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4-10.飛竜族の訪問(1)

 マリア様とリチャードにエイサンの所に寄って、遅くなることを念話で連絡しておいた。まだ、飛竜族と会って無いから、作戦が順調かどうかは言って無い……。

 一方、エイサンからは、「飛竜族が到着するまでお待ちください」ってことで、ユッカちゃんとステラと3人で建物の中でお茶を飲んで待つことにした。


 ちなみに、出てきた飲み物がサトウキビジュース。

 ほら、ここはサトウキビから砂糖に加工する工場だからサトウキビが潤沢にあるのね。そのサトウキビの絞汁がそのままジュースになるっていう話。そこにちょっと柑橘系の果物の汁を絞って入れると、砂糖の甘さが引き立って、スッキリ感の増した味と風味になる。

 砂糖の甘さ、サトウキビの緑の清涼感、そして柑橘系の香りと酸っぱさのハーモニー。沖縄とか南国の露店でも飲むことが出来るよね。


 そんな素敵なジュースを戴きながら雑談を始めたよ。


「ヒカリ様、こちらの大陸に滞在を始めてどれくらい経つのでしょうか?」

「2週間くらいかな?

 観光迷宮を2ヶ所攻略して、魔族に占有されている教会から遺体を回収してきたり。

 後は、人族の市場で食べ歩きしたりてたかな?

 あ、ユッカちゃんの誕生会もしたよ」


「ヒカリ様が人族のサンマール王国の王都に拠点を設けられていると仮定しますと、有名な上級観光迷宮まで片道1週間掛かかるかと思われます。

 また、魔族が制圧した有名な教会がある村も、王都から片道1週間掛かります。

 ヒカリ様のお話は、普通の人と全くかみ合わないのは相変わらずですね」


「相変わらずってほど、エイサンと一緒に冒険してないよね?」

「人族の殆んどが飛空術を行使できませんし、念話を使えるのは寡聞にして聞きません。

 更には、大型の船を浮き上がらせて、高さ500mの孤島に引き上げるなんて、吟遊詩人のサーガでも聞いたことがありません。

 それらを乗り越えた上での、我々を助けて頂いた恩人がヒカリ様なのです」


「そう言われると、確かに頑張ったかも?」


「ええ。ですので、一族総出で歓待させて戴きますし、何であろうとヒカリ様のご所望の物は手に入れる覚悟でございます。


 ただ……。余りにもヒカリ様には予想外な行動が多く……」


「うん?」

「これまでの恩に加えて、今回の墨のお礼をどうやって返礼させて戴いたら良い物かと……」


「え?飛竜族の紹介をしてくれるんでしょ?それで十分だよ。


 あと、これまでの海人族と人族と交流では色々な海産物加工場の立ち上げと運営で手伝って貰ってるし。


 そうそう。ステラの旦那様達と船の救助も手伝って貰ったしね」


「そうですか……。

 ステラ様、ユッカ様はヒカリ様に代わって、何かご所望な物はございませんか?海で採取出来る物でしたら大概は調達できると自負しております」


「私は特にございませんわ。強いて言うのでしたら、先ほど回収されたスミとやらが、どういった効能があるかを、お伺いしたいですわ」

「エイサンさん、砂糖とサトウキビジュースが好きです。きっと、ラナちゃんも好きです」


「ええと、先ずユッカ様の件ですが、

 砂糖は人族との交易で供給させて戴いておりますが、今日は工場にある分だけ、好きなだけお持ち帰りください。サトウキビジュースと作るのに適したサトウキビの茎も、持てるだけお持ち帰りください。


 次にステラ様のご質問ですが……。

 体表面の保護のクリームですとか、建物の水の侵入防止に使えたりします。医薬成分の効果に関しては、我々は研究を行っておりませんので判りません。もし、ご入用でしたら、今回回収出来た半分をお持ち戴いても結構です」


「ヒカリさん、貰っても構わないのかしら?」

「う~ん。ステラが欲しいなら、必要な量だけ貰ってもいいんじゃない?

 あのピンクのクジラを探せば、また海神様に会えるんでしょ?会話が出来ないかもしれないけど、墨は吐いて貰えるよ」


「ヒカリさんは、あの墨をまた体に受ける気があるのですか?」

「体に害が無くて貴重な物で、代替品が無いなら、そうやって回収するしかないでしょ?


 でも、多分だけど、海人族にとって非常に有効な作用を持っている気がするよ。親水性があって、体表面の保護に使えるって言うのは、海人族が陸上で生活するときの体表面の水分保持の為だと思う。


 ステラのコーティングした服と水の印を組み合わせたら、常に湿度を保った海人族専用の衣服が作れるんじゃないかな?作り方さえわかれば、エルフ族と海人族の交流も盛んになるだろうし、スチュワートさんも海人族へ恩を返せると思うよ」


「エイサン様、スミの利用方法とは、今のヒカリさんの説明のような使われ方なのでしょうか」

「は、はい……。


 私や私の付き人達は各種魔法で体表面を保護しておりますが、魔力が弱い者達は、常に服を湿らせておく必要があり、こういった工場での作業に関しましても、海辺で潤沢な水のあるところに限られるのです。


 ところが、こちらの海神様の墨を各所に塗布すると、数日間はそのまま陸上で生活が可能になります。また、海中の建物でも、水の侵入を防ぎたい場所に塗布しておくことで、墨の膜で囲われたエリアは書物などの保管が可能になるのです」


 そういわれると、そうだねぇ~。

 海人族の人達も大変だ。


 我々が海中で暮らすことを考えたら、浸透圧の作用で皮膚なんかふやけてボロボロになる。3日間とか水に浸かって居たら皮膚が壊れるんじゃないかな?

 巨大な水球で10日間生活するパフォーマンスに挑戦したマジシャンが、皮膚の崩壊に難儀したとか、そういう話があったね。ワセリン塗ってバンテージ巻いてもどんどん皮膚が壊れて行くとか、何とか……。


 今回はその逆の保湿効果だから、ステラの役には立たないけど、ステラの考案した物が海人族の役に立つことはありそう……。


「ヒカリさんはどう思われますか?」

「うん?墨のこと?それとも湿潤性を保った服のこと?」


「どちらもですわ」

「ステラが気になるとしたら、服用したときの効果だろうけど、それは私にも分からない。単なる墨と保湿成分だけだとしたら、消化もされずに排泄されるだろうから、海人族に有効活用して貰った方が良いかもね。


 ステラが片手間で常時発動型の湿潤服を作れるなら、作ってあげたら?」


「わかりましたわ。


 エイサン様、今回はスミから私たちを救出して戴きありがとうございます。

 お礼に今度湿潤効果のある服を試作させて戴きますので、そのときに試着して頂いて、効果を確認して戴けますでしょうか」


「す、ステラ様、そのような……」

「スチュワートを助けて戴いたお礼も未だでしたし、私の挑戦意欲もあります。そして、ヒカリさんのご命令でもありますわ」


「ヒカリ様、私はそのようなつもりで説明した訳では無く……」

「う~ん。ステラが作ってくれるなら試してみてよ。種族間の交流が出来て仲良くなるのは良いことじゃないかな?」


「しょ、承知しました……。

 あ、飛竜族の方が到着されるようです。広場へ出て待ちましょう」


 うん。

 何が何やら進んでないけど、ジュース飲んでたら飛竜族と面談できそうだよ?

 これって、ある意味ショートカットってやつ?


ーーー


 みんなでゾロゾロと建物の外にでて待つ。

 そういえば、連れてこられたときは墨を被ってるし、麻袋を被ってたから工場の様子とかしらなかったんだよね。


 面積としては小学校ぐらい?そこに何個かの平屋の建物が並んでる感じ。サトウキビ自体は何処で栽培しているのか良くわからないけど、収穫した草みたいのが各所に積み上がってる。


 あとは、煮詰めるために使うのか、たきぎ東屋あずまやみたいな風通しの良い小屋のような下に積み上がっていたり、食料庫らしき倉庫があったりと、結構な規模な施設になっていることがわかった。


 これだけの工場を運営しているとなると、直ぐに何人も飛んで駆けつけてくれたのは分かるかも。


 それにしても、サトウキビ畑とは別に、この規模の工場を半年も掛けずに作り上げちゃうってのは、マリア様といい、エイサンといい、経営の能力が卓越しているんだろうね。私みたいな台所でちょっとお試しで料理や試作品を作っているのとは規模が違うから、いろいろと大変なことだと思う。


  そんな感想を抱きながら、馬車のロータリーのような広場で待っていると、上空から飛竜族が一人空から降りてきた。

 舞い降りるなんて優雅な感じじゃなくて、無音で垂直着陸。そこに物体はあるのに、気配を感じさせない静かな登場。

 これって、周囲の住人や工場で働いている人への配慮なのかな?そうだとしたら、とっても気遣いが出来る良い人なんじゃない?


 エイサンへ向かって、小さく人鳴きすると、片足をエイサンの方へ寄せる。そしてエイサンは頷いて、飛竜さんの片足を掴んで何やら会話を始める。接触していた方が念話が通りやすいのと、異種族が接触していることで、「念話中です」って、周囲へ暗黙の了解として知らせる効果もあるかもしれない。


 ちょっとの間、二人の会話が終わるまで私たちは待機してた。念話が静かな会話であるものの、特にエイサンの表情や飛竜さんから、緊張した雰囲気や嫌悪を示すようなそぶりは伝わってこない。

 この分だと、普通に紹介されて、問題が無ければ血を分けて貰えるかな?


「ヒカリ様、こちらの飛竜族の方を紹介させて戴きたいのですが、宜しいでしょうか」


「はい。というか、今までは何の会話をしていたいの?」


「ヒカリ様の名前を出さずに、とある人族の話をしていました。その方への恩を報いる必要が有るので、今回飛竜族の方にお越し頂いた事を説明しました」


「随分、丁寧っていうか、律儀というか、慎重というか……」


「人間が念話を使えるという話は、聞いたことが無いと言っていました。相当警戒されています。当然、飛竜族が念話を使えることも知られていないので、お互い念話で会話を成立できるとなると、相応な慎重さが必要になります」


「私が名乗ると、警戒は無くなるの?」

「さぁ……」


「それって、条件が一方的過ぎるよね。私だって同時に相手の名前を知って良いはずでしょ?

 此方だけが名前を教えることで、他の人間たちへの所在を知らせたり、通報されて不利になるかもしれない」


「少々お待ちください……」


 またエイサンと飛竜族で会話が始まった。

 今度は先ほどより長く無かったね。


「ヒカリ様、『助けを借りたいのはそちらの人族であって、信用に値するかどうかを確認するのはこちらの仕事。それが嫌なら面談は終わり』とのことです。

 如何致しましょうか?」


「飛竜族の加護とか、妖精の加護とかを身に付けているけれど、そういったたぐいの人間が信用されるあかしには成らないか、聞いて貰える?」

「お待ちください……」


 3度目の念話を交わしている間に、今度はステラから質問が来る。


「ヒカリさん、名前を教えるぐらい簡単でしょう?ヒカリさんらしくなく慎重ですわね」

「う~ん。

 これまでの飛竜族と人族の関係が酷かったから、信用されないのは分かる。もし過去の敬意を精算してくれて、改めて人族と友好的な対話を進めようとしているなら、エイサンを通して、自分の名前を私に明かしてくれたはずだけれど、それが無かった。


 これって、人族同士や人間達を混乱させるために、私の名前を一方的に利用することまでを警戒しておかないと不味いと思う」


「私の名前を出してはどうかしら?エルフ族と飛竜族とはそれほど険悪な仲では無いと思いますわ」

「エルフ族と海人族が親密な関係があって、その上で飛竜族と交渉できる事案があれば良いと思うよ」


「残念ながら、エルフ族と海人族でそこまでの種族間の交わりは無いですね……。それどころか、先日スチュワート達を救って戴いた恩を返すことすら出来ていませんわ」


「じゃぁ、どうしよっかな……。このままだと進展しない気がするよ……」

「困りましたわね……」



 う~ん。

 折角、飛竜さんの方から私たちの所へ訪ねてきてくれたのに、その先が進められないのは不味い。

 これって、私たちが飛竜族を訪問できたとしても上手く進まなかったってことだよね……。


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