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地味・ボンヤリの伯爵令嬢、俺様系王太子殿下と魔女討伐に抜擢される ~残念鈍感美少女が単にイロイロ巻き込まれるだけの話  作者: buchi


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第45話 溶ける城とローザの魔力

床の大理石の模様はあいまいになり始めた。

壁の金の飾り模様は、輝きを失い始め、色合いがだんだん灰色になって行き、階段が縁からとろけだした。


「早く! 早くここを出るんだ! ローザ!」


「わ、私、お城を持ちこたえられるわ」


持ちこたえなくていいから!

ローザなんか力もなにもない。何もできないはずだ。


「ダメ!」


ローザは上に向かって手を差し上げた。


「なに?」


上を見上げた。シャンデリアの鎖が切れて頭上に落ちてくる。


キラキラ輝くガラスのカケラが、バラバラになって鋭い切先を下に落ちてくる。



ゆっくりと。



「真ん中に……あるわ」


アレクは目を疑った。落下スピードがおかしい。なぜ?


「ひとつだけ、本物があるわ」


シャンデリアは煌めきながら、ゆっくりと粉々になり消えていって、最後にひとつ小さなダイヤモンドのようなものがローザの手のひらに落下した。


「本物? なんだそれは?」


「わからない。でも、アレク、ここを出ましょう! 私はこの城の崩壊をゆっくりさせることが出来るけど」


「いや、そんなサービスしなくていい!」


なんでそんなこと、したがるんだ。こんな城、全部壊れてしまえばいい。


「怖いわ。いきなり壊れたら影響が怖い。ここだけではないかもしれないわ」


何言ってるんだ!


「早く出よう! 俺はここが嫌なんだ」


アレクはローザをつかんだ。少なくとも缶詰分は、荷物は軽くなったはずだが、十分重い。


ローザも重い。抱き上げて走るだなんてとんでもない。無理だ。


「走れ、ローザ」


入り口の重そうな扉はローザが指さすと、もう半分溶けかけているのに、自ら開いた。


正面玄関の階段も、溶けかけていたのに、ローザの足がつくところだけ白大理石の感触をくっきりと浮き立たせた。

アレクは驚きながら、そのあとを踏んで走った。


「ここから離れて!」


城の外に出て、アレクが城を振り返ると、ローザがアレクに命令した。


城はゆっくりと崩壊し始めている。


まず尖塔の先の方がぐにゃりと曲がり、やがて溶けるように崩れ始め、ゆっくりと形を歪めながら倒れていく。


城本体も真っ白に輝いていたものが、だんだんと色あせていった。白から灰色にやがて全体が薄くなり始めた。


「薄く?」


アレクは自分の目が信じられないと言ったように城を眺めていた。


今や城は歪み、ゆらゆらと陽炎のように揺れていた。


庭の花は、造花のように固くなり灰色に枯れていき、しばらくすると砂になって、あたりにさらさらと散らばった。


アレクはローザの顔を見た。


ローザはぼんやりで間抜けなはずだった。

ただただ可愛い、何も出来ない愚かな娘のはずだった。


だが、今、アッシュブロンドの髪をなびかせ、城の方に向かって立っている彼女の姿は、まぶしかった。


まるで時が止まったようなシャンデリアの落下、彼女の足が踏み出すたび、溶けかけた大理石の床や木目模様がはっきりと質感を取り戻すさま、アレクは初めて目にする白の魔法の威力に呆然となった。



「大丈夫か? ローザ?」


彼女は城から目を離さなかった。最後に手を振ると、それに何か意味があるのかアレクにはさっぱりわからなかったが、少し空気が震えて城が揺らめいたように見えた。


「けがはなかったか?」


ようやくローザはアレクの方を向いた。そして、今、気が付いたと言うようにアレクの顔を見た。


「私はびっくりして転んだだけ。爆風はアレクの風のせいで反対側へ流れた」


アレクはほっとした。なんだか、ローザが遠くへ行ってしまったような錯覚にとらわれていたのだ。


「ケガしてないか?」


チラっと見ると、手から血が出ていた。


「ローザ! 手から血が!」


「あ、大したことなのよ。缶のかけらが飛んできて……」


ローザが、厳しい表情をちょっとゆるめて、アレクの方を見て笑ってみせた。


ああ、いつものローザだ。アレクはホッとした。


「あの、私、よくわからなくて……。きっと、石油じゃないのね。あれきっと、ガソリンってヤツよね? 違い、分かんないんだけど」


アレクは固まった。


こいつは戻ったら、猛勉強させなくてはいけない。


いくら魔法が使えても、元が誤認識していたら、使えるものも使えない。


ガソリンだとわかっていたら、さすがのアレクも容赦なく火を放ったかどうか。




城は今や薄くなって陽炎だとしても見えにくいほどだった。


そして、周りからゆっくりと灰色の荒野がぼやけ始めた。


「ああ……元に戻っていく」



だが、城の跡には、一人の女がこちらを向いて立っていた。

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