第九話 それを手放すなんてとんでもない
「まあ、これといった変化も無く作戦通りマーマン達は魔法で倒して、ダンジョンコアを破壊して戻って来たんだけど…。まさかこんな事になっているとは」
半日かけてダンジョンの最下層に赴き、一時間かけて冒険者達が魔法使いを守って、魔法を使い続けてマーマンを倒した。
それから三時間かけて機能停止したダンジョンから出る為に来た道を戻る。ダンジョンコアが破壊されたのでモンスターの再出現もトラップの新設も無く、何の問題無く帰って来られたシュージ。
そもそも作戦とは綿密に練られた物で単純なものほど完遂しやすい。このダンジョンで起こった一番のイレギュラーはタイマン殺しの出現。そして、
「良かれと思ってやったのに…。皆、心が狭すぎるってのよ」
キィが壊したダンジョンの出入り口の補修作業である。
ぶつくさ言いながら魔法学園の制服ではなく泥臭い作業服を着て、いずれは更地になるだろうダンジョンの出入り口の整備を手伝っているキィの姿を見てシュージは再び頭を抱えながら俯いた。
ダンジョン先発組のシュージと後発組アネスはダンジョンの途中で合流を果たし、全員そろって地上へと帰艦すると、そこには毒抜きされたポイズン・フィッシュ丸焼きを食べる冒険者が数名と、ダンジョン近くに建設されたプレハブ小屋を解体する冒険者と地属性の魔法が使える先輩達がいた。
だが、魔法使いという立場でいながら作業着に着替えさせられて馬車馬のように働かされているのが自分の幼馴染だという事に気が付いたシュージは唖然とした。
あの我儘なキィが何でこんな汗水流す地味な作業をしているのかとカモ君に事情を尋ねた所、自業自得な事をきかされた。
みんなの足を引っ張ったペナルティーとして冒険者のように体で働いて反省しろとの事だ。
むしろ、罰がこれで済まされたのが不思議なくらいだったが、カモ君とコーテが連帯責任として今回のダンジョンクエストの報酬をダンジョン攻略時に行う打ち上げの酒の費用に充てる事を約束して今の状況で落ち着いている。
勿論キィの報酬も全額、酒代に使われる。カモ君、コーテ、キィの三名は今回のクエストはただ働きになった。
いや、むしろコーテは事前に用意した解毒アイテムの準備費用も請け負っているので赤字。更にポイズン・フィッシュを水の軍杖で殴った際に杖の先が少し曲がっていた。マジックショップで専門の技師に頼んで修理することを考えると更に赤字である。
カモ君はレザーアーマーの修理だけで済んだが。コーテの水の軍杖をこれ以上使うと魔法の暴発もあり得るので修理が終わるまでは自分の杖を使うように促した。そのお蔭でカモ君は自前の装備を二つも失ったことになる。当然赤字だ。
キィは先払いとはいえ、アイテムの費用はコーテには貰った物だし、装備品。学園の制服にも損傷が無いので、彼女だけは差し引きゼロ。
キィを連れて来た責任というだけでコーテとそれを補填するには足りない部分をカモ君が支払う。はっきり言ってこの二人にとっては酷いとばっちりだ。
コーテはキィをこの件でばっちりと調教すると。今回の罰金と事の重大さを彼女にタップリ教え込む為にこれから二ヶ月。夏休みが始まるまでただ働き。自分のパシリにすることに決めた。
キィは文句を言おうとしたが、「貴女にこれだけの弁償。賠償金が払えるなら文句を言ってもいい」といわれ、「やらせてもらいます。コーテお姉様先輩」と手の平と態度をクルクルと変えた。
正直、二ヶ月どころか二年パシリにしても足りないくらいの損害だ。
それをシュージの隣で聞かされたアネスは黙々と毒抜きしたポイズン・フィッシュの丸焼きを食べているコーテの肩に手を置いて、大変だったな。と、労いの言葉をかける。
はっきり言ってキィの所為で踏んだり蹴ったりのコーテにそれ以外の言葉をかけることが出来なかったアネス。
自分の幼馴染の所為で迷惑をかけたと感じたシュージは、ふと思い出したように自分のあてがわれたプレハブ部屋に行って、急いで戻ってきた。
ほぼ丸一日動きっぱなしのシュージだが、疲れで倒れてしまう前に出来るだけの謝罪はしたかった。
「あ、あの。足りないかもしれませんが、これで今回の弁償を補填させてください」
そう言ってシュージが差し出してきたのはタイマン殺しを倒した後に出現してきた白い鉢巻。それをコーテとカモ君に差し出してきた。
キィがそれを知ったら絶対売り払うと思ったシュージは彼女には内緒で取っておいたマジックアイテム。効果はわからないがダンジョンで見つけたレアアイテムだろうその鉢巻で今回の損害を補えると考えていた。
カモ君は鉢巻の効果を調べるために鉢巻を手に取って鑑定魔法を使おうとしたが、魔法が発動しない事に違和感を覚えた。
一応ポイズン・フィッシュの件から休憩を入れて少しばかり魔力も回復したから、アナライズという魔法も使えるはずだったがそれが発動しなかった。
カモ君はその鉢巻を地面に置いて再度魔法を使う。すると魔法は発動した。どうやら思った通りこの鉢巻は身に着けることで魔法を封じ込める効果がある代物だった。
魔法殺し。
直接身に着けることで魔法が使えなくなる。魔法への耐性が無くなるというデメリットがあるが、身体能力が大幅に上がるマジックアイテム。
ああ、確かにゲームでもあったなこのアイテム。
カモ君は鉢巻を手に取ってシュージにその効果を教えることにした。
このアイテムは魔法使いである自分達には無用の長物だが、魔法を使わない冒険者達が手にすればその効果は絶大。はっきり言ってこのアイテム一つで金貨五万枚はくだらない。
平民が一生遊んで暮らせるだけの価値があると言ってシュージに渡す。シュージはこんなアイテムを鍵もついていない仮宿に置いていたというのだから呆然としていたが、次第に事の重大さを理解してガタガタと振るえだす。
それはそうだ。金貨二十枚が平民の月平均の収入。その2500倍がいきなり手に入ったのだ。震えない方がおかしい。
ゲームで言うと最終局面かクリア後にプレイできる裏ダンジョンで手に入るアイテムだ。そんな強力なアイテムを自分が手に入れたとしたら狂喜乱舞。下手したらこれを元手に商売。貴族の地位も買えるかもしれないのだ。
なので、今回の損害の補填に貰うにはあまりにも価値があり過ぎるという事をシュージに伝える。確かに価値はあるがカモ君達魔法使いが貰っても意味のない代物。貰っても自分が使うには扱いに困る。
だが、シュージはこれ以外で補てんできるアイテムは持っていない。その上、彼自身も魔法使いだ。となるとマジックショップに売ることも視野に入れていたが、カモ君が待ったをかける。
それを売るだなんてとんでもない。
いずれは主人公であるシュージの元には信頼できる冒険者が現れ、彼の仲間として三年以内に起こるだろう戦争で共に戦うだろう。その時、この鉢巻。魔法殺しをその仲間に与えれば大きな戦力強化になる。
勿論そんな事が言えるはずもないのでカモ君はいつかお前が心から信頼できる奴に渡せと伝える。
このアイテムは下手すれば国宝級の価値があるので売ってしまえば二度と手に入らない。買い直すことはもちろん不可能だ。買い直す時には金貨二十万枚は必要になる。
シュージはそんな考えに気が付かないでいたが、カモ君が真剣に語るので大人しく頷くことにした。
だが、カモ君はそう遠くない将来。この魔法殺しを渡す時が来るだろうと思っていた。
『鉄腕』のアイム。『蒼閃』のカズラ。この二人はシャイニング・サーガのゲームでは仲間になる冒険者だ。
アイムは耐久と一撃の攻撃の重さが売りのパワーキャラ。地属性の魔法も使う事が出来るが基本はその剛腕から繰り出される格闘が主である。
カズラはテクニックの高さからの急所攻撃。そしてゲーム一のスピードキャラである。
この二人のうちのどちらかがシュージの仲間になると考えているが、恐らくカズラが仲間になるだろう。その為のフラグもシュージは重ねているだろうし。
ちなみにカズラに魔法殺しを装備させると敵どころか味方すらもその姿を捉える事が出来ない程のスピードで翻弄するだろう。
というか、幼馴染の美少女(物欲)に冒険者の美少女(スピード狂)か。確か同年代の王族に美少女(過激派)がいるという話も聞いているし、最近では図書館で勉強する時にはシュージを気にかけてくれる美人(文学)な司書さんもいたなぁ。
何だぁ。お前ぇ?ハーレム主人公か?
カモ君、キレた。
とまでは言わないが、約束された踏み台の自分と、確定しつつあるハーレム主人公のシュージを比べると苛立ちが収まらないと思ったが、自分には愛すべき天使な双子がいることを思いだし苛立ちを収めた。むしろ増長していた。
ハーレム?別にいいですけど?自分には天使が二人もいるし?そんな自分を理解してくれる婚約者もいますし?俺の方が勝ってね?
問題は踏み台を果たした時、そんな大事な存在が自分の傍にいるかである。
カモ君、苛立ちは収めたが焦りが出てきた。
だ、大丈夫だよな?シュージもゲームよりは成長しているし、アイテムも整っているからこの調子でいけば戦争にも勝てるよね?魔法殺しもあるし…。
間違っても失くすんじゃないぞ。ちゃんと冒険者の将来の仲間に渡せよ。
そんな一抹の不安を抱えながらもカモ君はそれを顔に出さずシュージを言いくるめた。
正直そのことで一杯だったから、シュージが行う次の行動に不覚を取った。
「あ、じゃあこれ貰ってください。なんのアイテムかはわからないけどダンジョンで手に入れたアイテムです」
そう言って魔動マッサージ機(淫)を女性であるアネスとコーテの前に出すシュージ。
貴族の子女なのでその手の教育も届いている二人はそれを見て顔を赤らめた。
カモ君はその光景に言葉を失っていた。
…うん。キィは冒険者との。というか、人とのコミュニケーション力不足を感じるけど、シュージは一般常識というか色事についての勉強不足感がある。
だとしたら誘っちゃう?エロ男子特有の猥談な世界へ。勿論カモ君はいけるクチだが、問題はそれがばれて愛する弟妹達に知られてしまう事である。軽蔑されたくないから誰とも猥談が出来ないでいる。で、でも、これも世界を救うためだし…。いっちゃう?いっちゃうの、自分?
今度の休み。恋愛劇場が観られなかったら、エロコメディ的な劇を探してみるのもいいかもしれないと考えるカモ君だった。




