第19話 贈り主不明
「……と言うわけで、ローザ嬢は、例のケーキはケネス・レミントン様からのプレゼントだと信じておられるようでございます」
「おのれ、ケネス」
アレクは気色ばんだ。
「違います。レミントン様は頑張って訂正しようとされていました。ローザ嬢が、レミントン様から説教されるのが嫌で聞かなかっただけです」
「それは、なかなかよろしい……」
「アレク様も……」
「? なんだ?」
「ローザ嬢に説教したり、強引に迫ると嫌われると思われます」
二人は、魔法学の授業がある建物の教室で話していた。
その建物はローゼンマイヤー先生の研究棟でもあった。現在のところ、魔法学の最先端を研究していることになる。
「ああ、わかったよ。覚えておこう。だけど、それもお前の彼女情報か?」
「アレク様は、説教がお好きですか?」
「いや。嫌いだな」
「それと一緒でございましょう」
「………。だが、しかし、お前の彼女は、誰なんだ? なんで、そんなにローザのことをよく知っている?」
優秀で冷静な側近エドワードがほんのわずか赤くなった。アレクはたちまちそれに気が付いた。
「あっ おかしい。なんだ? 誰なんだ? 教えないとお前の結婚の許可はしないぞ」
貴族の結婚には王家の許可がいる。
もっとも、よほどのことがなければ形式だけの話で、許可を出さないなんてことは、まずない。
「殿下、それは越権行為でございますよ。それに隠すようなことでもございません。それより、わたくしの彼女の名前がわかると心配なのは、彼女をアレク様が悪用なさることなんですよ」
「悪用?」
「ええと、私の恋人は、ローザ嬢のお友達のアイリーン嬢なんです。だから、ケーキの件も筒抜けだったわけで」
ガタンとアレクが立ち上がり、言いかけた。
「それなら……」
「ダメですよ、アレク様」
エドワードが冷たく止めた。
「アイリーンに頼んで、プレゼントの本当の贈り主の名前を伝えてもらったりしたいんでしょう。でも、今はダメです」
「なぜだ?」
「私たちの目的はローザ嬢の魔法力の測定。それが済めばローザ嬢なんかどうでもいいではありませんか。私のアイリーンは末長くローザ嬢と仲良くしていきたいと言っているのです。他ならぬ殿下のお為とわかっておりますので利用しましたが、話が筒抜けだったとわかれば、アイリーンがローザ嬢に嫌われます」
「……お前、彼女思いだな」
「当たり前ではありませんか。大事な人のためですよ?」
アレクはちょっと感心したようだった。
大事な人か……。なるほど、今まで気にもしていなかったが、意味のある言葉だな。
「そうだな。つい、熱中してしまった。目的は魔力測定だったな」
だが、その時、二人は黙った。
人声がする。
「はい。ローゼンマイヤー先生がこちらで特別授業を受けるようにとおっしゃっていますので」
「そうですか……」
弱々しい声はローザの声だった。
ローゼンマイヤー先生の助手に案内されて廊下をローザがやってきたのだ。
ローザはローゼンマイヤー先生から、集団の魔法学ではなくて個別授業をするので、魔法学棟へ来るよう言われていた。
魔法力がないらしいのに、どうして魔法学を続けなくてはいけないのかしら。
ローザは嬉しくもなんともなかった。
「この部屋です。準備があるので、少し中で待っていてくださいね」
ローゼンマイヤー先生の助手の声がして、ドアの前に人の気配がした。
アレクとエドワードは、ちょっと緊張してドアを見つめた。
「はい。わかりました、先生……」
不安そうな声がして、ドアが開いて、ローザが入ってきた。
目をあげて、中に人がいるのに気が付いてローザは驚いた顔をした。
「アレク様?」




