表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモ鍋。勘違いの味覚添え
7/205

第六話 バッドでディスなコミュニケーション

 カモ君が衛兵と冒険者の皆さんとダンジョンを攻略するのにかかった期間は僅か三日。正確には二日半かかった。残りの半日は衛兵、冒険者への祝勝会に費やした。

 ダンジョンの深度は八階層と比較的出来立ての物で出現するモンスターもゴブリンの他に人間の体に犬の頭をしたコボルト。粘液生命体のスライム。巨大な血吸い蝙蝠などが現れた。

 コボルトと蝙蝠はゴブリン同様に数が多ければ脅威だが、衛兵、冒険者達との連携で殲滅が可能だった。

 厄介だったのがスライムだ。ダンジョンの天井に張り付いている事に気が付かなく、頭上からの急襲に対応が遅れたため、時間はかかるが有機物なら殆ど溶かしてしまうスライムの粘液に数名の怪我人を出したが、無事にダンジョンコアのある部屋までたどり着き破壊に成功した。ダンジョンコアが破壊されたダンジョンは徐々に崩れ落ちていき最後は地面に埋まるのでダンジョンコア破壊後はすぐさま撤収し、その道中で入手したアイテムの分配に移り、祝勝会となった。

 と、そのような報告を息子エミール。カモ君から受け取ったギネは自室で仕事に使う書類から目を離して尋ねた。そのカモ君個人の戦利品の中に使えそうなものはあるかと。

 カモ君は後ろに控えていたルーシーに目で挨拶をして彼女は普段は食事を乗せるカートに置かれたダンジョンで発見したアイテムを持ってきた。

 銀製の短剣。ほつれた部分があるバックラーと呼ばれるモンスターの皮で作られた小さな盾と皮鎧のレザーアーマー。成人用の革靴。銅の延べ棒が数本。

 そして、マジックアイテムの水筒。見た目は瓢箪のような形だがその中には水を十リットルは入れることができる上に重さは普通の水筒と変わらないという優れものだ。

 バックラーやレザーアーマー。革靴なのではサイズがまちまちで価値は低いが、銀の短剣と銅の延べ棒は売ればそこそこの金になる。マジックアイテムである水筒はその何倍の価値もあるものだ。本来それは発見者であるカモ君の物であるのだが、ギネはつまらなそうに言ってのけた。


「この小汚い盾と皮鎧。革靴はくれてやる。それで本当にこれだけなのか?」


 労いの言葉なんてなく、まるで残りは自分の物だと言わんばかりの態度。実際に自分の物だと思っている。

 当然だ。自分は今回のダンジョン攻略に出資したのだからその中で得た物も自分の物だと考えているのがギネだ。本来なら冒険者や衛兵達が見つけた物も自分の物だと言いたいがそんな事をすれば冒険者はもちろん衛兵達が不満を爆発させて襲い掛かってくるだろう。カモ君に皮装備を与えたのも不満を解消させる為だ。

 だが、この皮装備はダンジョンで生まれたモンスターたちが身に纏っていたもので持ってくる前に洗ったとはいえ所々に毛や染みみたいなものが付着している。それを頑張ったカモ君に押し付けて不満を解消するとは傲慢だ。寛大な父で嬉しいだろう。と、

 勿論そんな事で喜ぶカモ君ではない。

 銀の短剣よこせやコラー!銅の延べ棒もマジックアイテムも俺のもんじゃー!と、言いたいところだが今回のダンジョン攻略の資金をギネに出してもらう代わりに手に入れたアイテムは全て渡すように言ってきたのだ。

 普通、領主としてダンジョン攻略に資金を出すのは当然の義務だが、ギネは最低限の費用。つまり冒険者などに頼らず衛兵達だけで攻略させようとしていた。

出来立てのダンジョンだから脅威度は低いという見積もりは正しいが、それでも衛兵達のリスクの分散とか考えずに低予算で済ませようとしたところに待ったをかけたのがカモ君。

 冒険者を雇い、衛兵達のリスクを減らし、ダンジョンを短期攻略するように申し出た。そうする事でかかる長期よりもかかる費用は抑えられると申し出た。そして冒険者達に通常より多めの報酬を用意させたのも今後有事の時に精力的に協力してもらうために必要だとカモ君申し出にギネは承諾した。

 冒険者の質がよければ自分の評価が上がる噂話も上がるだろう。冒険者は金に執着する生き物だと考えているが、ギネ自身は自己承認欲求の塊だったためこれも承諾した。

 しかし有効利用出来そうな物。ゾンビやグール。ゴーストといったモンスターに有効な銀製の短剣。これは加工すれば貴族の護身用の武器になる。これを自分より上位の貴族に渡せば印象アップも狙える。

 だが、それで終わるギネではなかった。「来い」というとルーシーの後ろから神官の服に秤を持ったおばちゃんが入ってきた。そんな彼女がギネの隣に立つ。そうして、もう一度ギネはカモ君に尋ねた。


 「本当にこれで全部か?はいかいいえで答えろ」


 「はい。それで全部です」


 カモ君がそう答えるとおばちゃんの持つ秤が淡い光を放つ。

 こんな事でギルドメンバーの神官を呼ぶか。この強欲が。とカモ君は心の中で悪態をついた。

 彼女は冒険者をまとめるギルド。その彼等の言葉の真偽を見極めることが出来る神官職でありながら荒くれ者の一員でもある。

 ギネは彼女の持つ光魔法で自分が嘘をついていないかを調べているのだろう。他にもアイテムは手に入れていないのかと。もし嘘をついていたらただでは済ませないぞと。

 審議の結果はシロ。カモ君が嘘をついていない事を確認したギネは彼女に数枚の銀貨を握らせて帰らせると、カモ君にも皮装備を持って出るように言った。その間際に、


 「今度はもっとましな物を手に入れてこい」


 「…。努力します父上」


 とやりとりがあった。カモ君は内心中指を立ててじゃあてめえがいって来い!このブタが!と悪態をつきながら皮装備を持って部屋を出て行った。

 そんなカモ君の心境を知ってか知らずか、ギネは今回のダンジョン攻略でかかった費用と期間を考え、にやりと笑みを浮かべた。

 この短期間でダンジョンを攻略できたのは領主として断然に良い結果となる。その上、冒険者達からのモカ領への印象も良くなった。

 その上、カモ君の活躍を振り撒くだろう。意欲的に彼等と共にダンジョン攻略をする姿。貴族なら彼等の後ろでどんと構えているべきだが、その貴族らしからぬ働きを見せたことにより他領でその活躍が広まれば綺麗事の大好きな奴等からの接触があるかもしれない。そういう奴等に限って色々と紐が緩いので取り込んでやろうと考えていた。

 お近づきのしるしにこの銀の短剣を渡すのもいいだろう。そうする事でエレメンタルマスターである息子を広め、自分がのし上がる手段として利用してやると感慨にふけるギネであった。




 そんなギネに対してカモ君はというと。


 騙されやがったぜ!あの馬鹿が!


 と、皮装備を自室に持って行き、誰もいない事を確認すると、見たら愛する弟妹達が泣いて逃げ出すほどの邪悪な笑みを浮かべながら、今回の戦利品である一つバックラーのほつれ部分に指を入れる。そこから出てきたのは親指の先程の小さい赤い宝石がはめ込まれたワッペンのようなものが出てきた。

 火のお守り。

 火属性の魔法の威力を底上げして、受けるダメージを軽減してくれるお守りでこれを持っているだけで効果を発動してくれる優れもの。

 地属性レベル1で出来るアナライズという魔法でこの結果が出てきた時は思わず、ダンジョンの中だというのにその場で小躍りしそうになったカモ君。

 正直な話これ一つでダンジョン攻略費用を賄えるレアアイテム。ダンジョンが八階層という割と浅いにも関わらずこのアイテムを自分で発見できたのは幸運だった。

 勿論、カモ君はこれを自分の物にしたいと思っていたがあのギネの事である。このお守りの事を知れば必ず取り上げるのは目に見えていた。かといって黙って横領してもばれることを事前に知っていた。

 ダンジョン攻略後の宴会で自分の戦果を報告する際にギルド所属の数人の神官の姿を見た時にそれとなく探ってみたら、神官の一人がギネにそのことを報告するのだと知った。

 それはカモ君がダンジョン攻略の内容を照らし合わせる為でもあるが、嘘偽りを述べないかの確認も取りたかったんだろう。今回のようにレアアイテムを横領しないかと。

 神官が屋敷に来るという事は自分に横領の嫌疑がかけられるだろうと察したカモ君は薄汚れたアイテムの中にこのレアアイテムを隠すことにした。

 見た目を気にするギネならまずこのような皮装備などいらないだろう。先程の質問。手に入れたアイテムがこれで全部か。という言葉に全部ですと言ったのは嘘ではない。バックラーの中に隠していたとはいえ、本当に全部なのだから。

 ギネの質問が隠しているアイテムはないかと言われれば水筒の中に毒消しの薬草が入っています。と言ってバックラーから目を逸らせる事が出来る。が他にも隠していないかと尋ねられたらこのお守りの事も言う事になっていた。が、準備していた言い訳を使うことなくレアアイテムを入手したカモ君は自分の部屋に近付いてくる足音に気づくまで邪悪な笑みを抑えることが出来なかった。


 まずは一個目。自分の手で確認しなかったことを後悔しやがれクズ親父!

そして待っていろよ、主人公。お前にくれてやる土産が出来たぜ。まあ、火属性じゃなかったらいずれ時期を見てクーにあげようかな。くふふ、クーの喜ぶ顔が目に浮かぶ。


と、私利私欲にまみれた親子のコミュニケーションは幕を閉じたのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ