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4-03.マリア様の宿題(3)

「ヒカリさん、確認したいことがあるの」

「何でしょうか」


「魔族との交戦までの残された時間よ」

「と、言いますと?」


「私は、魔族との交戦の際に、リチャードやヒカリさんがサンマール王国から生贄として差し出されることが無い様に、魔族を訪問させるつもりだったのよ……。

 

 けれど、その必要が無いわけよね。だって、ストレイア帝国からの横槍を退けるに十分な外交の切り札を持っていのだから。幾ら上皇后陛下がストレイア帝国に密使を送ったところで、その干渉を覆せるだけの契約書が残してあるわけでしょ?


 それに、モリスの息子さんであるアルバートさんも、帝都で皇后陛下の資金源について情報収集に当たっているのでしょう?皇后陛下自身も、自分の資金源を潰されることを察したら、強引な行動には出られないはずよ。


 であれば、後は魔族に我々が暗躍していることが察知されるまで、出来るだけ多くの情報を掴んでおく必要があるわ。その期限が知りたいの」


「少なくとも、フウマが村に付くまでは何事も起こらないと考えます。

 ただ、若干の懸念事項としまして、魔族の情報網がこの国に敷かれているとしますと、『観光迷宮で魔族が関与して魔物が溢れた』という事件が、何らかの形で魔族の本国に伝わっているかも知れません」


「貴方達が観光迷宮から帰って来て、既に10日間が経過したわ。魔族の本国に連絡が届いたとして、彼らが動き出すとしたらいつ頃かしら?」


「もし私が魔族の立場だとして、『魔族が封印したはずの巫女を復活させて、観光迷宮の悪用を始めた』という噂を聞いたのなら、巫女が封印されているはずの教会に巫女の保管状態を確認に向かわせると思います」


「フウマが村に到着するタイミングと重なると不味いわね……」

「フウマ自身が疑われることは無いと思いますが、隊商の護衛から簡単に離脱できる状況では無くなります。

 また、確認のために教会へ人が派遣されても、我々は建物の内部に侵入した痕跡も残しておらず、近くまで近寄って確認しても視覚的には変化を捉えられない虚像を配置してきたので遠目には大丈夫でしょう。


 触ったり、あるいは視覚以外の感知方法で調べられたら、遺体が盗まれていることに気が付く可能性がありますが、これまでの一般的な魔族の人達は、我々人間と大きく変わらない生き物であると考えています」


「フウマについて言えば、雇われの身とは言え、魔族専属の商人達の護衛なんですものね。早々人族の関与が疑われる状況では、安易に離脱の申し入れはしにくいわね。


 それはそうと、『身代わりの虚像』と言ったかしら。ここで実演して戴けるかしら?」

「はい。ステラの協力があれば可能です」


 ステラは、私にコーティングの膜を施す。

 そして私はエーテルさんにその膜の上に私の虚像を写して貰う様におねがいをする。


 ここだと部屋の中で、窓も少ないから光学的な光の変化が少ないから、簡単に作成した虚像でも、ブレてオカシナ現象は起こさないと思うよ。


 私の表面に光学迷彩で作った虚像が形成されたタイミングで、私は立っている位置を移動する。

 元の位置にはマリア様に話しかけていた姿勢の私の姿が残っている。


「ヒカリさん、これは……」

「はい。私の虚像になります。

 ですが、触ることは出来ませんし、重さも温度もありません。まして、生物特有の魔力の流れも検知できませんので、『生きている人間の身代わり』の役には立ちません」


「へぇ……。近づいて確認させてもらっても良いかしら?」

「はい。危ない物ではありませんので問題有りません」


 マリア様が私の虚像に近づいてきて、じっくりと観察をした。

 すると今度は、虚像の顔の表面に手を当てて触ろうとしたのだけれど、そのまま手が顔の中をすり抜けて、後頭部側からマリア様の手が抜け出てきてしまう。


「ヒカリさん、これは面白いわね。色々と応用が利きそうよ?


 例えば、偽物の宝物庫を作成して、そこに盗賊団が侵入するように罠を仕掛けた上で情報を流すとかね。

 現物を別の場所に移しておいて、戦闘も避けられて、無人の宝物庫に盗賊が警戒しつつ入った後で閉じ込める罠を発動すれば一網打尽だわ。


 他にもそうね……」


「母さん、脱線しすぎだ。

 朝食後とはいえ、母さんの武勇伝も聞いたし、ヒカリのアジャニアでの武勇伝も聞いた。

 魔族に我々の行動が察知される前に、さきんじて行動に移す必要が有る訳ですね?」


 リチャード、私はアジャニアでは何もしてないよ?

 みんながお膳立てしてくれただけ。

 ただ、この場でそれを言っても話が先に進まないから黙っておくけども。


「ヒカリさん、教会へ侵入されて形跡が無いのに、遠目で確実に有ると分かる巫女の像を敢えて触って確認したりするかしら?」と、マリア様が本題に戻ってきた。


「無いとは言えないですが、敢えてフウマに『伝説の巫女を遠目で良いから、記念に見てみたい』と、申し入れをして、わざわざ皆で確認しておくのは、一つの手かもしれません。


 魔族としては、人族に巫女を触らせたり、近づけたりしたくないはずなので、遠目で皆で確認することが出来れば、その場にいる全員が『巫女の遺体は教会に安置されている』ことを証言することになると思います」


「ヒカリさん、それは良いわね。

『人族を近づかせたくない』心理と、『皆で確認した』という両面から、少なくともフウマが到着した時点では、『巫女は以前と変わらずに安置されている』という情報を魔族側に確実に流すことが出来るわ。


 それが出来るのなら、後は『上級観光迷宮から魔物が溢れた原因が何だったのか?』ここを皆が信じられるような噂を流すことで、『人族の冒険者たちが早合点しただけだ』とすれば、良いかもしれないわ。


 ただ、魔物が溢れた原因を我々と結び付けられても困る訳だけれど。この辺りは中々難しいわね」


「人族のA級冒険者とエルフ族のナーシャさんで組んだPTですら、地下15階層のボスで苦戦されていた様ですからね……。

 ちょっと、私にはアイデアが湧きません。ステラやクレオさんは何か良い案はありますか?」


「私もヒカリさんやユッカちゃんの普通に慣れてしまったから、大したこと無いのだけれど、普通の人からすれば大事件なのよね……。


 例えば、飛竜の血を誰かにコッソリと飲ませて、身体強化をブーストさせてから迷宮のクリアを目指してもらうのはどうかしら?


 成功すれば、『誰かが飛竜の血を使って、迷宮を破壊したのだろう』と、不特定の誰かでも達成できることの証明になるわ」


 う~ん。

 南の大陸の飛竜さんとは交流がまだ無いし……。

 そもそも、どうやって、飛竜の血を見知らぬPTへ提供して、更に迷宮をクリアさせるのかっていうね……。


「あの~。私も発言しても宜しいでしょうか?」と、クレオさん。


 何かいいアイデアでもあるかな?


「良いわ。クレオさん何でも言ってみて頂戴」と、マリア様。


「はい。私は飛竜の住処すみかの凡その位置を把握しておりますので、皆様をご案内することはできます。

 そして何らかの方法で飛竜の血を入手することが出来たとします。


 ですが、そこまでの危険を冒して入手した飛竜の血が、果たしてその様な覿面てきめんな効果が得られるのでしょうか?もし、そのような効果が有るのでしたら、これまでにも皆が死に物狂いで飛竜の血を求めて行動していたのでは無いでしょうか?」


「運動神経があまり良くない私でも、リチャードや昔のクワトロさんと互角に戦える様にはなったよ。今の二人と勝負したら負けると思うけど」と、私。


「え?」

「うん?」


「いやいや、驚いているのは私が先ですが?」

「うん。『効果を説明したけど信じられないの?』ってことなんだけど?」


「ヒカリさん、人同士の格闘や模擬戦は、魔物を討伐するのとは異なります。

 明確な意思を持って、相手を倒す行動を行いますし、フェイントを入れたり、あるいは行動の先読みをして、相手の隙を突くような駆け引きがあります。


 私は雇用される前にクワトロ様と手合わせをさせて戴きましたが、身体強化レベル2を習得しても、全く敵う気がしません」


「でも、前にクワトロさんと模擬戦して勝てたよ。身体強化レベル2と飛竜の血の両方があったからじゃないかな?

 リチャードとは飛竜の血無しで手合わせしたけどね」


「ヒカリさん、途轍とてつもなくお強い方なのですか……」

「私より、ユッカちゃんやステラの方が強いよ。私の師匠だから」

「私よりリサちゃんの方が強いよ」と、ユッカちゃん。

「わ、私は全然です……」と、リサが恥ずかしそうにうつむく。


 まぁ、リサはまだ体が小さいし、戦闘経験も少ないからね。

 潜在能力的には生まれながらにして、飛竜族の加護持ちだから、普通の人間とは全然違うレベルなんだろうけれど、その辺りはユッカちゃんに聞かないと分かんないや。


「ヒカリさん、脱線しすぎですわ。

 飛竜族の血が解決の鍵となりうるなら、取りに行きましょう。

 とってきさえすれば、後はクレオさんが上手くやってくれるのでしょう?」


「いや、あの……。

 訓練もせずに身体強化レベル2相当に体を強化できる薬が存在するなら、色々な状況を作って、冒険者にコッソリと提供することは出来ます。

 当然、身元を隠した上で提供し、リスクも恐れず最下層に突き進んでくれそうなPTを選びますが……」


「ヒカリさん、あのときはエルフ族の秘薬でしたけど、今度はどういった薬にしますの?

 私が帰還したエルフ族の村の傍で『エルフの秘薬』と称するのは、直ぐに虚偽情報と判明してしまうし、エルフ族に確認の問い合わせが言ってしまいますわ」


「まぁ、そこは『北の大陸のアルケミストから入手した非常に貴重な秘薬で、金貨1000枚の所を特別に金貨100枚で提供する』とかにしておけば良いんじゃないの?

 先払いで金貨50枚。新階層のボスを倒せたら残り金貨50枚みたいな。十分に元がとれるでしょう?」


「それは、暗にアリアさんの所為せいにしようとしていますわね?」

「アリアはアルケミストでもあり、錬金術師でもあり、ガラス工芸職人でもあり、天文学者でもあり……」


「それのほとんどがヒカリさんを師匠としているせいですわね」

「す、ステラ……。

 それより、話が脱線してるよ!マリア様の戦略に戻ろうよ!」


 な、なんとか話題を戻しつつ、私の話題を回避できたかな?

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