表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
鴨が鍋に入ってやって来た。
198/205

第二話 超人三人に勝てと言うは無理ゲー

リーラン王国。王への謁見が認められている広間に呼び出されているのはこの国の貴族たち。主に国境沿いを任された貴族たちだが、彼等はネーナ王国へこちらの情報を流してきたという疑いがある者たちである。


「トリオ・ネ・トコ伯爵。有罪。領地の没収と五年間給金の三割を減らす事とする」


「お、お待ちください!陛下!私はただ家族を人質に取られてしまったが故!それに流した情報は魔法学園に通っている息子からの生活内容だけです!国に弓を引いたわけでは!」


王の傍にはビコーと修道服と鉄仮面をつけた四十代の女性。そして、この国最大の冒険者ギルドマスターがいた。


ビコーは検察官のようにとある書類を立派な口ひげを生やした初老の男性であるトリオ伯爵突きつけた。そこにはトリオ伯爵がネーナ王国から受け取った様々な裏金やアイテム。人材などが記載された書類。


「それだけで様々な融資を受けてきたようだなトリオ伯爵。ネーナ王国の女の抱き心地は余程良かったのだろうな」


「な、何を言っているかわかりません!そのような疑いを掛けられるほど私は」


「嘘ですね。証拠だけでなく、貴方は虚言を吐かれました。自国の王に嘘をつくとは処罰は更に大きくなることをお望みですか」


王の傍に立っていた鉄仮面の女性は冒険者ギルドと国王であるサーマ王が信頼できる嘘を見分けるための審問官。虚偽を見定める魔法が使えるため、このような審議を図る場所では重宝される人材だ。女性の身を守るため、公平性を失わないためにも彼女の身元は。王とギルドマスターくらいしか知らない。


「ぐ、ぐぬぬ。委細、承知しました。このようなことが無いように以後気を付けます」


「うむ。おぬしの今後に期待しているぞ」


顔を赤くして、肩を震わせ、苦虫を噛み潰したかのような表情で広間を退出していくトリオ伯爵。彼を見送る他の貴族たちの半数以上は裏切り者を見下すような視線で彼を見送っていたが、その内の二割の人数は青ざめていた。王が売国奴をこの程度で許したと下に見ていたからではない。彼等の目の前、玉座へと続く決して高くはない高さのある階段。その一段目にあ樽部分は赤黒い血だまりに染まっていた。

今日だけで三人の売国行為をした貴族が目の前で首を切り落とされた。罪状はリーラン王国への不法侵入と防衛能力・軍事情報の漏洩。自国の人間の人身売買に違法麻薬および養殖ダンジョンの助長行為。それへの返礼としての賄賂の受け取り。そして、敵対、侵略行為をしているネーナ王国への宣戦布告に反対した事。それが三つ以上判明した貴族を王は容赦なく首を跳ねた。

甘い王様。日和見主義と言われていたこの王の処断に後ろ暗さを持っていた貴族たちは震え上がった。王の裁決を下す前に己の罪を自白すれば命だけは保証するという宣言を舐めた態度で受け取った最初の被害者を見て、貴族達の間では罪の告白をしてくる貴族達で溢れていた。

突如、ネーナ王国へ宣戦布告したと同時に国内の不穏分子を王は摘み取り続けた。まさか自分の代で王城を血で汚すなどしたくはなかった。

だが、そうも言ってはられない事態だった。ネーナ王国はやりすぎた。モカ領でもそうだが、人身売買に近い決闘。スパイ行為で自国の姫を利用した工作員。養殖ダンジョン。国境に面している他の領地への侵攻と買収。更には年に一度の武闘大会での乱入騒ぎ。なにより、自国の民達を傷つけ、尊厳を破壊しようとしていたネーナ王国。なにより、それに加担していた売国奴達を王は許さなかった。

トリオ伯爵はまだ運がよかった。罪状があと一つでも判明していれば首が飛んでいた。ビコーに任せていた特殊任務は疑いのある領主たちの証拠集めである。モンスター討伐と言う任務の下にあったのはこの秘匿任務である。彼にそれを任せたのはその能力が高いこと。なにより、彼の家ほど利権に興味がない人間はいなかったことだ。

何かが欲しければ自分で手に入れる。作ることが出来るセーテ侯爵はリーラン王国で最も信用できる一族である。というか、彼等に反旗を翻された場合、その時点で戦争に負けていたのはネーナ王国ではなくリーラン王国だっただろう。ドラゴンみたいなやつだと思っていたが、実はドラゴン以上の存在だった。

彼等自身ドラゴンと戦ったことをあまり吹聴せずに歯ごたえのあるモンスターを倒したくらいしか言わない。その部下も死ぬかと思いましたが、まあ、うちのボスがいるから死にはしないだろうと話すくらいだ。というか、戦争が始まってから実はカオスドラゴン並みの力を持つスカイドラゴンと戦いましたとかいうんじゃないよ。ただでさえ、王都に滞在しているカオスドラゴンの幼体であるコハクとスフィア・ドラゴンで胃が痛いのに。スカイドラゴンにも喧嘩売るとか、お前。この時の王は下手したらネーナ王国だけではなく復讐に来るかもしれないスカイドラゴンも相手しないといけないのではと胃と頭が痛くなった。

まだ不安要素は沢山あるがまずは証拠が取れた裏切り者への断罪なのだが、かなりいた。具体的言えば善貴族の三割近くにネーナ王国の息がかかっていた。これ以上時間を掛ければ確実に滅ぶと判断した王は諸悪の根源であるネーナ王国を討つことを決めた。

本日に至るまで処断した貴族は十を下らない。そして、その中には自身の親衛隊隊長コーホもいた。




「残念だよ。コーホ。お前ほどの奴が裏切るとはな」


「まったくだな、カヒー。お前の心臓ではなく首を狙えばよかった」


王城の地下にある最も厳重な牢獄。そこには多くの裏切り者の疑いがある貴族と、親衛隊隊長が手かせ足かせをはめられた状態で幽閉されており、牢屋越しに話しかけてくるのはカヒー。その瞳は悲しみの色を隠せずにいた。


リーラン王が宣戦布告を前日。謁見の間。そこには有力貴族とコーホ。そしてセーテ三兄妹がいた。王はセーテ三兄妹がこの日、この場に集まった事を運命だと思っていた。王から下された命令。それは、深夜帯にネーナ王国へ向けて王級の魔法を打ち出し、討つというもの。


風の魔法だけではなく白兵戦。そしてアイテム作成にも優れたセーテ侯爵が戯れに作ったオークネックレスと言うアイテムからほぼ無限に出てくる悪臭漂う粘液とカヒー、ビコー、コーホの三人の超人をネーナ王国王都の上空に送り出す内容。


作戦第一段階でオークネックレスの粘液の散布で相手が混乱させる。第二段階で王城を制圧。第三段階で相手国の王の身柄を押さえる。これが、カモ君が見た翡翠色の彗星の内容である。


作戦内容をあらかじめ聞いていたミカエリは粘液を培養して希釈し、散布してもネーナ王国全土を覆う程の細工を仕掛けた粘液を詰め込んだ樽を王都に運び続けており、作戦決行時には十分な量を持ち込むことが出来た。その準備段階でコーホの表情が曇ってしまった事を誰も不思議がることはなかった。

カヒー達ですら、ネーナ王国への強襲をよく思わなかったのかと思っていた。実際、カヒー達もよく思わなかった。この作戦は成功しても失敗しても大きな禍根を残すことになるだろう。その大部分を自分達が担うのだ。だからこそカヒーはこの作戦の成否に関わらず、自分達はこれ以降は好き勝手にする。納税はするし、国の危機には協力するが、それ以外は自由にしてくれることを条件に出した。こうする事により、自分達への婚姻や王命を断ることが出来るという権力が欲しかった。

王は下手すればネーナ王国やドラゴンの脅威だけではなく、セーテ侯爵からの脅威にも備えなければならないと悩ませたが、セーテ侯爵。正確にはカヒーの代になってからは彼等の言動はファンキーなものだが、忠節は尽くすし、強力なアイテムやモンスター討伐。そして、今回のような秘匿任務もこなしてくれる心強い臣下でもある。だからこそ王はそれを認めた。


それがコーホには耐えられなかった。


彼は超人ではあるが平民のである。その強靭な肉体と戦闘能力をもってしても彼は王の命令を断ることは出来なかった。自分は三代以上もリーラン王国につくしてやっと親衛隊隊長と言う役職まで上り詰めた。だが、それでも、コーホは王に逆らうことは出来なかった。

王に不満を持っているわけではない。今の役職に不満は無い。むしろ、良き王、良い環境だと思っていた。しかし、それに全く興味がないという自分によく似た能力を持ったカヒーが現れた。

カヒーとて、王には礼節を尽くす。だが、己の自由意志が関する事が起きればそれらを否定。もしくは折衷案を出す。時には王以上の案を繰り出してはそれを可決させる。それが羨ましかった。妬ましかった。


なぜお前はそこまで自由なのか。どうして俺はここまで縛られているのか。どうしてお前はそんなにも、俺のような奴にも笑いかけるのか。


カヒーはコーホを友だと言った。それはコーホ自身もそう思っていた事だし、嬉しく思っていた。だが、その深層心理は違っていた。

力も、権威も、カヒーとの関係性も文句はない。だが、カヒーの少年染みた天真爛漫さと政治の手腕が自分にはない。

そんな鬱屈としていた感情をコーホはカヒーに会った時から持っていた。だからこそ、コーホは最初は断っていたネーナ王国の甘言を断り続けていた。

リーラン王国の超人。それは国の盾であり、剣であり、城。そんな彼等を篭絡させてしまえばネーナ王国の勝利は確定していた。

何度目になるかわからない篭絡員の一人にこう言われた。「現状に不満は無いのか」と。それに反応してしまった。言葉を発した篭絡員は言葉を間違えれば殺されると思って、必死にコーホを口説き落とした。

彼に下された支持はリーラン王国の王か重鎮を殺せと言うもの。どのような組織も頭を潰せば瓦解するものだという事は知っていた。だが、コーホは祖父の時代から続いた忠誠と地位を捨てきれなかった。あの時の篭絡員は逃がしたが、その言葉の楔はずっと心に刺さっていた。コーホが殺そうと思えばいつでもサーマ王を殺せた。王を殺した後にネーナ王国まで逃げ切れる自信もあった。しかし、どうしてもその一歩が踏み出せないでいた。が、とある一件で踏み越えてしまった。

それは王が自分ではなくセーテ侯爵家を。カヒーに国の未来を担う役目を任せた事だった。

どうして自分だけに任せてくれないのか。いや、理解はしている。リーラン王国からネーナ王国と言う超長距離の魔法を放つことが出来るのは超人であるセーテ侯爵、その三兄妹の力が合わせて叶うものだという事を。

自分もネーナ王国国王の身柄を押さえる任務を担っている。だが、三代続けて王に仕えてきた自分よりもカヒーの方を信頼をしている雰囲気を出していたサーマ王。そして、カヒーに憎悪した。

あと数分もしないうちに作戦が決行されるという時に、コーホは背負っていた大剣を背を向けていたカヒーに突き刺した。カヒーも突如の凶行に反応できなかったの。それでも彼はコーホと同じ超人であり場の空気を読む事に秀でた王級風魔法の使い手。

剣先が幾ばくか突き刺さった瞬間、自身の体をえぐりながらその身を半回転。コーホが体を貫く前に剣の軌道から脱した。その勢いのままコーホの顔を蹴り飛ばした。この時、コーホが正気であったのであればどうとでも対処できていた。しかし、嫉妬から来る憎悪で動きと思考が単調化したコーホはそのまま蹴り飛ばされ、続いて異常を察したビコーによって取り押さえられ、ドラゴンクラスの力も封じる強力なマジックアイテムの枷をはめられ、牢屋にぶち込まれた。


「その直後に王からの任務を俺を除いた二人だけで達成するとは。やはり、王は慧眼だったようだ。俺のような裏切り者よりもカヒー。お前に任せるのも納得のいくものだ」


コーホは牢屋の前にやって来たカヒーからその後の事を説明されると、次長染みた笑みを浮かべ彼を見つめ直した。


「やはり、貴族は。魔法使いは違うな。同じ超人と呼ばれておきながらこの様なんだからな」


身体能力はほぼ同格であるにもかかわらず魔法も政治の手腕もカヒーの方が上。これが血筋。魔法使いと平民の差なのだと。


「不意を打ってもお前に勝てなかった俺は、なんという間抜けだ。力量差も見抜けない新兵染みたガキだったという事か。・・・消えてくれ。俺の前から消えてくれカヒー。俺にとってお前は眩しすぎる」


コーホは俯いてカヒーの退場を願う。この男は言動こそファンキーだが、こういった場合の雰囲気は合わせてくれる。公私をきっちり分ける男だから、王からも信頼されている。自分と違って信頼されている。

言いたいことは言った。その直後、黙っていたカヒーが口を開いた。


「そうだな。お前は子供じみていた。あまりにも遅い反抗期だ。だがな、それは俺も同じなのだ。俺は常日頃からの反抗期。たまたま全力で喧嘩が出来る双子の弟がいて、知恵者の妹がいたからこそそれが出来た。お前は、ただ、我儘を言うのが遅かったのだ」


そう語るカヒーの表情に見えるのは同情。憐れみだった。立場が入れ替わっていたとしたら自分もきっと同じ道をたどっていただろう。だが、だからこそ彼に言葉を投げ続ける。


「もう少し早く出会っていればお前をこんなところには入れなかっただろう。お前に言葉をかけていれば。今も後悔している。どうして俺は、友の心の声に気が付けなかったのだろうとな」


カヒーの言葉は、実力者としての重みがあった。その言葉に嘘偽りがない事をコーホも気が付いていた。このように言葉を投げかける友人を突き放すようにコーホはカヒーを睨みつけた。その表情は覇気がなく、親に怒られているのに反抗している子供のようなものだった。


「俺はお前を惨殺しようとしたんだぞ」


「・・・俺は、お前になら殺されても仕方ない。いや、構わなかった」


「っ!ならば、何故あの時死んでくれなかった!どうして殺さなかった!」


「俺とて人だ。死にたくはない。だが、お前ほどの男が不意を打ってでも殺そうとした。どのような理由が、背景があるかなどわからなかった。だが、それだけにお前には大事な事だったのだろう。お前が裏切るはずがない。お前に殺されるのも悪くない。そんな二つの思惑があったから反応が遅れた」


衝動的に凶行に走ったからこそカヒーも反応が遅れた。だが、逆に冷静にさっきを隠し通そうとしても、それは同じ超人のカヒーとビコー。知識に関しての超人、ミカエリに見抜かれていただろう。その三人をもってしても気付かなかったほどの凶行をどうせれば止められるだろうか。逆に教えて欲しい。


殺されても構わない。そして、信頼していたという言葉にコーホは悔しさと虚しさ。そして、ほんの少しの友情を感じた。だが、それを否定するように声を荒くする。


「違う!俺はお前が考えるような人間ではない!ただ、欲にまみれ嫉妬に狂ったただの愚か者だ!お前の友にはなれない!」


「言っただろう。遅すぎる反抗期だと。お前と本気の喧嘩は危険すぎると王と周囲から言われていた。だが、していれば変わっていた。お前はその心の毒を少しでも吐き出させていれば良かったのだ」


全力で喧嘩が出来る相手がカヒーにはすぐ傍にいた。お互いの文句を言い、感情に任せた拳を振りぬける弟がいたから、カヒーはストレスをためずにやって来れた。しかし、コーホは違う。平民と言う立場で強者である魔法使いとの接点も少なく、三代続く王族への奉仕もあって、荒事の冒険者とは正反対の立場であり、超人と言う事もあって周りの人間からは距離を取らざるを得なかった。

だから、自分の胸の内を理解することが出来なかった。吐き出すことが出来なかった。理解しあうことが出来なかった。

そう理解してしまったコーホは嗚咽を零した。

どうして自分は魔法使いではなかったのか。どうして自分は国に使える立場の人間だったのか。どうして、自分の傍に同じ立場の人間が、カヒーのような友がいなかったのかと。どうして、あと少しだけでも早くカヒーと出会わなかったのかと。

その場に蹲って泣き崩れているコーホと見守るカヒーに近づいてくる二人の軍人。面会時間の終了を告げる知らせを聞いたカヒーは懐から小さなコルクで栓をされた瓶を取り出し、彼の前に置いた。


「王からの慈悲だ。これまでの貢献から絞首刑ではなく毒酒による安楽死の沙汰が下った。さらばだ。我が友。次に会うことがあればお互い自由の身で会いたいものだ」


そう言って、カヒーはその場を去って行った。その背中を見送ることなくむせび泣いていたコーホはしばらくして顔を上げると、疲れ切った表情で目の前の瓶の栓を取り、一気に中身を飲み干す。強烈な苦みとほんの少しの甘い香りが口内に広がるのを感じたコーホの意識は徐々に遠のき、そのまま倒れ伏した。その体からは徐々に熱が消えていった。

王の忠臣が裏切ったというのはこれからのリーラン国家には汚点にしかならない。そして、コーホの名誉を守るために殉死した。親衛隊隊長のコーホは今回のネーナ王国国王の身柄を押さえる為に戦場で散った。それが、歴史書に記載された彼の最後の記録である。




「王よ。本当によろしかったのですか」


「これは決定事項だ。王ゆえに前言撤回は出来ぬ」


戦時処理を行っている王の部屋。サーマ王に使える大臣の一人が、王と共に書類整理をしながらコーホの処断について不服があるかのように意見を出したが、王はそれを享受するように促した。


「親衛隊隊長コーホは敵地で殉死した。それがカヒーの願い出た褒美の一つだ」


「いくら未遂で済んだとしても王のすぐそばでの凶行です。カヒー殿が王の傍にいたから彼を斬りつけた。それはコーホ自身の言葉です。やはり、ギロチン台送りにして見せしめが一番かと」


「ならぬ。逆に尋ねるが大臣。お前はセーテ侯爵。あの超人兄妹の不満を買いたいか」


ドラゴンどころか、この世界の創造主にも勝るのではと言われている兄妹を敵に回す。彼等の力を知っているがゆえにそう理解できる大臣は顔を青くして首を振る。


「であろう。なに、いざとなれば私の首一つで超人をこの国に留まらせることが出来る。安い物だ。『コーホを見逃せ』。それがセーテ侯爵の願いなのだからな」


今頃、睡眠薬から目を覚ましているだろうコーホは僻地調査の名目で暗黒大陸行きの馬車で目を覚ましているだろう。彼の奥方にこれからの生活に何不自由ない資金と道具。そして、第二の生。新たな名を授かって、馬車の中できっとお叱りを受けているに違いない。


「危険因子を遠くに飛ばしながら、僻地調査の情報も入手でき、セーテ侯爵はこれからもリーラン王国にいてくれる。一石三鳥ではないか」


「ですが、王よ。コーホ殿が復讐に来るやもしれませぬ」


「それはないな。カヒーは言っておった。これから月一であいつのいる場所に言って喧嘩してくるとな。それだけ喧嘩をすればあいつの敵愾心もなくなるだろうよ」


「私は文官なのでその感性はわかりせぬな。これだから脳筋な軍人は困る」


「そなたも男なら変わるであろう。なんなら私と喧嘩してみるか?」


「嫌ですよ、手をあげたら即座に首を飛ばすのでしょう」


「当然だ」


サーマ王はそう言いながら嫌らしい笑みを浮かべる。文官はそれを見て、やはりまじめに働くのが一番だと、書類整理を再開するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ