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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモの後悔のごった煮風味
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第十話 女の香り

 「では今回のダンジョン攻略を祝って、乾杯!」


 「「「「「かんぱぁああああいっ!!」」」」」


 シュージ達、ダンジョン攻略の最終先発隊が戻ってきてから一日置いて、ゾーダン伯爵地の中心部といってもいい大通り。その大通りの中でも一番大きな酒場でダンジョン攻略の祝杯が挙げられていた。

 そこには多くの冒険者達が酒の入った樽ジョッキを持って近くの人間と祝杯を挙げていた。

 そこにはカモ君達、魔法使い組もいたが、それはカモ君達年少組だけで先輩達や先生方の姿は無かった。

 彼等は野蛮な冒険者と祝杯を上げられるかと一足先に宿場に戻り、魔法使い達だけでささやかな宴をしていた。もっともこれがこの世界では一般的な魔法使いの対応である。

 彼等の多くは貴族なので、自分の武勇伝を今度の社交界で自慢すべくメモを取ったり、己の冒険談を頭の中でまとめているのが殆どだ。

 カモ君とコーテは、ハント領でのダンジョン攻略で冒険者の偉大さとまでは言わないが大切さを知っているので彼等と共に祝杯を挙げる事は苦でもなんでもない。むしろ参加させてほしいと彼等に言い寄ったくらいだ。

 アネスは自分の領地では貧乏暮らしをしている名ばかりの貴族なのでこういう時にこそ美味しい物を食べられる機会を逃さない。むしろこれを切っ掛けに彼等との縁繋がりでお金持ちの冒険者がいないかチェックするくらいだ。

 シュージは魔法使いだが平民である。その為、このような宴会は初めてだがカモ君とコーテにつられて宴会に参加した。

 シュージとカモ君はタイマン殺しを倒した珍しい理解のある魔法使いと認識され、今も未成年にもあるにもかかわらず酒を進められるほどだ。カモ君は最初の乾杯の時だけ酒を飲み、あとはジュースだけというペースを保っていたが、シュージはこのような宴会に慣れていないのか酒を断れず、三杯目で目を回しながら潰れてしまった。

 急性アルコール中毒にならないようにコーテが軽い回復魔法をかけて給仕服のキィにシュージを宴会場の隅っこに持って行くように指示する。

 言うまでもなくカモ君達は魔法学園の制服だがキィだけは給仕服だ。これもコーテの指示である。


 お前、私にたくさん借りがあるのだから分かっているんだろうな。あぁん?


 決して、コーテはそのような事は言っていないが、彼女の作り出す雰囲気で普段は空気の読めないキィにも伝わった。ぶつくさ言いながらも宴会場となった酒場のオーナーに頼み込んで給仕として働かせてもらっている。もちろん、その時に発生したお給金は全部コーテに渡される。

 水の軍杖の修理費には足りないが、それでも何割かの足しにはなるだろう。

 酒に潰れたシュージを見て冒険者達はタイマン殺しを倒せるのに酒には弱いんだなと愉快そうに笑う。

 この国では平民も貴族も十五歳から成人として扱われ、飲酒も解禁される。だが、このような場で酒を断るという無粋な真似をカモ君はしない。

 彼等と同じ物を飲み、食べ、クールに騒ぐ。外見では微笑んでいるだけのように見えるが内心、結構はっちゃけていた。

 その理由は潰れているシュージ。ローパーだけでなくタイマン殺しを倒したことで確実にレベルは上がっただろうし、彼は魔法殺しという超レアアイテムを手に入れた。これでこの国の未来は少し明るくなったのだ。ひいては愛する弟妹達の暮らしが少しだけ安定した事に繋がる。

 目下の悩みは実父であるギネだ。あのキィ並に出世欲と掲示欲が強いクズ親父の元に弟妹達を置いている事だけがカモ君は気がかりだ。

 弟妹達があの男の元にいるという現実を思い出すたびにご飯がまずくなるのを感じた。しかし、そんなことは顔には出さず冒険者達と今回のダンジョン攻略の談笑を楽しむことにした。

 彼等に好印象を残せれば、実家であるモカ領でダンジョンが発生した時、彼等の印象がよければ快く力を貸してくれるかもしれないからだ。

 だから今は楽しもう。彼等との親交を深める。勿論、この中で一番小さく幼く見えるコーテのフォローも忘れずに。

 コーテはその姿から子どもに見られがち。まあ、まだ子供なのだがそれでも大人の女性として扱えば彼女の機嫌も取れるだろうし、いないと思いたいがロリコンへの牽制もしっかりしておくことにした。

 そんな中、酒で潰れたシュージがふらふらと酒場の外に出ていく姿を追いかける一人の冒険者をカモ君は確認した。

 やっぱりあいつの仲間になるのは彼女か…。

 こういう場で主人公は仲間を増やしていくんだなと、カモ君は近くの冒険者の持つ樽ジョッキにジュースの入った自分のジョッキを乾杯するのであった。




 「うぇああああああっ、き、気持ち悪い」


 目の覚めたシュージは吐き気を覚えたので酒場のトイレではなく酒場の外に向かう事にした。外に行けば夜風に当たって気持ち悪さが消えるかもしれないし、吐いたとしても一応外だ。酒場には迷惑はかけないだろうと考え外に出た。

 酒場の裏に回りえずいていたシュージの背中を誰か優しく撫でた。


 「うあああ、す、すいません。…って、誰ですか」


 口元をぬぐいながら振り向いたシュージの目に移りこんだのは、先輩のコーテとは違う青い髪を冒険者。

 『蒼閃』のカズラだった。


 「ほら、水だよ。僕もついこの間成人したばかりの時に随分と苦しんだものさ」


 苦笑しながら彼女は左手に持っていた水の入ったジョッキをシュージに渡す。

 シュージは驚きながらも喉の渇きを感じていたので素直に受け取って、それを飲み干す。

 アルコールを感じさせないただの水だが、とても美味しく感じたシュージはお礼を言う。


 「ありがとうございます。でも、なんで?」


 酒場からはまだ宴会が続いている事が分かるくらい中ではまだ賑わう声が聞こえていた。

 まだまだ宴会はこれから盛り上がるだろうと思われるほどの活気で賑わっている所を抜け出してきた自分に何でついて来たのか不思議に思っていた。


 「いや、君を見ていると少し前の自分を見ているみたいでね。僕も冒険者一年生だった時はいろいろとお酒で無茶をしてね。だからかな。お酒できつそうな人を見ると声をかけたくなっちゃうんだよね」


 なるほど。それでシュージを追ってきてくれたのか納得していたらカズラが体全体を押し付けるように近寄ってきた。


 「それに今回のダンジョン攻略の功労者の一人。しかもタイマン殺しを倒した君となら色々と縁を結んでおきたいからね」


 「ちょ、ちょっと…。近いですよ」


 「近づいているんだ。当然だろ」


 あやしく微笑むカズラにシュージはどぎまぎしていた。

 これは酒の所為か?それとも異性を感じさせるカズラの魅力か?どちらにせよ今の自分が普通じゃない事はわかった。

 カズラは更にシュージに迫る。彼の手を取り自分の頬に当てる。


 「随分、興奮してくれているようだね。まあ、僕もなんだけど。…わかるだろ。僕も結構ドキドキしている」


 シュージは慌てて彼女から離れようとしたが、酒が残っているからか、それとも魔法使い故に冒険者の膂力に敵わず離れることが出来ない。


 「最初に見かけたときはヤンチャな男の子だと思っていたけど、まさかタイマン殺しまで倒してしまう男の子だったなんてね」


 「ちょ、やめ。止めてください」


 シュージは心音がうるさいくらいに鳴り響いているのに心地よく感じ始めてきている。

 なんだかお酒を飲んだ時のようにくらくらしてきた。


 「ふふ。まだ十二歳だというじゃないか。僕より四つ下なのに意識してくれているのかな?君が望むなら今以上の事を体験させてあげるよ。その代わり僕のお願いも聞いてくれないかな」


 シュージの嗜好に靄が狩る。視界もなんだかぼやけてきた。布団に包まれたようにふわふわしてきた。


 「僕のあげられるものは全てあげよう。だから、君の」


 もう考えられない。顔が、首が、体が熱い。それなのに心地よい。


 「魔法殺し。それを僕に渡してくれないか」


 もう何も考えられない。心地よい。気持ちいい。

 目の前にいるのが誰なのか。自分がどこにいるのか。それすらもわからない。だが、この声に従えば自分はもっと気持ちよくなれる。

 朦朧とする意識の中シュージはその言葉のまま頷こうと薄れる意識の中、首に力を入れた。




 「はーい。そこまで」


 が、シュージとカズラに冷たい水をぶっかけた事で、シュージの沈みかけていた意識が急浮上した。


 「まだお前は十二歳だろ。そう言う事を覚えるのは後三年待て」


 水を二人にかけたのは二人が出て行ったことを見ていたカモ君。

 最初は青少年が性少年になるのではとドキドキワクワク、オネショタ、ウハウハとわざわざ気配と音を殺して見守っていたが、カズラが通った跡に香る甘い残り香のような物からそれが媚薬の類の物だと感づいたカモ君。

 なんでカモ君が知っているか?

それは二年ほど前に実父であるギネが自分の娘であるルーナに貴族の連中と会う時は常につけているようにと言っている所を見かけたからである。

 最初はカモ君も珍しい香水の類だと思っていたが、あのクズ親のギネの事である。ルーナに渡した時に、カモ君はそれを手に取り解析魔法をかけると媚薬効果のある香水だということが判明した。

 当時、まだ五歳の幼女だぞ!と、カモ君は叫びたくなる事を押さえて、口八丁手八丁でギネを言いくるめてルーナにそれを使うのはまだ早いと説得した。だが、その内心では何度目になるか分からないギネに対する殺意を押し殺すのに相当苦労した。

 ギネは貴族の有力者に媚薬を纏ったルーナを使って人脈を広げようとしたのだ。それを許すカモ君ではない。説得しながらももしこれを行ったらお前を殺すという事を匂わせたのを今でも鮮明に思い出せる。

 よって媚薬の匂いはカモ君にとっては怨敵のような物。

 カズラが媚薬など使っていなければカモ君はデバガメ。パパラッチ。覗きする気だった。

 薬物。駄目。絶対。

 それでも冒険者達のような荒事を専門にする人達には当たり前の事なのかもしれないと考えていたが、カズラの魔法殺しが欲しいと言う言葉を聞いて手に持っていた水を二人にかけて止めた。

 ハニートラップかよ。美人局かよ。というか、カズラってこんなキャラだったっけ?と思いながらもカモ君は二人の会話に割って入った。

 まだ彼女がシュージの仲間になるという事は確定していないのに魔法殺しを渡して、そのままバイバイ。俺はこいつ(魔法殺し)と旅に出る。なんてことをされたらたまったもんじゃない。


 「…二人の逢瀬に水を差すなんて。噂のドラゴンバスターは空気が読めないね」


 空気(残り香)を読んだから邪魔したんだけどな。

 カズラとシュージが驚いている間にカモ君が二人を引き離して、シュージを連れて再び酒場に戻ろうとしている所にカズラがカモ君にドスの利いた声で話しかけた。

 流石は百合騎士。もう少しで手に入っていただろうレアアイテムを逃した喪失感と怒りで内心は荒れているだろうに笑顔で接してくる。それはそれで迫力がある。


 「あんたなら薬なんか使わなくても上手くいっただろうに。…まあ、冒険者とのやりとりでこういう事があるから魔法使いは冒険者との宴会を避けるんだけどな」


 冒険者達は刹那的な生き方をしているが同時に現実的である。

 シュージのように何も知らないカモがいたら引っかけてアイテムをぶんどるなんてこともざらなんだろう。

 彼女の目的がシュージとの縁作り。下心なく彼と仲良くなりたいという事であればカモ君も何もしなかった。しかし、魔法殺しという下心があるなら話は別だ。

 あれはレアイテムの中でもさらにレア。国宝級のアイテムを持ち逃げされる恐れがあるのならそれを止めるのがシュージに期待しているカモ君である。


「もし、僕がここで君に乱暴されたと叫んだらどうなるかな」


 そこまでして魔法殺しが欲しいのか。…欲しいよな。冒険者であるのなら尚更。

 カズラは自身の着ている服をはだけさせながらカモ君を睨みつけるように。いや、実際に睨みつけながら言った。だが、


 「俺は貴族で、噂のドラゴンバスター。更にはタイマン殺しを倒した魔法使いの片割れだ。冒険者達の賛同は得てもそれ以外の人達は俺を信じるだろうな」


 普段は自分の立場を振り回さないカモ君だが、こういう時は振り回す。

 使える物は弟妹達に嫌われなければ何でも使うのがカモ君だ。それに…。


 「こう見えても婚約者持ちの十二歳なんでね。お姉さんが不利になるんじゃないかな」


 「…え?十二歳?」


 シュージの年齢は把握していてもカモ君の年齢は知らなかったようだ。それにカモ君の図体はごつい。山賊然とした二十歳前後の男性に見えてもまだシュージと同じ十二歳なのだ。

 服をはだけた十六歳の冒険者お姉さんと貴族のお子様十二歳(山賊風)。この場合どちらを信じるか。少し考えればすぐわかる事だ。


 「…くっ」


 「こんな事をしないでじっくり付き合えば、こいつの信用を勝ち取れればもらえるかもな」


 悔しそうに顔を歪めたカズラをよそに未だに目を白黒させているシュージを連れてカモ君は酒場に戻っていく。

 それを見送る事しか出来なかったカズラは夜風に吹かれて寒さを感じ、服を整えた。


 「…失敗したな。でも、魔法殺し。あれがあれば僕は」


 そう言いながらカズラは自分の腰につけていたレイピアの柄を握りしめながら夜の街の暗闇に足をむけてその場を去るのであった。

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[良い点] みんな欲望に正直でよろしい。 [一言] 第八話と第九話の内容が重複してません?
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