第57話 生きる道~婚活
翌日、ローザはできる限り着飾った。
なんだか不安そうなアイリーンに頼んで、ドレスを着付けてもらい、髪も結ってもらった。
「あの、あのね、ローザ……」
アイリーンは何回もなにか言いかけたが、ローザは真面目でキリッとした表情を崩さなかった。
だって、自分には何もないのだもの。……とローザは結構真剣だった。
アリスではないが、生きていくのは大変だ。
どうしてだか、ケネスのことは好きだったが夫として考えると、なんとなく嫌だった。それにヴァイオレットがいる。両親もヴァイオレットとケネスの結婚を望んでいる。
アレク殿下は嫌いではなかったが、彼は王子様だ。結局、雲の上。タメ口きいても、あれは理由があったから。殿下のことは考えてはいけない。ちゃんと前を見よう。
自分も努力しなくては。いろいろあったけど、振り切らないといけないと思う。
「場所はどこなのかしら?」
どこか不安そうなアイリーンが聞く。
「エドワード様が案内してくださるそうなの」
二人が休みなので静かな女子寮を出て歩き始めると、物陰から人が出てきた。令嬢二人はびっくりした。
「誰?」
アイリーンが悲鳴のように聞いた。そこにいたのはケネスだった。
「ローザ!」
ローザは驚いた。
「ケネス……何をしているの?」
ケネスは口ごもった。
「ローザ嬢、あなたを待っていた」
ローザは不思議そうな顔をした。今まで、ケネスにローザ嬢と呼ばれたことがない。
「あなたが、アレク様と帰って来てから2週間ほどたつが、どうしても聞きたい。アレク様と一緒だったが、何もなかったのか? 親善パーティでは、アレク様が相手にあなたを選んでいたが」
さみしそうな微笑みがローザの口元に浮かんだ。
「何もないわ。私には膨大な魔法力があって、アレク様はそれが必要だっただけ。仕事のお手伝いをしました。エドワード様達と一緒に」
「本当か?」
「本当よ。アイリーンも知ってますわよね?」
「……ええ」
「それなら……僕との婚約はどうなったのだ?」
「それは、両親が、私とではなくヴァイオレットと結ぶと伝えてきました。私は細かい経緯は知りません」
「前にも言ったように、僕はあなたを婚約者にしたい。あなたと結婚したい。ヴァイオレットとではなく」
ローザはわからないと言った様子を示した。
「でも、婚約は親が決めたもので、私にはどうしようもないのよ」
「僕の両親は話をして、結局僕の意向を通してくれた。だからあなたのところにも当然婚約の話は来ているだろう?」
ローザはびっくりした。
「知らないわ、ケネス。それは本当? 両親から連絡はないわ」
ローザは突然気が付いた。この二週間、戻って来てから両親から本当に手紙一通届いていないことに。
「私も両親に連絡していなかったわ。でも、ずっと何も届いていないわ。おかしいわね」
ケネスは険しい顔をして一歩近づいた。
「そう。おかしいと思う。なにしろ、一月前に婚約の届けを王家に申請したのだ。それなのに、なしのつぶて。返事がない」
ローザはケネスの剣幕に押された。
「ローザ、君はこれからどこへ行くの? 着飾って」
「ローザ……」
アイリーンが懇願するように小さな声で言った。ケネスの様子が真剣だと気が付いたのだ。
だが、ローザは嘘を言うつもりなんかなかった。彼女の決意なのだ。
「アレク様に私の結婚相手を紹介してくださるようにお願いしたの」
ローザは淡々と言った。
「ケネスはヴァイオレットと婚約すると聞かされました。私は結婚する相手がいなくなったので、お知り合いの方を紹介してくださるようにアレク様にお願いしたの」
「それは間違いだ!」
ケネスは怒鳴った。
「行くな!」
「お迎えに上がりました」
だが、その時、涼しげな声がした。世の中すべて予定通り、何の問題もないと言った様子のエドワードが現れたのだ。
「さあ、ローザ嬢、馬車に乗ってくださいませ」
「どこへ連れて行く気だ、エドワード!」
エドワードはなめらかな顔の表情を少しだけ曇らせた。
「ローザ嬢のご希望で、適当な殿方をご紹介させていただくのです。まあ、あなたは関係ないかと」
「関係大ありだ! 婚約者だ!」
「認められておりません」
さらりと返事が返って来た。
ケネスの剣幕もエドワードには通用しなかった。御者も騒ぐ若者を無視した。
そして彼らはローザを乗せて行ってしまった。
「あの、ケネス様……」
アイリーン嬢が、残されて呆然としているケネスに声をかけた。
「今日は会うだけだと聞いています。気に入らなければ、ローザ嬢は断るでしょう。相手も合わないと思ったらお断りに……」
「ローザを断る男なんかいない」
ケネスはうめいた。
「全然、気が付いていない。僕が最初から大好きだったことにも、どんなにきれいだと思っていたかもわかっていないんだ」
アイリーンは思わずほろりとした。いや、全くその通り。
「ローザは控えめで、嘘もない。でも、ただ思いやってくれるだけ。ヴァイオレットのせいで身を引いてしまった。挙句、ほかの男だなんて。どうして僕に執着してくれないんだ」
執着……。
その頃、ローザは相当緊張した顔をして馬車に乗っていた。
「迎賓館で会う予定です」
エドワードは横のローザを盗み見た。緊張しているせいか、あんなことがあった後でも、あまり顔の表情は変わっていない。ピンと張りつめている。
そして、どう見ても完ぺきな美貌だった。
「レミントンの若様は本気でしたね」
エドワードは思わず言った。
「彼の本気をご存じだったのではないですか?」
ローザは返事をしなかった。ケネスは幼馴染だ。よく知っているし彼が心を痛めるようなことはしたくない。
だが、今は馬車に乗り、迎賓館で降りている。
ケネスを奪ったらヴァイオレットは悲しみ、怒るだろう。父も母も怒るだろう。
「今からお目にかかるのを断れるのでしょうか? 私からアレク様にお願いしたと言うのに?」
エドワードは首を振った。
「そうですね。断れません。今から会っていただく方は、ご身分も、ご容姿も、将来性もある方です。実は、十分に賢明で鋭い頭脳の持ち主でもある」
ヘンな誉め方……とローザは思った。実は賢明でって、なんなんだろう。見た目、そうではない方ってことかしら。
彼は、奥の部屋にローザを案内した。
なんだか胸がドキドキする。
「お連れしました」
敬語? エドワードの同僚ではないの? もっと身分のある方なの? それとも年上の方?
部屋のドアが開けられると、暗い廊下に比べて明るい光が一杯に広がり、まぶしくてローザは一瞬誰がそこにいるのかわからなかった。
「ローザ」
仏頂面で、少し拗ねたような声を出した人物は、アレク様だった。
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