3-19.リチャードの特訓(3)
「ヒカリ、今日は【念話】の訓練を開始したい」
「うん。良いよ」
「必要な知識の説明からお願いしたい」
「大変だから止めよう。それより、願えば出来るよ」
「意味が分からない。それに、ヒカリらしくない」
「飛竜族との念話が出来ることを知っているのだから、それを応用するだけ。
リサやクレオさんは飛竜族の念話を知らないから、応用が利かない。
シオンは念話じゃないけど、電話という概念を知ってるから、その応用で出来てる」
「ヒカリはどうしたんだ?」
「シオンと同じで概念を知っていたことと、強制的に習わされたって感じかな?私のことはどうでも良いよ」
「そうか。では、ヒカリの言う様にやってみよう」
「うん。じゃぁ、飛竜族の人に語り掛けるように、私にも語り掛けてみて?」
<<こうか?>>
<<うん。出来てる>>
<<はぁ?>>
<<念話だよ。目の前だから実感無いかもだけどね>>
<<こんなに簡単なことを、何故今まで教えなかった?>>
<<簡単じゃないよ>>
<<ヒカリの言う通りにしたら、今出来たじゃないか>>
「音声の会話に切り替えるね。
全然簡単じゃないの。リサやクレオさんに言ったら怒られるよ?
フウマやステラだって、相当苦労したんだからね?」
「ヒカリ、何故音声に切り替える?」
「見つめ合って、無言なのは変だから」
「ま、まぁ、夫婦だから構わないが……。確かに傍から見たら、不思議な状態だな」
「うん。周りの人からすると、念話の最中なのか、考え事をしているのか区別が付かないっていうね……」
「ヒカリが偶に、ぼ~~っとしてるように見えたのは、念話を通していたのか?」
「リチャードの前では使わない様にしてたから、本当にぼ~~~っとしてたんだと思うよ」
「そうか……。ヒカリ以外だと誰が念話を使えるのだったか?」
「今、南の大陸に来ている人たちだと、マリア様、クワトロ、ステラ、ニーニャ。
後はフウマ、ユッカちゃん、そして私かな」
「ほとんど全員じゃないか」
「フウマの家族はフウマ以外使えないし、リサもクレオさんも使えないし、ニーニャの付き人のドワーフさん達も使えないし、ステラの奴隷になったナーシャさんも使えないよ。
使えない方が普通なんだよ」
「シルフとラナちゃん達はどうなんだ?」
「うん?」
「クロ先生も含めて、相当な技量の持ち主だ。あの家族も普通じゃないぞ」
「まぁ、普通の人じゃないから、使えてもおかしくないね」
「確認していないのか?」
「ちょっと待ってね?
この念話という概念を知っているかどうかはとても重要な事なの。
飛竜族が高知能な生命体で、念話を通して私たち人間たちと交流して貰えているってことは、とても重要なことって判るかな?
もし、エスティア王国が単純にロメリア王国を制圧しただけでなく、飛竜族を味方に付けて、さらには念話を通して同盟関係にあるってことが判ったら、軍事バランスが崩れるよ。
片っ端からエスティア王国の人を誘拐して、その秘密を聞き出そうとするだろうね。
分かる?」
「……。 ああ、非常に不味いことになるな……」
「その応用が念話な訳でしょ?」
「そうなるな」
「そう簡単に念話の話を広める訳にはいかないよ。だから、念話という概念を知っていることすら秘密なの。
簡単に習得できるとか、そういう話じゃないんだよ。自分で身を守れることも当然として、仲間に助けて貰うためにも、そして助け合う仲間の範囲を制限するためにも、秘密が守られなくちゃいけないの」
「自分を守るための力が身体強化レベル2ということか?」
「身体強化レベル2は対魔物とか野獣達には有効だね。
人族との乱戦を想定するなら、対魔法戦を想定した別の工夫が必要になるね。例の【隠密】とか【索敵】とか。あと、【浮遊】とか【飛空術】もその状態を打破する戦術となり得るね」
「ヒカリは、ロメリア王国との模擬戦は、勝つべくして勝ったということか?」
「負ける訳には行かないからね」
「この南の大陸では何をすれば良いんだ?」
「魔族がどういった仕掛けをしてるのかが、全然わからないことと、皇后陛下がどういった活動をしているのかが判らないことだね。
そこを無視すれば、南の大陸の飛竜族と友好関係を築いてユグドラシルを調査するぐらいかな?」
「全然、簡単そうに見えないんだが?」
「だから、入念に準備をしているよね」
「準備が進んでいるのか?我々は子供達を背負いながら戦うんだぞ?」
「シオンはともかく、リサとリチャードなら、まだリサの方が強いから大丈夫だよ。念話さえ覚えれば、作戦にも参加して貰えるかもね」
「ヒカリ、色々と待って欲しい。念話の話もじっくり聞きたいが、俺はリサに未だに勝てないのか?」
「だって……。リサに負けた原因が判らないでしょ?」
「身体強化のレベルの違いだろう?」
「うん。まだ負けるね」
「どうしたらリサに勝てるんだ?」
「勝ち負けじゃないから、負けるんだと思うよ」
「勝ち負けがあるから、負けるんだろう。意味が分からない」
「死んだら終わりって話はしたよね。だから死ねないの。勝ち負けは生き残れるでしょう?」
「敗戦国の王族は死をもって償う必要がある」
「戦争で負けないようには努力したよ」
「ああ。分かってる。感謝してる」
「勝てた要因、ロメリアが実質解体している原因ってわかる?」
「例の模擬戦だろう?」
「そう見えているうちは勝てないよ。戦争でも模擬戦でも」
「あ、いや、すまない。色々あったことは分かっている。
だが、即答すると、そこに注目が行くという話だ」
「それならいいけど……。
リサとの立ち合いもそういう話ってことでさ?」
「リサと立ち会う前から俺は準備不足で負けていたってことだな?」
「簡単に言うとそうだね」
「ヒカリ……。それだけ多くの物を背負っていて、辛くないのか?」
「何が?」
「いや、いい……」
「そう……。じゃぁ、ニーニャ達が帰って来るまで、散歩してきて良い?」
「何故だ?」
「身体強化ベル2も、念話も習得が出来たでしょ?」
「俺も、その散歩に付き合っても良いか?」
「う~ん……」
「何だ?」
「リサと一緒に飛空術の訓練をしていてくれると助かるかな。
あ、あと、リサも多分念話の習得は出来るはずだから、それも手伝って欲しい」
「そうか……。飛び方は誰に習えばいい?」
「クワトロかフウマかな。クロ先生達が帰って来ればそれでも良いけど。
私の飛空術は、ちょっと色々面倒だから教えにくいんだよ。」
「わかった。なるべく早く飛べるようになっておく」
「ありがと。じゃ、ちょっと行ってくる。
ステラ、クレオさん、ユッカちゃんと一緒に行ってくるね」
「ああ、十分に気をつけてな」
「うん。リチャードも気を付けてね」
よし、魔族との初戦開始だね。
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