第十六話 ご唱和ください奴の名を
ゾーダン領のダンジョン攻略から一週間過ぎた。
今日も今日とて早朝には筋トレと体術・剣術トレーニング。朝食後、授業が始まるまでは瞑想をしているカモ君のルーティンは変わらなかった。
変わったのはそのルーティンの中に講堂のアルバイトの張り出しによく顔を出すという事だ。だが、実入りの良いアルバイトにはまだありつけないでいた。
はっきり言ってお金がない。だが、自分磨きをして強くなりたい。そして主人公に倒されたいという様々な考えを張り巡らせながらカモ君は今日も魔法学園の授業を受ける。
そんなカモ君の視線の先には人だかりができていた。
その中心にいたのはシュージだ。ドラゴンバスターの次はタイマン殺しバスターが現れたとここ一週間、この教室は噂と人だかりが絶えない。
カモ君にも人だかりは出来ていたが、それもタイマン殺しを討伐したシュージの活躍の陰に埋もれ、今は一人静かに次の授業の準備をしていた。
シュージも最初はカモ君がいなければタイマン殺しは倒せなかったと言うが褒められ続けることでその年齢特有の「俺ってば実はすごい?」と少し調子に乗っていた。
カモ君はそれでいいと思う。こうやっておだてて意欲的に強くなってくれればカモ君としても嬉しいのでこれはこれでありだと考えていた。
そんな人だかりを割るように本日の講師が教室の扉を開けてやって来た。
「皆、席に就け。休み時間は当に過ぎている。これから授業を始めるぞ」
その声を聴いてシュージを囲んでいた人だかりと一緒に彼もまた自分の机に戻っていく。そんな生徒達の姿を見て飽きれながらも講師は言葉を続ける。
「皆も知っているだろうが、つい最近までダンジョン攻略のアルバイトを告知していた。そのアルバイトであるトラブルに見舞われ、これ以降同じトラブルに見舞われてもいいように新たな講師を雇うことにした」
そのトラブルとはタイマン殺し。シータイガー。そしてダンジョンの氾濫だろう。その少し前はドラゴン騒ぎ。はっきり言ってこのようなレアケースが頻繁することは五十年に一度あるかどうかの出来事なのだが、次もまた起こると考えた方がいいだろう。この学園の講師。学園長はお気楽な人間ではない。
自分達が、そして生徒達がそのような境遇に置かれてもいいように少しでも心構えという物を学んでほしいという思惑があるんだろう。
「新しい講師は、…出身が冒険者だ。だが、だからといって無礼な真似はしないように。少なくても君等よりはダンジョンの経験が豊富で、また対人、対モンスターのスペシャリストだ。学んで損はない。入ってきてくれたまえ」
お?これはヒロインがこの学園に来るイベントかな?やはりすごいな主人公。たった二回のフラグだけで彼女とのイベントを起こすなんて…。
そんな風に考えていたカモ君の思惑通りにと教室に入ってくる人物に視線を向けた。
その人物はカモ君と同じように筋骨隆々。その肉体は学園指定のジャージに包まれていたが筋肉質な体つきがみてとれる。瞳の四隅は角張ったような三白眼。頭髪は全て剃り落したように無く、日の光を弾いていたその人の名は。
「アイム・トーボだ。宜しく頼む。こう見えても地属性の魔法なら使えるぞ」
『鉄腕』のアイム・トーボ。
三十七歳!独身!勿論男性!
あれぇ、お前?フラグを立てた覚えも回収した覚えもないぞぉ。
この瞬間だけカモ君は戸惑いの表情をしていたがそれは誰にも気付かれることは無かった。
考えてみればここは魔法学園。魔法が使えない『蒼閃』のカズラが招かれないのは仕方ないのかもしれないが一番の要因は、カズラが少しでもダンジョンの知識をカモ君達に知ってもらう為にアイムと魔法学園に手紙を送り、その仲立ちをしたからであった。
魔法使いは基本無手だ。だからそこから行える格闘術が指導できるアイムに頼み込んだのだ。
学園側にとって渡りに船。生徒や講師達にダンジョンとモンスター。対人戦の知識を得るには丁度いい人材。
アイム自身もカモ君達にはダンジョン攻略の時の借りがある。それを返すいい機会だと意気込んでやって来たのであった。
ヒロイン(カズラ)だと思った?残念、彼だよ。
「今頃。旦那は二人に合えているかなぁ」
『蒼閃』のカズラは王都から再び活動を移して、東の領地。モカ領行きの馬車に乗って思いをはせていた。
あの恩人である二人。二人の為に何かしたいと思ったが所詮、自分は冒険者。荒事しか出来ない自分だが、もっと強くなり二人に合ったその時、この魔法殺しを返す時に改めてお礼を言おうと考えていた。
そのお礼の一つでモカ領へ赴きカモ君の弟妹。クーとルーナにカモ君の活躍を伝えに行くことにした。もうすぐ東の領地周辺はダンジョンが発生する時期だ。そこを拠点にしながらカモ君の事を彼の弟妹に伝えようと思う。
シュージとカモ君と面識有るカズラだが、カモ君の婚約者コーテとも少しだけ面識がある。
とは言っても、カモ君の事を魔法学園の関係者に尋ねようとした時に話しかけたのがコーテであり、カモ君の内情を知ろうとしたがコーテは何?この女?カモ君に近付いて何する気?私の婚約者だよ?と内心穏やかではなかった。
カモ君の印象を少し悪くしようとした嫉妬心から彼は弟妹とは仲がいいですが、領主。親とは仲が悪いですよ。彼と仲良くしても実入りはないですよと。と、遠回しに伝えた。
だが、それだけ聴ければカズラには十分だった。カモ君は自分の失敗を隠したがっていた。恐らくそれは家族に知られたくない事だ。だったら今のうちに耳に良い情報だけを流して彼の印象を良くしておこうと、皮肉にもカモ君と同じ考えにたどり着いたカズラ。
あのカモ君が仲の悪いという領主。ギネはあまり冒険者には優しくない領主だと聞くが、仲のいいカモ君の弟のクーは衛兵や冒険者から好印象だと言う情報も既に得ていた。
冒険者にとって情報は命の次に大事な物だ。そんなカズラが馬車に揺られていると同乗していた冒険者らしき男達が話している内容に驚くことになる。
モカ領にダンジョンが二つ同時に発生した。




