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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
鴨が鍋に入ってやって来た。
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第五話 人ではない何かのために

リーラン王であるサーマはネーナ国国王を私室に呼びつけた。


勿論自分にはカヒーと言う今では国内最強と言っても過言ではない超人を連れている。


サーマはネーナ王国の事は憎んでいるが、ネーナ王国国王個人をそこまでは恨んではいなかった。顔見知り程度の関係と言ってもいいが、彼はネーナ王国の国民性に反して真面目であった。国益を最優先していた。だからこそ、戦争になればお互いにただでは済まない事を理解しているはずの彼を問いたださねばならなかった。何が彼をここまでさせたのかを。


「戦争を吹っ掛けてきた私が言うのもなんだが、おぬしの国はやりすぎた何がおぬしを。おぬしの国を増長させたのだ」


目の前に跪くネーナ国王。王同士の会談という事もあってか、風呂を準備し、身綺麗な格好ではあるが、その眼には一国の王としての覇気がまだ残っていた。しかし、それ以上に疲れと言うもの見て取れた。


「ふん。王として自国の発展以外に何を持って行動するというのだ。私は今も昔もそれに没頭していたにすぎんよ」


「そうだ。お前が王冠を被ってからそれは一貫していた。だからこそ、だ。発展の邪魔にしかならない戦争をしたことが腑に落ちん。勝っても負けても被害は出るのはわかっていただろう。我が国が魔法で発展したというのは周知の事実。そして、我が国が抱えている超人の存在を知らなかったはずがない」


いくら国力が増強されたとはいえ、リーラン王国にはそれ以上の力を持つ人物がいることを忘れるほど愚かな奴でもない。それなのに、どうして国交が荒れるような。敵対行動ばかりを起こす輩を仕向けたのかが分からない。


「お前はこれまでのネーナ王国とは違う。どこよりも清廉で頑強な国を作ると。戴冠の時に宣言したのではないか」


目のまえの王が戴冠するとき、サーマ王はまだ王子の立場であった。だからこそ、その宣言を聴いた時、自分もそんな王になると鼓舞されていた。なのに、目の前の王が成したことはなんだ。国力が確かに強くなった。だが、それに比例して彼の国の国民は傲慢になった。その力を持って諸外国で乱暴狼藉を働き、敵を作り続けた。その所業は決して清廉とは言えないものだ。


「しょせん、王も人の子よ。どうにもならなかった。そう、ならなかったんだよ。国力を豊かにすれば余裕が産まれ、その余裕を持って成長できると思った。だが、出来たのは驕り、憚り、怠慢。人の汚れた部分しか出てこなかった。まるで、それしか持っていないような人間。それが、我が国の民。私のような他人のために働く人間など一つまみしかいなかった」


初めはそれだけの人間だけで、この国を導いていこうとした。しかし、それではあまりにもマンパワーが、人手が足りなかった。多少、強欲であっても国の発展に貢献できるのであれば重役を任せた。いや、そういった人間にこそ国を任せるべきなのだ。

清濁を併せ持つ人間でしか、海千山千、魑魅魍魎が跋扈する外交、内政は務まらない。清廉が過ぎる故に最大リターンを逃す事はあってはならない。だが、そのりらーんに似合わない程、ネーナ王国の民の心は荒んでいた。醜悪な性根の人間が運びっていた。時代が、先祖が。果ては神がそう作り出したかのように荒んでいた。

あの国では自分のような人間の方が希少。いや、突然変異のようなものだ。王の座につけたのも運も味方していた。なにより、自分に協力してくれた、【転生者】と名乗るライムもそうだった。

彼女の身分もネーナ王国の出身。子爵令嬢として生まれてきた彼女の人生は波乱に満ちていた。何せ、生まれが貧乏貴族。四男三女の末娘。その上、妾の娘であるため、彼女の立場は最下位。酷い扱いを受けて生きてきた。

そんな彼女の性格もねじ曲がっていた。自分を馬鹿にしていた人達追い落として、その絶望した顔を見るのが趣味と言うものになっていた。しかし、最後の良心と言うべきか、彼女の事を普通の娘。もしくは妹のように愛情を持ってかわいがった今は亡き、妻。第三王妃に忠誠を誓っていた。

彼女は王妃になる前からライムと面識があり、二人で冒険者のような事もしていた。そのため、年の離れた姉妹だと初見だったネーナ王が勘違いするほどだった。

王との婚姻が決まった時も彼女は皮肉交じりだったが祝福の声もかけた。そして、王妃の護衛をするために、彼女は自分の経歴を捨て、ライムという名を王妃から授かり、転生者の知識と技術を王と王妃に授けた。そこからネーナ王国はさらなる発展をしていくと思われた時だった。

第三王妃は死んだ。ライムが授けてくれた知識と技術により、誰よりもネーナ王国に繁栄をもたらせた王妃という事実に嫉妬した、第一第二王妃の派閥の手先によって。よりにもよってライムが授けたモンスター知識の中にあった一番ひどい毒と呪いのバッドステータスを相手に与えるテュポーンの毒という人工毒によって三日三晩、熱病のように苦しんで死んだ。

ネーナ王とライムがいない。どんなに急いで戻ったとしても間に合わない時期を狙った事件だった。当然、ネーナ王とライムは激怒した。典型的な下衆の考えを持った第一第二王妃の処刑を執り行い、派閥の連中を根絶やしにしようとした。妥協して選んだ女性を第一第二の王妃にするのではなかったと後悔しながら。そして、その手が王妃や派閥の人間の子どもにまで及びそうになった時、第三王妃の遺言をしたためた書物が出てきた。


『どうか、子ども達が健やかに暮らせる国を作ってほしい』


熱病にうなされながらその遺言状を持ってきたのはただでさえ少ない『まともな』味方。ネーナ王を幼少期から支えてきた老役員だった。彼もまた第三王妃を大事に想っていた。そのため、この遺言状を第三王妃から受け取った時はネーナ王とライムと同じように激高して粛清に動こうとしたが、それを彼女自身に止められた。


全てはこの国の未来のため。


自分の死が逃れないと悟りながらも気丈に振舞った彼女を見て、老役員はそれを受託した。だが、第一第二王妃の所業は許せなかった。だからこそ、二人が処断されたころを見計らってこの遺言状を差し出してきた。

ネーナ王はせめて彼女の思いだけは引き継ごうと、この腐り切った国と民衆の中でも必死に足掻き続けた。世継ぎの事も考えて新しい王妃も娶った。しかし、愛情を持ってではなく機械的に子供を造る事しかできなくなっていた。第三王妃がいたからこそ、彼は清廉な王を、国を目指していたが、その恩恵を与える先を失って以来、覇気を失いながら国の発展に勤しんだ。そんな王の気配を察した腹黒な役員たちは自分達の権力を肥大化させていき、部下やその下にいる平民達が暴走した。

ライムは姉を失ったが、彼女の意志を引き継ごうとした。だが、どうして自分の親しい人を殺した連中と仲良くできようか。こいつらにとってふさわしいのは破滅だ。

ライムの性格、王妃の願いが複雑に混ざり合った彼女が取る行動が、原作知識を利用して最大リターンのためにリスク承知で様々なアイテムを制作し、策を模索する事だった。


だからこそ、ネーナ王国の衰退は第三王妃の死から決まっていたようなものだった。


自分の唯一の仲間と言える老役員も去年、息を引き取った。それから加速度的にネーナ王とライムは最大効率を狙った国家の増強を推し進めた。それが、リーラン王国との戦争になろうとも、知った事ではなかった。

実際、狙いは悪くなかった。『主人公』のシュージさえ陣営に加えることが出来れば超人相手にも勝てるという算段も付いていた。だが、その算段も甘かった。超人はその上をいく。ライムの原作知識にはなかった超人の危険性よりも主人公の可能性を見ていた。確かにシュージを鍛えぬけば超人に勝てるかもしれない。あくまで、かも、だが。

超人の力を思い知った今だからこそわかる。力量の他にも仲間と装備。訓練に連携。環境もそろえてやっと戦いの土俵に立てるという事を。

ネーナ王国が危険視するのは、主人公でも踏み台でもない。超人。リーラン王国がずっと公表しなかった、させてくれなかった超人だったのだ。しかも、その隣にはカオスドラゴンがいるというクソゲー満載の攻略難易度。

危険性は常に説いていたが、ネーナ王国の重鎮や国民には伝わらず、破滅ルートに向かって行った奴らを止める力も気力もなかった。


「・・・疲れた。そうだ、疲れたんだ。どんなに頑張っても私の目指した未来をあいつ以外は


見ようともしなかった。それでもと、筆を取り、杖を振るい、国を豊かにしても誰も共感しない。そんな国を。民を。いや、人の形をしたナニカを導くなどただの人が出来るわけがなかったのだ」


せめて、超人のような規格外の何かがあれば変わっていたかもしれない。その力を、強くなるためには莫大なリソースが必要だ。四天の鎧や常夜の外套といった神が造りだしたかのようなアイテム。いや、いっそ神がかかった何かを手に入れることが出来れば、第三王妃を守れるだけの力をつけていればこんな事にはならなかった。


「そう。強ければ何も失わなかった。・・・ああ、今になって気付くとはな。我々が最も先に手に入れるべき存在は『カモ君』だったのか」


ライムの研究により強化された軍事力。しかし、それ以上に増長した人心を自制させるためには王がそれ以上の力を示す事だった。しかし、ネーナ王はもう疲れ切っていた。愛するものを失っただけではなく、気心の知れた仲間も失い、際限なく暴れ回る民や臣下を見て、理解した。これは自分が望んだ国ではない。愛した人が夢見ていた物ではない。そして、それを叶えることは出来ないと心のどこかで諦めてしまった。

だからだろう。ネーナ王は大きなリスクがあると知りつつも、己の政策に躊躇いはなかった。臣下たちにも期待しなかった。自国が滅んでも仕方ないと諦めてしまったのだ。

リーラン王はそれを聞いて激怒した。王たる者。人々を導いていく者としてどうして諦めてしまったのかと。だが、それは失ったことがある者でしかわからない。愛する妻と仲間を失いすぎた王は次代につなぐことも出来ないくらいに心が擦り切れていた。唯一、子供が健やかに育つ国を作ってと言う遺言に縋りつくように国事を進めてきた。もし、彼がそれすらも投げ捨てて。いや、彼以外のネーナ王国の人間がネーナ王国を収めてしまっていたら、より荒廃し、他国に戦争を吹っ掛け続け、もっと早く滅ぼされていただろう。

リーラン王国はいつでも他国を潰せる力を持っていた。しかし、ネーナ王国の民。そして、リーラン王国の売国を行っていた一部の貴族達はそれを決して使うことはない馬鹿な人間だと考えていた。しかし、彼等が思う程、リーラン王国はおろかではない。その他国を潰せる力をその身で思い知ることになる。


「愛する者から託された夢すらも投げ捨てる。それほどひどい状態だったとしてもお前は王として最後までやり遂げるべきなのだ。王が率いての国。導いてこその民。繋いでこその夢なのだ。だからこそ、お前を王として処断しなければならない」


「そうでなければならない。俺の国も、お前の国も。誰かが責任を取らねば示しがつかない。いずれは暴走するだろう。特に俺の国のような奴らはな。・・・ネーナ王国の民を同じ人だと思うな。だが、余力があれば、お前達に俺達を憐れむような余裕があるのであれば、子ども達たちを導いてくれ。まだ、思想が凝り固まっていないあいつらにはまだ可能性がある」


「・・・善処しよう」




リーラン王の言葉を聞いてどこか晴れ晴れとした表情を浮かべたネーナ王はそれっきり言葉を発する事はなかった。後日、戦争を引き起こした大罪人として処刑される前夜、ネーナ王は愛する第三王妃とライムの三人で過ごしていた人生で一番輝いていた時の夢を見た。

互いの夢に邁進するのだと。そのために力をつけるのだと。だが、それが叶わなかった事を夢の中で気付き、落胆した彼を夢の中の彼女は彼を抱きしめ、笑顔で許した。それは言葉ではなく、その雰囲気高の者だったが、ネーナ王にはそれが許しのようにも感じられた。そして、彼はそのまま息を引き取った。安楽死と共にその人の一番幸せだった時期の夢を見せる魔法薬で安楽死したネーナ王の遺体は、その翌日。魔法で操られ処刑台に移動。そのまま執行された。


リーラン王は二度とこのような事が起きないように内政と外交。そして、情報収集に取り込むことを国是にする。これを持って終戦を迎えることとなった。

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