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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモの頬肉の叩き揚げ(物理)
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第三話 頭が高いぞ。お辞儀をするのだ。

 太陽が昇り、朝一番で銀行から預けていたマジックアイテムを全て引き出したコーテはカモ君と共に引き出したアイテムを吟味していた。これらは全てカモ君が入学してすぐに引き起こしたバトルロワイヤル式の決闘で手に入れたものである。

 杖。短剣。アクセサリー。マントと種類があるが全部持って行くわけではない。

 この世界はマジックアイテムをたくさん持ってもその効果は三つまでしか発動しない。武器なら切れ味や打撃力は普通の武器と同じだが、マジックアイテムの真価は魔法を使ってこそ。その属性に合った魔法を使えば効果は上がる。

 転生者であるカモ君もそのルールから外れることは出来ない。だからこそしっかりと吟味した結果。

 地の首飾り。地の短剣。そしてコーテが羽織っていた水のマント。

 以上の三つを装備することにした。

 出来る事ならダンジョン探索でマッピング。罠探知の魔法を補助する地属性のマジックアイテムだけで身を固めたかったが、コーテが預けているアイテムで地属性は首飾りと短剣だけ。

 それでもマジックアイテムがこれだけあるのは多くの貴族の中でもコーテか、富豪。侯爵家の御曹司くらいだろう。

 マジックアイテムは希少で貴重だ。それを貸してくれるコーテには感謝の念しかない。


 「これで十分だ。ありがとうコーテ」


 「これは貸した物だから。ちゃんと返す事。利子つきで」


 「今度の演劇デートは全部俺持ちでどうだ」


 「…それだけじゃ足りない」


 彼女のいつもの無表情からの冗談にもだいぶ慣れたカモ君は苦笑しながらデートの約束を取り付ける。

 はっきり言ってカモ君のお財布事情はかなり苦しい。だが、これから向かう実家はもっと苦しい状況だ。一刻も早くモカ領に戻ってダンジョン問題を解決しないといけない。スタンピートが起こる前に。最悪起こったとしてもクーとルーナをモカ領から逃がさないと。

 そんな事を考えていたカモ君の顎先にコーテの手が触れた。こちらに向かってピンと腕を伸ばしているが、二人の身長差からか、その手はカモ君の顎先までしか届かなかった。その様子にコーテは全身をプルプルと震わせていた。が、数秒後。


 「…私にひれ伏せ」


 「コーテさん?」


 わたくし、何かまずい事をしたでしょうか?

 カモ君は片膝をついてコーテとの目線を合わせる。高身長のカモ君と低身長のコーテはこうしないと同じ高さの目線にならない。

 そうすることでやっとコーテはカモ君の顔を両手で捕まえることが出来る。しっかりと自分の目が見えるようにカモ君を睨みつけるように言った。


 「無茶は許す。だけど無理はしたら駄目。ちゃんと帰ってくること」


 カモ君は目的の為なら無茶をするという事をコーテは熟知している。今回も無茶をするだろう。だからこそこの約束だ。これだけは譲れない。

 ダンジョン攻略は命懸けだ。死ぬ可能性がある。

 約束が力になる事もある。だが、そんな精神論が通用するほど甘くもない。時にはそれがよぎって冷静さを欠くこともある。


 「わかった。…行ってくる」


 だからこれは祈りじみた呪い(まじない)だった。自分の言葉がカモ君の枷にならないように、力になるように。

 コーテからアイテムを受け取ったカモ君はコーテに頭を下げるとすぐに背中を見せ、魔法を使いながら駆け出した。彼の行先は王都南部に位置する馬車乗り場。

 そこにセーテ侯爵が自作のマジックアイテムを準備しているだろう。そして向かう先。カモ君の実家であるモカ領。おそらくゾーダン領のダンジョンよりも難易度が高いダンジョン攻略を行うのだろう。

 コーテは自分の力量不足を恨む。自分は何のためにこの魔法学園に来た。このような有事の時に働きかける為に魔法学園に入学したのではないのか。

 今はカモ君を見送る事しか出来ない今まではカモ君を支えられればいいと考えていたが、考え直す。そんな考えでは駄目なのだ。

 彼は突き進む。進む先に壁があるなら何度だってぶち当たる。その壁が壊れるまで。乗り越えるまで。何度だって愚直に繰り返す。

 昨日よりも過酷な今日の訓練を。昨日を乗り越えるために。

 今もなお過酷な試練を自分に貸す。今ある難関を果たすために。

 今ある難行を幸ある未来に変える為に突き進む。

 そんな彼を支えるというだけでは駄目だ。

 彼と共にありたいと思うのなら彼の横に並ぶ。

 エミール・ニ・モカと同じ実力を持ち、比類する者は婚約者であり相棒のコーテ・ノ・ハントだと胸を張って言えるように自身も強くならなければならない。


 彼なら出来た。ならば自分も出来るはずだ。


 数多い魔法の才能に胡坐をかくことなく邁進する彼を倣えば自分にもできる。

 その為には日々の鍛錬が必要だ。


 彼になら出来る。ならば自分も出来るはずだ。


 それを証明するように今は新任の冒険者教員に何度負けても立ち上がる。その度に彼は強くなる。

ならば自分も挑もう。何度でも敗北を味わおう。それを乗り越えた時自分はもっと強くなるのだから。

 その為にも自分も今からでも挑むのだ。自分よりも強い者に。

 最初から強い者などはいない。

 いるのは強くなろうとする人間かしない人間だけだ。

 それを彼は示して見せた。証明した。

 コーテはカモ君が見えなくなると銀行から引き出したマジックアイテムの中から自分に合ったもの以外を全て預ける。

 彼女が手にしたアイテムは彼から借りている水の軍杖。

 そして、抗魔のお守り。

 全ての魔法に対して幾ばくかのダメージ緩和の効果を持つアクセサリー。

 それはどのような事があっても、抗い、前を向くという彼女の心の表れだった。

 そして、


 カモ君が見落としていたマジックアイテムである。

 これに気が付いていれば、カモ君は水のマントではなくこの抗魔のお守りを選んで持って行っただろう。


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