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4-08.訪問の準備(1)

 誕生会の翌日、飛竜族を訪問するための手土産の準備ということで、みんなでクジラを獲りに行くことになった。


 行くメンバーは、ユッカちゃん、私、ステラの3人ね。そもそもクジラを獲って食べているのを知ってるのは、私とユッカちゃんとステラぐらい。北の大陸の飛竜さん達とか、妖精の長達はともかくとしてね。

 他のみんなはクジラがどれくらい大きいかも分からないし、どうやって狩りをしているかも分からない。肉に切り分けられて、それを調理場まで運ぶくらいは知っているかも知れないけれど。

 やっぱり、飛空術と重力遮断の両方を使えるのは大きいのだと思う。


 クレオさんには、相変わらず冒険者ギルドでのアリバイ作り、リチャードは魔物が溢れた上級迷宮の派遣隊に関する調整役とか、子供たちの世話というか、訓練なんかを分担してもらうことにした。


 捕獲の準備としては、捕らえたクジラを運んでくるために、丈夫で長いロープをカバンにいれておくぐらい。

 目視じゃなくて、エーテルで検知すれば、生物としてのクジラは簡単に見つかるはずで、日帰りで帰って来れるだと、皆に言っておいたよ。


ーーー


 そしていつも通り、光学迷彩を掛けて3人で仲良く飛ぶ。

 飛び始めて1時間も掛からずに、クジラと思われる、10mぐらいの大きさのエーテルの動きを捉えた。


 うん、イージーモードだね。こっからは、クジラを眠らせて、凍らせて、ロープを掛けてから光学迷彩を掛けて運ぶだけ。半日も掛からないでお土産がゲットできそう。

 とすると、今日中に飛竜に会いに行けるんじゃないかな?


 ユッカちゃんが眠らせて、ステラが凍らせて、私が重力遮断で軽くする。その後は3人で縄掛けをしはじめたんだけど……。


<<お姉ちゃん、なんかくる!>>


 ユッカちゃんが一番最初に異変に気付いた。

 私も慌てて索敵を開始すると、確かに捕獲したクジラの2倍はありそうな大きさの何かが近づいてくる。それも水中で結構な速度が出てるよ。遭遇して戦闘になったら水中では不利になると直感で判る。


<<みんな!一旦浮上。縄掛けの縄の一部だけ持って、水上へ!>>

<<ハイ!>>

 

 まぁ、こっちはクジラ1頭をゲット出来てるのだから、縄掛けは水上なり、空中で作業すれば良いわけで。

 無用な戦闘は避けて、とっとと離脱しよ~っと。


 ところが……。

 相手は、クジラを捕まえて、引っ張り出す。


 はぁ~?

 獲物の横取り?

 ってか、ダイオウイカみたいのが私たちのクジラを捕まえてるじゃん!

 あれを相手にするのはしんどいよ?

 

「ステラ、ユッカちゃん、あれを眠らせられる?放っておくと、クジラを持っていかれるか、ロープをちぎられる」


「ヒカリさん、あの物体に人間と同じ睡眠魔法が効くと思いますか?」

「お姉ちゃん、タコの頭は胴体の中じゃないんでしょ?だったら眠らせるための作用を何処に集中していいのか分からないでしょ?」


 と、二人が真面目に答えを返してくれる。

 まぁ、言われてみればそうなんだけどさ。

 陸上の哺乳類が狩猟の対象だったもんだから、あんな大型で水中で進化した生物の処置方法が陸上と同じな訳が無いよね……。


「じゃぁ、戦って倒すの?」

「お姉ちゃん、タコの親分だね!お姉ちゃんの出番!」

「ヒカリさん、エルフ族は水中での戦い方を知りませんわ」


 私がやるのか……。

 どうしよっかな……。

 じっくり考えていると、どんどん深海に引き込まれちゃうよね……。


 どうしよっかな……。

 ああ、凍らせて重力遮断して持ち上げればいっか。

 よし、そうしよう!


 でね?

 凍らすより速く融けるの。

 こっちだって、昔より身体強化を学んだり、飛竜の血を飲んだりして、そこそこな魔物や動物とは渡り合えると思ってる。

 でも、魔力というか、エーテルの処理速度で負けてる。

 負けてるからこそ、凍らせる反応よりも融解の方が速くて、効果が現れない。


 これは、不味くない?

 っていうか、この感覚は前にもあったね……。


 そうそう!

 クロ先生を束縛する鎖を融かそうとしたとき、『魔力切れになるから止めて』って、ナビからアラームが上がったんだっけ。


「ヒカリさん、クジラの氷が融けます!」

「お姉ちゃん、クジラの睡眠が効かない!」


 ええ~~!

 解除されてる!?

 ユッカちゃんやステラが突破されてるのは明らかに不味い!


「解除!放置!逃げて!」


 3人でロープを手放して、さらに上空へと離脱。

 100mぐらい上がったかなクジラが豆粒ぐらい小さくなってる。


 そして、クラーケンだかダイオウイカがクジラを食べずに可愛がってる?こう、愛でてるとでも言うか、ヨシヨシって感じで宥めてる感じ。

 そして半身をずらして、こっちを見上げて来た!


 こ、攻撃される?


<<ナビ、何アレ!>>

<<ピ~~>>


 久しぶりにアクセスレベル制限がかかった~~。

 ドラゴンや飛竜以来だよ!

 ってことは、あれは相当不味い奴な訳ね。


 こういうときは……。


<<エイサン!イカにクジラ盗られた。強い!なにあれ!>>

<<ヒカリ様、お久しぶりです。イカですか?大型のイカですと、クジラを捕食するタイプもいますね。喧嘩をしないで戴けると有難いです>>


<<魔法を解除された!私の魔力じゃ抑えきれない!上空に逃げたけど睨まれてる!>>

<<ヒカリさん、確か船を浮かせられましたよね。クジラを海上に上げれば良かったのでは?>>


<<違う違う!私たちが先に捕まえたクジラをイカに捕まえられたから、ロープで引き上げようとしたら、邪魔されているの!

 それで、横取りしてきた巨大なイカがクジラを食べるのかと思って見ていたら、何かクジラを可愛がってて、保護してるよ!>>

<<ヒカリ様……。出来ればその領域を離脱して、私の所へ来ていただけますか?>>

<<え?なんで?>>


<<可能な限り速く離脱してください。位置はヒカリさんの領地マーカーがある砂糖工場です。マリア様が印を置いてくれています。分かりますでしょうか?>>


<<わ、わかった……。ユッカちゃんとステラと3人で向かうね>>

<<直ぐに離脱してください!これ以上の念話は無用です!!>>


 あっ!

 イカが口をこっちに向けた!

 まさか墨を吐くの?


「ステラ、ユッカちゃん、膜張って!墨が飛んでくる。そして、緊急離脱!」


「ヒカリさん、何も燃やして無いので炭は飛んできませんわ」

「お姉ちゃん、下から100mぐらいあるよ。大丈夫だよ」


 って、会話をしてたら、墨を吐かれた。

 周囲が一気に黒く染まる。


 いやいや、オカシイよね。

 100m吹き上げるとか、人を3人丸ごと包める墨の量とか無いよね。

 まぁ、妖精の長や飛竜族クラスなら、何らかの方法で実現してるのかもしれないけどさ……。


 3人ともネバネバした墨に包まれて、真っ黒。

 外見は見えないけど、このネバネバした感じからすると真っ黒なんだと思う。

 そして、この墨が生臭いのね。

 良い感じな海鮮の香りとか、海藻滋味とかじゃないの。

 生臭さとネバネバと真っ黒。

 最悪だよ、これは……。


「ヒカリさん、これは何ですの?」

「お姉ちゃん、このネバネバ取れない~」


 二人が口をパクパクさせながらの鼻声で語り掛けてくる。

 二人ともこの黒いスライムみたいな粘着物質が何か分からず困ってるみたい。


「二人とも、エイサンの所へ行くよ。私の領地マーカーが砂糖工場にあるらしいから、そこに向かう。

 光学迷彩はこのネバネバのせいで上手く作用しないかも。

 このまま飛ぶよ……」


「ヒカリさん、海人族の族長に会うのであれば、海に入ってこのネバネバを落とした方が失礼が無いと思います」

「お姉ちゃん、なんか、これ、臭いよ?」


 とりあえず、二人に色々話すべきことはあるんだろうけど、エイサンの所へ向かうのが先だね。ここは離脱しないとダメだよ。


 墨の粘性が高くてネバネバが拭ったくらいじゃとれない。

 粘性の高いグリスとスライムが混ざったような触感。

 熱くないコールタール、あるいは真っ黒な水あめ……。

 とにかく、手で拭うぐらいじゃ除去できない。


 微妙に垂れてくるから目に頼った行動は殆んどできない。音もネバネバのせいで判らないし、耳が塞がってて三半規管も上手く作用してないみたい。これ、方向感覚失って進むと海に墜落の恐れがあるよ!


 鼻は臭いから、口をパクパクさせながら息をしつつ、エーテル検知でユッカちゃんとステラの二人の腕を捕まえる。案の定、二人は方向感覚を失ってなのか、海で汚れを落とそうとしてなのか、海の方向へ向かってた。


<<とにかく、離脱するよ。領地マーカーの上空に到達するまで、ここより上空を維持して飛ぶからね。

 あと、耳や目を塞がれて方向感覚とか上下方向も狂ってるから、移動は全て領地マーカーの位置を元に自分の位置を割り出して、進むようにしよう。そうしないと墜落するよ>>


 もう、目視は諦めたし、耳もあまり無事とは言えない状態だから、念話での会話に切り替える。


 エイサンの領地マーカーと、空飛ぶ卵の領地マーカーと、ユッカちゃんが教会のある村に設置して来た領地マーカーの3箇所の位置を確認して、高度と方向を確認しつつ、ゆっくりと飛ぶ。

 方位と上空位置計算はナビにお願いしておいたよ。


 そんな風に飛行しつつ、エイサンに念話を通す。


<<エイサン、イカに墨を吐かれた。これ、人体に影響は無い?>>

<<ヒカリさん、その墨は有用な物です。出来れば洗わずに私どものところまで来ていただけますか?お礼は十分に用意いたしますので>>


<<臭いし、ネバネバするから洗ってからの方が失礼が無いよね?二人とも気にしてるよ>>

<<ヒカリさんは飛んで来られるのですよね。墜落しないように気を付けてください。それと臭いや見かけは気にされないで結構です。貴重な墨を手に入れるチャンスですので>>


<<わかった。二人にも伝えとく……>>


 全然飛竜に会いに行くどころじゃないじゃん!

 なにが、「今日の夕方には会いに行けるんじゃない?」だって?

 異世界であることを忘れて油断している自分が本当に残念だよ……。

いつもお読みいただきありがとうございます。

夏休み、ちょっとペース変えてアップします。

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