは!
妖精の長と人間達との契約の話だよね!
下手にお願いしちゃうと、それが叶っちゃうっていうね!
素早く、慎重に答えなくては……。
「ライト様達、妖精の長に於かれましては、これまで通りのお付き合い戴けることを望みます。
また、ドリアード様を正式にご紹介戴いた訳ではこざいませんが、お連れして頂いた事に感謝しております。
私の願いは、これで十分です」
「ヒカリらしいわね。ドリアードへのお願いは後で自由にしたら良いわ。
エイサン、ヒカリ達人族の間では妖精の長は、そう簡単に発見できないし、存在を認められない物なのよ。ここに居るメンバーだと、エイサンとステラぐらいしか、妖精の長と人間の区別はつかないでしょうね。
私が悪かったのだけれど、これからは私たちの呼び方をヒカリの呼び方に合わせて欲しいの。そして、妖精の長のことを知らない人に気づかせない様に振る舞って欲しいというのが、ヒカリからのお願いなの。
判って貰えるかしら?」
「ライト……。ラナちゃん、承知しました。
ヒカリ様、私としてこの事態をどうお詫びしたら宜しいのでしょうか?
族長の座を降りるにしましても、会議と儀式を執り行う必要がございまして、少々お時間を戴きたく。
族長の座を降りれれば、その後処刑するにしろ、奴隷として転売戴くにしろ、ご自由にして戴いて構いません」
「いや、あの……。
ラナちゃんのは悪気ない事故だし、私がエイサンにちゃんと周知してないまま、妖精の長達が来られてて、その挨拶をしただけだからさ……。
知らなかったのはうちの子らぐらいだよ。私が言い聞かせるからオッケーってことにしよう?」
「ヒカリ様、承知しました。飛竜族との交易及び、高台での小麦栽培につきましても、全力で対応させて戴きます。
また、人族の間では妖精の長の存在が知られていないことを海人族に周知します」
「うん。エイサンありがとね。、
リサ、シオン、そういうことで、今日の話は秘密だけど守れるかな?」
「お母様、お母様は何者なのですか?
ここにはマリア様が作られた砂糖の工場があり、サトウキビジュースを飲むためにユッカお姉さまの所へ、ラナちゃんと訪問することになったのです。
飛竜族と交渉するためのにジラを獲っていたはずのお母様達がいらっしゃって、挙句、飛竜族、海人族、妖精の長までいらっしゃった訳ですよね?
何がどこまで秘密なのですか?」
「割と全部秘密かな?
砂糖工場は、北の大陸の人族と海人族との独占契約になっているから、サンマール王国の利権が全く入って無いよ。
これは利権が絡むと横槍が入るから、内密に行動していて、南の大陸の人達には知られてないはず。
エスティア王国が海人族と交流があって、各種交易を行っていることもサンマール王国はもちろん、ストレイア帝国には知られてないよ。海人族は海中や海洋資源を供給してくれるから、色々な利権を求めて干渉が始まるから注意しないといけないね。
妖精の長に至っては、加護や妖精の子を貰ってみないと、なかなか信じられないよね。科学分野で私の理解を超える力を発揮できるし、ステラの魔法の印の効能の範囲を遥かに超越している知識と具現化が可能な人達だよ。
そういう人たちと交流があることが知られたら、それらを独占しようとする人たちと戦争になるね。私はそうならないように隠して来たつもりなんだけども」
「いつまで秘密なのですか?」
「同盟関係なり、実効支配できるようになって、対外的に侵略される心配が無くなるまでかな」
「こんな秘密が知られたら、侵略しに来るに決まってます!」
「うん。
侵略しに来る気が無くなるぐらいな圧倒的な差を見せつけるか、友好関係を構築できれば、別にどうってことは無いんだけど、そうなってない現状からすると戦争になるね」
「分かりました。私は大丈夫です。シオンにも説明してあげてください」
「リサ、ありがとうね。
シオン、そういうことで、妖精の長と会っていることは秘密なんだけど良いかな?」
「おかあさん、ユーフラテスさんからはドリアード様の加護の印を貰ったよ。友達の証って言われたけど。これも秘密?」
え?
こう……。なんていうか……。
私は一体何を秘密にしてるんだ?
とりあえず、飛竜族のエルさんが目覚めるまでの時間を利用して、ちんすこうの焼き増しの準備をしつつ、シオンと対話をしないとね。
「ユッカちゃん、リサ、私はシオンとお話があるから、これまでの要領で、ちんすこうを作れるだけ作ってくれるかな?材料が足りなくなったら、そこで打ち止めで良いから」
「「分かりました」」
と、元気よく返事をしてくれる二人。
よし、シオンと会話を進めよう。
「シオン、シオンは何処から来たの?」
「おかあさん、ここは異世界ですか?」
「そっか。やっぱりシオンも転生者なんだね。
ここは日本とは違うけれど、人が生活していくことが出来る環境だよ。
シオンも大きくなったら、自分で自分の道を歩めると良いね。
私はシオンが自立できるまで、親として精いっぱい世話するよ」
「おかあさん、ありがとう。
僕は調味料を作って、広めたいと思います。
ユーフラテスさんとお話したら、『ウンディーネ様とドリアード様の加護の印があれば、香辛料や植物由来の調味料には不自由しないだろう』と、教えてくれました。
僕にはウンディーネ様の加護の印があって、昨日ドリアード様の加護の印を貰いました。
どこまでが秘密なのでしょうか?」
「シオン、これから色々な知識を詰め込むことになるけれど、これだけは知っておいた方が良いの。
『妖精の長に出会ったら、無闇にお願いをしてはいけない』ということ。
これはね?
人が積み上げてきた知識、経験、文明といった事柄を全てひっくり返してしまう可能性があるの。その場限りの自分だけの小さなお願いかもしれないけれど、それが波及してしまう場合があるから。
あとね、『シオンだけが特別にお願いを叶えて貰える存在』という事が判ると、シオンを使って、別の人が妖精にお願いを叶えて貰おうとするかもしれない。
だから、妖精と交流が出来たり、お願を叶えて貰うことが出来ることは隠しておく必要があるの」
「おかあさん、それは比喩であって、『実は悪魔の契約のような、後で多大な見返りを要求される』という事でしょうか?」
シオンは凄いね……。
必ず身に余る幸福には対価が必要って、教えられているんだ……。
ただ、ここは魔法が使える世界だけれど、科学が発達していない世界。
文明は科学と共に進化する。
魔法は科学に基づいた知識が無い場合、それを体系化する知識も積み上がらない。
だから、魔法が使える人、あるいは妖精と交流できる人とは大きな隔たりが生まれてしまう。
この辺りの感覚を理解して貰った上で、妖精達とのつき合いをして貰わないといけないんだけども……。
「おかあさん?」
「ああ。ええとね?
シオンが日本のどの時代から来たのか、私には判らないけれど、少なくともスマホを知っている時代から来たんだよね。
科学によって、人類は多くの願いを叶えて来たけれど、無闇な科学の駆使によって、地球は取り返しの付かないことになり始めている。
妖精の長へのお願いもそれぐらい大きな意味を持つという事を感じて貰えたら良いかな?」
「僕は、そんなお願いをしたくない。調味料を作って売るだけで良いです」
「うん。
そのシオンのお願いを叶えてくれるのが妖精さん達なんだよ。
お願いの仕方を良く理解できるまでは、おかあさんと一緒が良いかも?」
「分かりました。おかあさん以外の人の前ではお願いをしません。
お願いが出来ることも言いません。
これは、おばあちゃんや、おとうさんにも秘密ですか?」
「もうちょっとの間、秘密にしておく方が良いかな?
でも、みんなの命に危険があるときはお願して良いよ。
少なくとも、南の大陸にいるうちに、直接妖精の長の力が示されて、それが私たちの力と関係無いと分かるまでは秘密。
そうすれば、『誰が妖精の長にお願いが出来るか?』分からないでしょ?
そうしたら、私たち家族が攫われたり、殺されたりすることは無いと思うよ」
「僕にはおばあちゃんやお父さんを守る力はありません。
それを妖精の長達に願うことは危険ですか?」
「おかあさんにも、守れるものと守れないものがあるよ。
だから、敵を作らない様に行動したいと思っているよ。
何を敵とするか次第だけど、敵が居なければ守必要も減るでしょ?」
「わかりました。僕が色々なことを理解できたら、また一緒に考えてください」
「うん。頑張って、調味料を作って、売れるようになろうね」
「はい!」
と、まぁ、子供だましというつもりは無いけれど、異世界人がここの妖精さん達とのお約束を簡単に説明したつもり。
元々分別のある、そして良識的な人だったんじゃないかと思うのだけれど、子供という殻を被ってこちらを騙している危険性もあるから丁寧に接していきたいね。
よし、皆に合流して、飛竜族の人でも満足できるぐらい沢山のちんすこうを焼き上げよう。
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