4-06.誕生パーティー(2)
庭で第二回のドリアンパーティーをしつつ、各種冷え冷えのフルーツ盛りが出てくる。
冷え冷えって言っても氷点レベルの話。冷蔵庫の設定で言うところのチルドルームって感じね。だから、直ぐに南国の温度に馴染み始めて甘味や香りが引き立ち始める。
うん、とっても美味しいね。
って、シオンは相変わらず水を出して注いで周っているんだけど、何故かお客様であるユーフラテスさんが、シオンの後を付いて周ってる。
なんで?
「あの……。ユーフラテスさん、うちのシオンが気になりますでしょうか……?」
「この子、良い香りがする。不思議です」
南の大陸の人族の言葉で会話が通じた。
私は理解しているけど、流暢に会話すると色々と問題が出てくる。
どうしたもんだか……。
と、その迷いというか、返答に困っている様子を察したクレオさんが通訳をしてくれる。
「ヒカリさん、シオン様の香りが不思議で気になるそうです」
「あ、クレオさん、ありがとう。でも、シオンは毎日ピュア掛けてるはずだけどねぇ?何でだろう?」
シオンの傍に行って、頭髪とか服の臭いを嗅ぐ。
頭髪は、ちょっと汗を掻いてて、ムフッとする男の子特有の咽る臭い。まぁ、これは仕方ない。勘弁してあげて。
他に変なところが無ければ、ピュアを掛けておこう。
で、服の臭いを嗅ぐと、こう、なんか臭いの。
魚介系の内臓が発酵した独特の臭み。チーズが高発酵したような、生ごみを凝集したような、ドリアンとは別系統の臭いね。
これは、お客様に対して失礼なレベル!
いつからだ?今朝のピュアのときは気が付かなかったよ!
「シオン!なんか臭いよ!何したの?」
「おかあさん、各種の醤の世話をしました。少し液が服に付いたかもしれません」
そういえば、シオンは皆で南国の食材を使った料理を考えるときに、エビ味噌を使った醤を作っていたっけ……。そろそろ2週間。かなり発酵がすすんでいるのは、気候とエーテルさんへの祈りとウンディーネの加護のお陰かな?
「シオン、ちょっと臭いがきついから、ピュアしよっか」
「はい」
小さい男の子特有の蒸れ臭い臭いをピュアして、服全体にもピュアをかける。これで何とか、場に漂う異臭は除去できたかな?
「クレオさん、ユーフラテスさんに、失礼しましたと、お伝えください」
「承知しました」
南の大陸の言葉で話をしても良いし、念話も使えるんだろうけど、まぁ、今は手間の掛かるコミュニケーションでも、いっか……。
それにしても、不思議な香りってことは、異臭というより、何か不思議な物を感じ取っているってことだよね……。ドリアンは植物由来だから気にならないのかな?
「ヒカリさん、シオンくんが何者なのか興味があるそうです。
『水の妖精の知り合いなのか?』とも、聞いています」
うは~~。面倒くさい!
何でこんなことになった!
シオンが普通の子供で、水の妖精ウンディーネの加護が無ければドリアード様に目を付けられることも無かった。あるいは、醤に興味を示さず、あるいは1歳で自作しようと考えるような知識や行動力が無ければ、こんなことにならなかった。
たまたまっていうには、色々と重なり過ぎる……。
なんて言って誤魔化すか……。
それより、ユーフラテスさんがドリアードさんって判っちゃうと、芋づる式にここにいる妖精の長達が皆に知られるっていうね……。
「クレオさん、シオンはウンディーネ様と直接面談したことは無いと思います。加護は何らかの形で戴いたかもしれませんが……」
「承知しました。そのように伝えます。
それと、お母様であるヒカリさんの名前も知りたいそうですが、私が教えても宜しいでしょうか?」
「はい。ええと……。ユーフラテスさんには、『ヒカリ・ハミルトン』で、伝えてください。結婚前の爵位付の名前になります」
「承知しました」
ユーフラテスさんの世話と、パーティーの準備と、妖精の長達をどのタイミングで皆に公開すべきか……。
そもそも、ステラとナーシャさんは直ぐに分かっちゃっているだろうし……。まぁ、ナーシャさんに関してはステラから口止めして貰おう……。
それにしても、会話が成立しないのは面倒だな……。
北の大陸の言葉をしゃべってくれれば良いのに……。
「ヒカリさん、ユーフラテスと申します。
ラナからヒカリさんを紹介されてました。
私の北の大陸の言葉は合ってますか?」
「は、はい。ヒカリ・ハミルトンと申します。
北の大陸の言葉が喋れるようでありがとうございます。
ラナちゃんにはいつも様々な事象について教えて戴いております。ユーフラテスさんにも、色々と教えて戴くことになると思いますが、そのときはどうぞよろしくお願い致します」
ムムム。
心読まれた?
北の大陸の言葉で話しかけられたよ。
あるいは、ラナちゃんからの指示で念話ではなくて、口頭言語の補正をして貰ったかもだけど……。
「シオンくんは貴方のお子さんで宜しいのですね?」
「はい。」
「では、そこに居るユッカという子は?」
「養子縁組という形でハミルトン家に籍を置いていますが、血のつながった家族ではありません」
「あちらに居る幼い子は?」
「あちらは、リサになります。私とリチャードの子であり、シオンの姉に当たります」
「そうですか……。ユグドラシルへの登頂は何年後を予定されていますか?」
「一週間後ぐらいですかね。誕生パーティーと飛竜族との交渉が終わってから、直ぐに挑戦したいと考えています」
「それは、つまり、リサちゃんを飛竜族との交渉人として立てるということであり、他のメンバーは飛空術あるいは浮遊術を既に身に付けていると考えても宜しいでしょうか?」
「リサ、シオン、リチャードは分かりませんが、他のメンバーは私と同程度の飛空術は身に付けています。
また、身体強化もそこそこなレベルに到達しているので、普通の人族が飛竜の血を飲んだくらいでは、勝負にならない程度には戦えると考えています。
その上で、飛竜族との交渉後、ユグドラシルへの登頂を計画したいと考えています」
「そうですか……。状況わかりました。
ラナ、ヒカリの家族は面白い人達だね」
「ドリア……、ドリアンは如何だったかしら、ユーフラテスさん。
私が紹介するのだから、面白いに決まっているわ。何が気に入ったのかしら?」
「シオンくんが作っている物が何かを知りたいし、それが何かをヒカリさんは知っている様子。あと、飛竜族との交渉に飛竜族の加護を用いる気が無い。
これだけでも十分に面白い」
わざと私に聞こえる様に、そして理解できるように北の大陸の言語で、音声会話で喋ってるよ。普通に考えて、妖精の長同士だったら念話で話をすれば良いのに。
私がまだ念話を習得していないか、ユーフラテスさんがドリアードさんであると気が付いていない前提で話をしているのかな?
ま、いっか。
「ヒカリ、優秀なガイドに興味を持ってもらえて良かったじゃない。早くパーティーの準備に掛かれば、それだけユグドラシルの登頂時期が早まるわ」
「はい!」
いや、早まるも何も、ラナちゃん達が今日帰って来て、ユーフラテスさんのイベントまで作ってくれたもんだから、パーティーの計画が出来て無いって言うね……。
「ユッカちゃん、
ランチはタコ丸。
おやつはケーキとフルーツ盛り。
ディナーはスパイスの効いた肉料理、魚料理。
小麦は不足すると嫌だから、米粉を用いた麺を使った炒め物とかスープにして、サイドメニューとしようと思う。 そんな組み立てで良いかな?」
「お姉ちゃんは何を作るの?」
「小麦を使ったケーキ作りに専念するよ。そこそこ材料が貴重なのと、オーブンの火加減は、何回か試す必要があると思うし。
なんで?」
「シオンくんの『ひしお』を使った料理も食べてみたい」
そ、それは……。
子供には難しい、複雑で濃厚な味わいだから……。
例えば、エビ味噌を用いたチャーハンとか美味しいけど……。
それが、万人受けする味かと言われれば、子供には普通のエビ卵チャーハンの方が良いと思うんだよね……。
ま、両方作っておけばいっかな?
「わかった。そうしたら、米粉のスープの代わりに、エビ卵チャーハンと、エビ味噌のチャーハンを作ろう。
エビ味噌のチャーハンは、領地で作っていた生のエビの腸をアレンジしたクリーミーなパスタより、少しコクがあって、独特な風味のチャーハンになるよ。
南の大陸では市場でお米が簡単に手に入るから、米料理は色々作れると思うよ」
「ふ~ん……」
「え?なんで?」
「なんで、カタコンベに行った翌日にチャーハンを作らなかったの?」
「水稲米と陸稲米の違いかな。お米の種類によって、料理の向き、不向きがあるんだよ。
それにあのときは、素材とスパイスに目が行ってて、陸稲米を活用した料理のメニューを考えるより先に、メインディッシュを北の大陸の人達の口にも会う様にアレンジすることを最優先に考えていたよ。
だから、パーティーもディナーのメインは魚や肉を考えていたよ」
「わかった。食べてから考える」
食べてから考えるの?
何を考えるの?
べ、別に嘘をついてないからね?
っていうか、現代日本で食べられる料理レシピを全て公開とか出来ないからね?
私は、現地現物で、そこでしか味わえない風土料理を楽しむべきだと思うんだよ。それに即したレシピを提供したつもりだったんだけどね……。
ま、ユッカちゃんのパーティーだから、ユッカちゃんが楽しければいっかな?
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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