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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモの後悔のごった煮風味
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第十四話 打算ありきの善意

 「…では、今回のダンジョン再出現に最も貢献した二人をここに表彰する」


 夕暮れ時のゾーダン領の港市場。普段はそこには昼夜を問わず水揚げされた海産物が並ぶ最も人が集まる場所にカモ君たちはいた。

 そこには今回のダンジョン攻略に尽力を尽くした冒険者・衛兵・魔法使い達だけでなく、この地域に住む漁師を含む住人。行きかう商人。ゾーダン領を利用するほとんどの人間がその場で読み上げられる今回ダンジョンで起こった事柄が発表されていた。

 主だった冒険者。『鉄腕』『蒼閃』の二人はもちろん、最初のダンジョンコアを発見した冒険者チーム。衛兵長。そして魔法使い達がコノ伯爵に呼ばれると用意された舞台の上で伯爵手ずから金貨が沢山入った袋を渡されていた。特別報酬という物である。

 それは再出現したダンジョン。正確にはダンジョン跡地から出現したモンスターを討伐した人物の表彰も含まれる。その中にはシュージも入っていた。そして最後に、と、コノ伯爵は二人の人物を招く。


 「エミール・ニ・モカ。彼は魔法使いの者達を集め、見事な作戦を立て、シータイガーを仕留める貢献に当たったことを表彰して金貨千枚を譲渡する!」


 呼ばれたのはカモ君。確かに彼がやる気を見せてシュージを含めた魔法使い達をあの戦場に連れて行かなかったら今頃この領はシータイガーによって壊滅していたかもしれない。

 それを評価されてコノ伯爵から特別報酬をクールに受け取ったカモ君だったが、内心は羞恥でもだえ苦しんでいた。


 シータイガー仕留め損ねていたのに何で俺はサムズアップ何かしていたんだよ馬鹿ぁああああっ!

 遠目に見ていたから。シータイガーのスピードが速かったからあの場にいた殆どの人は分からなかっただろうけど確実に。少なくてもダンジョンコアをシータイガーだったモノを切り裂いたカズラは分かっているんだよ!小切手とかいらないから!この事はあまりにも恥ずかしいから伯爵にも正直に伝えたのに何で表彰してくれているの?!功績で失敗をもみ消すつもり?!それがクーとルーナにばれたらどうしてくれるの?!ばれたらきっと…。


 うわっ。倒し損ねたモンスターの功績でお金貰っている人がいるぜ。

 うえっ。失敗したのにいろんな人から褒められてつけあがっている人がいるよ。

 軽蔑しました。貴方の弟(妹)やめます×2


 いやーっ!それだけはいやーっ!

 なに、わかっているからみたいな顔しているコノ伯爵!こんな俺を表彰した事は港町だから国中に広まるよ!


 それはカモ君の虚構の功績が愛する弟妹に伝わるという事だ。それがばれる可能性があるという事だ。カモ君にはそれが恐ろしい。ダンジョンコアを取り込み、巨大化と再生能力。形状変化能力を持ったシータイガーよりもそれがよっぽど恐ろしい。その恐れがもみ消せるなら金貨千枚もらうどころか支払う。五十回ローン。ダンジョン攻略払いで。

 そんなカモ君の心情を知らないコノ伯爵は次に表彰する冒険者を呼ぶ。


 「最初のダンジョンコア破壊。そして凶悪な性質を持つシータイガーと互角に渡りあった『蒼閃』カズラ・カータ。この者に金貨千五百枚を進呈する!」


 「ありがたく頂戴します」


 カズラは男性・女性が見惚れるほど綺麗な笑顔で伯爵から小切手を受け取る。現金で金貨千枚や千五百枚は重すぎる。はっきり言ってこのような発表会では邪魔になるだけだ。

 その光景に殆どの者が笑顔で拍手や歓声を上げていた。あげていないのは私が殆ど倒したのに。と、カズラに助けられたこともあるので愚痴を垂れるキィだった。

 コーテやアネス。『鉄腕』のアイムはカズラが最後のトドメを刺したことを知っているので苦笑交じりにカモ君が表彰される時に拍手はしていた。

 そんな彼等の事を敏感に察知したカモ君。自分の痴態を隠すためにはこの瞬間しかない。コノ伯爵に断って声を上げる。


 「今回のダンジョン攻略。そしてシータイガーの討伐には冒険者や衛兵の皆さん。そして魔法学園の先輩達の力が無ければ無理でした。よって、この金貨千枚。皆さんで大いに飲み、食べ、騒ぐことに使う事をここに宣言します!皆さんこれから宴です!騒ぎたい人は冒険者、衛兵、魔法使い、商人、漁師。職業。人種は問いません!この大通りの先にある酒場ゾーダン・シーパレスまで!今夜は貸し切りだ!大いに騒いでくれ!」


 その言葉を聴いた周囲の人達はそれこそ人種・職種を問わずに大いに歓声を上げた。今回の英雄は太っ腹だと。これこそ貴族の金の使い方だと。大いに騒ぐ。

 実際はこの宴を持って少しでも自分の印象を良くしようと考えたカモ君の浅知恵ある。

 先日。シュージがカズラにハニートラップにかかりそうになった酒場の店主には突然の事になるだろうが一晩騒いだとしても金貨千枚は使い切らないだろうと。


 「…まいったなぁ。これじゃあ僕も出さないと格好がつかないじゃないか」


 カモ君の行動に少し呆れながらもカズラも続いてもらった小切手見せつけるように宣言する。


 「僕もその宴にこの報酬を使おう!…ただし、女性の皆は飲み過ぎてお持ち帰りされないようにね☆」


 歓声とは別に女性陣と一部の男性から黄色い歓声が上がる。

 カズラは特段お金には困っていない。困っているのは姉を治すための薬の材料がない事。ドラゴン退治は自殺にいくような事なのでどれだけ大金を積まれても行く冒険がいない事だ。

 出来る事なら今も自分が髪を止めるリボンとして装備している魔法殺しをシュージ達から貰い受け、ドラゴンを退治に出向きたい。これを返さずにそれを行いたいがそんな事をすれば自分の冒険者の評判は地に落ちるどころか貴族様の宝を盗んだ人間として姉共々処罰されるかもしれない。

 酒場を貸し切るとカモ君が言っていたが、あの広さの酒場を貸し切るとなると金貨千枚ではとても足りない。その倍二千枚は必要になる。

 ここでカモ君に恩を売る事で彼等の印象を良くしてこの魔法殺しを受け取る。その為なら今まで溜めこんだ財産を全て譲り渡してもいい。この身の純潔を捧げてもいい。奴隷になってもいい。姉を絶対に助けるのだ。




 「…お姉さんを助けるために。魔法殺しを欲したと」


 「身勝手だと思ってもいい。どう思ってくれても、どんな仕置きも、どんな対価を要求してくれても構わない。だから、だからどうか僕にこの魔法殺しを譲り、いや、貸してくれ。ドラゴンの心臓を。姉さんを助けるまでどうかこの僕に」


 酒場の親父にこれから貸切で大宴会を行う事を伝え、酒場に入れない人数がやってくることを見越して酒場周辺にテーブルを並べている所に、シュージとカモ君に声をかけてきたカズラは二人を酒場の裏に呼び、その場で片膝をついて頭を下げながら自分の今ある状況を包み隠さず伝えた。

 キィを助けた恩。身内に対する情に訴えることもある。使える物はすべて使う。それで姉が助かるなら、今この場で全裸にでもなる。

 その心情をまともに受けたシュージは一切の余念なく魔法殺しをカズラに渡そうと思ったが、それを思い留めることがある。

 この魔法殺しをカズラに渡せば彼女はすぐにでもドラゴンを探しに旅に出るだろう。そして、ドラゴンを見つけ、戦う。

 彼女の強さは共に戦ったからある程度は理解しているつもりだ。魔法殺しをつけた彼女はまさに超人といってもいい動きをしていた。だが、それでも…。


 「カズラさん。いくらなんでも一人でドラゴン退治は無理です。実際ドラゴンと対峙した自分でも分かります。ドラゴンは別格。シータイガーも驚異的だった。だけど、ドラゴンに比べれば大きさだけです。レベルが違いすぎます」


 「…それでも僕は」


 カモ君の言葉を聞いてカズラは表情を曇らせる物のドラゴンを倒しに行くと信念は曲がりそうにない。

 そんな彼女に魔法殺しを渡せば確実に彼女はドラゴンに挑んで死ぬ。

 ドラゴンは軍隊でも討伐が難しい。それを個人で行うのはまさに自殺行為。それを容認できるほどカモ君もシュージも人でなしではなかった。


 「エミール。…どうにかならないか?俺達が彼女を手伝ったり、学園長を味方にするとか」


 「彼女に俺達が加わってもドラゴンには敵わない。学園長は王都防衛の要である。そう簡単に王都を離れることは出来ない。ドラゴンを倒しに行くなんて無茶も出来ない」


 シュージは何とかして彼女の力になりたかった。強くなった自分達なら彼女に協力してどうにかならないかと考えたがカモ君の答えは非情だった。だが、希望も残っていた。


 「…必要なのはドラゴンの心臓。それだけなんだな?」


 「…そうだ。…まさか君は持っているのかい!?」


 沈んでいた表情を見せていたカズラはカモ君の言葉を聞いて思わず掴みかかる。目の前の少年が姉を救うカギになるかもしれないのだから。


 「何でも渡そう!何でもしよう!だから!」


 「お、落ち着け。声が大きいっ。俺もどこかで見た文献で確かじゃない。だけど、ドラゴンの心臓。それの代わりになるかもしれない物があるかもしれない」


 これは前世のゲーム。シャイニング・サーガの知識だ。

 未熟なプレイヤー達がドラゴンを倒せるまでの過程での金策。回復アイテムの素材に使われる物。

 しかし、序盤でそれを用意するのはとても手間がかかるのだ。王国の最東西南北のモンスターや薬草。アイテムを収集してやっと作れる回復アイテム。

 だが、足りないのがドラゴンの心臓だけならこれ一つで代えは効くだろう。だが、その前に。


 「教えるには条件がいくつかある。一つ、この情報を他に漏らしてはいけない。一つ、俺が情報源だという事も。一つ、調合する錬金術師にもそのアイテムの詳細を伝えない事。そして、最後に…。俺がシータイガーでミスした事を誰にも話さない事だ」


 最後の条件。というよりもお願いはカモ君の弟妹達からの評価に対する保身の為である。

 勿論、シュージにもこのアイテムの事は秘密である。このアイテムの出所が民衆に知れ渡れば領地の二つや三つ。下手すれば国が滅ぶ。

 それを二人にしっかりと説明したうえで、そのアイテムの事を伝えた。

 そのアイテムを聞いた時、シュージとカズラの二人は最初は呆気にとられていたが、カモ君の態度は真剣そのもの。

 カモ君にとっても近い将来の戦争。ラスボス戦後のこの国で生きていくための金策だったので出来る事なら教えたくなかった。だが、ここでカズラに恩を売る事で裏切る事が無いシュージの忠実な仲間になってもらおうという打算もあった。

 カズラも打算ありきの接触。カモ君も打算ありきの接触。シュージだけが純粋な善意で接している。そんなシュージだからこそ二人の話しの潤滑油になったのかもしれない。

 カズラとカモ君だけではきっとこんな事にはならなかっただろう。

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