1-02.生まれた_シオンの場合
意識が何かとか、自我がなんとか、かんとか。
良くわからない。
苦しさ、眩しさ、驚きに泣いた。
隣で泣いてる声もする。
覗き込まれたのか?
隣の泣き声とは別の声が聞こえる。
生まれる?生まれた?
何で考えることが出来るんだ?
複雑な知識を紡ぐことはできない。
怖いから泣く。
皆に囲まれている安心感から泣くのを止める。
寝よう。
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お腹が空いたから泣く。
喋る方法が判らない。
歯も無く、舌も上手く動かない。
泣くことで、何かして欲しいとお願いする。
誰か来た。
やさしく背中に手が入った。
抱きかかえられて、びろんとした哺乳瓶の先のようなものに口を付ける。
何だか生暖かい。
ああ、母乳なのか……。
この人が女性で背中に伝わる手のひらの感触から、今の自分は小さい。
なんで、こんなことが判るんだ?
自分は本当に生まれたての赤ん坊なのか……?
寝よう。
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泣く。
好き勝手に泣く。
お腹が空いたら泣く。
怖い夢を見たら泣く。
暑かったら泣く。
寒かったら泣く。
眠かったら泣く。
目が覚めたら泣く。
暗かったら泣く。
誰も居なかったら泣く。
見知らぬ人が居たら泣く。
おっぱいをくれる人が来てくれる。
いつでも。
安心して寝られる。
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暇なので、寝返りを打つ。
掴んだり、立ったりできないけれど、転がることはできるようになった。
隣にいつも寝ている子にアタックだ。
はは。簡単に泣いた。
この子は誰だ?
暇だからアタックして泣かせて遊ぶことにしょう。
そんなことを繰り返していたら、
隣の子と別のベッドに寝かされることになった。
不貞寝しよう。
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おっぱいの人は僕を散歩に連れて行ってくれるようになった。
いつも虐めて楽しんでいる子と一緒だ。
ということは、この子は双子のお姉ちゃんか妹。
おっぱいの人と並んで歩いている男の人がいる。
その人が僕を抱っこした。
「お父さんだよ」
と、話しかけられた。
話しかけてきた男性の方を見て、にっこりとほほ笑んだ。
その男性は何やら、おっぱいの人に喜んで自慢してるらしい。
今日はぐっすり眠れそうだ。
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歯ぐきが痒い。ムズムズする。
泣いて出てくるのはおっぱい。
何かでこのムズムズをどうにかしたい。
わかった!
おっぱいを噛めばいい。
おっぱいの人が来た。
噛むことに成功した。
歯ぐきのムズムズは収まったが、
頬を引っ叩かれて、噛むのを止められた。
おっぱいの人が何か喋ってるけれど、良くわからない。
あれ?この人の言葉が判らない?
言葉って、なんだっけ?
次から叩かれない程度に噛もう。
翌日同じことをして、また叩かれた。
寝ても忘れない様になるのはいつからだろう……。