第51話 レオ殿下の釈明
二十年ぶりの再会を果たした恋人たちは、お互いにお互いのことしか目に入らないようだった。
最初からアリスを乗せて帰るつもりで大型馬車を用意したらしい。レオ殿下は、自分の居城にアリスを連れ帰った。
「まあ、レオ殿下の様子は、今から考えてみれば、おかしなことだらけでしたからね」
エドワードがあきらめたように言いだした。
「レオ殿下は、魔女の城の話とアリス様を絡めて口外したことはありませんでした。だから誰も想像がつかなかったのです。もちろん、アリス様を失ってからの殿下の行動は苛烈を極めましたけど」
二人の恋人が小さな町の宿を出て行ってしまってから、エドワードが言った。
「何しろフィロッツイ公爵家の義母と義妹は、今、行方知れずになっていますし、父の侯爵は強制的に隠居させられて殿下の監視下にあります」
「何の罪で?」
「表立っては、レオ殿下は何もしていません。義妹がアリス様のことをおかしくなってしまったと言いだしたのは、まずかったですね。半分は血がつながっているわけですから。おとなしくアリス様とレオ殿下の結婚を認めればよかったのに。良い縁戚があれば箔が付きますからね。それにエメリン様は母上の身分が低すぎて、王弟殿下との結婚など、そもそも無理です。本人が何を勘違いしていたの知りませんが、レオ殿下は徹頭徹尾、絶対に結婚するとは言わなかったですし。仕方がなくて婚期を逃す直前に、あまり条件がいいとは言えない家に嫁いで……」
「それで?」
エドワードは言葉を濁したかったらしいが、アレク殿下が促すので仕方なく続けた。
「自業自得です。エメリン様の嫁ぎ先は地方の貧乏男爵家でした。両親の目を離れたエメリン様は浪費し、父の侯爵が何回か穴埋めをしたそうですが、結局離縁されました。その後、老年の金持ちと再婚しましたが、若い男と不倫に走り散財したので、夫の実子たちが騒いで問題化して、結局すぐ別れました。侯爵家は賠償金も払ったようですよ。これで侯爵夫婦の仲も気まずくなって、義母の方は別居してどこかへ行きました。エメリンのせいで侯爵家は多額の借金を抱えて破産し、そのため監視下に置かれているのです」
「義妹のエメリンは、今、どうしているのですか?」
エドワードは肩をすくめた。
「知りません。わかりません。誰も知りたくないでしょう。殿下は把握しているかもしれませんが、黙っているところを見ると、いい運命だとは考えられませんね」
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しかしながら、国王と王妃はカンカンだった。
もちろんレオ殿下に対してである。
無理もない。自分の恋人を取り戻したいばっかりに、彼らの大事な息子を危険な目に合わせたのだから。
「アレク王太子殿下の強大な魔法力は稀にみるものでございました」
レオ殿下は、全力で兄におもねった。兄と言っても、タダの兄ではない。国王陛下である。
「完全なる黒の魔法。歴史上、稀に見るお方でございます」
彼は力いっぱいアレク殿下を持ち上げた。
この糾弾会には、当事者のアレクとローザ、それにお供したエドワード以下騎士数名、およびレオ殿下の婚約者のアリスが参加していた。
「しかし、殿下の魔法力は完全過ぎて、魔女の王国を感知できないのでございます」
「意味が分からないわ。完全な魔法力なら、何でもできるんじゃないこと?」
王妃が不機嫌そうに尋ね、国王陛下の方は、うさん臭い魔女の王国と言う言葉に引っかかった。
「その魔女の国とはなんじゃ」
「完全に幻の国でございます。心の弱った者、運命に翻弄された者、そう言った者のうち、幾ばくかでも魔法力のある者なら、その存在に引き込まれる」
「それはあまり良くないもののように聞こえますけれど?」
王妃の眉根には完全に縦じわが入っている。普段ならしわを嫌って、出来るだけにこやかに顔を作っているのに、それも忘れているようだ。王妃様、怖い。
「さすがは王妃様! 実はその通りでございます」
褒められた途端に、王妃の眉間のしわが深くなった。危険地帯確定ではないか。なぜ、そんな所に息子を行かせたのだ。
「私はアリスの父の侯爵を問い詰めて、修道院のありかをようやく聞き出しました。ですが、修道院に送られてからすでに一年近くが過ぎており、アリス嬢は数ヶ月か前に行方不明になっていたそうです。祈祷書から地図を見つけた、その場所に行きたいと言っていたと……私は修道院の告解師を締め上げて、その話を聞き出しました」
物理的に締め上げたに違いない。レオ殿下は割と肉体派の体つきで、武芸全般が得意だった。
「そんな変な魔法の国の存在など聞いたこともないぞ?」
「アリス嬢以上の魔力の持ち主でないと、感知することが出来ないのです。私は国中に網を張りました。しかし、そんな魔力持ちはいなかった。私は絶望しながら待ちました。やっと引っかかったと思ったら、王太子殿下で、黒の魔力持ちでアリスの捜索には全く役に立たない……」
「こら。役に立たないのなら、連れて行かなければよかったではないか」
「稀に見る魔力量ではございますが、戦闘力ばかりで、さすが男というべきか、夢見る乙女的な感知能力は徹底的にございませんでした。私は心の底から、がっかりしました」
「男なんだし、当たり前だろう!」
陛下が不満そうに言ったが、レオ殿下には効き目がなかった。
「そこへ、一年違いでアリス嬢同様の白の魔女が見つかったのでございます!」
「そこだ。なんで、アレクが必要だったのだ? 王太子は役に立たないのだろう?」
「白の魔力持ちが城を探し出し、黒の魔力持ちが城を破壊するのです。二人がセットでないと戦えない」
「どういう意味なの?」
「ローザ嬢がアレク様に、敵の場所を教えるのです。彼女なら視えますから。アレク様はお強いけれど、魔女の存在を感知できない。この二人がそろえば問題ありません」
「相手は魔女だぞ? 問題あるだろう? 王太子の代わりに強い騎士を五十人ほど連れて行けばよかっただろう」
「魔法力を持たない人間は、幻覚を食らいます。幻想を見せられた騎士たちは、逆に魔女の味方になるでしょう」
王と王妃は黙った。魔女と言うのは、嫌な存在であるらしい。
「普通の騎士では戦えない。白の魔女の影響を全く受けないヒトはいない。戦えるのは、白の魔女の魔力を凌駕するほどの黒の魔力の持ち主だけです。影響を受けないからです。言ってみれば、アレク様は驚異の、無敵の鈍感力の持ち主です」
「俺の特技は鈍感力だったのか……」
アレクはぼやいた。




