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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモの頬肉の叩き揚げ(物理)
43/205

序章 クズは領民共通認識。

 四十代で肥満体系な男性は次々に運ばれてくる書類の山に文句を言いながらロクに内容も見ないで判を押し続けていた。

 ギネ・ニ・モカは慢心していた。冷静さを欠いていたとも言ってもいい。

 二ヶ月前にハント伯爵から鉄拳制裁を受けて苛立ちがピークに達していた。相手の方が立場が上で貴族として魔法使いとして自分の息子を見捨ててドラゴンから逃げ出した事を咎められたので反論も文句も言えずに早々に自分の領に帰ってから八つ当たりするように自分の屋敷で雇っている使用人・報せを持ってくる衛兵。領民に怒鳴り散らした。

 手を上げようにも口では使用人であり侍従長を務めるモークスに勝てず、言いくるめられて、その苛立ちを物に当たる事でしか出来なかったギネに追い打ちがかかる。

 自分が統治するモカ領でダンジョンが発生したのである。

 現在、自分の領にいる衛兵は少ない。

その理由は王都に出向く際に自分の領地の衛兵の四割を護衛に連れて行き、その半分が王都からの帰り際にドラゴンに襲われ命を落としたのである。

現在、自分の領にいる衛兵は集めても四十人くらいだろう。しかも亡くなった衛兵の遺族への挨拶も終わっていない状況でのダンジョン発生である。

自分達の仲間を失ったばかりの衛兵達の士気は最低とまではいかないが、少なくても自分の息子エミール。カモ君が統率していた時に比べ格段に落ちている。

その状況でギネは衛兵達だけでダンジョン攻略をするように命じる。が、衛兵長が冒険者を雇入れることを苦言した。

ダンジョンの規模はわからないが戦力を整えてからの方がいい。衛兵達の士気は下がっており、魔法使いもいない自分達だけでは危険が大きすぎると。この時点で魔法使いであるギネは戦力から外れていた。

カモ君が領にいる間は、エレメンタルマスターのカモ君が常に前線に立つことで様々な魔法を駆使しダンジョン内部を比較的早く把握できた。そんな魔法のバックアップが足りないだけではなく、戦力が前よりも比較的に落ち込んでいる今だからこそ冒険者を。出来る事なら魔法使いの投入を待ってから攻略がしたかった。

しかし、


「そんな事はどうでもいい!貴様等は儂の言う事をきけばいいんだ!」


 そう怒鳴り散らしながら権力で彼等を無理矢理ダンジョン攻略に向かわせることになった。

 ギネは冒険者という野蛮な輩を招いて自分の領の問題を解決することに苛立ちを覚えていた。それも自分を殴ったハント伯爵が彼等を優遇しているからである。

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。

 そんなギネに辟易しながらも衛兵長はひとまずその命令を受け入れる。だが、衛兵の駐留所に戻るなり一番若い衛兵三人をそれぞれ縁のあるハント領。冒険者ギルドのある一番近い領。そして王都へ使いに出させる。そのどれもが救援依頼だ。

 ギネは外面だけは良くしようとするから一度救援部隊がこれば受け入れるだろう。しかし、これが終わった後。衛兵長はこの責任を問われ、この役職を降ろされるだろう。だが衛兵長は自分たちの部下。領民を守る為にそれを甘んじて受けるつもりだ。

 それらを部下の衛兵に伝えると部下達から辞めないでくれと頼まれるが、既に救援は出した後だ。もう後戻りも出来ない。するつもりもなかった。もう彼を止められるものはいなかった。


 「待った!そんな事しなくても、僕があの豚!じゃなくてクズ親父を説得する!」


 クー・ニ・モカ。

 モカ家の次男にしてカモ君の弟。

 カモ君がハント伯爵の婿に行くことが決まっているので、実質彼が次期領主となる。

 そんな彼は日課となっている衛兵達の軍事訓練に混ざって参加していた所で今の話を聞いた。それを聞いたらいてもたってもいられなくなったからだ。

 その金の髪は曇り空で日の光も少ないのにキラキラと輝いていたが、それ以上に金の瞳がやる気で輝いていた。


 「坊ちゃん。いや、若様。いくら貴方でも無理です。領地において領主の命令は衛兵にとっては絶対です。それを覆すにはそれ以上の立場の者。しかも伯爵や侯爵でも駄目です。もっと上の立場の人間でなければ。この近場に辺境伯と公爵領はありません。それに遣いはもう戻せません」


 つまり、頼りにしていたハント伯爵からの忠告もこのモカ領では意味がない。他領の事に口に出す事はその領主に文句をつけている事だ。今も勿論文句をつけられるような状況だ。戦力が衰えている今、誰もどうしようもないのだ。


 「…だったら。僕が。僕がダンジョンに行く!にー様みたいにダンジョンで皆の役に立つ!」


 「…若様。…止めてもついてこられるんですね」


 衛兵長はクーを止めようとしたが止めた。彼の目は数年前にカモ君が衛兵の駐屯所に来て体術や剣術を習いに来た時。そして野良モンスター討伐の際に自分から進んで彼等に協力をすると言い出した時と同じ瞳をしていたからだ。

 衛兵の訓練に混ざり、モンスター討伐の時にも協力し出した時期がカモ君に似ている。いや、カモ君よりも早い時期にクーは名乗り出したのだ。


 やはり、貴方方はご兄弟の様です。エミール様。


 衛兵長はクーの後ろにまだ小さかった頃のカモ君の幻を見た気がした。


 「当然だ。僕を誰だと思っている。エミール・ニ・モカの弟だぞ。絶対にあのクソ親父を説得してダンジョン攻略をみんなでするんだ!」


 「…わかりました。若様。ですが一言だけ注意したいことがあります」


 「なんだ?」


 「その口調。少なくてもあのクソ領主。いえ、領主の前ではそのような口の使い方はいけません。少なくてもダンジョン攻略の許可を得るまでは正してください」


 カモ君よりもやや好戦的な性格をしているからかクーの口調はカモ君の前以外では粗野になりがちである。今のような口調ではギネの反発を買い、部屋に軟禁されるかもしれないからだ。

 だが、逆に反感を買ってダンジョンに放り込んで痛い目に遭って来いと言うかもしれない。ギネの沸点は明らかに常人より低い。外面がいいが、その分、意見を言われると逆上することもあるのだ。


 「うぐっ。確かにあのクズ。いや親父ならそうしそうだ。気をつけよう」


 「ええ。それがいいかと。あとダンジョンでは私達の言う事に従ってもらいますからね」


 「分かっている。にー様も下積みの経験をしたんだ。それが貴重だと言う事も聞かされている。従うさ」


 そう言ってクーは駐屯所を飛び出し、自分の屋敷へと戻っていった。

 それを見送った衛兵長は振り返って自分の部下達を見渡す。そして大声で言い放った。


 「いいか!我等が若様は覚悟を決めた!まだ八歳にも満たないガキがだ!これ以上情けない姿を見せるのは大人のする事じゃねえ!野郎ども!戦の準備だ!」


 オオオオオオッ!!

 駐屯所が衛兵長。そしてその部下たちの雄叫びで揺れる。

 おもむろに配給されたレザーアーマーを身に着け、自分が得意な武器を手に取る。明らかに前回より戦力は低下している。されど士気は下がる事は無かった。

 自分を先導する者達がここまで男気を見せたのだ。これに応じなければ自分達は衛兵をやっていけない。

 直ちに発見されたダンジョンの周囲を調査する班が組まれた。

以前のようにカモ君が用意した報酬は見込めないがそれでも自分達に協力してもらえる大人達を探し出して、今ある困難を乗り越えよう。

 自分達は大人なのだから。




 それからちょうど二ヶ月が経った。

 他領の冒険者ギルドから冒険者が来た。

 ハント領から魔法が使える冒険者が来た。

 王都からも国属の魔法使いも来た。




 それでもダンジョンは未だに攻略できなかった。




 そして二つ目のダンジョンが発見された。


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