第35話 魔女退治の依頼
「なーにが、シンデレラよッ」
怒り狂ったローザは、そこらで拾った小枝を殿下に投げつけた。小枝は殿下に届く前に地面に落ちた。
「いや、なにすんだ。俺は王子様だぞ?」
「なによ、そんなモノ」
白の魔女は、黒の騎士に向かって、次はもう少し大きい小枝を投げた。
「それに、永遠の別れみたいなこと言って、翌日には会ってたじゃないの」
殿下はふくれた。
「俺にわかる訳ないじゃないか。スケジュール決めるのは叔父上だったんだから」
「じゃあ、わからないって言えばよかったじゃないの。あんなにもったいぶらないで」
殿下は目を輝かせて聞いてきた。
「え、でも、ワクワクしなかった?」
「全然!」
わかってみれば、そんなロマンチックな話ではなかった。はっきり言ってろくでもなかった。
もう二度と会えないとか言われると、ちょっと寂しいかなと思った自分がバカだった。二度と会えないなら厄介払いだ。今、ローザは本気でそう思っていた。
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親善パーティーの翌日、早々に呼び出されたローザは、アレクの叔父の王弟殿下から、今後の魔女退治の要領とスケジュールの説明を受けた。
「魔女退治??」
「さよう。魔女を退治する」
魔女? ローザは顔面蒼白になった。
「え? 私にできる訳ないじゃないですか? そもそも魔女って誰ですか?」
「それがわかれば苦労はしない」
なんだとぅ? 正体がわからないだと?
「そんなものの退治は出来ません!」
ローザは、キッパリはっきり断った。
他に誰か適任がいるだろう。
冒険者とか、勇者とか、騎士団とか、何のためにそう言う単語が存在すると思ってるんだ。
「わからないのには理由があってね」
レオ殿下は、ローザの拒否が聞こえなかったかのように話を続けた。
「見えないんだ」
「見えない?」
ローザは露骨に嫌な顔をした。
「余計にお断りです。私が何かの役に立つとはとても思えません!」
「いやいやいや。何のために君を呼んだと思ってるんだ」
「もうちょっと、筋肉質だとか、頭が働くとか、いろいろ素質があってもいいと思います。どこ行くのかわからないなら、キャンプに慣れてるとか、アウトドアのプロとか」
なぜかここでレオ殿下の顔が緩んだ。
「いいこと言うね! そうなんだよ。もう一人、そのための人材を用意した」
ローザはどうしてか、第六感が働いた。きっとロクな人材じゃないに違いない。
部屋の外から数人がゴソゴソやってくる音がして、誰かが叫んだ。
「行きたくない!」
聞いたことのある声だった。
ヤバい。
あれは、役に立たない気がする。
案の定、連れてこられたのは、アレクだった。
「俺は騙されたんだ! 王家の隠された宝を探しに行くって言われたんだ! なら、いいかって」
「アレク様だけですか? エドワード様とかは?」
有能エドワードの方が、このわがまま王子より、よっぽどマシだ。
「二人きりです。いいですか、アレク。こちらの美人を美人だからって、途中で襲ってはいけませんよ」
「俺はそんな真似はしない!」
いや、わからない。
なんだか知らないけど、この王子は、ちょっと危ない気がする。昨夜も調子に乗ってペラペラ訳の分からない事をしゃべっていた。
「ほら、ローザ嬢が怪しそうな目付きで見てます」
「あ、ですから、私は遠慮します! 学園で一生懸命、勉学に励みたいと思います」
「却下」
レオ殿下が一言で片付けた。ものすごく模範的回答だったのに!
「ダメです。あんたがいなきゃ話が始まらないんだ。魔女が見えるのは、あんただけだし、地図が読めるのも、あんた一人だからね」
何の話?
「ちょっと、アレク様、地図が読めないのですか?!」
ローザは思わずアレク殿下に食ってかかった。もったいぶって、いろいろ出まかせ言うくせに地図記号を知らないだなんて、どういうこと?
「バカにするな! 地図くらい読めるに決まっているだろう! ただ……」
彼が指したのは、この前、ローザが引っ張り出してきた魔道具の地図だった。
「こんな白紙のどこが地図だ」
何を言ってるの?!
ローザは呆れかえって、アレクに説明を始めた。こんな簡単な記号さえわからないのかしら?
「これが城で、こっちが森。この地図によると、この森を超えて山に入って少し行ったあたりに、目的地がある」
「へえ」
レオ殿下とアレク、ローゼンマイヤー先生、エドワードまでが、感心した。
「森のマーク、城のマーク、わからないの?」
「だから言っている。この地図は白紙だ」
アレクがキレ気味に主張した。
「説明しましょう」
エドワードがさわやかに引き取った。
「つまり、全員、あなたが地図だとおっしゃる羊皮紙に何が書かれているのか、インクの色が見えないのです。真っ白です。ま、黄ばんでますがね」
「え? 嘘。なぜ?」
「もちろん、わかりません」
エドワードが優雅に微笑みながら答えた。わからないのを自慢するな。
「一事が万事、そういうことだ。あんたは人には視えないものが視える。だが、地図は特に重要じゃろう。これで、ようやく目的地がわかった。これまで行き先がまるでわからなかったんじゃから」
ローザは、ぞーっとした。
「行き先もわからない魔女退治なんか、出たくありません!」
「いや、今、行き先がわかったのじゃ」
「冗談もほどほどにしてください!」
さっとエドワードが、現在の地図を出してきた。
「なにしろ、三百年は前の地図と思われます。現代の地図と照らし合わせないと、たどり着けないでしょう。町の名前も変わっているかも知れませんし、森は伐採されているかも知れないし、橋なんかは確実に掛け替えられていると思います」
全員が熱心に新しい地図を覗き込み、それから、ローザの顔を期待を込めて見つめた。彼女が何か答える場面なのか?
「え? ……えと。では、まず、お城の位置ですが、それは変わっていないのですね?」
「三百年前、城の中心は今より二十キロほど北ですね」
「北? 北ってどっち?」
「地図の場合、普通は上です。つまり、この位置より昔は上に城はあったということですね。逆に今の城は、羊皮紙の地図の場所より下になるでしょう。ただし、三百年前の地図が今と同じ決まりで書かれているとすればですが」
あいにくローザには、理解不能だった。
「要するに目的地は城から見て、どっち側なんだ?」
いらだったアレクが聞いた。
「こっちよ!」
勢いこんでローザは羊皮紙の一点を指したが、全員が沈黙した。
「その地図が見えないって、今、説明したとこだろ? 新しい方で言えよ」
アレクがキレた。
「新しい方の地図だとどこになりますか?」
エドワードが優しく尋ねたが、ローザは沈黙した。城の場所がずれている? どれくらい?
なんとなく沈黙がその場を支配した。
「わかりました。三百年前の地図を探してみましょう。その間に、レオ殿下から、今回の旅の概要の説明を受けてください」
要領のいいエドワードが話を回収した。
「こいつ、やっぱり、バカだ」
アレクが口の中でつぶやいた。
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