表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモの後悔のごった煮風味
38/205

第十二話 己に課した無茶ぶり

 少女には姉がいた。

 姉は自分よりも柔和でおしとやか。平民なのに水属性の魔法が使えた。それなのに驕らず誰にでも優しかった。自慢の姉だった。

 そんな姉が冒険者になるのはある意味、運命だったのかもしれない。

 自分の住む領は貧しかったが数年に一度。ダンジョンが現れることもあり、その時だけは領主や冒険者がお金を落していくのでダンジョン攻略中はある意味お祭り騒ぎだった。

 姉が冒険者になったのはダンジョン攻略の時に怪我をした冒険者達の手当てをするために救護兵として怪我をした冒険者の手当てをした時に、そのパーティーに冒険者にならないかと誘われた。

 初めは家族を置いて冒険者というあちこちに出向いてダンジョン攻略。傭兵として働くことに否定的だったが、冒険者としての稼ぎを自分達の家族に渡せば生活が楽になる事を知って、散々悩んでその冒険者パーティーの回復役として自分の領を出ていくことになった。

 少女は勿論。家族の皆も姉が冒険者になる事を反対した。冒険者は危険な役職だ。しかし、貧しい領で貧しい生活をしている自分達の暮らしを良くするためには自分が出稼ぎに行くしかないと説得した。

 反対していた家族も、最後まで反対していた少女も最後には折れた。

 そして姉は誘われた冒険者のパーティーとして領地を出ていくこととなった。

 それからニ、三ヶ月に一度。姉から送られてくる手紙を少女は楽しみにしていた。

 送られてくるお金と手紙には、元気でやっている。パーティーの仲間とも関係は良好だ。立ち寄る町や村には自分達の領では見つけられない発見がいっぱいあると記されていた。

 少女は姉に会えない寂しさは消えないが、それでも好きな姉が元気でやっていることに安心していた少女だった。しかし、ふと送られてくる手紙に違和感を覚えた。姉の書く文字はこんなだっただろうか。と、

 送られてくるお金も手紙の頻度も遅くなりつつあった。

 その頃には少女も自分も冒険者になって姉の役に立つんだと、腕力はないが瞬発力を活かした動きで領内にいる衛兵との訓練じみた遊びに興じていた。

 衛兵達も最初は子どもの遊びだと思っていたが、その遊びは模擬戦へと変わり、最終的には領内一の速度の剣速を放てる存在へと変わった時は、女ではあるが自分達と同じ衛兵にならないかと誘われた。

 少女は姉が好きだった。だから自分も将来的には冒険者になり、姉と一緒に色んな町や村を見て回るんだと考えていた。だから衛兵になるつもりはないと断った。

 それから少女が衛兵と訓練して一年経つ頃には再びダンジョンが出現した。

 その時の攻略時には衛兵はもちろん。冒険者にも呼び掛けての攻略だった。

 少女も予備戦力として、普段は一般的な衛兵が身に着けている皮鎧を身に着けて参加することになった。だからだろう。彼女の姉をパーティーに誘った冒険者達が少女に気が付かなかったのは。

 その冒険者パーティーには姉がいなかった。代わりに他の魔法使いらしき少年といってもいいくらいの男の子がいた。

 嫌な予感がした。冒険者は命の危険が伴う仕事だ。姉の身に何か起きてもおかしくはない。だから家族そろって反対していたのだ。だが、姉の身に何かあればギルドを通して家族に何らかの報せが行くはずだ。それが無い。だが、姉もいない。少女は急いで彼等に詰め寄った。どうして姉がいないのかを。

 そこで知ったのは姉が少し前のクエストでとあるモンスターの毒を受けてからの意識不明の重体で今も眠り続けている事。その毒は魔法でも毒消しポーションでも取り除くことは出来ない特殊な毒で、意識を取り戻すためにはドラゴンの心臓が材料となる薬が必要だと言う事。

 手紙に違和感を覚えたのは、彼等の一人が姉の願いを聞き入れたから。姉は自分に何かあった時は自分の装備品を売って、少しずつ家族に手紙を代筆しながら送ってほしいと言う願いを叶えたから。

 姉は今も王都リーランの王立病院で眠り続けている。王都の設備は充実しているが心臓を使った薬など置いているはずがない。あるとしてもそれは王族の身に何かった時の為の物だ。ならばそれを手に入れる為には自分が取りに行く必要がある。

 これを機に少女は冒険者になる事を決意した。

 姉の冒険者仲間にお願いして、まずは見習いで彼等と共にクエストをこなしていった。が、パーティーで動く事と単独でクエストをこなす事にはだいぶ差がある事に気が付いた。

 まずフットワークが違う。パーティーの一人に不備があるとそれが治るまでは動くことがままならない。

 勿論単独で行動するのはお勧めしない。危険度や役割分担などのリスクが大きいからだ。しかし、それでも少女には時間とお金が無かった。

 王都の病院は設備が整っているがその分、お金もかかる。姉の稼ぎもすぐ底を尽き、姉の冒険者仲間が工面してどうにか置いてもらっているがそれも苦しい状況だ。だから少女は一人。姉の冒険者達から独立して単独でクエストをこなすようになり始めていた。

 やがて青い閃光。『蒼閃』と呼ばれる頃には少女は美女となり、彼女は資金面では問題無く工面できるようになったが、肝心の薬が手に入らないでいた。

 姉は徐々に弱りながら眠り続けている。あと魔法やポーションで生きながらえているがあと二年ほどが限界だと医師から伝えられた。

 ドラゴンの情報を探しては姉の冒険者仲間を頼ったが、ドラゴンの情報は見つからず、かといって見つかったとしてもドラゴン退治は軍隊レベルの戦力が無いと倒せない。

 そこまでの実力はつけていないし、つけられると思っていない。だが、それはとあるアイテムの性能でどうにかできる。

 ドラゴンキラーという特殊な武器ならばドラゴンの堅い鱗も、強靭な筋肉も切り裂くことが出来る。鎧や盾ならドラゴンのブレスも耐えられる。アクセサリーならドラゴンの動きにも対応できる。だが、それらは全て国宝級のアイテムだ。個人で入手することは限りなく難しい。

 だが、それをついに見つけた。魔法殺し。身に着けると魔法の恩恵は一切受けられなくなるが代わりに身体能力がぐんと伸びるレアアテム。

 それを持つ少年は魔法使い。魔法が使えなくなるから無用の長物だろう。それにその持ち主はまだお子様のようだ。騙すのは悪い気がするがこれも姉の為。ドラゴンを倒すアイテムを手に入れる為に彼に近寄った。

 普段つけている香水とは違った香りを放つ媚薬を身に纏い、彼に近付いたが邪魔が入った。

 それを邪魔したのは皮肉にもドラゴンバスターと噂される青年だった。彼は少年の友人なのか自分から引き離していった。

 その事により少年からの印象は悪い物になってしまい、アイテムを譲ってもらう機会は減ってしまっただろう。しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。自分にはどうしても必要なのだ。

 その為なら、冒険者としての地位も。持っている財産も。貞操も。命だって捧げよう。

 姉を救う為に少年からアイテムを何としても奪い取る。

 そんな事を考えていたから罰が当たったのか。

 自分が見張りを担当している時に滅多に起こらないダンジョンの再出現。モンスターの氾濫がおこった。

 見張りに参加していた衛兵。自分を含めた冒険者達がそれに応戦するが町に行かないようにせき止めるのが精一杯だ。

 一撃で手足を切り落とすモンスター。こちらの首をねじ切る力を持つモンスター。そして毒の鱗粉を零しながらあちこちを飛び回っているモンスター。どれも厄介だ。そんな時、再出現したダンジョンが音を立てて崩れ落ちた。

 ダンジョンが自壊した?

 と、疑問に思っていたがその瓦礫の中から文字通り波打つ毛皮を纏った巨大な水でできた巨大な虎が現れた。

 高さ二メートル。全長五メートルはあるその虎は咆哮を上げると、一番近くにいた『鉄腕』のアイムに牙をむいて襲い掛かっていった。アイムは既に魔法で作り出していた巨大な左腕を使って防御したが、その牙を噛む力ですぐにひびが奔る。

 それに慌てたアイムはすぐさま右腕で虎の胸元を殴りつけたが、手ごたえはなく逆にその水の体に呑みこまれる。その所為でアイムの体勢はバランスが悪い物となり押し倒される形になる。

 噛みつかれた魔法の左腕はかみ砕かれ、本来の左腕が丸出しになる。それを再びかみ切ろうとした瞬間。周りにいた他の冒険者達が虎の目や胴体に向かって槍や大剣で斬りつける。しかし、水で出来た体には対して効果がないのか。虎はうっとうしそうに首を振った。それだけで斬りつけた槍と大剣はその体を通り抜けてしまう。

 だが、その間に何とか抜け出すことに成功したアイムは魔法を詠唱をして新たな腕を出現させる。

 彼は組み合って分かったことがある。奴は見た目通りのパワーとスピードがあると。そして、殴った感触がまるで激流の水を殴ったかのような感触。おそらくスライムの変異種だろうと周りに人間に伝えた。

 ほぼ物理攻撃が効かないスライム相手なのに巨大な虎の膂力を持ったモンスターの出現に慄く冒険者、衛兵達。厄介なモンスターだらけの戦場に後からやって来た冒険者達が来たが、彼等の攻撃で虎が倒せそうにない。やはりその体を構成する核を見つけ出してそれを破壊するしかない。

 よく見なければわからないが、体表の色合いと似た手のひらサイズのボールが虎の体から透けてみた。

だが、その核らしきものも虎の中心。心臓ともいえる場所に留まっており、その周りは虎を構成する水が激流となって流れており槍のような長い柄ものを持って貫かなければ届きそうにない。

 自分が持つレイピアやアイムの鉄の腕ではリーチが短い。かといって普通の槍だとあの激流で折れ曲がってしまうかもしれない。

 何とかして貫通力のある攻撃であの核を砕かなければならない。だが、それを自分達は持ちあわせてはいない

 虎はアイムか自分でないと抑え込まないといけない。他の冒険者では力不足だ。それをアイムも理解したのかお互いに視線を合わせると頷いて激流の虎。シータイガーに斬りかかった。

 アイムが牙と爪の攻撃を捌いている間に自分が尾や耳。後ろ脚などを切り飛ばしてみるが切り落とした部分はただの水になって地面に吸い込まれるだけだった。こうしているだけでも虎の体積は減っていずれは自分達の攻撃も核に届くと踏んでいたが、その核が鈍く光ったと思うとシータイガーの体は一回り大きくなった。


 「…まさか、ダンジョンコア自体がモンスターになったのか!?」


 アイムの言葉に衛兵や冒険者達は驚きの声を上げる。

 ダンジョンコアはあくまでもダンジョンやモンスターを生み出すだけのいわば心臓のような物だ。その心臓に手足が生えてあまつさえ明らかな意思を持って人間を攻撃するなどきいたことが無い。

 だが、現にシータイガーの核は鈍く光りながら、シータイガーの体を大きくさせている。コアが周りの魔素を吸って巨大化させているのは目に見えて分かる。

 すると体から少し力が抜けたような気がした。

 目の前のモンスターの脅威に臆したからではない。今も尚自分達の周囲を飛び回っているポイズンバタフライの毒鱗粉を少し吸ってしまったからだ。

 相手は強くなるのにこちらは弱くなっている。状況は劣悪だ。しかし、今自分かアイムがやられればこの戦況は一気にモンスター側に傾く。

 その状況が分かるのかシータイガーが一際大きな咆哮を上げるとこちらを見て顔をにやけさせた時。同じように顔をにやけさせる人間達がいた。


 「ロックレイン!」


 「ファイヤーストーム!」


 その声が聞こえたと同時にシータイガーの頭上から幾つもの直径一メートルから二メートルの岩が降り注ぎ、周囲にいたポイズンバタフライとソードフィッシュを焼きはらう炎が吹き荒れた。

 岩が当たる前にシータイガーはその場から飛びのき回避するが、炎は空に浮いているモンスターを許さないと言わんばかりに吹き荒れる。

 その光景に衛兵。冒険者達は一時を忘れ、見惚れていたが、いつのまにか自分達の隣に並び立っている少年・少女達の姿があった。


 「ここまでよく頑張った。もう大丈夫だ」


 そう言いながら自分に向かって自分に手をかざすと解毒の魔法を使う。体から抜けていった力が再び漲る。

 どうして自分を助けるのか。自分は君達を罠にはめたのに。アイテムを奪おうとしたのにどうして助けてくれるのかと疑問を投げかける前に、こちらを安心させる為に向けられた笑顔。それとは別の少年が自分のふらついた体を支えながら言った。


 「一時とはいえ、仲間を助けるのに理由なんかいらない」


 そう言いながら少年は身に着けていた鞄から白い鉢巻。魔法殺しを取り出し、渡してきた。


 「…え?これは」


 「貸すだけです。終わったらちゃんと返してください」


 そう言って後は自分に見向きもしないで、残ったニア・オークに向かって魔法を放ち始める。彼の周りには他の魔法使いの姿があった。服装からすると彼等はまだ学生という立場なのにこの場に来てくれた。

 本来なら守られるべき立場でもあるにもかかわらず危険を冒して自分達を助けに来た。ここで立ち上がらなければ自分達はもう冒険者とは名乗れない。

 そう考えた冒険者達は雄叫びを上げながら残ったモンスター達に斬りかかる。


 「気をつけて!あのシータイガーはダンジョンコアを取り込んでいるのかいくらでも再生、巨大化する!」


 その言葉を聞いた魔法使い達は戸惑っていたが、岩の雨と炎の風を放った少年。タイマン殺しを倒した二人の魔法使いは不敵な笑みを浮かべていた。


 「大丈夫だ。俺達は負けない!」


 「…当然だ」


 不利な情報を聞いても決して臆さず、正面を見据えて言いきった二人の少年に闘志を貰ったような気がする。




 カズラ・カータの運命はここで変わった。

 この世界の主人公。シュージとの本当の意味での共闘をすることになる。




 そして、


 え?再生とか巨大化とか聞いたことないのですけど?!知らない?!俺、そんな情報知らない!前もって考えた作戦が失敗する可能性が上がってしまったやないか!やだー!安請け合いするんじゃないよ、主人公!逃げたい、が、今更逃げるわけにもいかない。…わかりました。命のある限り戦いましょう!やあああってやるぜぇええええ!(やけくそ)


 この世界で約束された踏み台。カモ君は自分自身とシュージに課された無茶ぶりと応えるべく、その荒れ狂う心情をしっかりと押さえながら魔法の詠唱を紡ぐのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ