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4-07.誕生パーティー(3)

 今日は朝からパーティー。

 ただし、マリア様の屋敷に滞在している身内だけで、外部からのお客様は呼んでないよ。


 とは言っても、

 このお屋敷の先陣であるマリア様、クワトロ、クレオさん。

 ハミルトン家はリチャード、私、リサ、シオンとユッカちゃん。

 私の領地から同行した、シズクさん家族、ステラ、ニーニャ達。

 妖精の長達が、クロ先生、ルシャナ様、ラナちゃん、シルフ、ルナ様。

 途中で合流したナーシャさんと、ユーフラテスさん(ドリアード様)だね。

 合計21名。


 これくらいの人数なら、お屋敷で雇用しているメイドさん達が昨日から手伝ってくれているから大丈夫かな?


 この前教えた魚や肉料理の基本レシピはここのメイドさんとか料理人さん達に任せておくことにした。素材が新鮮だから、下ごしらえさえ丁寧にすれば誰でも同じ味がだせるはず。

 それに、ここのコンロは火力を魔石と融合させた印を用いているから、火力調整で手間取ることは無い。

 多分、問題無いね。

 

 次にタコ丸の準備。

 これはユッカちゃんとリチャードで昨日のうちに材料をお祭りが出来るぐらいに調達してきたのは知ってる。

 今朝からニーニャから貰ったタコ焼き用の鉄板を使って、二人で技量を競っている訳だけど、速さや技よりも味を重視して欲しいんだよね。

 まぁ、大量に余ったら油で揚げ直して市場の露店で売れば、結構いい値段で引き取って貰えると思うから、好きにして貰って良いかな。


 私はタコ丸の準備には関わらなかったのは、何回もケーキの生地を作り直しに忙しかったからだよ。

 関所で初めて作ったスポンジケーキベースのロールケーキは、ゴードンさんが色々と支援してくれたけど、此処では全部自分で作る必要があるから大変。それに、ニーニャが作ってくれた調理器具も全部持って来ている訳で無いから、計量器具も無いし、泡だて器とかもない。

 仕上げの生クリームのデコレーションを仕上げつつも、外気温で融けてしまうことと格闘したりと、中々に忙しかった。

 調理器具はニーニャに即席で作って貰ったけど、そういった試行錯誤の時間も含めて、結構失敗しつつ、時間掛かっちゃった。


 やっぱり、料理はレシピ通りの材料比率、温度、手順が重要だね。この辺りは、エーテルさんに頼んでも上手く行かなかったよ。料理のレシピの印を作って、そこに材料投入したら、自動でケーキ焼いてくれるのとかは無理かな?

 そんなことにニーニャやステラの能力を割いたら、私が色々な人達から怒られそうではあるけれど……。


 あ、一応、最終的にはちゃんとスポンジ部分も焼けて、生クリームでデコレーションして、フルーツも山盛りなケーキを3つ作ったよ。ユッカちゃんと、リサとシオンの3人分ね。

 ロウソクは市場で探せなかった。チョコやチョコペンの準備も間に合わなかったから、それぞれの名前が書かれたプレートとかも無い。

 この辺りの工夫は来年までに準備が出来れば良いかな?忘れていなければだけども……。


ーーー


 と、そんなわけで……。

 朝は昨日から続いた各自の準備で大忙し。朝食はいつもの簡単な物で手早く済ませたよ。


 昼ご飯はユッカちゃんとリチャードが作ったタコ丸パーティー。

 これが結構な人気を博した内容になったよ。タコ丸という現物は、まぁ、それはそれで美味しいの。デザインも可愛いし。


 けどね?作った量とその技がさ、『普通の人には作れないんじゃないか?』って、話に成っちゃってさ?


 普通に作れるんですけども!


 この二人の作り方と作っている量がおかしいだけでさ。もっと少人数でワイワイとチマチマと焼きながら時間を掛けて食べる物でさ?大道芸とは違うんだよ……。

 ま、まぁ、イベントが盛り上がっているならそれでいっか……。


 その後、みんなで軽く腹ごなしに運動をしたり、飛空術の訓練をしてみたりしながら、おやつの時間まで時間を潰す。


 そこからのケーキ登場!

 本当は大盛り上がりするんだけど、全然盛り上がらないの!

 生クリームっていう概念が無いのね!

 ケーキっていう概念が無いのね!

 白い食べ物が無いのね!

 冷え冷えだから、焼き上がったスポンジの香ばしい香りも無い。

 大きさも4号サイズが3個だから、フルーツ盛りに比べて派手さが無い!

 フルーツ盛りの方が目を引くぐらいでさ……。


 うわ……。

 ちょっとショック……。

 お母さん、かな~~~り頑張ったんだよ?

 いつものように、「まぁ、いっか」で済ませたくない気分。

 まぁ、取り分けて、味見て貰ってから反応を見よう。


「お母さん、嬉しいです。ありがとう」と、シオン。

「お母様、これは何ですか?」と、リサ。

「おねえちゃん、頑張った?」と、ユッカちゃん。


「うん。たぶん……。

 ゴードンさんも居ないし、関所の台所のような調理器具類も無いから、結構大変だったんだよ。

 ケーキって概念が無いから受けないかも知れないけど、これ、ちゃんとしたデザートになる食べ物なんだよ。

 お披露目が終わったら、試しに食べてみて」


 と、出来栄えはともかく、頑張った思いを込めて紹介してみた。

 最初は、夫々のケーキを本人用に取り分けて、最初に食べて貰う。

 

 そしたらさ?

 ちゃんと、3人とも反応してくれた訳!

 目をまん丸にして、お互いを見つめ合って、目がウルウルしてる……。

 無言の喜びってやつだね。


 やった!勝利!

 勝ち負けじゃないけど、勝ったね!


 で、この子らはその幸せを自分達だけで楽しまないの。

 すぐさま、自分の皿のケーキを1口食べたままで放置して、各自がナイフを器用に使いこなして、他の人の分を皿に取り分けて、配り始める。


 こう、なんていうか……。

 この子達は、自分の幸せよりも皆の幸せを優先するっていうか……。

 そんなに取り分けたら、自分達の分が無くなっちゃうよ?

 今回、生クリーム用のミルクの都合や、小麦の都合で材料がギリギリだったから、「おかわり!」とか言われても出せないからね?

 

 自分達の皿の分を残して、全員に少しずつ配り終えてから、みんなで改めて「いただきます」って、声を出してから味見をした。

 子供たちの様子を見ていて、雰囲気を壊しちゃいけないと思ったのか、製作者である私に気を遣ってくれていたのか判らないけれど、皆が不思議な食べ物に魅せられている様子だった。


 ある意味でファンタジー?

 なんだか、自分が異世界に居ることを改めて実感するシーンだね。

 

 最後は夕飯。

 いわゆる従来ながらの屋内でのパーティー。

 昼が庭でのお祭りだったのに対して、夜はご飯がメイン。

 子供たちのお祝いがメインだから、大皿で盛って取り分けるスタイル。こうしておけば、体の大きさとか食欲に応じて好きなだけ楽しめるからね。

 難点があるとすれば、メニュー構成を知らない人が最初から食欲に負けて全力出しちゃうと、後半でのデザートメニューになったときにも、もう食べられないってことになる。

 それは、まぁ、それでいっか。


 でね?

 みんなが、誕生日祝いのプレゼントを用意してるの!

 普通の子達じゃないから、普通の子供向けのプレゼントで満足するかは、全く分からないけれど、おもちゃだったり、アクセサリーだったり、風変わりな食べ物だったりと、各自各様に心の籠ったプレゼントが用意されていた。

 そして、3人がその気持ちを汲み取って、喜びの表情を見せてお礼の言葉を返していた。


 でさ?

 問題は母親である私な訳よ……。

 北の大陸で領地にいた頃に、リサには靴。シオンには昆布や鰹節をプレゼントしたと思っていたのだけど、あれは『本人達にとっては、日常生活に必要な買い物をしに、お母さんに付き合っただけ』って、リチャードから伝えらたんだったっけ……。

 ユッカちゃんとは、プレゼント交換とかしてないから、誕生パーティーそのものがプレゼントって扱いだったと思うんだけど……。


 いや~~~~。

 今日の料理の準備ばかりで、プレゼントが用意出来ていないのは私だけっていうのは不味くないかな?


 な、何かないかな……。

 クッキーをコッソリ作って来て、プレゼントとして渡すとか……。

 でも、それって、普段と変わらないし……。


「ヒカリさん、どうしたのかしら?」と、マリア様。

「ヒカリ、どうしたんだ?」と、リチャード。

「ヒカリさん、そろそろお子さんたちの前が空きましたわ。そろそろプレゼントを渡す順番よ」と、トドメを刺しに来てくれるステラ。


 いや~~~。

 やっぱり、非常識ってこと?

 な、なんか無いかな……。

 正直に言うしか無いかな……。

 「プレゼントが準備出来て無い」って……。

 こういうの、母親として不味いよね……。

 

 うう~。

 ピンチ?


「ユッカちゃん、リサ、シオン……。

 ごめん。

 皆にプレゼントの用意が出来てない。

 欲しい物を明日市場で買ってくるから、何が良いかな?」


 と、正直に話す。

 3人とも、それまでプレゼントを貰ってワイワイしていたのに、私が話しかけたときは、呆然とした面持ちで私の方を見返して来る。


 あ、呆れられた?

 無言なのが怖いっていうか、この子達の精神発達度からすれば、私の失敗を理解した上の反応な訳だから、繕う様子も無いことからして、相当困惑しているんだと思うよ……。

 

 私にも言い訳したいことは沢山ある。

 けど、失敗は失敗。

 今日のパーティーの主旨を理解しての準備不足。

 ああ、情けない……。


「お姉ちゃん?」と、ユッカちゃん。

「お母様」

「おかあさん」と、リサとシオンが続く。


 呆然とし表情からの、驚きに似た問いかけ。

 この後に続く言葉は……。

 い、一応、返事はしないとね。


「はい。3人とも何でも欲しい物を言ってね」


「お姉ちゃんは、私にプレゼントくれている最中です。問題ありません」と、ユッカちゃん。

「お母様は、私に新しい人生の目標をプレゼントしてくれました」と、リサ。

「おかあさん、僕は特別なプレゼントを沢山戴いています。いつもありがとうございます」と、シオン。


 は、はい……?

 お礼?

 いや、待って。


 親が子供の面倒を看るのは当たり前。

 その上で、1年に1回の大きなイベントで、そこで何も出来て無いっていうね……。


「お母様、どうかしましたか?」


 と、気遣うリサ。

 ユッカちゃんやシオンも同じ反応。

 私のプレゼントが無い事を気遣っているというより、私の反応に驚いている様子。


 つまり、彼ら、彼女らにとっては、誕生会そのものが大きなプレゼントになっているし、人生の目的における1イベントではあるけれど、そのイベントよりも普段からの付き合いの方が大事であるってこと?

 母の日に、そういう習慣がこっちの世界であるか判らないけど、普段の感謝の言葉を述べられたら、ちょっと照れちゃうけど、嬉しいかもしれない。

 けれど、こんな日にお礼を言われるのは……。

 全くもって、想定外。


 いや~。

 参った。

 普段から厳しい訓練とかしてきて、辛い思いさせていたとは思うんだけど、こうやって口に出して、お礼を言われると、お互いに苦労して頑張ってた甲斐があるってもんだね……。


 情けなくて涙流すところが、うれし涙に代わっちゃったよ……。

 ああ、感情も表情もぐちゃぐちゃだ……。


 そして、気配りの達人のシオンが蹲る私の背中をさすってくれる。

 その様子を察したのか、リチャードが私に声を掛けてくれる。


 家族って、こんなに良い物だったの?

 ああ、涙が止まらないよ~~。


ーーーー


いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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