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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモの後悔のごった煮風味
32/205

第六話 タイマン殺し

 キィがエロトラップに引っかかった後。

ダンジョンを進んでいき、階層十階の中央部に位置する場所にたどり着くと冒険者達とカモ君達魔法使いはようやく一息がつけた。

 現在、このダンジョンは十四階層まで確認されている。

 ダンジョン攻略の先発隊はある程度の時間、ダンジョンを侵攻・調査したらこの十階層に戻ってくる手はずになっている。

 ダンジョン攻略の先発隊とはこの階層で合流することになっている。後発組のカモ君達は携帯食料や水。そして包帯やポーションといった物を先発隊に渡してまたダンジョンの入り口に戻る。可能ならば先発隊の何名かと入れ替わりで更にダンジョンの攻略に乗り出すという事もある。

 しかし、カモ君達はまだまだビギナー。初心者レベル。もっと経験を積まなければそのような事はないので、ここで補充アイテムを先発隊に渡せば一通りのミッションは完了になる。

 勿論、帰り道はモンスターが再出現する可能性も有るので油断は厳禁だが、ここに来るまでの道中で根こそぎと言っていいほど殲滅してきたので出現しても少数。だけど、ダンジョン攻略は帰るまで油断してはいけないのだ。


 ダンジョン攻略は油断したらお終いですよ。

 カモ、もっとアイテムが欲しいです。


 一応、今回が初めてのシュージよりもダンジョン攻略の経験は多いので先発隊に混ざって攻略。アイテムの発見をしたいところだが、我が儘を言って評判を落としたくない。

 正確にはその評判が愛する弟妹達に伝わる事をカモ君は恐れている。


 え、にー様。ダンジョン攻略中にわがまま言ったんですか?アイテム欲しさに?

 え、にぃに。ダンジョンで他の冒険者の皆さんに迷惑かけたの?経験者(笑)だから?

 …えぇぇ。(ドン引き)×2


 なんてことになって見ろ。余裕でカモ君は首を吊るぞ。

 アイテムは欲しいが、弟妹達の信頼より重い物はない。それを裏切らず、且つ、今回のダンジョン攻略を行う。アイテムは余裕があったら拾っていく。

 そもそも今回のダンジョン攻略は自己鍛錬の為だ。それを考えると今回は実りあるアルバイトだと考えていたカモ君は、近くにモンスターや罠が無い事を魔法で調べて、冒険者達に伝えると地べたに座る冒険者に混ざりながら、今回のダンジョンでの出来事を談笑しながら情報収集していた。

 シュージは冒険者と談笑するカモ君についていくように彼等と談笑をしていく。

 最初はぎくしゃくしていたが、シュージが貴族ではなく平民だという事が知られると冒険者達から、貴族どもに混ざって今回のダンジョン攻略をするなかなかガッツがある奴だと認識された。

 カモ君は貴族だが、その風貌から魔法だけを鍛えているだけでなく体術・剣術を鍛えていることを知ると彼等は態度を軟化させ歓迎の雰囲気を作り出していた。最終的には先行隊と合流するまでの間、向かい合うように腹這いになって腕相撲をするほどにカモ君達は彼等に馴染んでいた。

 そんな穏やかな空気が流れで終えると思っていたダンジョン攻略だったが、カモ君がいる広間に繋がる通路側。正確には先発隊が出てくるだろうという通路の奥から誰かが息を切らして走ってくる音とガチャガチャと金属音と不穏な音が聞こえ始めた。

 それを聞いたカモ君とシュージ。冒険者達は立ち上がり戦闘態勢を取る。

 そして、その通路から飛び出してきたのは合流する予定だった先発隊にいた冒険者達だった。そんな彼等は恐怖で顔をひきつらせながらカモ君達に叫んだ。


 「タイマン殺しだ!タイマン殺しが出た!お前達も逃げろ!」


 その言葉に冒険者達。そしてカモ君は凍りついた。シュージはタイマン殺しを知らなかったが、カモ君達の様子を見てただ事ではない事は感じ取っていた。

 タイマン殺し。それはダンジョンでは一番のはずれモンスター。千回のダンジョン攻略に挑んで一回出現するかどうかのレアモンスター。

 地球で言う所のオラウータンが、頭に鉢巻をつけて、直立で二足歩行しているような人型モンスター。モンスターなのに人間の使うような武術を使ってくる。

 タイマン殺しは倒すことがとにかく難しい。

一対一では確実にこちらがやられる。だからタイマン殺し。ダンジョン攻略をソロでやる冒険者が滅多にいない理由の一つである。

 冒険者の持つ剣や槍といった物理攻撃を無駄なく紙一重で躱し、直撃する強力な攻撃も軽く拳を当てて衝撃を完全に受け流すジャストガード。盾や鎧といった堅い防御も通す事が出来る衝撃を持った打撃。更には妙にぬるぬる動くその動きで弓から放たれた矢も回避する。

 では魔法なら倒せるか?それも残念ながら難しい。何せ凄い速度で撃ちだされた弓矢を躱すこともできる反射神経で撃ちだされた魔法も回避する。

 ではどうやって倒すのか?

 それは魔法による回避不能の面制圧攻撃魔法。今回のダンジョンのような閉鎖空間だとシュージのファイヤーストームが一番有効打になる。

 だが、問題もある。

 タイマン殺しは耐久力が人より少しあるくらいだが、そんな範囲攻撃の中を突撃して突破してくることもあるのだ。つまり、シュージのファイヤーストームも突っ込んで来られでもしたらやられる可能性がある。


 「今、『鉄腕』のアイムさんが足止めしているがいつまで持つか」


 うぅあぁぁぁ~。うぅあぁぁぁ~。うぅあぁぁぁ~。


 逃げ出してきた冒険者がそこまで言ったところで、彼の後ろからダンジョンという閉鎖空間で反響した男の悲鳴が聞こえた。


 「あ、ああ。アイムさんまでやられた。お、俺は逃げるぞっ。こんなダンジョンにいられるか!」


 逃げ出す冒険者達につられて、カモ君達と一緒に来た冒険者達も逃げ出そうとしたが、そんな彼等の前に一歩前に出るカモ君。


 「シュージ。お前が頼りだ。これから俺が言う事をちゃんと聞くんだぞ」


 ゲームではロールプレイングゲームなのにアクションゲームさせるモンスターとかふざけているのかと思うモンスター。

下手したらラスボスより攻略が厄介なモンスターだが、倒せば大量の経験値を得ることが出来る。

 それにカモ君には勝算もある。その為の下準備は今、出来た。後は覚悟を決めるだけだ。ここが転換期だぞ、カモ君。




 自分が生まれ落ちた時、ある使命を持って生まれた。

 人間を倒せ。ここを侵攻してきた人間を倒せ。殺せ。

 それには従おう。しかし、やり方は選ばせてもらう。

 それは一人ずつ。一体ずつ。己の肉体を持って倒そう。殺そう。

 その武器を、魔法を、己の体一つで乗り越えよう。

 そんな思いを持ってダンジョンで生まれた自分はまず目の前に現れた冒険者達にファイティングポーズを取って近づいて行った。

 冒険者達はおもむろに武器を取ってこちらを迎撃する。

 まず放たれたいくつもの矢が襲い掛かった。しかし、それを生まれ持った動体視力と反射神経で、体を少し逸らすことで回避する。その間にも自分は彼等との距離を詰める。

 次に襲ってきたのは鎖と皮の鞭。変則的に見えるその軌道だが、放たれた弓矢に比べれば遅い。これもギリギリまで体に引きつけてから回避する。

 すると冒険者からも打って出たのか体験を振りかぶりながらこちらに向かってきた。

 鞭と剣の波状攻撃。これ以上ないくらいのコンビネーションでの攻撃だったが、体をねじりながら襲い掛かって来た冒険者の顎を蹴り上げる。

 その衝撃で少しだけ体が地面から浮きあがったその冒険者。ちょうどタイマン殺しの視線と冒険者の胴体が重なった。

そこから蹂躙が始まった。

 両手を使った数発ジャブ。ボディーアッパー。くの字に折れ曲がった冒険者の顔を回し蹴りでダンジョンの壁の端まで弾き飛ばす。

 その冒険者は最初こそ呻き声を上げていたが壁に叩き付けられ、口から血を大量に零しながら、そのまま動かなくなった。

 ここまでやって冒険者の一行は自分の姿を見て恐怖した。

 ゴブリンにしては大きすぎる。コボルトにしては細すぎる。しかし、その素早い動きと反射神経。そして打撃。最後に自分の額を縛っている鉢巻を見てこう言った。


 タイマン殺し。


 そう、ダンジョンの意志ともいえる物が奇跡的に生み出した人間に対するカウンター。

 対個人戦において最強の魔物。それが自分だ。

 ダンジョンといった閉所空間では一対一が基本になる。大広間の様な所に出ればまた別なのだろうが、関係ない。

 自分の間合いに入ればどんな人間もその打撃の餌食だ。下手に集団で襲おうにも自分と密接している仲間が邪魔で全力は出せないだろう。

 例え味方もろともで攻撃しても構わない。殺す手間が省けるだけだ。

 もっと殴りたい。蹴りたい。もっと戦闘を。もっと自分に敵を。

 それから襲い掛かる冒険者達をある程度殴り飛ばしている時だった。

 本人の胴体よりも巨大な白い鋼鉄の腕を振るって殴りかかってきた人間が現れた。

 このような変わった風貌の人間はいなかった。恐らく魔法で作り出した腕なのだろう。その光景に驚いたが自分の体は固まることなく動く。

 殴られた瞬間。正確にはその奇怪な腕が振れた時、その方向に沿うようにして自分もその方向に跳んだ。

 一見すると殴り飛ばされたように見えるが、その衝撃は完全に逃がすために地面を転がりながら、その勢いのまま飛び起きる。

 自分を殴り飛ばした人間もこれで自分を仕留めたとは思わなかったのか、自分が起きた瞬間にはこちらに向かって走り出していた。そして走り出しながら何かを叫んだ。

 人の言葉をモンスターである自分が理解することは出来ない。しかし、その叫びに残っていた冒険者達は自分に背を向けて走り出した。

 逃がしたのだ。自分を殴り飛ばした人間は仲間に逃げろと叫んだのだ。自分に。タイマン殺しに敵わぬと知りながら。自分を犠牲にして彼等を逃がしたのだ。

 その高潔な精神に自分は歓喜する。

 目の前の人間は彼等のボスだ。強者との戦い。高貴な精神を持った人間。さあ、戦おう。お前は自分の対戦合相手なのだから。

 それから数分もしないうちに奇怪な腕は消え失せていた。魔力が尽きたか?それとも気力が尽きたか?それも仕方ない事だ。自分の打撃を数十発受けてまだ意識を保っているのがやっとだから。

 だが、その意識もこの一撃で終わりだ。深く腰を落とした姿勢から飛び上がるように体を伸ばしながら自分の拳を冒険者の顎にめがけて振り抜いた。

 人間は悲鳴をあげなら地面に倒れ伏した。

 自分が殴り倒した奴等のトドメはさしていない。死んでいるのかもしれないし、生きているかもしれない。だが、逃げ出した人間を追ってその人間を倒してからトドメをさす。

 ここはダンジョンが。何もしなくても人間の方からやってくる。ダンジョンは成長する。それは人間にとって良くない事だからだ。

 細長い通路に逃げて行った人間の後を追う為に細長い通路を走りながら通ろうとした瞬間だった。

 大小様々な岩が自分にめがけて飛んできた。恐らく人間の放った魔法だろう。回避しづらい細長い通路でなら命中すると思ったか?甘いな。

半身を逸らす。ジャンプする。かがむ。それらの講堂を必要最低限の動きで躱す。自分の機動力を甘く見てもらっては困る。

 岩が飛んで来た方向を見ると大量の砂を身に纏った人間がこちらに向かって走り出していた。あれも魔法で作り出したものだろう。しかし、その動きはあの腕の人間に比べると遅く鈍い動きだった。

 こちらに向かって突き出してきた右の拳に対してカウンターでミドルキックを放つ。

相手の拳は当たらず、こちらの蹴りは正確に突き刺さり、蹴った場所から骨を折った感触があった。

蹴られた勢いのまま通路の壁に叩き付けられた砂の鎧はその衝撃ではじけ飛び、中にいた人間もその衝撃で口から血を吐き出した。だが、戦意の光はその瞳から消えてはいなかった。

 どうやら、砂の鎧の下に水の膜も張っていたのか全身は砂まみれの水まみれだった。だが、二つの魔法で自分の体を守っていたようだが最早立っているのが精一杯だろう。そんな事を考えていると、自分に向かって吹いてきた熱波を感じた。

 通路の先の風景にはマントを羽織った赤い髪の人間の右手から炎の竜巻が生み出されていた。これはマズイ。あれだけの魔法を放たれてはやられる。砂の鎧を纏っていた人間もろとも自分を焼きはらうつもりか。

 そう思い、来た道を戻ろうと振り返るがそこには先程回避した岩で退路がふさがれていた。あの岩の砲弾は攻撃ではなく退路を塞ぐための物だったのか!ならば多少のダメージは承知で前へ進むしかない。見た限り強力な炎の魔法だろうが、数秒なら耐えられる。そう思い、走り出そうとした次の瞬間、背中に冷たくざらついた感触が自分をその場にとどまらせた。

 先程、殴りかかってきた人間だ。再び砂と水の魔法を身に纏い、自分を後ろから羽交い絞めにしている。口から血を噴きだし、動くのも辛いはずなのに自分の足止めをして、何かを叫ぶ。

 止めろ!離せ!お前まで焼け死ぬぞ!

 そんなこちらの焦りを察したのか、その人間の口元が完全に砂に覆われる前ににやりと持ち上がるのを自分は見た。

 ああ、この人間は最初から自分共々焼かれる覚悟で戦いを挑んできたのだ。自分をそこまでの強者と認識して戦いを挑んだのだ。それが誇り高く感じたが、同時に残念でもあった。


 この人間ともう少し戦っていたかったという後悔の念を残しながら、タイマン殺しはカモ君共々悲鳴を上げながらシュージの炎に焼かれるのだった。




 ぬわああああぁぁぁ…。


 「エミール!無事か!」


 シュージは自分が放ったファイヤーストームを言われたとおり十五秒程放った後に一緒に来ていた冒険者と共に、炎に呑みこまれた際に珍しく悲鳴を上げたカモ君の元へと駆けつけた。

 カモ君曰く、タイマン殺しが通路から自分達のいる広間に来たら勝てないと言って、自分が通路で足止めをするから自分ごと焼きはらえと言い出した時は正気を疑った。しかし、それ以上にカモ君の事を信じたシュージはカモ君の言葉に従い、突撃していったカモ君の背中目掛けて魔法を放った。

 その作戦は見事にはまり、タイマン殺しを倒すことに成功したシュージは己の生物としてのレベルが上がった事に喜ぶことなくカモ君の元に駆け寄る。

 そこには燃え尽きて灰になったタイマン殺しと、乾いた砂が体のあちこちにこびりつき、つけているレザーアーマーも所々焦げて倒れているカモ君の姿があった。


 「あんちゃんっ、無事か!?」


 カモ君の作戦でもタイマン殺しが倒せなかった場合でも、この作戦でダメージを負った状態なら、ついて来た冒険者達でもダメージを負ったタイマン殺しを倒せると後詰めの説明を受けた冒険者達もカモ君の元に駆け寄る。

 カモ君もタイマン殺し同様シュージの魔法を受けたが、砂の鎧と水の膜を張る魔法を使っていたのでそれが断熱材の機能をしていた。

それでも起き上がれないほどのダメージを負ったにもかかわらず、カモ君は不敵の笑みを浮かべながら答えた。


「回復魔、法があるから、だいじょ、ぶだ」


 事前に冒険者に預けていた水の軍杖を受け取るとカモ君は自身に回復魔法をかける。だが、タイマン殺しから受けたダメージが大きいのか時折、血を吐きながらの魔法の行使にシュージや冒険者の皆から無理に使う事をやめるように言われるがカモ君は止めなかった。

 岩で塞いだ通路の向こうにまだ生存者がいるかもしれない。タイマン殺しと戦って、戦闘不能に陥れられることはあっても死んでいないかもしれない。今自分を回復させて魔法を使い、塞いだ岩を除去するためにも自分はここで意識を失う訳にはいかないと。

 その意志を聞いた冒険者達は感動した。ここまで自分達を気遣ってくれるカモ君の志に。これが本当の貴族なのかと。

 実際のところは、


 え、にー様。ダンジョンの通路を塞いでそのままにしたんですか?

 え、にぃに。ダンジョンを攻略している人達がいることを知っていたのに見捨てるような真似をしたの?

 ないわ~。×2


 などと弟妹達から低評価を浴びそうな事例を取り除く為だった。

 タイマン殺しの攻撃を受けて足止めを行う事が出来た理由も。

痛みで気を失いそうになっても、自分が死ぬのは愛する弟妹達に挟まれる双子サンドイッチで。と、固く心に決めていたからこそ奮起し、気合と根性と下心あってのタイマン殺しを足止めすることが出来たのだ。

 はっきり言ってブラコンでシスコンな自分自身の為。冒険者達の安否など二の次。三の次である。

 知らぬが仏。語らぬは金。を体現したカモ君だった。

 冒険者達は男泣きをし、シュージはほっと胸をなでおろした。とりあえずサウナのように熱された通路から一旦出てカモ君が休める場所まで下がろうとした時、シュージの足元が光った。

 それはダンジョンでのみで見られる。けれどそれもごく稀な出来事だった。

 モンスター討伐後、そのモンスターが持っている装備や甲羅や鱗などを剥ぎ取り等で得る報酬もあるが、中にはとても稀有な現象で得ることがある。

 それがモンスター討伐後に発生するアイテムの出現である。

ダンジョンで生まれたモンスターの中で力のあるモンスターを倒した時、そのモンスターを撃破した人間のところで起きるダンジョンからの特別報酬。

 冒険者人生でも一生に一度あるかないかの光景に冒険者だけでなくシュージは驚いていた。が、カモ君だけは慌ててはいなかった。


 …流石主人公。アイテム出現の現象もお手の物ってか。


 前世の記憶の中にあるゲームでは何度も目にした光景だ。主人公がモンスターを倒せばたまにアイテムが拾える。

 現実ではそんな事はありえない。特にシュージのような対象を焼き尽くす火の魔法使いならそのアイテムも消し炭になるはずなのにそれが起こった。

 シュージの足元に現れたアイテムはタイマン殺しが唯一身に着けていた白い鉢巻。それを見て拾い上げたシュージは本能的に悟った。

 これはマジックアイテムであると。これがどんな効果をもたらすかは分からない。だが、これは良い物だ。それだけはわかった。

 と、シュージはここまで考えて頭を振りながらその鉢巻をズボンのポケットに詰め込んで、冒険者と共にカモ君を運び出す作業を再開した時だった。

 カモ君が塞いだ瓦礫の向こう側からドスンドスンという衝撃が響いてきた。まさか、瓦礫の向こう側のモンスターがこちらに向かって掘削作業でもしているのか?

 カモ君は自分を運ぼうとしていた冒険者の手を借りながらも何とか立ち上がり、手にした水の軍杖で回復魔法を使おうとしたが、激痛により魔法を使うための集中力が霧散し、咳き込むたびに血の混ざった唾を吐きだした。

 …まずい。今、またタイマン殺しなどという強力なモンスターに襲われれば全滅する。

 せめて、未来の弟妹達の為にもシュージだけはここから逃がさなければならない。だが、魔法が使えない。ダメージで詠唱できない。体術も呼吸するだけで激痛が走るので無理だ。

 はやく、回復魔法を。と、カモ君が内心焦っている間に通路を塞いでいた土砂が崩れ落ちた。

 その先にいたのは。


 「アイムの旦那が倒れていると思ったら土砂崩れでもあったの?」


 「おい、気を抜くな。冒険者!」


 「文句があれば自分が先に行けばいいのに…」


 『鉄腕』アイムが率いる先行メンバーとは別の先発隊のチーム。

 魔法学園リーランの先輩達と先生。複数の冒険者達の混合チーム。そして、


 「…『蒼閃』だ。別の先行隊だ!」


 コノ伯爵が頼りにしていた冒険者の片割れ。

 『蒼閃』。カズラ・カータ。

 ここで強力な冒険者が現れたことにカモ君達、後発組の冒険者達は歓喜に沸いた。

 シュージは自分に胸を揉ませた女性としか認識しておらず、彼女の事はよく知らないが、自分の周りにいる冒険者達の様子から見るに凄腕の冒険者だという事が伺えたことに。今度こそ安心した。

 そんな中、カモ君だけは彼女に対して失礼な事を思い出していた。


 …あ、思い出した。百合園の女騎士。


 前世のゲームではその風貌と声。仕草や性格から多くの女性と一部の男性ユーザーを虜にして女性同士の愛好者。いわゆる『百合』に目覚めさせたとももてはやされた『蒼閃』のカズラ。


 「…おや。また会ったね。少年。こうまでして出会うなんて。もしかして運命かな?」


 と、シュージにウインクをしながら話しかけてくる彼女こそ、主人公のシュージの将来の仲間になるだろう一人でヒロインだった。


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