第十八話 リーラン王国の剣
王女マーサはカモ君とコーテにオリハルコンの採掘任務を命じた。とはいってもその内容は王都に届けられた踏破が難しいダンジョンへ出向き、王家の息がかかった者と共に攻略する事。
それを伝えると、マーサは研究者であるミカエリには別に話があると言って、彼女と共に別荘を去って行った。
カモ君がやる事は武闘大会前と変わらない。変わるとすればそれは攻略報酬だろう。
オリハルコン。ダマスカス鋼。ミスリルといった魔法金属。および光のマジックアイテムは王家へと献上する事。風のマジックアイテムはミカエリに渡す事。
残りは自分の物にしていいことになっている。が、地と水のマジックアイテムはコーテに渡る事になっている。
事実上、カモ君が手にしていいマジックアイテムは火と闇のマジックアイテムだけ。ちょうどシュージとその仲間だろうキィの属性に当てはまる。
何も。何も残らねぇ。
普通の転生キャラクターなら、新たな仲間。新たなヒロイン。ダンジョン攻略の暁にはお金がザクザクでウハウハ。色んな物に充実しているはずだろう。
それがカモ君には無い。
おかしいな。さっき涙が止まったはずなのにまた溢れてきそうだ。
そんなカモ君の心境を知ってか知らずか、二週間後には新学期が始まる魔法学園に復学する前にモカ領へ一度戻り、自分の状況を家族に伝えていけと、王女からありがたいお言葉も貰っている。
ミカエリからも空飛ぶベッドを借りる事も許されている。ベッドも改良されており、カモ君一人の魔力でも王都から往復四日で行き来できるようになっていた。
復学には三日ほど余裕を持って行きたい。よってモカ領に滞在できるのはたったの一週間だけだ。しかもまだカモ君の魔力も体力も回復しきっていないから休息の為にも二日は休まなければならない。よって最長でも五日ほどしかモカ領に滞在できない。
短すぎて、遅すぎるカモ君の夏休みが始まろうとしていた。
少ない。少なすぎる。
お金はまだ多少は残っているとはいえ、コーテへのお礼と物価の高い王都のお土産を購入すると本気でお財布の底が見える。新学期が始まると同時に素寒貧になる未来が見える。
だが、ここがお金の使い所だ。ここでケチれば好感度は駄々下がりだ。これからの学園生活。ダンジョン攻略に支障をきたす。
(お金が)少ない。少なすぎる。
出来る事なら今すぐにでもダンジョン攻略の任務を受けたいところだが…。大丈夫だ。このIQ53万の知能を持つ自分ならやりくりできるはずだ。
そんな馬鹿な事を考えていることに気づかないカモ君。まだ疲労が抜けていないようだ。
王都にいる間はミカエリ邸で厄介になる事になったカモ君は、準備してもらった部屋に戻り、寝間着に着替え、ベッドにもぐりこむ。その時に添い寝をする為にコーテももぐりこんできた。
他人の家。まだ十二。十三の少年少女。情事を働くわけにもいかない。
彼女は単に自分を心配して寝付くまで傍にいるだけだと言った。死にかけたカモ君がまた瞼を閉じると再び開けるかどうかが不安なのだろう。そこに性的な意図はない。
そう思いながら目を閉じ、カモ君は意識を閉ざしていく。
なんか息遣いが荒いと思うのは気のせいか?
その疑問を問いかける前に完全に眠ってしまったカモ君。彼が再び瞼を開けたのは翌日の朝日を浴びたことによるものだった。
その時、コーテはカモ君のすぐ傍で同じように眠っていた。
何故か、寝る前はちゃんと来ていたカモ君の寝巻の上着が脱がされていた。
カモ君が「きゃー!コーテさんのエッチィイイ!」と心の中で悲鳴をあげる三秒前の出来事だった。
「マーサ王女。上手く彼を取り込めましたね」
カモ君との話を終えた王女は送り迎えに来た馬車の中で共に乗り込んだミカエリから言葉を投げかけられた。
その表情は真剣な物だった。決してカモ君の前では見せることが無かった社交辞令モードのミカエリ。
彼女は若干憤っていた。予め、王女からカモ君をこれからの事に抱きこむように手伝うように言われていた。彼に自作マジックアイテムの取引もその一端。
彼を魔法学園に復学させたのも。全てはこのオリハルコン探索。王国で新たに作られる部隊に彼を加える事だ。
これはミカエリの別荘に行く前に判明した第三王女のマウラの願いだった。
姉、マーサの婚約問題を解決できないのなら、それの原因となったドラゴンを討つための部隊が欲しい。それがマウラ王女の願いだった。
そんな彼女の願いを叶える為に作られる予定の部隊。そこにカモ君を組み込む事が、マーサの本当の狙いだった。
その部隊の目的は深層のダンジョンで極稀に見つかるオリハルコンも目的だが、本当の目的は高ランクのマジックアイテム。ドラゴンスレイヤーの発掘である。
リーラン王国が見つめているのはオリハルコンやドラゴンだけではない。その先、ネーナ王国への抑止のためだ。と、いうがミカエリはネーナ王国を含めた隣国への侵略も考慮しているのではないかと考えている。
「ええ、貴女のおかげで何の滞ることなく彼をマウラの部隊に組み込む事が出来ました」
ミカエリの皮肉を受け止めた上で流すマーサ。
王族として稀有な魔法使い。エレメンタルマスターのカモ君を抱き込めたこと。そして彼の実力からみてもこちら側に引き留めることが出来たのは大きい。彼と王族の血統が混ざり生まれた魔法使いはほぼ間違いなく強力な魔法使いになるだろう。
マウラと年が近いカモ君を組み込んだのは国王の意向もあるだろう。ミカエリとビコーから聞いた限り、彼は敵には容赦ないが味方にはとにかく甘い。
彼は愛する弟妹達を溺愛し、婚約者であるコーテに対しては心を開き、命懸けで守る。学友であるシュージには武闘大会では全力で戦うように激励を送った。
ギネに対しては悪意たっぷりで接していたが、最後には感謝の言葉を伝えるという最後の最後。人としての良心を捨てきれないその人間性は好ましいものだ。
国のトップを関わるには未熟すぎる精神だが、彼がマウラと結ばれればいいと考えているマーサを含めた王族が何人かいる。なんならミカエリとでもいい。
ミカエリは自由奔放な性格だが、兄達同様リーラン王国に忠誠を誓っている。そんな彼女だが、このような策謀にカモ君を巻き込む事を是としていない。カモ君は彼女にとって初めての異性の友達だ。だからこそこのような事に巻き込みたくなかった。
「マーサ王女。私は今でも反対です」
「ミカエリ。貴女が彼を大事にする気持ちはわかるわ。生まれた時から兄達以外からは好色の目で見られてきた。彼もそのように扱われることに反対な事も。でもね、その美貌。魔力。知識。技術。そして策謀。今でも彼と一緒に王族に加わって欲しいくらいよ。貴女の兄上たちと共にね」
セーテ侯爵家ははっきり言って異端児だ。その実力が特化している。武のカヒー。魔のビコー。知のミカエリ。
彼等三人が王国から離れたとしたらこの国は亡ぶとまで言われている。
「リーラン王国は今、衰退の一途をたどっています。隣国の様子も少しずつ変わってきているというのも聞いています。きっと動乱の時は近い。あと三年もすればこうして話すことが出来るとも限らない」
そんな彼等に嫌悪感を持たれてでもカモ君を引き入れたことを後悔していないマーサ王女は馬車から見える王都を行きかう人々を眺めていた。
「…マーサ王女」
「それまでに我々は【担い手】を鍛えなければならないのですよ。王国の未来の光になる【担い手】を」
場所が変わってネーナ王国。国王の私室にギネをたぶらかした女の姿があった。
女はこの部屋の主。この国の王に向かって一礼をしたまま、今回の武闘大会の顛末を話した。
五十代の立派な髭を生やした中肉中背の男性がこの国の王。そしてこの王が目の前の女に命じて今回の武闘大会の混乱を生み出すように命じた張本人だ。
女はギネを通じて、ゴンメを操り、リーラン王国の国宝の一つ。シルヴァーナをへし折った事を報告した。
女の正体はネーナ王国の諜報員。その見た目が派手な割には誰の目にも記憶にもと留まらないのは女の持つマジックアイテムかそれとも技術なのかは目の前の王すらもつかめていない。そんな不気味な女だが、王は重宝した。
女の報告では、大会後の事は確認できていない。あそこにいたセーテ三兄妹の存在が女の活動を狭めた。
シルヴァーナの破壊。リーラン王国の国宝がへし折れたところまで見届けた女はその場を早々に離脱。ビコーの探索魔法が展開される前には会場の外に出て、ネーナ王国に戻ってきた。
続きは他の密偵の報告待ちだが、リーラン王国で目立った動きは見えていない。
「報告は以上です」
「…うむ。よくやった。お前の目から見て、奴等の【剣】をどう思った」
「とても芳醇な魔力の香りを感じました。やはりあれは良いものです。あれがこちらに渡れば確実に状況をひっくり返せるでしょう」
その言葉を聞いて王は考えをまとめるように瞼を閉じ、一息入れた後にもう一度訪ねた。
「【剣】は見つかった。では、その【担い手】はいたか?」
「いえ、候補が何名かいますがこれといった者の目途はまだ」
シルヴァーナの持ち主であるマウラの存在はつかめている。シルヴァーナはまるで意志を持つかのように持ち主を選ぶ。だから、リーラン王国であれを唯一使えるのはマウラ一人だ。
マウラの命令が無ければシルヴァーナはその効果を発揮しない。ただの白い大剣になる。
だからこそ国宝であるにもかかわらずそれを彼女は何処にでも持って行ける。振り回せる。
シャイニング・サーガではある一定の事をするとシルヴァーナの譲渡が出来る。
だからこそ、マウラはゲームではよく条件を満たしたプレイヤーからシルヴァーナを取り上げられることも多々ある。あれはマウラが持つよりも主人公が装備したほうが強くなれるからだ。
「…そうか。引き続き調査を続けよ。【担い手】を見つけ次第、報告をすぐこちらに送れ」
「は。了解しました」
王の命令にただただ了承の意を示す女は動かない。
王からの報酬の件についての言葉を聞くまで動くつもりは無かった。
「【剣】の方はどう扱いましょう?」
「こちらに引き込めるのなら引き込め。出来ないのであれば…、お前の好きにしろ」
その言葉を聞いて女は醜い笑顔を作った。もはや本当に人なのかどうかも怪しむほど歪んだ笑顔を。
それを見ていた王は特に気にした様子も見せずに手を横に振る。
ここから去れと言う事だろう。
「では、失礼いたします」
ここに来た時とは明らかにテンションも声色も違う女は陰に溶けるように去って行った。
女が完全にこの場から立ち去った事を感じ取った王は女から報告を思い出しながら、自分の机に並べられた各領地からの報告書に目を通しながら呟いた。
「伝説か。陰にあてはめられたこちら側としてはたまったものではないな」
王はこの世界であてはめられた自分の役割にため息を零した。
その真意をカモ君が知ったら間違いなくカモ君は何もかもを捨てて、クーとルーナ。コーテを連れて、リーラン王国から脱出を図るだろう。
だが、それを知るのはもう少し先の話しだった。
本当は小出ししていくつもりだったけどせっかくのゴールデンウィークなので全出し。
これでまたネタを考えていかないといけないぞ。あーはっはっはっはー!




