第20話 魔法の特別授業
「アレク様……」
ローザはびっくりしていた。特別授業は自分だけだと思っていたのに、部屋にはアレク様と側近だと言う噂のエドワードがいた。
「まあ。お二人とも魔法学の授業を受けられるのですか?」
「ええ、まあ」
エドワードは言葉を濁した。
「急に言われたんですよ」
アレクは普通の調子でローザに話しかけたが、直ぐに窓の外に目を逸らした。
強引は禁物である。無理に話しを続けない方がいい。
アレクは、ローゼンマイヤー先生がローザのために特別授業をすると聞いたので、その場に自分を呼べと頼み込んだのである。いや、もとい、命令したのである。
エドワードもこのプランに賛成した。特別授業なら、ほかに参加者がいないから噂にならないし、魔力の調査さえ終われば、授業に行かなければいいだけだ。
アレクが授業を受けなくなった理由くらいローゼンマイヤー先生が適当に考えてくれるだろう。ローザの魔法力の鑑定は、そもそも先生からの依頼なんだから。
ただ、なんだか主君のアレク様が、この白の魔女だとか言う少女に、本気の興味を持っているような気がして、どうも不安になってきてはいた。
部屋の二人が、黙って知らん顔をしているので、ローザは落ち着かない気分になってきた。
アレクのことはよく知らない。でも、一度泣いているところを見られてしまったことがある。気まずい。
そんな人と一緒の授業だなんて、なんだか微妙。
すぐに魔法学の助手だと名乗る、いかにも先生らしい男性が入ってきた。印象の薄い先生だなとローザは思った。
「お二人とも、そろいましたね? では、授業を始めます」
二人……と言うことは、あのエドワードと呼ばれている男は生徒ではないらしい。
「この箱の中にあるものを見てください」
先生は大きな箱をいくつも持ち込んできていた。
いずれも古ぼけていて、ほこりまみれだった。でも、どれもこれも立派で、結構、値打ちがありそうだった。どこかのお城の地下室や屋根裏で眠っていた由緒ある宝物のような感じだった。
何が入っているのかしら? ローザは好奇心をそそられた。それは、ほかの二人も同じらしかった。
「全部開けて見てください。気になるものがあれば、出してさわって見てもいいですよ?」
アレクが開けた箱の一つには銀糸の縫い取りのある絹の黒マントが入っていた。
「物語の吸血鬼の服みたいだな」
「おかしいな。まったく虫が喰っていない? あの箱も開けてみよう」
エドワードはあきらめた様子で、アレクに命じられて次から次へと箱をあけていっていた。
「開けた以上は、また、片付けないといけないんですよね」
エドワードはぶつぶつ言っていた。
「まあ、仕舞う方は手伝いますが、開けて中身がなんなのかは、私では判断できないので、そこをお願いしたいのです」
先生がいった。
ローザは手元にあった箱を手に取った。
「あら、きれい」
象眼の施された小ぶりな箱を開けると、キラキラした腕輪や、太い指輪などの宝飾品が入っていた。イヤリングやネックレスもあった。ローザは見とれた。
「これは!」
アレクが開けた箱にはみごとな剣が一振り入っていた。アレクは惚れ惚れとして、その剣を取り出した。
「なんだかわからないが、手に吸い付くような感覚がある」
先生はその言葉を聞くと、アレクを鋭い目つきでチラリと見たが、三人とも夢中でそれには気が付かなかった。
そのほかに、長細い箱からはたくさんの杖が出てきた。いずれも古ぼけていて、先端の尖ったもの、柄に宝石がはめ込まれたもの、デザインも長さもいろいろだった。
フタがきっちり締められたビンや、缶もあった。
それらはラベルが貼られていたり、じかに文字が書かれていたりした。
「でも、この字、読めないわ」
ビンを手に取ったローザが当惑して言った。それは不思議な見たことのない文字だった。
「外国語ですね。どこの国の言葉でしょう? 見たこともない」
生徒ではないらしいエドワードがのぞき込んできて不思議そうに言った。彼は留学していたそうだから、おそらく数ヶ国語に通じているはずだ。
開かない木箱もあった。アレクとエドワードが力まかせに開けると、中には立派な装丁の古い本がぎっちり詰まっていた。
「読んでみたいですが、取り出すなら、手袋が要りますね。かなりの古書のようだ。傷つけたくないです」
そういうと、エドワードは、チラリとアレクを見た。
「ていねいにお願いしますよ?」
アレクの薄青い目がちらっと笑った。
彼が木箱に手をかざして、口の中で何か言うと、本が一冊スッと浮き上がった。
「よく分かりましたね。これが読んでみたかったのです」
エドワードはあっさりそう言うと、まるで当たり前のようにその古書を読み始めた。
ローザはびっくりして、アレクを見つめた。
生まれて初めて、本当の魔法を見た。
魔法使いだ。
アレクがちょっと得意そうにした。
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