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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモの後悔のごった煮風味
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第三話 強すぎる刺激体験

 図書館で水辺のモンスターの情報とその対策方法を調べ上げたカモ君達は翌日。学園の休日にもあたるその日にコーテとアネス。シュージにキィの五人揃って王都西部。ゾーダン特別商業地区と呼ばれる市場にやって来た。

 ここには国の首都から西部にある有力な領地を繋ぐ転送するための大掛かりな魔方陣があり、そこを中心に様々な商店が立ち並んでいた。

 その魔方陣は王都リーランの最西部に設置されており、そこには多くの商人と王都の兵隊。商品を求める平民達で溢れかえっていた。そこはまるで港町のような賑わいを見せていた。

 実際、リーラン国で海産物などを口にすることが出来るのは首都かゾーダン領のように海に隣接している領地でないとできない。

 毎日、ゾーダン領で採れた海産物はその領と首都リーランを瞬時に移動することが出来る魔方陣によって転送される。他国のスパイやモンスターが間違って通ったりしないように魔方陣の周りには関所が設けられており、そこを通過するにも手間がかかる。

 一般公開されている転送の為の魔方陣は最西端のゾーダン領の他に、最北・最東・最南と隅々とまではいかないが要所に設置されている。

 魔方陣がある所は国の要にもなるので警備も厳重だがそれ以上に人の往来が盛んで、魔方陣がある領は大体景気も盛んである。

 学生服でやって来たカモ君達も市場に入る前には関所の役人達にアナライズという解析魔法を使われて危険物の持ち込みが無いかをチェックされるほど厳重な市場であった。


 「今日買い揃える物は骨無しイワシの干物をこれで買えるだけ買う事。青サンゴの粉末も銀貨三枚までだったら買う事。それ以上値段は交渉。それからゾーダン領での噂話も聴き出せたら聴き出しておいて」


 「はい。コーテ先生。おやつは銀貨何枚までですか?」


 「一枚まで。その代わり超過したら銅貨一枚につきエミールの張り手一発」


 アネスの冗談に真面目に返すコーテ。

 銅貨一枚は日本円だと百円前後。

 銅貨十枚で銀貨一枚。銀貨十枚で金貨一枚になる。

 つまり金貨一枚分。一万円分買えばカモ君の鍛え抜かれた体による張り手が百発受けることになる。

 並の人間が百発も受けたら死ぬんじゃないの?

 カモ君の張り手は鞭打ちより効くと思った一同はコーテから渡された二枚の金貨を恐る恐る受け取った。

 市場に出回る商品はいつも時価であり、値段はいつも変動し、店によっても変化する。

 今回はこの広い市場を四方と中央に出ている店にそれぞれ個人で出向いて目的の物を購入することが目的。要はお使いである。


 「それじゃあ、二時間後にここに集合」


 コーテの合図でカモ君達は自分達が担当する方向へと足へ進めた。

 この五人メンバーの中で一番幼く見えるコーテが他のメンバーを引率している光景は周りから見たらいように見える。が、彼女が一番の年長者であるが一番メンバーの事を考えている人物でもある。

 現にこの買い物でも物の価値を教えるつもりでお使いに活かせる。そうする事でお金の大切さを学んでほしいのだ。特にキィとカモ君。

 浪費家なキィはもちろんだが、カモ君も実は浪費家である。

 以前、ハント領でダンジョン攻略を手伝っている時に領にやって来た商人達が小さな子供向けに作った玩具をカモ君に売りつけたことがある。

 最初はガラクタに近い玩具なんかに興味は無かったカモ君だったが小さなお子様には特に人気があるというフレーズに惹かれて購入してしまったことがある。

 これを二人の弟妹に与えれば喜んでくれると信じ込んだカモ君はガラクタを購入。それを二人に渡す前にコーテに見つかり、事情を聴いて渡すことを諦めるように説得するには時間がかかった。

 現に同じガラクタを持った子ども達を見た弟妹達にあの玩具をどう思う尋ねた時に帰ってきた答えは、いらない。の一言だった。

 それ以降もカモ君は弟妹達が喜ぶというフレーズを聴くと思わず購入してしまうほど浪費家になってしまうのだ。

 せっかくダンジョン攻略で手に入れた報奨金の四分の一をフレーズの効いたガラクタ購入に使ってしまった事を知ったコーテは出来るだけカモ君の財布を預かるようにしていた。

 欲しいものがある時は自分も連れて行くこと。決してデートの口実だとか思ってはいない。と、自分に言い聞かせるコーテ。しかし時間が余ったら二人でこの市場を回るのもいいかもと思うコーテだった。




 コーテから金貨を渡され、南側の出店や雑貨店に顔を出しては目的の者が無いかを店主に聞くシュージは改めてダンジョン攻略をする人達の凄さを痛感していた。

 ダンジョンに挑む前の準備。

 学園で調べた所、毒を受ければ呼吸困難や出血に麻痺といった症状に苦しめられて死ぬ。そうなる前に毒消しのポーションかその毒に見合ったアイテムを使用して対処しなければならない。

 モンスターによって、使うアイテムは違う。今回のように水辺のモンスターの毒には骨無しにぼしなどが有効だが、湿地帯に行けばその地域に生えている毒消し草。鉱山ではそこから湧き出る深層水といった具合にその地域で入手できるアイテムを使うか毒消しポーションを使うしかない。

 全ての毒に効果のある毒消しポーションの値段は一つ金貨五枚。しかも日持ちが悪い。それを事前に入手出来る冒険者や魔法使いはごくわずかだ。なにせコスパが悪すぎる。かといって、その地域に合った毒消しのアイテムが事前に入手できるのかといわれたらそれも難しい。

 今自分がいる市場ならまだしも、王都から離れた地域に出現するダンジョンの周りで解毒アイテムが必ず手に入るというとは限らない。むしろその地域に住んでいる人達が使う為に品切れになるのが常だ。誰だって毒を受けて死にたいわけではない。モンスターを生み出すダンジョンが発生すれば尚更だ。

 それなのにそのアイテムを準備できる潤沢な資金を準備するのは難しい。自分達のようにお金に困っている人間なら尚更だ。

 今回はキィから絞り上げたお金をコーテが前払いとはいえ出資してくれた事に感謝をしながら目当てのアイテム。一つだけ残っていた青サンゴの粉末の入った小瓶を見つけた。しかも想定よりも少し安い値段の銀貨二枚で陳列していた。それを買おうとして手を伸ばしたが、その商品を同時に手にした人がいた。


「おっと、君もこれを欲しがっているのかな?」


 空色のコーテの髪とはまた違った深海の青色に近い髪を肩甲骨まで伸ばした十五歳前後の美人といってもいい人物だった。

 まつ毛は長く、整った顔立ち。少し細いながらもしっかりと鍛えられた体つきはまるで演劇に出てくる俳優のようにも感じさせた。

 青いジャケットに白いジーンズをつけ、レイピアのような細身の件を腰につけた中性的な、しかし大きく膨れた胸の部分がその人物を女性だと物語っていた。

 そう言いながらも彼女は小瓶から手を離さない。シュージも離さない。当然だ。これは生命線だ。これを入手できずにダンジョンで毒を受ければ死ぬかもしれないから。


 「まあ、そうですね」


 「僕に譲ってくれないだろうか。こう見えても僕は明日ダンジョンアタックをするんだ。それにはどうしてもこれが必要でね」


 「奇遇ですね。自分達もこれを必要とするんですよ。ダンジョン攻略に」


 彼女はにこやかに。しかし、それでも手をどかせる気配はない。むしろシュージにその手をどけろと言わんばかりにアイテムを握りしめる。

 負けじとシュージも力を込める。既に金銭面ではコーテに。ダンジョン内でも毒やダメージを受けたらコーテとカモ君の世話になるかもしれないのだ。

買い出しくらいは役に立ちたい思いもある。その為、このアイテムを譲るつもりはなかった。


「まあ、いいじゃないか。達という事はパーティーで挑むのだろう。僕はソロで挑むんだ。その危険度はパーティーの比じゃない。それを汲んで譲ってくれてもいいんじゃないかな」


 「自分達は確かにパーティーですけど。その分使う機会が多いかもしれないんですよ。人数が多いと使う回数も多くなりますし」


 お互いににこやかに。しかし、アイテムの詰まった小瓶を掴むその手は固く握りしめられていた。表情は爽やか同士なのにどうして首から下は剣呑な空気になるのか?

 それはきっとお互いの命がかかった事案でもあるからだ。お互いに引けない。そんな時間がもうしばらく続くかと思ったが、不意に彼女がアイテムを握っていない手でシュージの空いた手を掴み自分の胸に押し付ける。


 「な?!」


 思春期のシュージには刺激が強すぎるその感触は思わず全身の力が緩んでしまう。それを見た女性はにやりと笑みを浮かべると、その隙をついて小瓶を抜き取ると彼女は素早く店員に銀貨二枚を渡して店を出て行った。


 「はっはっはっ。いい買い物をしたね少年」


 そう言葉を言い残して足早に去っていく彼女は人ごみの中に消えていった。

 シュージは柔らかい感触を受けた手を震わせながら彼女の背中を目で追う事しか出来なかった。

 それからというもの、シュージは待ち合わせの時間まで目的の品物を探そうとしたが、その若すぎる精神性にはその強すぎる刺激の為、まともに思考が働かず、結果として他の店で見つけた青サンゴの粉末を予算より高い値段で購入してしまったため、罰としてカモ君の張り手を一発受ける羽目になるのであった。


 カモ君「スケベ体験する奴はBENDAぁ!」

 シュージ「アーーーッ!」


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