表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモ肉のサイキョー風御前料理
68/205

第十二話 泥中の華

武闘大会決勝戦。

その激闘を最後まで勝ち残った二人の強者が今激突する。


「レジスト!」


審判が試合開始の合図を告げると白騎士マウラは前もって詠唱していた魔法を発動させながらカモ君に向かって剣先を定め、構えながら突進する。

己に向かって放たれた魔法を軽減。威力が低ければ無効化する薄いバリアを発生させる魔法は確実に発動した。

身体強化と魔法抵抗。どちらを取るか迷ったが相手が魔法重視なのは今までの戦いを見て把握した。カモ君の決め手となる物はすべて魔法だった。だったらその魔法を封殺すればいい。

彼との身体の力の差はそう変わらない。しかし、装備品の差でこちらが勝つ。

むこうは素早く動けるだけのアイテムかもしれないが、こちらは覇剣シルヴァーナの加護がある。攻撃・防御・スピード・スタミナ・魔力の全てが底上げされる。それを加味したうえで戦えばこちらに軍配が上がる。

その上、あちらは魔法を除けば攻撃手段は無手。剣を持つこちらが断然有利だ。接近戦も相手はコートでこちらは軽くて頑丈な魔法金属で作られた鎧。このまま接近して切り払えばこちらの勝ち。

距離を詰めれば勝つ。その考えで突撃した彼女目に飛び込んできたのは、こちらに一瞬遅れながらも同様に魔法を発動させながら接近してくるカモ君だった。


「スワンプ!」


彼の魔法が発動すると同時に、マウラの足元周辺に直径二メートル。深さ十センチほどの泥溜りが形成された。

カモ君が繰り出してきたのは土魔法のレベル2。

本来は大人数。それこそ一部隊で使う魔法で目標周辺部に泥沼を作り出す効果がある。これは主に敵対している部隊や軍隊に対する魔法で、相手の進行速度を送らせるための魔法だ。それを大人数で範囲を狭めれば底なし沼を形成し、沈んだ人間はほぼ脱出不可能と評されるほどの凶悪な魔法だ。

それを一人で、詠唱も中途半端だった事もあってか威力はそこまでだったものの、その泥濘ぬかるみに足を取られたマウラは姿勢を崩した。自身にかけたレジストという魔法の効果もあってか、泥濘は地面にこびりつく乾いた土となる。それは糊付けのようにマウラの動きは一瞬止めた。

その隙を狙ったのかカモ君は、ダブルキャスト。二重詠唱を行い、その足に炎を纏わせた跳び蹴りを放った。狙いは彼女の心臓の位置に当たる鎧の中央部分。

剣という凶器を持った相手に飛び蹴りを放つという凶行に驚いたマウラは再び体が固まる。

シルヴァーナの迎撃では遅い。その前にカモ君の蹴りは自分の護身の札に当たり、燃やされる。

どんなに強い力を持っていても相手より先にこの札を燃やされれば負ける。

その事を直感的に悟ったマウラは身を捻ってカモ君の蹴りをどうにか躱す。その時、火の子が護身の札を少し炙ったが、レジストの効果もあってだろう。退場になる程の熱を浴びていない為か燃やされることは無かった。

泥溜まり突破して、何も等しい土の糊も剥した。もう油断はしないと、カモ君の動きを目で追う。

彼は跳び蹴りの勢いを殺さずに自分の背後一メートル程離れた所からこちらを見ずに走り抜けるように逃げていた。


先程の不意打ちが決まらなかったので距離を取ろうという事か。そうはさせない。奇襲もさせないし、それにも驚いたりしない。


逃げる彼の背中を斬りつけるように彼を追おうとしたがまた足元に泥濘が発生した。いや、発生し続けている。カモ君は不意打ちが失敗しても泥濘を生み出す魔法を展開し続けていた。そのお蔭でマウラがカモ君に追いつく事が数秒遅れた。

その間にカモ君は振り向くことが出来た。そして再び詠唱しながらこちらに向かってくるカモ君。そこに先程は使わなかったウールジャケットに魔力を通しながら迫ってくるスピードは先程よりも二段階は上回っていた。

マウラの剣は先程の事もあってか正眼を貫いている。このまま突っ込んで来ればカモ君の体はそのまま貫かれ自滅するだろう。そこでカモ君は詠唱していた魔法を発動させながら大きく前にその身を投げ出した。さながら水泳選手が水に飛び込むような姿勢で魔法を発動させる。

風の魔法。レベル1。エアショットを使い自分の体を包み込むように発動。イメージは螺旋を描いて飛んでいくライフル弾。ライフル弾の部分はカモ君の体だ。

カモ君はマウラに向かって回転しながら突進していった。


「ぶるぅわぁあっ!」


その光景はまるで某格闘ゲームに出てくる超能力ボスの必殺技の様だった、

その奇声と現象に再び面をくらうも正眼の構えを解かなかったマウラ。動けなかったともいうが、そんな彼女の剣の横すり抜けるように通過したカモ君は大きく右の頬をシルヴァーナの刃で切り裂いてしまう。それでもカモ君の両の手はシルヴァーナを持つマウラの両手に触れ、掴んだ。

その時の衝撃はほぼない。軽すぎる状態のカモ君に捕まれてもマウラは痛くもなんともない。だが、掴んだという感触はカモ君にも伝わる。

そこでカモ君は目を回しながらもジャケットの効果を切る為に魔力を流すことは止めた。エアショット・スワンプは彼女に触れることで効果を失うことになる。ウールジャケットに魔力を通す余裕もなくなった。

すがりつくような形だがマウラの手を掴んだカモ君はそのまましがみつく。マウラは剣を振るうには近すぎる。己の腕の中にいるような状態のカモ君を引きはがそうとするがカモ君は離れない。離れれば最後、斬られて終わってしまう。その事が分かっているからカモ君は必死にしがみつく。

その動きでカモ君は子どもに振り回される玩具のように軽々と振り回され、その度に自分が生み出した泥が跳ね、両者は泥にまみれていく。その様はあまりに見苦しい。戦いを知る者が観れば必死な事はわかる。だがそれが知らない者にはただただ無様だった。

せっかく美しかった白騎士が汚される。いままで地味に逃げながら戦ってきた頭だけが回る魔法使いに。決して力強さを見せなかった人間に汚される光景を見たくはない。


其処まで意地汚く戦う事をやめろ。潔く負けろ。早く終わってしまえ。見苦しい。


そのような感情が噴き出て会場中からブーイングの嵐が巻き起こる。

カモ君の事を応援しているコーテやシュージ達からも彼が汚れ、傷つき、貶され続ける事を良しとしない。負けてもいいからはやく試合が終わって欲しいと願った。


もう十分に頑張ったじゃないか。カヒー達との約束事は上位に食い込む事。それはもう果たせた。もう頑張らなくていいんだ。


それはカモ君自身も考えていた。しかし、カモ君はよりにもよってマウラと戦っている間にまた一つ余計な。いや、大切な事を思い出した。

この決闘をシュージが。この世界の主人公が見ている。彼が見ている前で諦める事を覚えさせたらこの後の未来で起こってしまう戦争でどうなる。


主人公が諦める=戦争に負ける=バッドエンド。


そうなればこの国は終わりだ。

そうならないためにカモ君は今まで頑張って来たのだ。ここで自分が諦めるわけにはいかない。


泥臭く、汗にまみれ、みじめな傷を負い、周りから侮蔑されようとも、格好悪くても、諦めないそんな戦いを彼に見せなければならない。知らしめなければならない。


散々マウラに体を振り回され続けていたが、それにも慣れた頃、カモ君は魔法を完成させた。光属性の魔法。レベル1。身体能力を少し上げるプチブースト。これを全力で出し続ける。それを続ける事二分。

地面に両足がしっかりとついた。回っていた目も正常になって来た。全体的な膂力で負けてもここからは一方的に振り回されない。

マウラはレジストの魔法を未だに使い続けており、カモ君の魔法を中和し無力化している。まるで砂漠に水を撒くとすぐに蒸発して乾いた地面になるように。撒いた傍から乾いていくように無効化している。

だが、それ撒きつづけていればその時だけは濡れているようにカモ君のプチブーストはあまりにも微弱ながらも彼の体を強化し続けていた。

マウラがもう一度乱暴にカモ君を振り払おうとしたタイミングに合わせてカモ君はその勢いに任せて彼女を投げた。

柔道で言う所の一本背負いにも似たその動作は、あまりにも無様。技ありの判定も貰えない残心も何もあったものじゃない動作だが、初めてカモ君の攻撃がマウラに通じた物だった。

だが、マウラは王族としての教育。勿論戦闘技術も叩きこまれている。補助魔法を得意とする光の魔法使いだから余計にだ。

投げられたからと言っても決してシルヴァーナは手放さない。この剣に、国宝として宝物庫に眠っていた剣に選ばれた者として手放すことは許されない。今のような状況で手放した時、下手すればカモ君に拾われて斬り捨てられ、負けるかもしれないから。

マウラは投げられながらもすぐさま立ち上がるように体勢を整える。

三回もカモ君には虚を突かれたが、もう逃がさないと両手で持っていた剣を右手で持つ。そして空いた左手でカモ君の左手を掴み上げた。が、そこまでしか出来なかった。

カモ君は左手首を掴まれたが、瞬時に右手でシルヴァーナの柄を掴む。それはまるでマウラが開けた場所を埋めるように。


カモ君とマウラ。筋肉量とマジックアイテムの補助。身体強化魔法と魔法軽減。そして殴り合いの経験の合計がほぼ拮抗した。


若干マウラが力で勝っているが、力任せに行けばまた先程のように投げられる。そうなればシルヴァーナを手放してしまい、その加護が無くなり、負けるかもしれない。それは今使っているレジストの魔法をキャンセルしても同じだ。いまから強化の魔法を使おうとすればまたカモ君に投げられてしまう。

外見では力比べをしているように見えるのに、勝敗を握るのはその人が持つ技術だ。

その間にも二人は素早く腕の力加減や足取りを少しずつずらしながら動いていった。




いつの間にかカモ君を罵倒するブーイングが止んでいた。それに気づけたのはカモ君がマウラを投げてから五分ほどの時間が過ぎてから。

みじめに転がされるだけだったカモ君と白騎士の体が薄く白く光っていた。

強化と無効化の魔法を常に放出し続けているのだとカヒーの解説がされたが、シュージを含めた観客の耳には留まる事が無かった。


「…綺麗。まるで踊っているみたい」


観客の誰かがそう呟いた。

目の前で戦っている二人は薄汚れていた。だが、それさえも装飾品の一つと思わせるほどに二人はお互いの手を、剣を離さずに素早く体を動かしていた。

強引に押し倒そうとしたかと思えば、その体を抱きしめるかのように引きあう二人は本当に踊っている様だった。

カモ君は相変わらず劣勢であるにもかかわらず、日ごろ鍛えたクールな表情を崩さない。少しでも苦しい表情を見せれば、そこから気合負けしてしまう。

白騎士も兜の中で息を荒くするが苦悶の声はあげない。それを感じ取らせない。カモ君にそれを知られたら、リズムを合わせられて投げ飛ばされる。

一進一退に見えた攻防だが、カモ君が不利なのは変わらない。

なにせカモ君は魔力を消費し続けている。マウラは消費してもシルヴァーナから魔力を供給し続けている。

このままでは魔力切れでカモ君が負けることは必定。だが、カモ君に出来ることは現状維持のみ。千日手に見えた必至な状態にカモ君はこれ以上の事は出来ない。マウラの小さなミスを見つけ、そこを攻撃するしかない。

そう思いながら組みつく事五分経過した。カモ君が見逃しているだけかもしれないが、一向にマウラは隙を見せない。


当然だ。マウラはシルヴァーナというチートアイテム持ち。彼女が負ける方がおかしいのだ。今、拮抗していることが奇跡のような物。


カモ君が今まで頑張れたのは前世の記憶。シャイニング・サーガの攻略方法。

そこから効率的に体力と魔力を鍛えつづけ、魔法学園滞在時にはアイムに教えを請い、毎日欠かさずトレーニングを積んできた努力の賜物。ある意味、王族の英才教育よりも効率的な鍛錬を続けてきたお蔭でここまで戦えた。


均衡はもう長くは持たない。

カモ君の魔力も体力ももうすぐ底を尽く。だが、最後までそれを勘ぐられてはいけない。その為にも常に全開でいなければならない。

切り裂いてしまった頬は今も熱された棒を押し付けられたように熱く感じるし、魔力の使い過ぎで脱力感も半端ない。スタミナだってそんなに残っていない。

出来る事なら顔の傷をすぐに魔法で手当てして、風呂に入って、ベッドの上に倒れこみ一日中眠っていたい。

それを悟らせないためにも自分は。


「カモ君選手、笑みを浮かべている!これは勝利を確信しているのか!」


笑うのだ。

虚勢を張って悟らせるな。相手の苛立ちと動揺を誘え。不利な時こそ笑って乗り越えろ。


その時、マウラがカモ君を押し倒さんばかりに体を前面に押し込んできた。

勝機と見たのか、それともカモ君の態度に苛立ったのか。どちらでもいい。これが最後のチャンスだ。

魔法と違ってマジックアイテムは詠唱を必要としない。勿論カモ君のクイックキャスト(笑)も必要ない。念じるように魔力を流せば効果を発揮する。

プチブーストの魔法を終了させると同時にウールジャケットに一秒だけ魔力を込める。

強化の魔法を受け無くなった。

マウラからしたら今まで組みついていた相手がいなくなりバランスが取れなくなる事にも等しい現象に陥る。だが、それで不利になるとは限らない。

マウラはそのままカモ君を押し倒し馬乗りになったらカモ君の首を締め上げようとそのまま倒れこむように押し倒す。

そんな中でもカモ君の左足の裏はしっかりと地面を踏みしめていた。そして、右足はというとマウラの股間の下。鎧の股下を蹴り飛ばしあげていた。


「オラァァ!」


金蹴りを繰り出しながらの巴投げに近い。柔道なら確実に反則を取られる動作をされたマウラ。

股下を蹴り上げられたダメージはほぼ0。しかし、マウラはまたもや投げ飛ばされてしまう。彼女がこうも投げられてしまう理由彼女の油断もあるが一番の理由は魔法金属で作り上げられた鎧が軽いと言う事だ。

彼女の筋力を考慮して軽く作られたそれは、彼女の体重を合わせても八十キロにも満たない。百キロ以上あればカモ君は投げられずそのまま押しつぶされていた。

カモ君の投げ技で二人して転がって行った先には選手が試合会場の壁だった。

その壁に押し付けられるように叩きつけられたマウラは初めて呻き声を上げながら今まで掴んでいたカモ君の左手首を離してしまう。


ここしかない!


マウラに組みついている状態。彼女の見せる初めての怯み。自由に使えるようになった左手。

この条件下でやるべきことはただ一つ。彼女の鎧の中央に貼られた護身の札に自由になった左手を押し付けたカモ君。あとはプチファイヤと唱えるだけだ。

この時、観客はもちろん、審判やカヒーといった解説役。それを眺める王族ですらも決着の時かと息を飲んだ。


「プチファイ」


だが、カモ君が最後の一文字を唱える事は出来なかった。

この瞬間。目と体を真っ赤に充血させた、明らかに正気ではない凄腕の冒険者が。

その圧倒的な体付きとその異常なまでの身体能力をもったゴンメが観客席から飛び出し、その手に持った巨大なハンマーで壁際にいたカモ君とマウラを押し付けるよう叩き潰したのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ