4-09.訪問の準備(2)
目が潰されようが、三半規管を封じられようが、GPSとビーコンって考え方があって、ナビによる計算サポートがあれば、迷うことは無い。
無言なユッカちゃんとステラと手を繋いで、フヨフヨと頼りなく飛んでいく。黒いスライムみたいな墨が体に纏わりついたままだけどね。
と、真っ黒な物体の3人組で飛行していると、エーテルによる索敵範囲にエイサンと部下と思われる飛行部隊が接近してきた。エイサン入れて7つかな?
「ヒカリさん、お迎えに上がりました。こちらの袋にお入りください」
って、麻袋の内張をして、水漏れが無い様な袋に顔だけ出して包まれれる。ユッカちゃんも、ステラも同じようにされてるみたい。
「ヒカリさん、首から上の墨を採取しても宜しいでしょうか?」
「なんでもいいから、早く取って。ユッカちゃんとステラも困ってるから」
目を瞑って、口で息をしながら少し鼻声で、なんとかして貰うように要請する。
「ヒカリさん、出来れば、地上でじっくりと回収したいのですが……。空中ですと、飛び散ってしまい、回収ができなくなります……。」
「もう、なんでもいいよ!どうにかして!」
「承知しました。
おい!袋で包み込んたら、丁重に素早く工場へ運べ。工場に待機している部隊と合流したら、直ぐに墨の回収!
分かったな!」
いや、エイサン……。
頭にまで袋を被せるってどうよ?身体強化で呼吸は継続できるからいいけど……。
私たち3人に対して、二人掛かりの合計6人も飛空術使える部隊が居るってどうよ?ひょっとして、海人族は陸海空の全てで戦闘出来るってことなんじゃないの?
と、そんなことを考えていると、体感で10分も経たずに地上に着陸した。優秀な海人族の人達は飛空術での航行速度も抜群だったみたい。
工場に到着すると、何か医療施設のような薬剤師のような恰好をした人が集団でいる場所に運ばれる。
これって、実は体にへばりついてる墨が劇毒物で隔離措置をされたり、緊急治療が必要な物だったりしないの?
3人が別々に寝かされて、袋を取り外さずに、切り裂く形で開ける。
確かに、そうした方が、袋の隙間から地面に零れ落ちないからね。
袋を切り裂いてから、顔の表面とか、体表面に付着している墨を木のヘラのようなものでこそぎ落とす。肌がヒリヒリするぐらいに、体の表面を削って行くよ?これって、かなり強引なんじゃない?
「ヒカリさん、服を回収しても宜しいでしょうか?」
「洗ってくれるっていうこと?」
「いいえ、服の繊維に入り込んだ成分を回収しますので、服の形は残らなくなります」
「ええ?」
「着替えは此方で用意します。また、同等以上の新品を後日献上させて戴きます」
「わ、私は自前の狩人の服だからいいけど、ユッカちゃんとステラの服は貴重品かもしれないから、ちゃんと確認してくれる?」
「お姉ちゃん、この服は洗っても着れないと思う。エイサンさんに上げて良いよ」
「ヒカリさん、クジラを狩りに行くとのことでしたので、正装では無く、狩り用の服装でしたので、私の服も差し上げることが出来ますわ」
「エイサン、そういうことで、服も回収してもらっても良いよ~」
「皆様もご協力に感謝します」
で、服を剥がれて、回収されて、また、露出した肌の部分を容赦なくゴシゴシとこそぎ落とされる。
ちなみに、不思議なカバンは3人ともステラのコーティングで保護がしてあったから、カバンの表面の墨をヘラでこそぎ落とすことで、凡その外観は取り戻したし、カバンを解体して墨を回収したいっていう話にはならななかったよ。
けれども、この墨がとても貴重なものらしく、更に追加で要望が……。
「ヒカリさん、髪の毛は戴けますか?」
「はぁ?無理無理!嫌だよ!」
この人は女性に向かって何を言ってるのかな……。
「髪の毛は後日生えてきますよね?」
「それまでどうするつもりなのさ!」
「帽子を被られるとか。あるいは偽髪を束ねて着用されては如何でしょうか?」
うは~。
なんか、価値観の違いっていうか……。
でも、ここは譲れないよ!
「わ、私は嫌だよ。ピュアで除去した成分を集めて協力はするよ……」
「ステラ様、ユッカ様はどうでしょうか?」
二人とも無言で首を横に振る。
そりゃ、そうだよね……。
そもそも、この墨が貴重かどうかも判らないんだし、そこに何年掛かるか分からないぐらい、髪が伸びるのを待つしか無いって言うのはさ……。
「そうですか……。仕方ありませんね……
出来れば、髪の毛の中を回収させて戴いても宜しいですか?」
「ああ、ちょっとピュアに制限かけて回収してみるからちょっと待ってて」
いつものピュアと違って、髪の毛表面に意識を集中させる。
そして、キューティクルの保護をギリギリに保ちつつ、墨の成分を除去して、さらにその除去成分を集約させるようにイメージをしっかりと持つ。
「頭髪洗浄用のピュア!」
なんか、モゾモゾと髪の毛が動くよ?
これって、エーテルの作用とイカの墨が喧嘩してる?
それかネバネバ過ぎて、ピュアが上手く動作しないとか?
ま、まぁ、時間は掛かるけど、でろって感じで、黒いスライムみたいのが幕を張られた麻袋の上に垂れ始める。
そのまま数分t待機すると、髪の毛からも墨はとれて、スッキリしたよ。
「エイサン、取れた」
「ヒカリ様、まだまだ黒い成分が髪の毛に残っておりますが……」
「これは地毛の色だよ!これ以上削いだら、髪の毛がバサバサに成っちゃうからダメ~~!」
「そうですか……。それは残念です……」
その反応は、私の事を信用してないね?
ユッカちゃんとステラにも同じ様に頭髪洗浄用のピュアを私がしてあげて、黒いスライムが垂れて、夫々の栗毛と緑の地毛が現れたことを確認する。
「ほら!エイサン!二人ともちゃんと地毛が見えてる!だから私も同じ様に地毛なんだよ!」
「承知しました。では、また海神と勝負される機会がありましたら、お声がけください」
って、海神?
妖精とか、そういうじゃないの?
「エイサン、海神ってなに?」
「ヒカリ様が喧嘩を売られた相手です」
「いやいや、クジラを横取りしてきたのはイカだよ。ちょっと大きくて強いけど」
「我々は、その大きなイカを海神と呼んでおります。飛竜族の方達も一目を置いていますね。彼らの神様とは異なるでしょうけれど」
「妖精とかじゃないの?念話は通じないの?」
「貴重な海産物の恵みを齎してくれる御方です。ヒカリ様が女神様と呼ばれるがごとく、私どもはあの生物を海神と呼んでおります」
「いや、そうじゃなくて……。ウンディーネとかみたいに、念話で会話は出来ないの?」
「恐れ多くて、触れた者はございません。まして、彼の方が保護されているクジラを捕獲される人物は初耳でございます」
「北の大陸ではクジラを捕獲してたし、飛竜族も狩猟の対象としてたよ?」
「ヒカリ様達が捕らえたのは、ピンク色のクジラではございませんでしたか?」
「えっ……」
「おねえちゃん、肌色みたいなピンク色だったよ」
「フラミンゴに近い桃色でしたわ」
水中のクジラの色とか気にしてないよ!
ちょっとはジンベイザメみたいな茶色味が掛かってて、黒っぽくないかなとはおもっていたけど、それって光と水の色の加減でどうとでもなるじゃん?
それに多少色が違ってても、食べちゃうんだから、どうでも良くない?
「エイサン、なんか、肌色みたいな、オレンジみたいなピンクだったみたい。私は気にしてなかったけど」
「海神様の愛護対象です。無事に生還されて何よりです」
「いや、全然無事じゃないけどね。あの墨は粘性があって、目も耳も塞ぐから方向感覚とか平衡感覚を失って、墜落するよ」
「ええ。
愛護対象のクジラを捕獲しようとした飛竜族がヒカリ様と同じ状態になり、海へ墜落したそうです。
ですが、この墨は親水効果と空気の供給能力があるようで、着水して海中に引き込まれ、海中で藻掻いたそうです。
その後、海水により長時間掛けて墨が洗われると溺れながらも浮上して、墜落した飛竜は窮地を脱することができたそうです。
それ以降、飛竜族はクジラを捕獲しないように一族に伝えているそうです」
「じゃあ、北の大陸の飛竜族と南の大陸の飛竜族ではあまり交流が無いのかな?」
「その辺りの事情はよくわかりませんが、ユグドラシルの樹の周辺に巣を設けている飛竜族の間では、『クジラには手を出すな』と、普通に伝承があるようでした」
「エイサン、こっちの飛竜族と交流があるの?」
「ええ、ございます」
「お土産にクジラを持っていこうとしたんだけど、反って不味かった?」
「嫌味にしか思われ無いでしょう。場合によってはクジラを海に返すと同時に、ヒカリ様達を海神への生贄として捧げられたかもしれません」
「そういうことは、早く言ってくれないと……」
「ヒカリ様?」
「うん?」
「何か、飛竜族の方達にお願いしたいことがあるのでしょうか?
あの崖の麓に住む人間たちは飛竜族の卵を狙うため、崖に近づくだけで飛竜族から攻撃されますが……」
「早く言ってよ!」
「そもそも、ヒカリ様の義理のお母さまでいらっしゃるマリア様が南の大陸に来られていることは存じ上げておりましたが、ヒカリ様達も来られているのは先ほど念話を戴いて初めて知りました。
早く言って戴ければ、我々も各種歓待の準備が出来たのですが……」
「ごめん……。じゃぁ、墨をお土産ってことで……」
「いやいや。海神様の墨がお土産なんて、とんでもございません。正式に交易の対象とさせて戴きます。
金貨でお支払いできるものでは無いので、何か代わりの物を差し上げられると良いのですが……」
「飛竜族の血を分けて貰いたいから、飛竜族の人に面談の予約を入れて欲しいかな?」
「飛竜族の血が必要な理由は、敢えてお伺い致しませんが、私が仲介させて戴くことは可能です。いつ、何処でお会いになりますか?」
「そんなに簡単な話なの?」
「先ほども申し上げた通り交流がございます。尚、彼らとは言語ではなく、念話でコミュニケーションをとっておりますので、いつでも連絡が取れます」
「早く言ってよ!」
「ですから、ヒカリ様が到着したことをご連絡頂けていたならば、我々もお迎えに上がったのですが……」
と、早速念話で南の大陸に住む飛竜族の知り合いに連絡を取ってくれることになったよ……。
じゃぁ、私もマリア様やリチャードに連絡しておこうかな……。
抜けてました。すみません。