3-17.リチャードの特訓(1)
まず、帝都にいるアルバートさんと、領地にいるモリスに念話を送った。
アルバートさんには、皇后陛下の息のかかるお店とか組合の類を全部リスト化して、収益の流れの情報を調べること。後でナビ経由で調べて貰ったら、サプライチェーンとか、バリューチェーンって言うんだって。
ここを押さえておくことで、どこの流通を止めると効果があるのか、皇后陛下と交渉するときの武器になるからね。
モリスには、上皇様へ帝国騎士団をユッカちゃんのために使う許可ののお願いと、エスティア国王、レナードさんへのストレイア帝国からの進軍に備える準備をして貰うように伝えた。
次はレイさん経由でトレモロさんにも協力してもらう。
エスティア王国に居る500人いる帝国騎士団員の海上輸送をお願いした。
ユッカちゃんの奴隷印がついた500名の中から、新天地へ赴いてくれそうな400名を選出。小型船や大型船で小分けにして、かなり無理を押して運んで貰えるようにお願いをしたよ。
実際の所、サンマール王国の協力要請が得られてから、初めて行動を起こす訳だから、勝手に他国の兵員を上陸させちゃ不味い。武具を身に付けず、冒険者や商人のフリをして入国して貰うことにした。
一方で、北の大陸から来た商人であるはずのマリア様とクワトロはこれまで通りに、砂糖の製造工場の立ち上げとか、鰹節の工場を南の大陸で立ち上げて貰うことで、今まで通りの真面目な商人を装って貰うことにしたよ。
これで、建前上はハネムーンに来たエスティア王国夫妻と、その仲間達が北の大陸から来た商人の館に間借りしている状況が出来た訳だね。
ーーー
「ヒカリ、他に準備することが無ければ、一緒に特訓をしたいのだが。どうだろうか」
「うん。今日はユッカちゃんのタコ丸パーティーの準備があるから、その合間でも良い?」
「あ……。その……。その準備は、ヒカリが行う必要があるのか?」
「いや?誰でも良いけど。どうして?」
「ユッカちゃん、シオン、リサでは、訓練がはかどらない」
「何の訓練?」
「身体強化レベル2と念話に決まってるだろう」
「えっ?」
「両方とも、未習得の状況だ。だが、そんなに早く出来る物ではないだろう?」
「念話の方が早そうだけど、身体強化を先に身に付けた方が、いろいろ便利だね」
「では、身体強化レベル2を習いたい」
「フウマやクレオさんではダメなの?」
「フウマはハピカさんの所で種々契約の取り決めに動いて貰っている。
クレオさんは例の冒険者ギルドの件があるから、疑われない様に真面目に、尚且つ控えめに行動して戴いている。そのため、毎日一度は何だかんだと理由を付けて、冒険者ギルドに顔出しをして貰っている」
「そっか。クワトロは?」
「母の専属トレーナーになっている。
母が人を信用して、教えを乞うのは非常に稀だ。クワトロさん以外にあの役目を果たすことができる人物がいるとは思えない」
「そう……」
「嫌なのか?」
「ううん」
「では、何故、先ほどから煮え切らない返事なんだ?」
「私の教え方が下手だから、上達しなかったら嫌だなって思った」
「教わる側の責任もあるだろう」
「まぁ、いっか。やって見よう」
「よろしく頼む。何から始めれば良いんだ?」
「知識と呼吸方法かな」
「呼吸法の知識を覚えるということか?」
「ううん。体の仕組みを理解することだよ」
「それが何の役に立つんだ?」
「じゃぁ、覚えなくて良いから、自分で考えて」
「出来ないから聞いているのだろう?」
「良くわかんないよ。教える方が良いの?自分でやるのが良いの?」
「まだ何も始まってないだろう」
「まだ、何も始まって無いのに、なんで私が問い詰められてるの?」
「それは誤解だ。判らないから聞いているだけだろう」
「頭で理解して、それを自分でイメージできることが重要。
そのためには、理解するための知識が必要なんだよ」
「最初からそう言えば良いじゃないか」
「う~ん。リチャードが使える魔法って何があるの?」
「身体強化、隠密行動。この前、ピュアも習った」
「それだけ?」
「俺は宮廷魔術師ではないし、魔法を使う家系でも無い」
「ピュアは誰に習ったの?」
「ユッカちゃん」
「どうやって?」
「『体表面の汚れを、掛け声とともに除去して』って思い浮かべて唱えれば良いと聞いた。
皆と同じ効果が発動しているか判らないが、シャワーを浴びずともスッキリした感じになるので、成功していると思うが?」
「どうして体の表面が汚れたり、汗臭くなるか聞いた?」
「知らない。汗が乾けば臭くなるのは当たり前だ。それがどうした」
「汗にはいろいろな成分が含まれていて、それが分解されたりして臭くなるんだよ。含まれる成分は体質にもよるし、出た直後の汗は臭くない場合もあるんだよ」
「ヒカリが何を言っているのか良く判らない」
「う~ん、う~ん、う~ん……」
「どうした?」
「リチャードは、医学の勉強はどのように習いました?」
「『イガク』とは何だ?」
「体を治療したり、病気にならないようにする学問の総称かな」
「呪いは呪術師が解く。
ケガは血を止めてから薬を塗る。
骨が折れた場合には痛み止めと添え木だ。
それ以外のイガクは知らない」
「お腹が下ったり、虫歯になったり、肺の病気になった場合には?」
「水が腐っていたり、毒を盛られれば腹は下す。仕方あるまい。
ムシバがなにか判らない。
肺の病気は呪術師に頼んで治らなかったので、死ぬところだった。ヒカリの故郷の薬を用いて治療してくれたのだろう?」
「う~ん。いろいろとごめんなさい。
隠しているつもりは無かったけれど、知識の差が大きすぎるね。
私が使える魔法は、本当はごく一部だけでさ。魔法の様に具現化しているほとんどの現象は、体系化が進んだ科学知識を応用して、魔法と融合させているに過ぎないんだよ」
「ヒカリの魔法は科学の知識が必要ということか?」
「簡単に言うと、そういうことだね。
ステラやフウマが習得した魔法体系とは考え方が違うかもしれない」
「わかった。ヒカリの科学と呼吸に関する知識を教えてくれ」
「うん、じゃぁ……。
そういうことなら、買い物とかの用事は他の人に頼まないとダメだね。
それと、折角だからリチャードに教えながら、紙に書いて残しておいた方がいいね」
「ああ。ヒカリに全て任せたい。必要なことは何でも言って欲しい」
「うん。明るい部屋を貸し切って、食事も全て運んでもらおう。
しばらくは、科学と生体の勉強からだよ」
久しぶりに紙を使っての勉強だ~。
パソコンが無いと不便だよね~。
念話ならぬ念写とか出来れば良いのに……。
ただ、そういう技術体系の具現化って難しそうだよな~。
そのうち、ゆっくり考えることにしようっと。
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