第37話 地図作り
ざっとそんな感じ?
そんなアバウトな冒険旅行、行きたくねえ。
アレクは大抵抗して、今回ばかりは心からローザも賛同した。
「大体、何のために魔女狩りなんか再開するんですか? ほっとけばいいでしょう。どっかの別世界で勝手に平和に暮らしてるんだし?」
アレク殿下がんばれとローザは小さくこぶしを握り締め、目で彼を応援した。しかしレオ殿下は完全無視した。
「今の地図を羊皮紙製の地図と突き合わせ、目的がどこなのか確認しなければ、冒険の旅には出られない。まず、そこから始めよう! それでは私は出かけてくる! 頑張ってくれたまえ!」
レオ殿下はそう言うと、黒のマントをさっとひるがえし、部屋を出て行った。
出かけて来るって、どこへ?
あとには、目を丸くしたアレクとローザと、半目になり諦めモードのローゼンマイヤー先生、それと常に変わらぬ無表情側近のエドワードが残った。
「そんな訳の分からない戦いなんか、俺は行かない」
「私も! 私も! 行きません! 勉強がしたいの!」
「お前は行けよ。白の魔女だろ?」
それに勉強したところで、たいしてできそうもないし、と言いたかったがそこは我慢した。
「ちょっと、黙っててくれます?」
エドワードがイラつき気味に言ったので、ふたりは黙った。
目印はないわけではなかった。羊皮紙製の地図の作成年が不明だが、何枚か古地図と照らし合わせると、大体の場所は判明するらしい。
「川の蛇行の変更や、森の消失があります。今ではここら辺は村や町になっています。多分、目的地はアトス山のふもとのようです」
ローザとアレクは意外そうに顔を見合わせた。
アトス山は、全然奥地ではない。神秘性などカケラもない場所柄だった。
「エドワード様、それは間違いないのですか?」
ローザが念押しした。
「どうして、王太子様の俺にタメ口で、側近のエドワードにはちゃんとしたしゃべり方なんだ?」
ローザはこの抗議は無視した。
「まあ、羊皮紙の地図が正しいとするならですが? 目的地と書かれているんですよね?」
地図に関しては全責任がローザにある。ローザは黙っていたが、ついに言った。
「その羊皮紙の地図は、わかりやすいのですわ。ココ! とか、後1日とか、門を入ってスグ! とか、注釈がありますの」
エドワードが変な顔をした。
「妙に親切ですね。ウェルカム!とかも書いてありそうですね? まさか、そんなはずは……」
「よくわかりますことね? この地図のタイトルがまさにそれですわ」
エドワードとアレクが、イヤそうな顔をしてローザの顔を眺めた。
「本当です! 書いてあるの! どうして私がそんな作り話をしなくちゃいけないの?」
「だって、この地図を重要だと言ったのがお前だからだ」
理路整然とアレクが指摘した。
「……この地図は光るのですもの」
光る?
「俺にはわからん」
「実は私にもです」
アレクはうさん臭そうに、エドワードは無表情のまま、ローザを見つめる。
ローザは困った。
ほんのり光るし、あたたかい。優しい感じがする。
「それに、この地図に悪意は感じられないのですもの」
ローザは解説を試みたが、アレクはまるでレオ殿下を見るような目つきでローザを見返した。
「あのな、モノには悪意も好意もないぞ?」
「それは……その通りなんですけど……」
しばらく黙っていたが、エドワードが言った。
「仕方ない。王弟殿下のご命令です。とりあえず、地図を完成させましょう」
エドワードが地図をどうにか現在式の地図に写し代えて、チームリーダーのレオ殿下に報告しに行くために部屋を出ていくと、アレクとローザはぐったり伸びた。
ローゼンマイヤー先生は授業があるとか言って、これまた部屋から出て行ってしまっていた。
部屋に残ったのは二人きりになった。
「やっぱ、その地図、偽じゃないか?」
アレクが根本的な疑問を口にした。
「うーん……」
ローザも返答に窮したが、そう言いながらもアレクはお付きに命じて、お茶の用意をさせた。
「一息入れよう。うんざりだ」
侍女が運んできたお茶は、とてもいい香りだった。
「すてきな香りのお茶ですわね」
「いいだろう? こっちのマカロンもお気に入りなんだ」
「いただいてもいいのですか?」
「もちろん。俺はピスタチオがお気に入りなんだ」
「こちらのピンクのは?」
「イチゴじゃないよ。ラズベリー」
「まあ、おいしそう!」
すっかりくつろいで、アレクはダンスパーティの話を始めた。
どういう訳だか、アレクがローザはとてもきれいだったと賛辞を呈したので、ローザも用心深くアレクを誉めておいた。
なんだか知らないが、魔女退治のパートナーに推されている。一緒に行かなくてはいけないらしい。むやみに機嫌を悪化させない方がいい。
それに、態度はこんなだが、とにかく王太子殿下には間違いない。あまり失礼なことを言って機嫌を損ねられたら、あとが面倒だ。
そんなわけで、なかなか和やかに会話は進んだ。
話してみるとアレク殿下は、バカでもなければ人が悪い訳でもなさそうだった。
やはり、ご身分柄か少々強引だし、ローザに対する話し方はぞんざいだが、実は意外に相手の反応を緻密に観察している。
彼は、ローザをきれいだったとほめはしても、衣装代の話は出さなかった。
一緒に踊った上級生のこともよく知っているようだったが、アレクは噂も悪口も言わなかった。くだらない話はしても、余計なことはしゃべらないらしい。
へえ……。
とはいえ、アレクは陽気で楽しそうだった。
ローザも釣られて笑い、よくしゃべった。
無遠慮にガチャリと言う音がして、ドアが開いた。汗ばんだエドワードがチロリと恨めし気にテーブルの上を眺めた。
「あ、エドワード、一つどうだ?」
あわてて殿下が声を掛けた。
「後でいただきます。レオ殿下と国王陛下と王妃様に説明をしてまいりました」
冷たい声音でエドワードが言った。




