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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモ肉のサイキョー風御前料理
62/205

第六話 ぶっつけ本番の大体が危険をはらんでいる

予選を終えた選手達は一同、王族。お姫様のマーサ・ナ・リーランのありがたいお言葉を受けていた。要は正々堂々戦えよ。明日の試合は一対一の勝負。今日と同じフィールドで準準決勝を四戦行う。その次の日に準決勝を二戦。三日後に決勝を執り行うと言う事。優勝者はマーサ王女への謁見が可能になり、彼女の出来る内で望みが叶えられるというもの。

御年十五歳になるマーサ姫の容姿はまるで宝石で出来た人形の様だった。一般女性の身長にスレンダーな体躯。銀を思わせるプラチナヘアー*は肩まで伸びており、その瞳はエメラルドを思わせる翠。その計算されたかのような細身の体から出される声色は女性なら嫉妬、男性なら魅了させてしまうのではないかと思わせる凛とした物だった。もし、彼女が死ねと言えばこの場にいる何人かは本当に死んでしまうのではないかと思わせるほどオーラに溢れていた。

ミカエリという女神じみた美貌を持つ女性を知っていなければカモ君もその声に骨抜きにされていたかもしれない。それほどのオーラを持った姫の言葉を聞いた選手は各々控室に戻っていく。

そんな選手たちの列の最後にカモ君はいたがそこに声をかけてくる人間がいた。シュージだ。マスクで変装しているだけではさすがに感いたシュージはカモ君を心配してこの大会に出場。優勝できれば何か助けになれるかもと思ったらしい。しかしながらそうなる前の準々決勝で二人は戦うことになった。

その事を残念に思いながらもカモ君はこれまでの事をシュージに話した。

モカ領で起こった事。ギネが自分を目の敵にしている事。その刺客がゴンメである事。それを撤回させるためにこの大会に参加して、優勝し、恩赦を受ける。その事をかみ砕いて話すとシュージは自分の身に起こったか事のように怒った。

助けてもらいながら自分の息子に刺客を送るギネに憤りを見せたが、カモ君は諦めたかのように肩をすくませる。

あれがどうにかなるなど今更期待していない。口で説明しても聴かないし。文字通り力尽くで言う事をきかせるしかない。と、カモ君が言うとシュージはそれ以上何か言うのをやめて明日の準々決勝の事を話すことにした。

シュージは自分ではカモ君に勝つことは出来ない。それならカモ君に出来るだけ無傷で勝ち上がってもらい準決勝に備える為にも危険を考えていたがカモ君がそれをきっぱりと止めるように言った。

明日の準々決勝は全力でぶつかって来い。と、

その言葉にシュージは驚いた。間違って自分が勝っても次の準決勝に勝てる気がしない。決勝なんて夢のまた夢だ。それではカモ君をマーサ姫に助けてもらうように願い出ることは不可能だと。そう理解し、勝負を諦めていた。

そんなシュージをカモ君は叱り飛ばす。

確かに勝ち目のない戦いをすべきではない。ダンジョン攻略や傭兵の真似事をしている時は特に、だ。命の危険がある物に挑戦することは良くない。後遺症が残る事も同様だ。

しかし、今回は護身の札というある意味この世界最大の保険がきいている戦いは別だ。

致命傷や即死に至る攻撃もこの札がある限り免れることが出来る。このような機会はそうそうない。相手との力量の差を知るためにも、自分の限界を知るためにも今回の大会は全力で当たれとカモ君は言った。勿論これには裏がある。

前にも記述したが、主人公であるシュージには出来る限り前向きに事に当たって欲しいのだ。この先の未来で起こるだろう戦争では困難の連続だ。それを乗り越える為には前向きな主人公とヒロイン含めた仲間達の行動が鍵になる。ここで諦めるという事は覚えて欲しくは無い。むしろこのような挑戦にはガンガン取り組んでもらいレベルアップしてほしい。それがこの国の為になるのだから。

勿論、そんな事は言えないカモ君はシュージを騙すように説得。明日の試合。正々堂々勝負だと言い残し、選手控室によって、戦闘服から私服に着替えた後人込みに紛れてシュージの前から姿を消すのであった。


翌朝。同会場にて準々決勝が行われた。


カモ君の前世の記憶からだと朝十時からという早い時間だと言うのに選手たちはすでに準備を整え、試合の時まで体を温めていた。観客達は今か今かと戦いが始まるのを待っていた。

そして始まりのあいさつが終わると同時に観客達の歓声は一気に高まる。それもそのはず、一番人気である白騎士の登場に心を踊っていたからだ。前回の戦いを知っている者。その者から情報を聞いた初見の人間まで白騎士の登場を待ちわびていたからだ。

準々決勝第一試合。白騎士マウラ対モブっぽい魔法使い。

魔法使いの方もそれなりに実力はあったのだろう。詠唱の短い火の魔法で白騎士を牽制。仕留めようとしたが、放たれた魔法が弱すぎたのか、放たれた魔法を特に防御することも回避することもなく突撃していった白騎士。

自前の抗魔法レジストが発動させており、更にはシルヴァーナの加護で、自分に放たれた魔法が着弾するも、まるで効かなかった。まるでろうそくの先についた火を吹き消すようにかき消された。

魔法使いが戸惑っている間に白騎士は持っていた剣、シルヴァーナを抜刀。その刃先が対戦していた魔法使いの首筋に皮一枚のところで止められた。

魔法使いは小さな悲鳴を上げた後、降参した。

審判がそれを受諾し、白騎士の勝利が宣言される。観客席からの大歓声を受けながらも依然として無言のまま白騎士は試合舞台のフィールドから歩いて去って行った。

時間にして一分も経たない程に短い時間で決着がついた。しかし、これがヒロインとチート武器の実力だ。未熟なシュージはもちろん、カモ君でも早々出来るものではない。


第二試合。モブっぽい男性冒険者同士の戦い。先程の見事な試合劇とは打って変わってこちらは随分と汗臭い試合が続いた。

お互い剣を主体とした戦い方だったが、数合剣の打ち合いが続いたかと思えば同時にお互いの剣の刃が砕け散った。そこからは殴り合い、関節技の掛け合いによる肉弾戦へと変わり、一時間の戦いの末、片方の選手が関節技をかけられたことによりギブアップ宣言をして決着がついた。

その光景は同じ男性からしたら見ごたえのある物だったが、女性からの評価あまり良くなかった。彼女達は華麗な、もしくは美しい戦技を見たかったのだ。

白騎士の試合に比べるささやかな拍手が観客から贈られるだけになった。


第三試合。モブっぽい魔法使い対ゴンメ。

こっちの試合はあっさりした物だった。

試合開始後、即座に魔法使いが風の刃を放ちゴンメの首をはねようとしたが、ゴンメはその強靭過ぎる身体能力を持って巨大なハンマーを振るい、風の刃を霧散させた。

その振るわれたハンマーを勢いそのまま体を一回転させると魔法使いに向かって放り投げた。全長二メートルもあるハンマーは先程放たれた風の刃よりも大きな風切音を出しながら魔法使いに直撃。呻き声も上げることも出来ずに魔法使いは戦闘不能まで追い込まれるダメージを負い、転送されていった。

魔法を力でねじ伏せた。そんな試合展開に観客達は歓声に沸いた。

魔法使いは普段から威張り散らしている輩が多い。それを魔法ではなく誰もが持っている筋力。それを鍛え上げたゴンメが叩きのめした光景に歓声を上げずにはいられない庶民たちはゴンメコールを彼が試合会場から離れるまで続けていた。


第四試合。カモ君対シュージ。

試合開始前に始まる選手入場の際、シュージには歓声が沸いた。見た目は美少年というかイケメン少年だ。それはそれは同年代の女の子には人気が出るだろう。ショタっ気もあるのでお姉様、マダムの方々からも歓声を浴びるシュージ。

対して、カモ君が入場すると一気に会場が白けた雰囲気を醸し出した。その中でやけに耳障りな肥えた豚みたいな笑い声がしたがそれに気にすることなく、カモ君は入場を果たす。

この対応の差が主人公と踏み台の差か。と、カモ君は半ば諦めに近い心境で受け止めた。

シュージと対峙するのはこれが二回目だ。

彼と共闘することもあった半年にも満たない間に大分お互いの事を知りあえた。まさか、原作では一方的に僻んでいたカモ君がこうやってお互いを気遣える間柄になろうとは思ってもみなかった。それだけお互いを知りあえたからこそシュージも自分の出方を知っているだろう。

魔法の打ち合いになれば火力がシュージに分がある為、カモ君は接近しながら魔法を連打しながら格闘戦に持ち込むだろうと踏んでいるのだろう。それは正しい。シュージとカモ君は何度も模擬戦をしているだからこそお互いの戦い方を熟知している。

ただ、そこに間違いがあるとしたら。

カモ君にミカエリというスポンサーがついていることをシュージが知らなかったという事。


試合開始と同時にシュージはカモ君から更に距離を取りながら自身の持つ最高の威力を持つファイヤーストームの詠唱を開始する。

だが、その詠唱が完成する前にカモ君の詠唱が終わる。


「エアショット」


カモ君のクイックキャストにより、風の玉を撃ち出す初級魔法が繰り出された。だがその魔法では十メートル以上は離れているシュージに届くころには威力は散って、そよ風程度の感触になっているだろう。


カモ君はその魔法を自分自身の背中に向かって撃ち出す。

自分を押し出すように放たれた魔法と同時にウールジャケットの効果を発動させた。

更に自分を蹴り飛ばすつもり地面を蹴り抜いた。


この三つが組み合わさる事で人間が出せるとは思えないほどのスピードを出したカモ君はそのままシュージに体当たりをする。その初めて見る超スピードにシュージは対応することなくカモ君を受け止める形でぶつかった。

その痛みは無い。ウールジャケットでほぼ重さを失ったカモ君の体当たりはまるで掛け布団を押し付けられたような感触だった。しかし、それで呆けたのがいけなかった。

カモ君のクイックキャスト(笑)はシュージが一つの魔法を完成させる前に、カモ君二つ発動させることが出来る。

呆けていたシュージの顎に左の手の平を当てながらカモ君は魔法を放った。


「ロックシュート」


カモ君の手の平から撃ちだされた頭一つほどある岩が撃ちだされると同時にシュージの顔も正面ではなく真上を見る事になる。

岩が直撃したのにその程度のダメージで済んだのは、これまでカモ君との模擬戦で魔法を何度も遠距離・中距離・近距離で受けてきた事とアイムとの訓練。とにかく魔法使いである自分は敵との距離を取る事を教えられたお蔭である。

カモ君の魔法が発動する直前で体を後ろに引くことが出来たが、魔法によって打ち出された岩の砲弾は顎をかすめた。その衝撃でアッパーカットを受けたようにシュージの顔が撃ちあがった。それでもまだ戦う意思は残っていたシュージだが、目に映る光景がぐにゃりとねじれた。

岩で撃ちあげられたダメージで脳が揺さぶられ生じたダメージが脳震盪に近い状態になったのだ。膝から崩れ落ちて、詠唱できない状態のシュージはそのねじれた光景を見る事しか出来なかった。


「プチファイヤ」


ねじれた視界の中のカモ君がこちらに手を向けられる。その手の先が真っ赤な火の玉を生み出したことでシュージは自分の敗北を悟った。

未だにまとまらない思考と視界に酩酊状態だったシュージは胸のあたりに熱さを感じた。


ああ、自分の護身の札が燃えているのか。負けたのか。

やっぱり強いな。エミール。

今度戦う時は俺ももっと…。


決闘の時や模擬戦。やはりカモ君は自分に手加減していたのだ。

実際の魔法の威力は自分が上だと言っていたが、それは発動させたらの話しだ。そうさせないための手段をカモ君はしっかり持っていた。ただそれを使う機会が無いくらいに彼との力量差に違いがあったのだ。それを悔しく思うが、今回その手段を使わせたという誇らしさを持ってシュージは転送されることになった。


カモ君とシュージの戦いは終わった。

またもや地味な展開だった。

カモ君が急加速してシュージに体当たり。顎先に手を当てて岩を撃ち出す魔法を打ちだし、そのダメージで倒れたシュージに火の魔法を持って護身の札を焼いて強制転移させた。

ただそれだけ。駆ける・撃つ・燃やす。時間にして十秒ちょっと。その光景に最初は何が起きたか分からなかった観客達も噛みしめるようにカモ君の行動を思い出す。

風のように駆け抜け、岩を撃ちだし、火を操る魔法使い。そこから出た答えは。


「…エレメンタルマスター」


「え、ちょ、ちょっと、嘘でしょ。あの魔法使いの中でも珍しい、複数系統の魔法使いの?!」


「マジかよ。あんな地味な変な格好をした奴が」


観客の声は次第に大きくなるかと思いきやすぐに静まり返る。


「でも、使う魔法が地味よね」


「少なくても派手じゃないな。まさかレベルの低い魔法使いなのか」


「せっかくレアな魔法が見られると思ったのにこれじゃあなぁ」


驚愕から落胆に変わる。それでも勝ち残ったことは事実だし、なにより、昨日のようにカヒーにまた説明させるわけにもいかないと思った観客からまばらな拍手が送られた。

しかし、ある程度の実力を持った冒険者や魔法使いからはカモ君は驚異的に見えた。

適材適所。その時に効果的な魔法を使い勝った。低リスク・高リターンを行ったカモ君はまだ実力を見せていない。

相手が知らないと言う事は最大の武器になる。初見の行動には大体の人間が戸惑うのだ。その攻撃がこちらを確実に仕留める可能性を秘めている。そんな事はダンジョン攻略を行ったことがある人間なら誰しもが感じる事だ。

カモ君の試合内容を選手専用の観戦室から見ていた準々決勝戦勝者である白騎士マウラも、モブっぽい冒険者も、頭が野生に帰っているゴンメすらも脅威を感じていた。

カモ君は強敵だと。そんな彼が試合の舞台になった場所を去っていく。その背中から感じる彼の実力はまるで透明度の高い湖の底を見ているようだ。

すぐにそこに手が尽きそうと思って手を出してみると思いのほか深く、こちらが呑みこまれてしまうくらいに深い。そんな脅威を感じさせていたカモ君。


やばかった。シュージが真後ろじゃなくて左右どちらかに移動していたら、駆けぬいた勢いそのままで試合会場の壁にぶち当たって無様を晒していた。そこにシュージの魔法が飛んできていたら完全に負けていた。


結構なギャンブルに勝ったカモ君。その実力の深さ(十センチ未満)に誰も感じ取ることは無かった。


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