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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモの後悔のごった煮風味
30/205

第四話 お前がやっぱり主人公

 ゾーダン領へとつながる魔方陣の前では魔法学園から攻略のサポートとして送られる生徒は十数名。

その第一陣として既にカモ君達より先輩の中等部から五名。高等部から三名。そして引率として先生が二名先に一時間前に現地へ赴き、それに追随するようにカモ君達が今から転送される。

 カモ君は初めて使う転送陣を見ながらある種の感慨にふけていた。

 この転送陣は前世のゲームではワープポイントとしてぽんぽん使われていたが、実際問題だとこれを使うにも資格が必要になる。これを個人で使う事は難しい事だ。使うにしても手間と金が沢山かかる。

 何せ、ここを押さえるだけでリーラン国の王都リラの兵糧の三分の一を押さえられるのだ。塩に外国から来る香辛料に他国の情勢なども押さえることが出来る。まさにこの国の生命線。

魔法学園側のコネが有るとはいえ早々に使える物ではないな。と考えていたカモ君は自分の装備品のチェックを行う。

 今回のダンジョン攻略ではモンスターの討伐より解毒や回復を期待されているので、婚約者のコーテとおそろいの水の軍杖は勿論持ってきている。

 一応貴族の証としてマントをコートのように羽織っているが、その下には使い慣れたレザーアーマーを着込んでいるカモ君。彼だけは魔法学園の人間としては見た目も装備も違っていた。

 そして、前日買い集めた解毒アイテムの入ったポーチの中身を確認する。

 煮干しと青い粉末が入った小瓶がそこにはしっかりと詰め込まれていた。一見すると料理の材料ように思えるがこれはちゃんとした経口摂取する解毒アイテムである。そのまま口に入れるとむせそう。

 そしてカモ君達が転送陣の上に移動してその魔方陣を起動させる役人たちが詠唱を終えると魔方陣が輝きだす。その光に包まれ、周りの景色がその光で見えなくなる。

 その光が収まったかと思えば肌に張り付くような湿気。王都のような都会の風とは違う風を感じたらそこは王都リーランではなく、港町。ゾーダン領の心臓部である市場の真ん中だった。

 王都リラから数瞬で移動したことを確認したカモ君達は転送先で待っていた先生、先輩方と合流するとゾーダン領領主の館があるコノ伯爵に挨拶に出向く。

 歩いて一時間ほどかかると聞かされたキィが馬車を借りていけばいいのにとごねるが先生方の自費の二文字に屈してぶつぶつ言っているなか、カモ君は先輩方と今回のダンジョン攻略について情報交換をする。

 今回のダンジョンは発生してから一ヶ月は経過しているダンジョンは攻略が開始されてはいた。階層は十階層までは攻略したが未だにダンジョンコアがある最下層は見えない。もしかしたら今の倍はあるかもしれないという話も上がっている。

 そして魔法学園下級生である自分達はその攻略されたフロアで見落としが無いかのアフターフォローで呼ばれたことの説明を受けた。要は後詰め要員だ。

 それを聞いたキィは大きな声を出しながら意義を訴えた。


 「それって、私がアイテムを見つける機会が減るじゃない!というか、ないじゃない!」


 そう、ダンジョンはレアアイテムを生みだす事もあるがそれは稀な事象で既に攻略したフロア=生まれたアイテムは拾い尽くしたと意味でもある。


 「その分、モンスターとの戦闘も少ないないからある意味安全にお金を稼げるんだけどな」


 「そんな事じゃ儲けが少ないじゃない!私はアイテムが!お金が欲しいの!」


 アネスの言葉に反論するキィの気持ちが分からないでもないカモ君は彼女にやや同情的な目で見る。

 カモ君の目的はモンスター討伐によるレベルアップだ。

 これは主人公であるシュージに比べるとあまりにも微々たる物だがそれでも自分の力量を上げ、シュージがそんな自分を倒した時に得られる経験値でレベルアップしやすいようにするために自分を鍛える。

 気分は養豚場の豚だ。そう考えていると街並みにある窓ガラスに写っていた自分の瞳が無機質になるのがみてとれた。

 そして、ダンジョンで生まれるアイテムの回収。

 これもいずれ決闘でシュージに負けて明け渡す予定の物だ。

 教えてくれコーテ。俺はあと何回シュージに搾取されればいい?クーとルーナは教えてくれない。訊かれてないから答えようもないのだけれど。


 「そうは言うけどさ。キィ。俺も含めて俺達はまだ下級生だぞ?しかもダンジョン攻略初心者がダンジョン最前線の攻略班に混ぜてもらえるわけないだろ」


 シュージの言葉にキィは頭を抱える。

 それはせっかくの大金をはたいてマイホームを建てるのに一流建築者ではなく下っ端一年生に任せるような物である。

 彼の言う事も最もだ。しかし、物欲に目が眩んだキィにそれが通用する物でもない。


 「分かるけど。分かっているけど…。これじゃあ普通にアルバイトしたほうが、実入りがいいじゃないっ」


 「私は最初にそう言った」


 コーテはそんなキィの肩に軽く触れながら端的に言う。

 こうなってはただの社会見学もといダンジョン見学に近い。

 この伯爵の屋敷につくまでキィはぶつぶつ文句を言い、シュージがそれをなだめ、それを見たコーテとアネスは呆れ、カモ君は外見上クールぶっているがシュージに遠くない未来でやられなきゃいけないんだよなと先回りの後悔をしていた。


 そんな思惑が続く中、カモ君達はようやくゾーダン伯爵の屋敷にたどり着いた。港町という貿易を担うだけあってカモ君が見てきた屋敷の中で一番広く大きな豪邸を通るカモ君達。

 その道中で、その屋敷を行き来するレザーアーマーや金属鎧を身に纏った強面の冒険者達が数人出入りする。しかし、その中で異色を放っている存在がいた。

 レイピアを持った青い髪の少女。可愛らしいと言うよりも綺麗とその少女はカモ君達。正確にはシュージとすれ違う際に小さな声で「また会えたね少年」と呟くと振り向きもせずに屋敷の外へと歩いて行った。

 そんな彼女とは対照的にその場で立ち止まり振り向いたシュージにキィ、コーテ、アネスも続いて立ち止まりどうしたのかと彼に尋ねる中。カモ君だけは違う事を考えていた。


 もうフラグ建てていたのかよ。はえーよ。主人公。お前がナンバーワンだ。


 シャイニング・サーガのヒロインの一人である少女の一人との出会いに感動するよりも、目の前の主人公のフラグ回収能力に戦慄するのであった。




 「以上五名が魔法学園からの追加メンバーです。本格的な攻略はやりませんが見落としのチェック。浅い階層のモンスターの討伐を主に進めていきます」


 引率の先生に連れられ屋敷に入り、この屋敷に務めているメイド達に案内を受けて、コノ・ネ・ゾーダン伯爵の財務室に招かれたカモ君達は伯爵の前に並ぶように立って軽い自己紹介をすると、身長の低いコノ伯爵はカモ君の名前を聞くと眉尻をあげて声を上げた。


 「エミールッ。まさかあのドラゴンバスターの?!」


 「俺は時間稼ぎが精一杯でしたよ。バスターなど名乗る程戦果を挙げた覚えはありません」


 「いやいや。ドラゴンと対峙して生き延びただけでも十分の戦力だにゃ」


 執務席から飛び降り、カモ君の近くまで歩み寄ってきたコノ伯爵。

 彼の低い身長はまるで炭鉱や鍛冶が得意な種族ドワーフや行商と大道芸の得意な種族のホビットといった背の低い種族を髣髴させる背の低さで、人種族の十歳前後の身長。コーテと同じくらいの身長の伯爵はカモ君の手を取り上下に振る。


 「魔法使いと聞かされたのに一人だけ戦士然とした人間がいるなと思えば、君が噂のっ。これはこれは。うん。ドラゴンバスターでエレメンタルマスター。その上戦士の体とは君は実に才能にあふれているにゃ」


 その言葉にカモ君は異を唱えたかった。

 確かにエレメンタルマスターは天から与えられた才能だが、戦士の体は弟妹達にちやほやされたいという欲望からの努力。ドラゴンバスターも愛弟を助ける時についたものだ。

 断じて天からの才能と言われたくはない。それを否定しようと思ったが、そうすると相手に悪印象を与えるかもしれない。

それくらいだったらこれに気をよくして気持ちよくダンジョン攻略をさせてもらった方がいい。

 しかし、さすが転送陣が設置されている港町の領主。ドラゴンバスターは秘匿にされていないが、エレメンタルマスターであることは出来るだけ控えているにも関わらず、王都で噂になっているカモ君の情報を握っているコノ伯爵。港町。貿易を主流とする領主だけに情報には一際敏感のようだ。


 「出来れば君にはダンジョン攻略の前線を任せたいんだけど…。それだと先発の冒険者達に申し訳が立たないんだにゃ。悪いけど君もダンジョン後発組になるにゃ」


 「仕方がありません。その辺りは心得ています。ダンジョン攻略は個人で行う事ではありません」


 ダンジョン攻略は常に危険が伴う。熟練の冒険者や魔法使いでも最低でもパーティーを組んで攻略に挑む。更にそのパーティーが何組も集まって攻略する。それはダンジョンで起こるリスクを分散して攻略する事が普通だ。

 いくら噂のカモ君が実力者だとしても、ぽっと出の彼がいきなりパーティーに混ざっても不和を生むかもしれない。

 何せ、ダンジョン攻略の旨味の一つであるレアアイテムの分け前を奪われるかもしれないからだ。命を賭けているのに分け前が減る。そんな事を享受できるほど冒険者達もおおらかではない。


 「それに今はギルドで勢いづいている冒険者が数名。今回の攻略に着手しているにゃ。彼等の機嫌を損なえば今後のダンジョン攻略に参加してもらえないかもしれないのにゃ」


 その冒険者はそれぞれ『鉄腕』と『蒼閃』呼ばれる冒険者。

 『鉄腕』は肩から指先にかけて金属鎧のプレートアーマーを装着して、残りはレザーアーマーで身を固めた格闘術を扱う男の冒険者。そのバトルスタイルから鉄腕と呼ばれている。

 『蒼閃』はその素早いレイピアによる抜刀と刺突。そのスピードで他の人間が見ると彼女の髪が光を反射して、まるで青い閃光が其処を走っているように見えるところからつけられた女の冒険者。

 この二人はこの付近の冒険者ギルドでは注目株の冒険者。この二人の機嫌を損なう訳にはいかないコノ伯爵は、これまで魔法学園から来た生徒達に冒険者と諍いを生まないように口を酸っぱくして注意をしている。


 「何言っているのよ。そんな事をしたらレアアイテム目当ての私。じゃなくて生徒の意欲が削がれちゃうじゃない。やる気なんて出なくなるわよ。ダンジョン攻略に支障も出るわよ。いいのっ、それで」


 キィがコノ伯爵の言葉に異を唱える。

 確かに魔法使いの機嫌を損ねるのもマズイ。冒険者達でも用意はできるが、火と水の確保を魔法使いがいるだけでそれを賄えるからだ。

 火は大事だ。食事を取ったり、暖を取ったり、ダンジョンの暗闇を照らしたりすることが出来る。

 水も大事だ。痛みやすい水を飲むことで体調を崩すことが多々ある中、魔法で作り出した新鮮な水はすぐに飲める貴重な物だ。その上、装備品の洗濯や傷口を洗い流すなど衛生面で役に立つ。

 それであるにもかかわらず伯爵が忠告するのは、それだけその冒険者が有用だと言う事。少なくても空気を読まず文句を言うキィよりは集団行動は得意そうだ。

 悪態をつくキィの口を抑えるシュージだが、時すでに遅し。

 しかし、それが普通だ。冒険者と魔法使いの溝は平民と貴族並に仲が悪い。

 勿論冒険者の中には魔法を使えるのもいるがそれはほんのごくわずかだ。


 「それではお願いしますにゃ。魔法学園の皆さん」


 キィのおかげで場の空気が悪い物になってしまった。先行きが不安になるがカモ君達は伯爵の言葉に頷いた。

 こうしてカモ君達のダンジョン攻略は始まるのであった。


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