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地味・ボンヤリの伯爵令嬢、俺様系王太子殿下と魔女討伐に抜擢される ~残念鈍感美少女が単にイロイロ巻き込まれるだけの話  作者: buchi


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第34話 婚約破棄の裏事情

アレクが何を言っているのか、ローザにはわからなかった。嬉しそうで、優しくしてくれたが、あまりの訳のわからなさにローザは、不安になった。



王太子とダンスをした後、ローザはみんなから注目された状態で、家族がいるところへ戻ることになった。


にぎやかで熱気あふれる会場なのに、彼女が歩くと、そこだけがまるで冷気が通っていくようだ。

見て見ぬふりの熱い視線や、ひそひそと何事かをささやく声などが後をついて回る。


王太子とはそんな存在なのだ。権力であり、誰しもが媚びへつらう。気に入りになれれば、と誰もが淡い期待を寄せる。そして気に入られた者は羨望とやっかみを受けることになる。


エドワードは誰もが認める優秀な人物で、何事もそつなくこなしてきた。王太子も気に入っている。彼の実力は誰もが認めている。

だが、ローザは……取り柄は美貌だけのマヌケと評判の娘だ。当然、パーティー参加者の視線は冷たかった。


だが、家族と一緒なら心安らぐのかと言うと、そんなことはなかった。



家族とは、母と妹の他にケネスが一緒だった。三人はひとかたまりになって、ローザを待っていた。


「どう言うことなの? あれは?」


母が開口一番、聞いた。


「あれって?」


答えはわかっているようないないような。アレクのことだろう。


「さっき一緒にいた男性ですよ? 名前は?」


「……アレク様」


「誰なの?」


ヴァイオレットも聞いた。


ケネスは黙っていた。


ケネスは知っているだろう。


周りの生徒たちや関係者たちも、おそらくアレクの正体を知っていると思うが、口には出せない。彼らはローザたちの会話を、何事もなく穏やかに談笑してる風を装いながら、聞き耳を立てているに違いない。



従って、ローザだって言えない。


もし、アレクが王太子殿下その人だとローザが言ったなら、きっと、彼女が王太子に色仕掛けで迫ったのだと思われるだろう。人の口などそんなものだ。ジョアンナの時の事件で鈍いローザも学習したのだ。



「アレク様はアレク様です。魔法学で一緒になったことがあります」


ローザは大人しく答えた。


「アレク様と接点があったなんて……」


ケネスがポツリと言った。


母と妹が、さっとケネスを振り返った。


「誰だか知っているのですか?」


「アレク様とだけ知っております。いつも側近のエドワード様とご一緒です」


「側近?」


母は驚いた。


「ローザ、まさかアレク様と親しかっただなんて。なぜ、僕には黙っていたのですか?」


ケネスが詰問するように尋ねた。親しかったというのか、なんと言うのか。


「親しいわけではありません。何回かお目にかかったことがあります。今回のパーティは必ず出席せよと数日前に命ぜられました」


「……そうですか」


ケネスは、その成り行きに相当驚いたようすで、言葉を失ったようだった。


ケネスにケーキのプレゼントだの、無理矢理のお誘いだの、しゃべった方がよかったのだろうか。

ケネスに何かできるとは思えなかった。相手は王族だ。

多分、もう、むちゃくちゃになって、ローザの手に負えなくなることだけは確実だろう。

それに、アレクが本気でローザを好きだとも思えない。

もう、ローザには嵐が頭上を通り過ぎてくれるのを待つしか方法はなかった。王族の気まぐれと言う名の嵐である。


ケーキのプレゼントなんかささいなことだ。問題は衆人環視(しゅうじんかんし)の中のダンスだ。


確かに、これはアレクの横恋慕にしか見えない。ローザもそれは痛いほどわかっていた。しかし、この爆弾も彼女にはどうしようもなかったのだ。

他人に話すことは止められていた。絶対に友達にも話すなとエドワードが警告してきていた。

アレクの箝口令(かんこうれい)より、エドワードの警告の方が無碍(むげ)にできなかった。エドワードが冗談でそんなことをいう訳がないのだ。


かといって、アレクはえらく楽しそうだったが、別にローザのことを好きだとも何とも言ってきたわけではない。

王太子と言う身分柄、公言しにくいのかもしれないが、何も言われていないのでローザには彼の行動の意味が分からない。一体、どういう気まぐれでダンスなど強要したのだろう。


一方、母は、はっきりしたことを聞きたがった。


「どう言うこと?」


「そのままです。パーティは欠席の予定でした。ダンスも私の希望ではありませんし……」


ローザは、事実を言うしかなかった。


「ローザ、そのドレスはなに?」


ヴァイオレットが割り込んで聞いてきた。


「お父様にこっそりねだったの?」


「いえ、ねだったわけでは……」


「ひどいわ。次は私に貸してちょうだい。同じ姉妹なのに、なんてことなの」


ヴァイオレットは、自分のドレスを見やった。

ローザの凄すぎるドレスに比べれば確かに見劣りするかもしれないが、十分豪華なドレスだ。ローザは家でそこまで立派なドレスを作ってもらったことはない。


「こんなだから、ケネスが踊ってくれなかったのよ」


「婚約者というわけではないから、この場で踊るわけにはいきません」


ケネスがきっぱりとそう言うと、ヴァイオレットは苛立った様子だった。


「ローザには、そのアレクとか言う男がいるじゃない。どこの誰だかわからないけど。お姉様にはあの男で十分じゃないの。ケネス、あなたも見たでしょ? 随分、親しそうにしてたわ。あんなふうに見ず知らずの男と親しげにするなんて、淑女失格よ」


「お誘いされたら、断れないのですよ。ヴァイオレット」


ローザは静かな声で言った。


「なんなの? それ」


うち(伯爵家)がそんなことをするわけには参りません。ですから、今夜のところは、どうしようもなかったのよ」


「どう言う言い訳? 言い訳にもなってないわ」


「言い訳と言うより、事実のままですわ。私の力ではどうしようもなかったのです」


「お母様」


ヴァイオレットは、母親の方を振り返った。


「お姉様が壊れたわ。訳のわからないことを言い出したわ」


母の伯爵夫人は黙っていたが、ケネスに確認した。


「まさかアレク様というのは……」


「おそらく」


ケネスは頭を下げた。肯定のつもりだろう。


「ですから、ローザ嬢は断れなかったのでございましょう」


側近をつけざるを得ない。つまり、王族。今、学園に在学しているのは王太子殿下のみだ。


「ケネスの言う通りです」


ローザが肯定した。


「そのドレスは?」


「同様に、断れませんでした。作っていただいたものです」


母はびっくりしていた。本当に驚いていた。


ダンスのお誘いは、言ってみればタダだ。もちろん、影響は大きいが、王族の気まぐれという言葉が存在するくらいだ。


だが、これだけのドレスはタダではない。


それは強い意気込みと本気度を示すものだ。


「まさか」


「本気なはずがありません。私はアレク様ではなく、別な縁を探さねばなりません」


ローザは同じ静かな調子で続けた。


「ケネスは譲らないわよ!」


「ヴァイオレット、君も学園に入ってから決めた方がいい」


ケネスが言った。


「いろんな家の貴公子がやってくる。君みたいな美人なら、僕より条件のいい男性がいるかも知れない。僕は君の姉上が第一だった。昔からずっとそうだったのだ。学園に来ても、それは変わらなかった。だけど……」


ケネスは苦しげだった。


「まさか、こんなことになるとは」


「私の意思は関係ないのです」


重ねてローザは説明した。


「お母様、お姉様には、ちゃんとわかる話をするよう注意をしてあげてください。いつもボンヤリしている姉なんか、私が伯爵夫人になったときに困りますから!」


ヴァイオレットが不満そうに言った。


「静かにしなさい。ヴァイオレット。あなたも来年は学園に入るのでしょう?」


「そういえば、お母様、学園には私と二つ違いで、王太子殿下がおられるんですって! ケネスが意地悪言うなら私、王太子殿下狙いで行くわ」


ヴァイオレットがケネスを睨んでみせ、ケネスと母とローザは困った顔をした。



「でも、これで合点がいきました」


伯爵夫人が憂い顔でうなずいた。


「何がですか?」


母がケネスの耳元で何事かささやき、ケネスの顔色が変わった。

母はローザの耳元でも同じ内容をささやいた。


「ケネスとあなたの婚約は王家に却下されたの」


ローザは母の顔を見た。


それは……


「だから、ヴァイオレットとの婚約を進めたの。でも、しばらくは待ってみましょう。王族は気まぐれ。それに事情で動く。まさか、あなたのような美しいだけが取り柄の娘にこんな幸運が舞い込むとは」


お母様、それ、まちがってますから。


まず、幸運じゃないし、あの王太子と結婚とかそう言う縁は一切なさそう。次に……多分、私は彼らにとって役に立つ何かの特技があるらしいのです。

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