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3-18.リチャードの特訓(2)

「ヒカリ、少し良いか?」

「うん。なにかおかしなことある?」


「ヒカリの知識はどこから来るんだ?」

「え?」


「余りにも多すぎる」

「そうかな?覚えないと積み上がらないから、覚えた部分はあるよ」


「整理されていて、関連付けも明確だ」

「そりゃそうでしょう」


「ヒカリが体系化したのか?」


 ああ~。そういうことね。

 てっきり、ナビに手伝って貰って、検索結果とかをダウンロードしていることを見破られたのかと思ったよ……。

 科学は仮説を立てて、実験と検証の結果の集大成だからね。時間と試行錯誤を繰り返した分だけ積み上がるのは当たり前だよ。


「ええと……。

 私が学問を習得した国では、高度に科学技術が発達していると思います。

 ただし、その科学の発展には膨大な時間と、膨大な知識の積み上げが有って、そしてそれを更に積み上げて行くという人たちによって支えられています。

 私はそのエッセンスを享受しているに過ぎないし、それをリチャードに簡便に説明しているだけだよ」


「凄いな。ヒカリの国へ行ってその知識に触れてみたいな」

「何処にあるんだろうね。全然判らないよ。

 少なくとも、ストレイア帝国、アジャニア、南の大陸には無さそうだね」


「そうか……。いつかお礼を言いに行きたいものだ」

「ひょっとしたら、異世界から連れてこられているかもね」


「異世界とは何だ?」

「リチャードや私が居るこの世界とは別の世界って感じ?」


「それは、吟遊詩人のサーガで出てくる神話の世界と同じだな」

「そうそう。そういう感じ。それぐらい見つかりそうにない」


「分かった。ヒカリが不思議なのは今にはじまったことではない。

 それで、今日は何から勉強すれば良いんだ?」

「リチャードが何処まで理解できているか、確認をしておきたいのだけど」


「身体強化レベル2の基本となる、生体の仕組みは覚えたつもりだ。


 呼吸が体の中の物質と、外気から取り込む酸素との反応によりエネルギーを創出しているということだ。

 そこをイメージして、頭部から下の筋肉や循環器系の高効率な燃焼システムを構築することとと、そこを制御するためには、脳内の思考速度を高速化するために、脳内のシナプスなどへも潤沢なエネルギー源となる物質を速やかに供給し続ける必要がある。


 ざっくりとだが、こんな感じで良いか?」


「うん。知識は十分。


 そしたら、それを思い浮かべながら呼吸はできる?

 肺に空気を取り込んで、その中の酸素をしっかりと血管へ供給して……。

 血管内の栄養を細胞へ配送するとともに、脳内へも必要な物質を供給する……。

 そういう一連の流れのイメージだよ」


「ああ。今日は実技か。やってみよう」


 リチャードが何かを考える様に目を瞑ってから、ゆっくりと、長く深い呼吸を始める。


 目を瞑るのは自分の思考を発散させないように、余計な情報を取り込まないで集中させているんだろうね。慣れれば大丈夫だろうけど、まぁ、そこはそのうち……。


 呼吸が深くなるというのは、呼吸をすることに意識を集中しているのではなくて、取り込んだ空気から酸素を取り出して、それを細胞内で結合させていくプロセスをイメージしているから、自然とゆっくりになっているのだと思う。


 単に、呼吸と身体強化だったら、一度に取り込んだ呼気の中の酸素を燃やすだけで良いからね。呼吸→息を止めて燃焼→次の呼吸へ繋げるっていう、間欠的なプロセスでは持続性も無く、隙も出来ちゃうからね。

 量や速さでは身体強化レベル2には到達出来ないってことだよ。


 

 ……。

 ああ……。

 リチャードの中のエーテルの流れが綺麗に整っている。今までは呼吸と筋肉に集中されていたのが、全身を丁寧に駆け巡っているのが判るよ。

 これって、外部へのエネルギーの放出の仕方はともかく、体内でのエーテルを用いたエネルギー循環が行われている証と見ていいね。

 リチャードが瞑想状態から戻ってきたら感想を聞いてみようっと。

 

 薄っすらと汗を掻きながら、少し上気じょうきした感じのリチャードが目を開いた。


「ヒカリ、初めての感覚だ。心地よさもあるが、とても疲れる」

「そう。綺麗だったよ」


「俺は座っていただけで、何もしてなかったはずだが?」

「体内のエーテルの流れの話だよ。魔力っていえば良いのかな?

 これまでの力技の身体強化レベル1ではなくて、全身を綺麗にエーテルが流れているのが分かったよ。それを綺麗って言ったの」


「エーテル?魔力?何を言っているんだ?

 俺は魔術師としての素質もないし、技術の習得もしていない」

「教えてくれる先生の知識の話だね。

 自然の成り立ちに対して、魔術と呼ぶか科学技術と呼ぶか。その体系的な知識の分類の違いだから、あまり気にしなくて良いよ」


「つまり、身体強化レベル2とは、魔法に基づいた技術ということか?」

「だから、そこは区別しなくて良いって。体内を活性化する技を習得出来たってことでさ。

 さっきのイメージをリチャードがいつでも再現できれば、それは身体強化レベル2を完璧に身に付けたってことになるよ」


「ヒカリ達は、あの状態を常時発動しているのか?」

「慣れの問題じゃないかな?

 最初の頃は大変だったよ。無理すると魔力切れになるしね」


「待て待て。ヒカリ、ちょっと待て。

 魔力切れというと、例のヒカリが倒れて臥せってしまうあの状態のことか?」


「最初のころは単純な魔力切れが起きたけど、一晩寝れば回復するよ。

 だけど、飛竜さんのときは体力も同時に枯渇していたから回復までに時間が掛かったね。

 先日意識を失っちゃったのも、魔力、体力、精神力全てがギリギリの状態だった上に、リサの器の話が出てきたから、私がパニックになったのはあったかもね。


 だから、普通には魔力の活用の仕方さえ間違わなければ魔力切れにはならないよ」


「つまり、ヒカリ達は常時発動しているということで良いんだな?」

「発動したいときに意識をを集中する感じかな。

 結局、効率よくエネルギーを循環させるってことは、体内のエネルギーの消耗もする訳で、その分余計にエネルギーを摂取しないといけない訳でしょ?

 観光迷宮とか長時間滞在するのに、常時発動していたら、勿体ないじゃん?」


「待て待て。観光迷宮は魔物がたくさん出現するのだろう?であるにも拘わらず、身体強化レベル2を解除して大丈夫なのか?」

「【索敵】は解除したら不味いし。

 そもそも【隠密】か【光学迷彩】を掛けてるから、一方的に敵に先手を取られる心配は無いよ。

 敵を認識してから、【身体強化レベル2】を発動しても十分に対応できると思うよ?


 あ。いつでも発動できる前提でだけどね」


「【索敵】と【隠密】は、聞いてないぞ?」

「私の【索敵】は、エーテルの流れで見るよ。リサやクレオさんにも同じことを説明してある。ユッカちゃんやフウマはどうやってるか良くわからないけど、ユッカちゃんから教えて貰ったことを私は応用しているよ。


 私の【隠密】は、【光学迷彩】って呼んでて、間接的にはエーテル利用技術の応用だけど、科学に関する知識を積み重ねている感じだね。【身体強化レベル2】より断然難易度が高いね。【浮遊】とか【重力遮断】の方が簡単。

 これも、ユッカちゃんやフウマとは違う方法で実現しているから、参考にはならないかな」


「ヒカリ……。俺はいつに成ったら、ヒカリやリサに追いつけるんだ?」

「努力次第じゃないかな?あと、本気度合い?


 『いっぱい努力した』なんてのはさ、『死なない程度の範囲で頑張った』って、ことなんだと思うよ。

 本当の死に直面したら、努力とか我慢とか言ってられない。全てを捧げてその場を切り抜けるために全力を尽くすはずなんだよね。


 その場数を踏んだ分だけ、人は大きく成長できるんだと思うよ。『生きることが目的』と、『技を習得することが目的』では、真剣さが変わっても当たり前だと思うもん」


「……。」

「うん?」


「あのな?」

「うん」


「俺も死にそうになったことはある。

 そのうちの1つは、肺の病のときに、ヒカリに助けて貰ったあれだ。


 他にも沢山ある。

 治水工事の指揮を執ったときも、皆からの意見に対して、どのようにその場を収めて、作業に協力してもらうかを考えるときには、本当に死に物狂いだ。暴動が発動したら俺一人では封じ込められないからな。


 これまでも真剣に取り組んできたと思うのだが?」

「うん」


「それだけか?」

「リチャードは頑張ってます。努力してます。死に直面する状態に遭遇しつつも、切り抜けて生きてきました。素晴らしい~」


「馬鹿にしてるのか?」

「なんで?」


「言い方が馬鹿にしている。上から目線とでも言おうか」

「うん~。


 肺の病の死の境地を切り抜けたのは、リチャード自身の力だけでは無いでしょう?レナードさんの伝手があったり、ユッカちゃんと私の治療技術が必要だった訳でさ。


 次の治水作業の指揮だって、『ヒカリの婚約者になる人だから、殺してはいけない』って、話が通っていたから、本当の暴動にはならなかったはずだし、その暴動が発生した状態を切り抜けて、統治した訳じゃないでしょ?」


「その言い方が上から目線だ」

「事実の認識のレベルが違うのなら、その俯瞰位置に上下があるってことだね」


「つまり、ヒカリは俺よりも高い視点で状況を捉えているということだ」

「……」


「なんだ。まだ、おかしいのか?」

「……」


「何か言わないのか?」

「どうでもいいよ」


「俺が間違っているのか?」

「どうでも良いってば!」


「俺に間違いがあるなら、俺はそれを直すべきだと思う」

「間違ってないけど、私の認識とズレがあるのは事実だから、どっちが正しいとかどうでも良いって話だよ」


「俺はどうしたら良いんだ?」

「【身体強化レベル2】と【念話】を早く習得して欲しいです。そしたら、私はリサの器を取り戻しに出かけられます」


「分かった。一歩ずつヒカリに追いつくように努力する」

「うん……。ありがと……」


 なんで、なんでこうなるかな……。

 余り多くを喋らない方が良いってこと?

 でも、それだとお互いに分かり合えないよね……。

 でも、喋れば喋るほどお互いの差が事実として見えてきて……。

 ステラとかニーニャはどうやって、上手く夫婦生活を円満にしてるんだろう……。




 その晩、リチャードから夜のお誘いがあった。

 いつもより熱く感じられたのは、身体強化レベル2を習得したためなのか、それ以外の気持ちの問題だったのか……。

いつもお読みいただきありがとうございます。

春休みは毎日更新!


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