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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモの原作乖離、あぶり焼き
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第十話 漫画のように、ゲームのように

カモ君必死の足止めにより、クーの火の魔法がチート鎧に突き刺さる。

火の魔法の大剣。その切っ先は音を立てながら、男としがみついているカモ君をじりじりと後退させていく。

男の装備している四天の鎧レプリカは物理耐性だけでなく、魔法の効果も軽減させる効果も持つ。だが、その魔法耐性は弱点補正によってほぼ失っていた。今も火の大剣の切っ先が鎧を砕いていない事はそこに起因していた。


「お、おおお、おおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」


男は背中にしがみついているカモ君を無視して今も自分を貫かんとしている火の大剣の刀身を、両手で掴んだ。

と、同時に鎧の防御機能である風の障壁は水の障壁と切り替わった。その障壁は男の肘の先から厚さ三十センチの水壁を形成した。

全方位からくる魔法に対しては装備者を包み込む水球だったが、今回は一方向からくる魔法に対しての障壁だろう。

火の剣を消火しようとしているのか見た目以上の密度の水の壁が、その壁をグツグツと煮立ちながらも火の剣の輝きを奪っていく。


このまま、消火してしまえば勝つ。


男がそう思った瞬間に彼等を中心に大爆発が起きた。


水蒸気爆発。


見た目こそ壁に剣を突き立てた光景だったが、その水の壁は高密度・大容量の水があった。その火の剣は辺り一帯を燃やし尽くすほどの熱量を持っていた。

それらがぶつかった瞬間に、大量の水は蒸発。そこから火の大剣で急激に暖められたそれらは爆発した。

爆心地は砂煙が立ち上り、打ち上げられた熱湯が雨となって辺り一帯に降り注いだ。

その熱い雨で砂埃が収まっていく。その向こう側に誰かが立っている影があった。


「にー様!」


クーはその影に向かって声をかける。

しかし、影はそれに応えない。応える必要が無いから。


「…くそが。クソが、クソがあああああああっ!!死ぬかと思ったぞ。この俺様が死ぬかと思ったぞぉおおおおおっ!!」


そこには顔のあちこちを火傷で作った自分達を襲っていた男が立っていた。

男の装備している鎧から大量の熱を吐き出すように湯気が立ち上っていた。そして、その鎧にへばりつくようにもたれかかっているカモ君の姿があった。

カモ君の意識は無い。それどころか自分の盾になっていたような男に比べ明らかに火傷の面積は大きい。男の首に回すように回していた右腕のひじから先が黒焦げだった。

カモ君は四天の鎧を装備していなかった。その為、火の大剣のダメージを男より大きく受けていた。ほぼ無防備で受けていたに近い。だからだろう。その黒焦げの右腕は。


ボトリと音を立てて千切れ、地面に落ちた。


その音を聞いたのは男だけでなく、少し離れたクー。遠くで見ていたコーテの耳にも届いた。


「あ、ああっ。まだへばりついていやがったのか!くそがっ!」


男は自分にへばりついていたカモ君の頭を掴んでクーに向かって投げ捨てた。

クーの足元に転がされたカモ君の状態はあまりにも酷い状態だった。

身に着けていた衣服は全て燃え尽き、その下にあった肌は全身赤くただれていた。顔の部分は頭頂部から左耳の下に向けて赤を過ぎて、焼死体のような紫色になっていた。


「あ、あああ。あああああああああああああああっっっ!!」


クーは息をしているかどうかも分からない自分の兄の状態を見て、地面に膝をつき、崩れ落ちる。

涙はこぼれ落ち、カモ君の顔に落ちる。その涙すらも熱さの所為で、辺りに降り注いでいる熱湯と共に蒸発したかのようにも見えた。


「は。ははは。ははははははははははっ!死にやがった!死にやがった!ざまあないなっ!味方の攻撃で死にやがった!踏み台のくせに、舐めた真似をするからだ!はははははっ!」


男は大笑いをした。大した実力もないのに歯向かった愚者。圧倒的な力も持たない弱者。そして味方に殺された不幸な人間。

それがコイツだ。カモ君だ。踏み台だ。今まで癪に障る行動をしていた輩だが、今こうして、やられた不幸者。

出来る事なら自分の手で仕留めたかったが、こうやって自分の弟に殺されるという結果も笑える。

あとは、目の前で泣き崩れているクーを殺して、コーテを犯す。

クーの魔法は強力だが、四天の鎧レプリカの障壁で相殺できる。仮に同時に魔法を撃ちこんでも弱点属性を撃ちこんでくることは無い。


「はぁ~。笑った。久しぶりにここまで笑わせてもらった。まさか無駄死になんてなぁ。しかも大事な弟様に殺されるなんてなぁっ。はーはっはっはっはっ」


その言葉に涙を流しながら顔を上げて、魔法を発動させる際に発生する魔力の波を辺りに撒き散らすクー。

その右手からは赤を通り越して白く光り輝く。膨大な魔力を感じさせる波動だがそれを見ても男は笑みを消さない。

魔法は詠唱しなければ発動しない。ノーキャストという詠唱無しでも放てる技能もあるが、あれは高レベルの魔法使いか、自分のように四天の鎧レプリカの恩恵でレベルを底上げするなどしなければ使えない。

クーはそのどれにも当てはまらない。詠唱を開始した瞬間に一気に駆け寄りその頭を吹き飛ばす。はずだった。


クーはまだ詠唱をしていない。それなのに四天の鎧の水の障壁が展開された。先程と同じ光景。だが、クーから感じられるプレッシャーが大きくなった事にようやく気が付いた。それが遅すぎた。


「あああああああああああああ!!!!!」


クーは叫びと共に右手を前に突き出すとそこから赤ではない白。炎というには実直すぎる光の奔流が放たれた。

そこに含まれた魔力・威力・速さ。全てが先程の火の大剣よりも上だった。

その光は水の障壁をいとも簡単に突き破り男の鎧に突き刺さる。大剣よりも深く、熱く、そこから亀裂が奔り、熱が侵食していく。


「な、なぁああああっ?!ふざけんな!怒りでレベルアップなんてそんなマンガみたいなことがあってたまるか!」


先程の火の大剣のように掴み取ろうとしたが、白の光の勢いがそれを弾く。

威力が段違いだ。だが、どうしてこんなに威力があるのか。詠唱はいつしたのか。そもそもこんな魔法が急に使えるのか。

男はイラつきと怒りでどうにかなりそうになりながらもクーを睨みつける。そのクーの下に横たわるカモ君に目が留まる。


クーの攻撃で戦闘不能になったカモ君の姿があった。


「あ、あああっ。あああああああああああああっ!?レベルアップしたっていうのか!踏み台を、カモ野郎を殺してレベルアップしたっていうのかぁああああああっ!!!」


主人公ではない。主人公と共に戦うキャラでもない。

結果的に兄を倒しただけだったモブキャラだった。

だが、その踏み台は極上だった。

その恩恵はチート鎧に並ぶほどの効果だった。


クーはカモ君を倒したことにより、詠唱無しで魔法を放つノーキャストという技術を。そして、火の特級魔法。レベル4。イフリートキャノンと呼ばれる大軍殲滅を目的とした超魔法を放てるまでにレベルアップした。


ガァン!


まるでドラム缶が叩き飛ばされたような音を立てて、男はクーの魔法に呑みこまれることなく、打ち上げられた。

あのままなら白い光は地平線の向こうまで伸びていき、消えていった。その光に男は胴体を焼き尽くされて、首と四肢を残して死ぬはずだった。

コーテを押さえつけていたライムと呼ばれる女の助力が無ければ。女が男とクーの魔法を少しずらさなければ男を倒すことが出来た。

男が地面に打ち付けられる近くにいつの間にか移動していたライムの顔色はクーという強大な脅威を前にしても笑顔を崩していなかった。


「やっぱり。彼がカモ君であっているみたいね」


その隣に打ち付けられた男は咳き込みながら女を睨みつける。


「おいっ!援護が遅いぞ!」


「私は戦闘員じゃないの。戦うのは貴方の仕事でしょ」


コーテはさっきまで自分に杖を押し付けていたライムが一瞬で移動したことに驚いたが、すぐにカモ君の傍に駆け寄る。

遠目に見ても彼の生死はわからない。だが生きているのなら早急に回復魔法をかけないといけない。

クーも先程の魔法を撃って魔力が切れたのか肩で息をしている。今魔法が使えるのは自分だけ。戦えるのも自分だけなのだ。


「ふんっ。まあいい。後は俺のターンだ」


「…ふーん。その状態で?」


男がにやつきながら立ち上がる。と、同時に男が着込んでいた四天の鎧レプリカが音を立てて崩れ落ちていった。

純白の装甲も。宝玉もバラバラになって男の足元に転がり落ちた。

チート鎧は男を守り抜いてその寿命を使い切ったかのように地面に転がった。それを見て男は目を見開く。

自分を守ってくれていた。自分を強化してくれた鎧が崩れ落ちたことに今まで保っていた自信に揺らぎが生じた。

カモ君達の方を見ると、そこには未だに怒りに燃えているクーの瞳。そして、再びその右手に白い光が発生している事に恐怖した。


「て、撤退だ!撤退するぞ!」


今、再びクーの魔法を受ければ今度こそ死ぬ。

そう確信したからこそ、圧倒的な優位を失った男は及び腰になり、女に逃げだす事に躊躇いは無かった。


「はぁ。確かに潮時ね」


ライムはため息をつきながらその豪勢な杖を振るうとその周囲が波打った水面のように揺れる。そして、一秒もたたずに風景に溶けて消えていった。

そこに男もライムも最初からいなかったように不自然な静けさが残った。


「エミール!」


謎は沢山ある。

ライムという認識しにくい女。

襲ってきた男の異常な戦闘能力。

自分達を襲ってきた理由。

シャイニング・サーガという単語。

ばら撒いていった謎は沢山ある。

でも、それらを押しのけてやるべきことはわかっている。


「クー!あそこに落ちている私の杖を急いで取ってきて!」


コーテは回復魔法をカモ君にかける。

焼け石に水と言わんばかりに、その受けた傷を回復させるその水色の光は弾かれるようにカモ君の体から蒸気を上げていく。

クーに回復魔法は使えない。コーテに言われたとおりにコーテの水の軍杖を拾い、彼女に渡す。

これで回復の効果は底上げできる。それでもカモ君の容態は変わらない。

ピクリとも動かないカモ君の喉と胸。

力無く開いた瞼と光の灯っていない瞳孔。


まるで死んでしまったような


考えるな。それだけは考えるな。

回復魔法を途切れさせるな。魔力を注ぎ込め。命を削っても彼の命を繋ぎ留めろ。

彼に尋ねたい事。やりたい事。何も出来ていない。

彼は血を吐きながら戦った。文字通り粉骨砕身で戦った。

彼を支えるのは自分の役目だ。癒すことが自分の役目だ。


だから、目を覚ませ!死ぬな!死ぬな!死ぬな!


遠くから衛兵達の声が聞こえる。ローアと冒険者達の喧騒が聞こえる。

しかし、そのどれもがコーテには騒音にしか聞こえなかった。


彼を癒せるものしかいらない。

彼を助ける言葉しかいらない。

彼を助けられない自分の命なんていらない。


自分に出せるだけの魔力を放出する。それこそ湯水のように使う。それでも彼は目を覚まさない。

力が足りない。自分の側に駆け寄ったローアが回復ポーションを振りかけ、ルーナも自分に続いて回復魔法をかける。だけど足りない。それが分かる。分かってしまう。

コーテはカモ君から視線を外し、駆け寄ってきた衛兵。冒険者達に目を配るが駄目。誰も回復魔法をかけられそうにない。

涙で視界が揺らいだのか。それとも魔力を放出しすぎたのか視界が揺らぐ。意識が遠のきそうになる。


駄目だ。倒れるな。まだ彼が目を覚ましていない。


初めて居もしない神に祈った。ありもしない悪魔に願った。

彼を助けてくれと。むこうに連れて行かないでと。


そんな想いに誰かが応えることは無かった。


だけど、


地面に落ちていたチートの欠片がそれに応えるように光っていた。


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